シスコンと姉妹と異世界と。
【第185話】父と迷子なチビッ子と⑭
「んっ……?」
目を覚ますと、視界がなにかで遮られていた。
タオルだ、この感触は。おそらく部屋の電気を消さない代わりにこちらの目を覆ったのだろう。
「おや? 起きましたか、お寝坊なご主人様は?」
頭上からフェリの声が聞こえる。
とりあえずタオルを退けてみると、開けた視界に移り込むのはフェリの姿。
「私の膝枕はお気に召しました? 心地よさそうに寝息をたてていましたが……」
そいや、寝坊って言った?
「え? そんなに寝たか、俺?」
「時間にしては三十分くらいだよ、お兄ちゃん」
そこまで大した時間じゃなくて一安心だ。ちょうど仮眠と言えるくらいの時間じゃなかろうか。
「ああ、ユイもおはよう。サンドイッチは美味かったか?」
「うん。また今度行ってみたいかも」
「そしたら火曜日にルナさんの店に行くんだし、あっちの喫茶店の方にも顔出しにいってみるか」
「うん!」
「フェリも行くか?」
フェリの膝枕の引力が凄まじく、身体を起こすことが出来ないッ。なのでそのままの体制で頭上のフェリに問いかける。
「お二人のお邪魔にならないようでしたら」
「邪魔なことなんてあるかよ。それに、俺になにか万が一のことがあった時に、護衛は必要だろうしさ」
「「ッ!!??」」
急にフェリとユイが顔を見合わせる。何だ?
初対面な筈なのにもう呼吸があってきてやがる。
「あー、で、どうする?」
「どうするとは……、ご主人様、私の膝の上にいるうちにムラっと来ちゃいました!?」
「いや違うよ!? メシも風呂も済ませたけど、なんだかんだでまだ
『この付近で反応があったのは間違いありません! 所構わず全力で……』
太ももの誘惑から逃れ、叫んだ俺の声を遮るように窓の外から響く大声。しかし、それはすぐ尻すぼみに小さくなっていった。
んー、このホテル街で所構わずってのは流石に……。
カーテンを少し開いて外の様子を窺うと、顔馴染みであるフィーナさんと、それを囲うように複数人の女性兵士が。そのうちの一人がフィーナさんに耳打ちをしている。
想像の域を出ないが、ここがどんな建物が並んでいる通りなのかを伝えたのだろう。それに応じて声が小さくなったのだろうな、と思う。
念の為少し窓も空けた。ひんやりとした霜月の風が現場の空気感を伝えてくる。
『……む、無理のない範囲で創作しましょう……』
その場にいた全員が、何処かバツの悪そうな顔を浮かべながら散開していった。
そっと、窓を閉めた。
「完全に、ユイを捜してるよなアレ」
「うん。フィーナお姉ちゃんの声だったね」
「どうするの、ご主人様? ユイちゃんを返すなら今が最後の機会じゃない?」
「え?」
フェリの薄情な提案に、瞳を潤ませてこちらを見つめてくるユイ。
最近の女の子はどうしてこうも人の心を縛るようなことをするのか。その顔は反則だろ。
「放り出すワケないだろ? 約束したじゃんかよ。それに、もしここでユイが見つかったとなれば俺は絞首台行きだぞ?」
「断頭台行きかもよ〜?」
「どっちも願い下げだ!」
フェリの軽口を突っぱねるくらいには心も落ち着いているようだった。
「お兄ちゃんが捕まっても、絶対悪いようにはさせないからね!」
「ぜってぇ捕まんねえからな!!!!」
「……で、ここってどういう宿なのお兄ちゃん? 他所の宿もだいたいこんな感じなのかなぁ!? わたし、外泊とか初めてだから後学のために知りたい!」
好奇心の塊である年頃の女の子。その輝く瞳を前に、俺は遂に真実を…………
言えたわけねえだろ!!!
