Creation World Online

かずみ

99話

「うぅ…」
「むぅ…」

 頭を抑えて2人の少女、アンリとナクが涙目になって呻く。
 レアアイテムを消費してまで俺を眠らせたナクと、目覚めた瞬間に「下も子供サイズ!」などといい笑顔でほざいたアンリに対して鉄拳制裁を下したのだ。

「お前達は緊張感ってもんは無いのか!」

 威厳など無いことは承知の上で、俺は腕を組んで怒鳴る。しかし、流石に反省しているのか2人は茶化すことなく素直に謝罪するのであった。

「たく…行くぞ」
「あ、待ってくださいよ!」

  ☆

「ここか…」

 そう呟いた俺の目の前には、巨大な神殿のようなものが建っていた。中に入ると、そこには古い石碑と下に降りる階段があり、室内は薄青色の鉱石から放たれる淡い光で照らされていた。
 石碑はどうやらこの神殿で祀られている精霊について書かれているらしいが、【鑑定】のスキルレベルが足りないため詳しくはわからない。なにやら台座に指輪を掲げているようだ。
 だが、今はそんなことよりもクエストの進行だ。
 地下へ続く階段を降りるとそこには、そこそこ広い空間があり最奥に金の装飾が施された巨大な緑色の水晶が祀られており、その下に何かを置くのであろう台座が設置されていた。あれが、上の石碑に描かれていたものだろう。
 そして、その手前、ちょうど部屋の中央に位置する場所に目的の女神は立っていた。

『おや、貴方は…。ああ、私が時を奪った人の子ですか』
「ああ、元に戻してもらうぞ」
『戻さぬ、と言ったら?』
「それはあり得ない。あんたは直ぐに戻したくなるさ」
『…神に対してその言葉…。あまりに傲慢ではありませんか?』

 そんな女神の言葉にアンリとナクが一歩前に出る。

「うるさいです。いいから黙って戻しなさい」
「神だからなんでも許されるなんて、それこそ傲慢」
『良いでしょう…。ならば今度は時を奪ってあげましょう。永遠にね!』

 女神がそう言うと、暴風が吹き荒れる。
 咄嗟に風魔法【ハイネス・ウィンド・ウォール】を発動し、女神から放たれた風を相殺する。

『ふふふ…!さあ、絶望しなさい!』

 もはや習慣となったステータスの閲覧、一部制限されているため、不明であるもののそこには女神のステータスが表示されていた。

◇◇◇◇◇◇
名称:シルキス
種族:下位風精霊レッサー・シルフ
HP:9000000/9000000
特性:自動回復3%/分
◇◇◇◇◇◇

 精霊、この世界において2番目に強い種族であり、界層支配者として2体、クエストで3体が確認されている。
 発見されたのは、火の精霊サラマンダー、土の精霊ノームの四大精霊の内2体と光、闇、空間の精霊。
 これらの精霊が関わるクエストはまとめて精霊クエストと呼ばれ、クエスト最中に手に入れた情報から、精霊の種類は四大精霊に加えて、光、闇、時、空間、星の8種が存在することがわかっており、それら全てが討伐された時に特殊なアイテムが手に入るかもしれないと、まことしやかに囁かれている。
 そして、目の前にいるこいつは下位とはいえ未発見である風の精霊なのだ。つまり、俺が受けているこのクエストは精霊クエストの1つということなのだろう。

「アンリ、ナク。悪いが俺は後方支援しか出来ない。2人でやれるか?」
「見くびってもらっちゃ困りますよ」
「ん、下位精霊なんて敵じゃない」

 自信満々にそう答える2人。どうやら愚問だったらしい。本当に頼りになるやつらだ。

『ごちゃごちゃと…【スロウネス・ウインド】』

 シルキスの放った風魔法が俺達にまとわりつくと、全身がズンと重くなる感覚に襲われる。ステータスを確認すると、SPDの値が3割ほど減少していた。

「なんだ、速度低下なんてチンケな魔法だな【アクセラレート】」

 速度上昇魔法のエフェクトが俺達を包む、しかし何故か身体にまとわりついたシルキスの風魔法が消えないのだ。

『ふははは!無駄無駄!これは神の奇跡!人間に解けるはずがない!【プレス・オブ・エアランス】」

 暴風が吹き荒れると、一箇所に収束し、巨大な風の槍を形成。シルキスが、グッと掌を握り込めば巨大な風の槍は人間の腕の長さ程度まで圧縮される。

『死ねッ!』

 シルキスの叫びとともに投げつけられた風の槍、直撃すれば重大なダメージを受けるだろう、いや下手をすれば死ぬかもしれない。そう、直撃すれば。
 俺はアイテムボックスからあるアイテムを取り出したと同時に風の槍が着弾する。しかし、風の槍は一切の被害を与えることなく消え去った。

『な、なにが…?』

 俺の手に握られていたそれは、2年前メラドーラの巣で発見した装飾が施されたツボだった。
 このツボ、最初は使い道がわからなかったのだがツボの癖に何故か精錬システムに反応したのだ。
 そこで、精錬を繰り返していくと次第に名称や効果が表示され、最終的に【満ち知らずの壺】というアイテムに変化したのだ。
 効果は一定魔力以下の魔法攻撃の無限吸収。

