Creation World Online

かずみ

第64話

「勝った…?や、やった!やりましたよシュウ君!」


 まるで自分のことのようにアンリが飛び跳ねて喜ぶ。


「ニイナ、頑張った」


 グッと親指を立てて無表情ながらもナクなりに喜んでいた。


「大丈夫っすか〜?」
「うるせえ!触んな!」


 叫び声のした宵影の方を見れば、宵影に差し出した手を払われているギルドメンバーがいた。


「おい!もう一度だ!次は負けね_」
「そこまでっすよ。これ以上は見苦しくて見てらんないっす」
「グアッ!てめっ…!ドウサカ何しやがる!」


 ボゴッ!と骨が外れる音がして、ニイナに掴みかかろうとしていた宵影の膝関節が外れる。
 それを行ったのはギルドメンバー_ドウサカだった。
 ドウサカは、その緑の髪を搔き上げると冷笑を浮かべる。


「何って…負け犬の愚行を止めただけっすよ?あんたこれ以上【Simon'S Familiar】の看板に泥塗るつもりっすか?」
「くっ…!」


 悔しそうに呻く宵影を見てニコッと笑うと、ドウサカは俺達に向き直る。


「お騒がせして申し訳ないっす!今後のことについては後日連絡させていただくっす!それじゃ、失礼するっすよ!」


 そう言うとドウサカは、悔しそうに呻く宵影を引き摺って去って行った。
 その後、宵影はギルドを脱退、新ギルドマスターはドウサカが引き継ぐことになった。
 まあ、本人曰く「ニイナちゃんに丸投げするつもりだったのに…」とのことだったが、周囲のギルドメンバーの推薦により嫌々ながらもギルドマスターに就いたらしい。


  ☆


「お世話になったでござる」
「なあ、ニイナ。仇も取ったんだし口調を戻してもいいんじゃないか?」


 俺がそう言うとニイナは首を横に振る。


「この口調も姉が残してくれた大事な遺産でござる。それよりも…」
「えっと…なんでしょうか?」
「アンリ殿、約束を果たしていただくでござる!」
「えっ!ちょ!まっ_」


 アンリの制止の言葉が届くよりも早く、ニイナはアンリに抱きついていた。


「アンリ殿ぉおおお!」
「ひゃっ!ちょ、どこ触って…ひぅうう…!」


 始めは抵抗していたアンリだったが、徐々にへにゃへにゃと力が抜けていき、最終的には無抵抗でニイナに抱かれていた。
 そんな状態でたっぷり数十秒、ようやくアンリを解放したニイナの顔は「私幸せです!」とでも言わんばかりの笑顔だった。
 対照的にアンリは18歳未満に見せるのがはばかられるような表情になっていたけどな。
 アンリとの熱烈な抱擁を終えたニイナは、今度は俺の方へと駆け寄ってくると耳打ちをする。


「シュウ殿」
「ん?なんだ?」
「もし…アンリ殿を泣かせたら…その時は背後に気をつけるでござるよ」


 わー、すごい良い笑顔。でもな、目が全く笑ってないから怖いんだが!


「ニイナちゃん、そろそろ行くっすよ〜」
「わかったでござる!それでは、皆さん…お世話になったでござる。また、いつか会いましょう!」


 そう言ってニイナ達は去って行った。


  ☆


 それから数週間後、第6界層攻略パーティーが明朝に出立した。
 今回俺達旧・攻略パーティーは、攻略に参加せずに街で待機していて欲しい、と天議会に言われたのだ。
 理由としては、他のプレイヤー達にも戦闘経験を積ませてこれから先の戦いに備えるためらしい。
 何にせよ、休みができたというのはかなり大きい。
 俺はベッドに寝転がって、ダラダラしていると、突然部屋の扉が開かれる。
 何事かと思い、そちらを見るとアンリとナクがいつもの装備を身に纏って立っていた。


「いつまで寝てるんですか!もうお昼ですよ?」
「ん、ぐーたら」
「うるせっ、休みの日くらいゴロゴロさせろ」


 バッと毛布を被り直して、二度寝へと洒落込もうとしたところで俺の毛布は無情にも奪われてしまう。
 ああ…愛しの毛布ちゃん…


「…何すんだ。返せよ」
「もう!いいから早く起きてください!クエストに行きますよ!」
「やだよ、寒いし眠いし。何より動きたく無い。お前らも一緒に二度寝しようぜ」
「くっ…かなり魅力的な提案ですが、今回はダメです!」


 ゴソゴソとローブの内側を弄ると、アンリは1枚の紙を俺に手渡した。


「ん?これは…プレイヤークエストか。しかも、依頼者は天議会ね」


 そこには天議会が主催するクリスマスイベント関連のアイテム納品クエストの納品アイテムの名前と必要数が書かれていた。
 プレイヤークエストというのは、プレイヤーがクエストを作成し、報酬を支払うというクエスト方式である。
 主にアイテム納品系が多いな。