___閑話休題。
「ところでなんだけど、お兄ちゃんはどうしてフィーナお姉ちゃんと知り合いなの?」」
フィーナさんたちによるユイ捜索隊であっても、流石にラブホにカチコミかけるような真似はしないと踏んで、俺たちは他愛もない会話に終始していた。
「私もどうしてか気になるかも。目覚める前の話はあまり聞いたことなかったし」
すっかりオフモードのフェリもノリノリのようだ。
「どうして、って言われてもなぁ……。成り行きとしか言いようがないんだが……」
「任務で一緒になったんだっけ?」
「そ。フェリので正解。年齢や立場は違えど、若輩者同士で任務の見学人と案内人みたいな感じで一緒に行動することになったんだわ。この辺りは父さんが決めた事なんだけどさ」
「それでなんで、九火をやっつけちゃう流れになったの?」
ユイの疑問はもっともだ。が、あんまり答えたくない。
「ん? ん〜…………なんでだっけか?」
「これは惚けてる顔かな」
フェリの裏切り者ッ!!
「お兄ちゃん?」
「分かったよ、言うよ。俺が九火に噛み付かれて、呪印みたいなのを付けられたんだわ。それが原因で追いかけ回されるハメになっちゃってな。んで、あいつは尾の数、つまり九体にまで分裂出来たんだけど……」
「「……けど?」」
「九火は分裂して自分の足跡を大量に街中に残してたんだ。その足跡を導火線に各地で広範囲の大火事をもたらしてたらしい。分裂してるうちの一匹と偶然街中で遭遇したんだけど、俺はその時何も知らなかったから、普通に撫でようとしたんだよ。そしたら噛み付かれた……はず。あんまりハッキリとは覚えてないや。
噛まれた原因にしても良くわかんねぇ。単純に触られるのが嫌だったのか、俺の魔力保有量の多さに目を付けたのか。もしかしたら俺を殺してその魔力マナを自分のモノにしようとしたのか、とか色々思い付くことはあるんだけどさ。学校の図書館の資料では限界がありそうでな」
「ふーん」
フェリの顔には「聞き飽きた」と書いてある気がしてならないのだが。自分から聞いといてちょっと話が長くなったらこれだよ。
「お兄ちゃん、今週末に王宮で祝賀会に出るって言ってたよね? その近くに国立の図書館があるから、そこを覗いてみたら?」
「へぇ〜。んなことよく知ってるなユイも」
「わ、私が普段いる所も図書館近いからさ。偶に家の人が本を借りて来てくれるんだっ」
追われている割にはその手厚い保護のされ方……か。やっぱり何処かのいいとこのお嬢様が、何らかの事情で軍なりフィーナさんなりに世話になってると推測するのが妥当か。
「んでまぁ、狙われてるうちに戦闘になって、結果倒したってわけ」
「「んなサラッと!?」」
女子二人の息ピッタリなツッコミ。ホント仲良くなってるんだな、いつの間に。
「しょうがないだろ。あんまり回想は長くやるもんじゃねえんだよ。ふわっと適当な感じにしておいたら、後々融通が効くかもしんないんだから」
「うわ、急にメタったわね」
「何のこと??」
「いいんだ、こっちの話さ。他になにか聞きたいこととかあるか?」
「ここの宿の
「よし、寝ようかフェリ」
「ですね、ご主人様」
三十六計逃げるにしかず。心の底からそんな気分だ。
俺とフェリはキングサイズのベッドに潜り、顔まで布団を掛けた。
「フェリお姉ちゃん、お兄ちゃんが寝てる間にえっちなことしちゃダメだよ!?」
「「なっ!!?」」
「フェリ、お前いつの間に……!?」
「私ま・だ・ご主人様に夜這い掛けたことなどありませんーー!」
「あー、まだって言った!!」
俺も引っかかったが、ユイの反応がワンテンポ早かった。
「ちょ、今のは言葉のアヤってもんで」
「怪しいんだー」
うん、俺は寝よう。長くなりそうだし、この二人の言い合い。
聴覚保護を掛け、俺はそっと目を閉じた。
目を覚ますと、視界がなにかで遮られていた。
タオルだ、この感触は。おそらく部屋の電気を消さない代わりにこちらの目を覆ったのだろう。
「おや? 起きましたか、お寝坊なご主人様は?」
頭上からフェリの声が聞こえる。
とりあえずタオルを退けてみると、開けた視界に移り込むのはフェリの姿。
「私の膝枕はお気に召しました? 心地よさそうに寝息をたてていましたが……」
そいや、寝坊って言った?