『くっ…!妙な道具を!』
「今度はこっちの番ですよ!【ラヴァ・ドール】」
「止まれ【絶縫】」

 アンリの杖の先に展開された魔法陣からドロリと赤々とした溶岩が流れ落ちる。すると、流れ落ちた溶岩がゆっくりと立ち上がり、人の形に変化する。

「さあ!行ってください!」

 アンリの号令を受け、溶岩の巨人は緩慢な動きでシルキス目掛けて移動を開始する。

『そんな動きで私を捉えられるとでも─!?動けない!?』
「無駄。逃がさない」

 ぺろっと小さく舌を出したナクの固有技能【固定魔術】の上位スキルの効果により、シルキスは動くことが叶わない。
 そうこうしているうちに、溶岩の巨人がシルキスの前に立つと、その巨大な腕を振り下ろした。

『アァアアアア!?』

 熱風とシルキスの叫びが響き渡る。

「これで終わりではありませんよ『自爆スーサイド!』」

 アンリの言葉を引き金に溶岩の巨人の身体が膨れ上がり、爆発する。
 爆炎が視界を橙色に染め上げる。

「流石に終わっただろ─!?」

 俺がそう呟いた瞬間、爆炎を切り裂いて緑色の触手が飛び出すと、俺の腕を切り落とし腹を貫く。

「シュウ君!」
「シュウ!」
「ぐッ─!」

 無造作に振るわれた触手によって、俺は地面を数バウンドして停止する。
 今の攻撃のせいで俺のHPは残り2割を切っていた。アイテムボックスからポーションを取り出して飲もうにも、腕が動かない。どうやら【骨折】の状態異常に掛かってしまったようだ。

『この─下等生物共がぁあああああ!』
「「黙れ」」

 腰部から緑色の触手を生やしたシルキスの叫びに対し、目を見開いた2人がそう言うと、業火が荒れ狂い、吹雪が吹き荒れる。

「殺してやります。ええ、凄惨に殺してあげます【ハイネス・フレア・クラスター】」
「後悔しながら死ね【ハイネス・アイシクルワールド】」

 無数の魔法陣から放たれた炎が収束し、一つの巨大な火柱となると、シルキスを包み込む。
 次の瞬間には、水色の魔法陣から放たれた白い霧が火柱ごとシルキスを包むと瞬間的に凍結させる。だが─

『そんな攻撃!』

 あまり効果は無いようで、氷が砕け散りシルキスは地面に着地する。

「フフッ、その程度で死なれちゃ困りますからね。さあ、ナクさんアレを試しましょう」
「ん、やろう」

 そう呟いたナクがアイテムボックスから取り出した、白い錠剤を飲み込むと、耳までの長さしかなかった髪が腰まで伸び、茶髪が儚げな銀髪へと変化し、頭から小さなツノが生える。

「【セーブ】さあ、ナクさん始めますよ」
「ん【擬似龍人化】、【ドラゴンブレス】」

 ナクの口から放たれた白いブレスがシルキス目掛けて放たれる。しかし、シルキスは空中に浮くことでその軌道上から逃れてしまう。

『ふははは!なんてことないわ!』
「甘いですね【ロード】」

 アンリがそう呟くと、シルキスの体が消えブレスの目の前へと転移させられ、ブレスはシルキスに直撃する。

『な、何を…』
「さあ?知らなくていいと思いますよ。さ、ナクさん」
「【スパーク・オブ・エクスプロード】」
『クソッ!』

 シルキスが逃げるが、無慈悲にもアンリの【ロード】によって元の場所に引き戻される。

『ぐ…はぁ…貴様ら…悪魔か…?』
「いいえ、ただの鬼畜の仲間ですよ」
「トドメ【ディケイズ・ハート】」

 ナクがシルキスの胸に掌をつけ、スキルを発動させると、心臓のエフェクトが現れ、それをナクが握りつぶす。
 それと同時に、シルキスが悶えるが直ぐに生き絶え、光の粒子へと変化した。
 すると、粒子が俺の身体に吸い込まれると俺の身体が発光する。
 光が収まったそこにはいつもと変わらない大きさの俺が居た。どうやらクエストクリアらしい。
 体力も回復しており、骨折も治っている。イベントクリアのちょっとした優しさなのだろうか。

「シュウ君!」
「シュウ!」
「うおっ!?」

 突然胸に飛び込んできたアンリとナクの体重を支えきれずに、俺は仰向けに倒れる。

「生きてて良かったですぅ!」
「ん、生きてて良かった」
「いや、死んだらわかるだろ。それにしても…」

 ナクの頭を見る。
 不思議そうに首をかしげるナクの頭の上には相変わらず小さなツノが生えていた。

「それはどうなってるんだ?」
「これは、私の作った薬。一時的に他の人のスキルを使える。効果は7割くらい?」
「なるほどな。なんて言うか…ナクは銀髪が似合うな」

 俺がそう言うと、ナクは少し照れたような表情を浮かべる。

「ま、とりあえずクエストクリアだな。あと、重いので早く退いてくれないか」
「まあまあ、良いじゃありませんか。小さいシュウ君も良いですが、やっぱりこのサイズが落ち着きますね」
「ん、同感」
「いや、あの。腕が痺れて…」

 結局2人が退いたのはそれから30分後のことだった。
 ちくしょう、腕の感覚が無い。

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