よいこのTS童話 ~長靴をはいた魔法猫~

八木山蒼

よいこのTS童話 ~長靴をはいた魔法猫~

 昔々のあるところ、貧しい青年がおりました。

 青年は親が死んだあと、悪い兄たちに遺産をとられ、彼の手元に残ったものは、汚い猫が一匹だけ。

 しかし彼のこの猫は、世にも珍しい魔法猫。魔法を操り怪しく笑う、悪く賢い猫なのです。

 長靴をはいた魔法猫、いろんな知恵と魔法を使い、土地も家来も手に入れて、ただの冴えない青年を、国で一番金持ちの、貴族に仕立ててしまいます。

 しかしこの国には困ったことに、悪い魔王が住み着いて、皆を苦しめていたのです。

 実のところを言いますと、猫が青年を貴族にしたというのも、苦しめられてた人々に「魔王を退治してやりましょう」、「そしたら家来になりますね」、と言って回ったからなのだから。

 そうして猫はたった一匹、長靴踏み踏み魔王の城へ、意気揚々と向かうのでした。



 猫は魔王の城に着くと、まず魔王に大量のみつぎものをささげました。これは国の人たちに魔王を退治してやるからと言ってもらってきたものなのですが、そんなことは知らない魔王はご機嫌です。

 さらに猫は魔王のことをほめちぎりました。ますます魔王はご機嫌です。

 そうして頃合いを見計らい、猫は今度は自分のことを褒めました。私は魔法が使えます、変身の魔法は特別すごい。ねえねえあなた、魔王様、こんなことができますか?

 猫はそう言ってくるりと回り、一匹のライオンに変身しました。しかし猫なんかに馬鹿にされて、魔王も黙ってはおりません。なんだお前はそんなもの、私はもっともの凄い。今に見ておれ、そらどうだ。

 魔王もくるりとひと回り、変身したのはライオンよりも、ずっと大きなドラゴンです。

 これには猫もびっくり仰天、変身を解いて言いました。さすがは国の魔王様、変身魔法もお手の物。けれどもですよ魔王様、怖いあなたが怖いものに、変身するのは当たり前。

 本当にすごい変身魔法は、真逆のものになるのです。猫は密かに笑いつつ、またまたくるりとひと回り。変身したのは綺麗な服の、かわいいかわいい女の子。

 さあさあ偉大な魔王様。さっきは怖いもの比べ、今度はかわいいもの比べ。ずっと優れた変身魔法、かわいくなってごらんなさい。

 たきつけられた魔王様、たまらず猫に言いました。なんだお前はそんなもの、私はもっともの凄い。今に見ておれ、そらどうだ。

 またも魔王はひと回り、変身したのは猫のそれより、もっとかわいい女の子。魔王が変わったその時を、猫は待っていたのです。

 「それっ、今だ」と猫が言い、魔法の呪文を唱えます。それは魔法を封じる魔法、驚き慌てた魔王様、女の子のまま受けちゃいました。

 変身できなくなったとき、そこにいたのは女の子。魔王が自分で変身した、かわいいかわいい女の子。

 主人思いの魔法猫、土地と家来とお城の他に、お妃さまも欲しかった。賢く悪い魔法猫、魔王退治とお妃探し、まとめてしまっていたのです。



 猫をもらった青年は、土地と家来とお城を持って、貴族になってしまいました。

 女の子の魔王様、最初は暴れていましたが、なんだかんだで受け入れて、お妃さまには遠そうですが、仲良く暮らしていけそうです。

 長靴をはいた魔法猫、そのご主人と悪い魔王の、不思議で愉快な物語。

 これにておしまい、めでたしめでたし。

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