「え? そんなに寝たか、俺?」
「時間にしては三十分くらいだよ、お兄ちゃん」
そこまで大した時間じゃなくて一安心だ。ちょうど仮眠と言えるくらいの時間じゃなかろうか。
「ああ、ユイもおはよう。サンドイッチは美味かったか?」
「うん。また今度行ってみたいかも」
「そしたら火曜日にルナさんの店に行くんだし、あっちの喫茶店の方にも顔出しにいってみるか」
「うん!」
「フェリも行くか?」
フェリの膝枕の引力が凄まじく、身体を起こすことが出来ないッ。なのでそのままの体制で頭上のフェリに問いかける。
「お二人のお邪魔にならないようでしたら」
「邪魔なことなんてあるかよ。それに、俺になにか万が一のことがあった時に、護衛は必要だろうしさ」
「「ッ!!??」」
急にフェリとユイが顔を見合わせる。何だ?
初対面な筈なのにもう呼吸があってきてやがる。
「あー、で、どうする?」
「どうするとは……、ご主人様、私の膝の上にいるうちにムラっと来ちゃいました!?」
「いや違うよ!? メシも風呂も済ませたけど、なんだかんだでまだ
『この付近で反応があったのは間違いありません! 所構わず全力で……』
太ももの誘惑から逃れ、叫んだ俺の声を遮るように窓の外から響く大声。しかし、それはすぐ尻すぼみに小さくなっていった。
んー、このホテル街で所構わずってのは流石に……。
カーテンを少し開いて外の様子を窺うと、顔馴染みであるフィーナさんと、それを囲うように複数人の女性兵士が。そのうちの一人がフィーナさんに耳打ちをしている。
想像の域を出ないが、ここがどんな建物が並んでいる通りなのかを伝えたのだろう。それに応じて声が小さくなったのだろうな、と思う。
念の為少し窓も空けた。ひんやりとした霜月の風が現場の空気感を伝えてくる。
『……む、無理のない範囲で創作しましょう……』
その場にいた全員が、何処かバツの悪そうな顔を浮かべながら散開していった。
そっと、窓を閉めた。
「完全に、ユイを捜してるよなアレ」
「うん。フィーナお姉ちゃんの声だったね」
「どうするの、ご主人様? ユイちゃんを返すなら今が最後の機会じゃない?」
「え?」
フェリの薄情な提案に、瞳を潤ませてこちらを見つめてくるユイ。
最近の女の子はどうしてこうも人の心を縛るようなことをするのか。その顔は反則だろ。
「放り出すワケないだろ? 約束したじゃんかよ。それに、もしここでユイが見つかったとなれば俺は絞首台行きだぞ?」
「断頭台行きかもよ〜?」
「どっちも願い下げだ!」
フェリの軽口を突っぱねるくらいには心も落ち着いているようだった。
「お兄ちゃんが捕まっても、絶対悪いようにはさせないからね!」
「ぜってぇ捕まんねえからな!!!!」
「……で、ここってどういう宿なのお兄ちゃん? 他所の宿もだいたいこんな感じなのかなぁ!? わたし、外泊とか初めてだから後学のために知りたい!」
好奇心の塊である年頃の女の子。その輝く瞳を前に、俺は遂に真実を…………
言えたわけねえだろ!!!