「えーと、それで討伐対象は…リトルワイバーンか…」


 リトルワイバーン、通称ワイバーンのなり損ない。
 攻撃力は高いが、歩く速度はかなり遅く、そのくせにワイバーンのように空を飛ぶこともできない。
 なので、竜系素材の収集対象としてかなり重宝されているのだが…問題が1つあった。
 それは、同じエリアである渓谷エリアに生息しているエリアボスの存在だ。
 竜主クルークル、全長5mは余裕で超えるであろう巨大な黒竜だ。
 クルークルは、エリアボスにしては珍しくノンアクティブモブで、ある条件を満たす、もしくはこちらから襲いかからない場合は無害な存在である。
 その条件というのが厄介で、自身の庇護下にあるリトルワイバーンを一定数討伐するとそのプレイヤーを発見次第即座に殲滅にかかるのだ。
 その強さは竜の主を名乗るだけはあり、未だに討伐に成功したプレイヤーは1人もいない。
 普段は谷底にある巣の中に眠っており、情報によれば谷底エリアのモンスターの平均レベルは220と現在のプレイヤー達では太刀打ちも出来ないというのが現状だった。
 更にその巣から飛び出してくるのがプレイヤーを殲滅する時のみとなっているせいで、目撃者も少なく一部のプレイヤーからは神聖視されている。
 そんなエリアでリトルワイバーンの討伐とか確実に自殺行為だよな。悪意しか感じねえよ。


「そのクエストは危ないから【戦闘狂バーサーカー】辺りにでも回してこい。そしてこっちの薬草採取をしてきなさい、遅くならないうちに帰るんだぞ」
「何父親感出してんですか!そもそも戦闘狂さんは既に向かってますよ!」


 なんだと、更に向かいたくなくなったぞ。
 寝転がっている俺にまるで日曜日にどこかへ連れていけと強請る子供のように、アンリが馬乗りになって飛び跳ねる。


「はーやーくー!おーきーてー!」
「うえっ、ちょ、おまっ、やめ…やめんかっ!」
「にょあっ!?」


 ガバッと強引に起き上がると、アンリが妙な声を出してベッドから転げ落ちる。


「ったく…で、リトルワイバーンは何体狩るんだ?」
「ん、大体10体。それ以上は危険だけど倒せば追加報酬が貰える」


 10体か…結構ギリギリだな。
 クルークルがプレイヤーに襲いかかってくるのは大体10体を超えたあたりだと目撃者が言っていたので、この数字なんだろうな。
 おそらくこの情報もそう遠くない未来に検証ギルド辺りが証明するんだろうな。


「それじゃ、用意するから外で待っててくれ」
「わかった。早く来て」
「ちょ、引っ張らないでください!自分で歩けますから!お尻、お尻擦れる!」


 ナクはそう言うとアンリを引き摺って部屋から出て行く。
 部屋の扉が閉まるのを見て、俺はエアディスプレイを操作し、戦闘用の装備である銀のラインが入った黒の錬金術師のローブ、魔術耐性の上がる黒っぽいグレーのズボン、薄緑に輝く銀の指輪などを装備して、問題がないか最終チェックして部屋を出るのだった。
 あー、めんどくさいなぁ…


  ☆


「うおっ…寒いっ」
「あれ、お知らせを見なかったんですか?今日から冬仕様ですよ」
「なんだって、そう言えばそんなことも書いてあったような…」


 仕方ないと言った様子でアンリは溜息を吐くと、ローブの内側をゴソゴソと弄って、黒と白のマフラーを取り出す。


「ほら、これ使ってください」
「おお、ありがとな」


 差し出されたマフラーを首に巻くと、マフラーの効果で寒さが緩和される。


「ん?そんなにソワソワしてどうしたんだよ?」
「い、いえ。なんでもありませんよ!」


 そう言いながらもチラチラと俺を見るアンリ。
 まさか、このマフラー…!


「ア、アンリさんや。もしかしてこのマフラー_」
「あ、それは市販品ですよ。昨日露天で安売りされてたんですよ」


 手作りなのか?と続けようとして、そう否定される。
 いや、うん。市販品なのか、ならどこを見てるんだ…?
 アンリの視線を辿っていくと、そこには見事にオープンされたチャックが…


「うぉあああああ!?」
「えっ、い、いきなりなんですか?」
「おい!気づいてるなら言えよ!」
「それワザとじゃなかったんですか?」
「ワザとな訳あるか!!」
「いや、てっきり恥ずかしがる私を見るみたいなプレイかと…」


 恥ずかしそうにアンリはそう呟いた。
 はあ…頭が痛い。


「わかったからもう行くぞ」
「あっ、置いていかないでくださいよっ」


 これ以上言っても何も解決しない…それどころか悪化しそうだったので、放置して渓谷エリアを目指すのだった。          

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