___閑話休題。
「ところでなんだけど、お兄ちゃんはどうしてフィーナお姉ちゃんと知り合いなの?」」
フィーナさんたちによるユイ捜索隊であっても、流石にラブホにカチコミかけるような真似はしないと踏んで、俺たちは他愛もない会話に終始していた。
「私もどうしてか気になるかも。目覚める前の話はあまり聞いたことなかったし」
すっかりオフモードのフェリもノリノリのようだ。
「どうして、って言われてもなぁ……。成り行きとしか言いようがないんだが……」
「任務で一緒になったんだっけ?」
「そ。フェリので正解。年齢や立場は違えど、若輩者同士で任務の見学人と案内人みたいな感じで一緒に行動することになったんだわ。この辺りは父さんが決めた事なんだけどさ」
「それでなんで、九火をやっつけちゃう流れになったの?」
ユイの疑問はもっともだ。が、あんまり答えたくない。
「ん? ん〜…………なんでだっけか?」
「これは惚けてる顔かな」
フェリの裏切り者ッ!!
「お兄ちゃん?」
「分かったよ、言うよ。俺が九火に噛み付かれて、呪印みたいなのを付けられたんだわ。それが原因で追いかけ回されるハメになっちゃってな。んで、あいつは尾の数、つまり九体にまで分裂出来たんだけど……」
「「……けど?」」
「九火は分裂して自分の足跡を大量に街中に残してたんだ。その足跡を導火線に各地で広範囲の大火事をもたらしてたらしい。分裂してるうちの一匹と偶然街中で遭遇したんだけど、俺はその時何も知らなかったから、普通に撫でようとしたんだよ。そしたら噛み付かれた……はず。あんまりハッキリとは覚えてないや。
噛まれた原因にしても良くわかんねぇ。単純に触られるのが嫌だったのか、俺の魔力保有量の多さに目を付けたのか。もしかしたら俺を殺してその魔力マナを自分のモノにしようとしたのか、とか色々思い付くことはあるんだけどさ。学校の図書館の資料では限界がありそうでな」
「ふーん」
フェリの顔には「聞き飽きた」と書いてある気がしてならないのだが。自分から聞いといてちょっと話が長くなったらこれだよ。
「お兄ちゃん、今週末に王宮で祝賀会に出るって言ってたよね? その近くに国立の図書館があるから、そこを覗いてみたら?」
「へぇ〜。んなことよく知ってるなユイも」
「わ、私が普段いる所も図書館近いからさ。偶に家の人が本を借りて来てくれるんだっ」
追われている割にはその手厚い保護のされ方……か。やっぱり何処かのいいとこのお嬢様が、何らかの事情で軍なりフィーナさんなりに世話になってると推測するのが妥当か。
「んでまぁ、狙われてるうちに戦闘になって、結果倒したってわけ」
「「んなサラッと!?」」
女子二人の息ピッタリなツッコミ。ホント仲良くなってるんだな、いつの間に。
「しょうがないだろ。あんまり回想は長くやるもんじゃねえんだよ。ふわっと適当な感じにしておいたら、後々融通が効くかもしんないんだから」
「うわ、急にメタったわね」
「何のこと??」
「いいんだ、こっちの話さ。他になにか聞きたいこととかあるか?」
「ここの宿の
「よし、寝ようかフェリ」
「ですね、ご主人様」
三十六計逃げるにしかず。心の底からそんな気分だ。
俺とフェリはキングサイズのベッドに潜り、顔まで布団を掛けた。
「フェリお姉ちゃん、お兄ちゃんが寝てる間にえっちなことしちゃダメだよ!?」
「「なっ!!?」」
「フェリ、お前いつの間に……!?」
「私ま・だ・ご主人様に夜這い掛けたことなどありませんーー!」
「あー、まだって言った!!」
俺も引っかかったが、ユイの反応がワンテンポ早かった。
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