とある英雄達の最終兵器
第23話 異世界の月ってのはどうしてどこも綺麗なんだろう
それから子供達ははしゃぎ疲れたのか五人ともぐっすりと寝てしまう。
「カグヤこっちは終わったよ」
今日一日にこなすべき家事、雑事を全て終えたテュールが子供部屋にいるカグヤに小さく声を掛ける。
「ありがとう。こっちはみんなぐっすりだよ」
囁くような声でそう返事をし、足音を立てないようそろりそろりと部屋を出るカグヤ。扉を閉める際ひどく慎重だったにも関わらず古くなった蝶番からキィと音が漏れてしまう。慌てて中を覗くカグヤ、つられるようにテュールも一緒に覗く。子供達は起きる気配はなく規則正しい寝息が五つそこにあるだけであった。
「「……ふぅ」」
一息ついて今度こそ、と静かに扉を閉め、二人は子供部屋の前から去る。
「お茶を用意したけどどうかな?」
「ありがとう。うんっ、いただくね」
子供たちの声がなくなった孤児院は静まりかえり、足音が二つコツコツとよく響く。カタッ。ダイニングへ着き、椅子を引いて腰掛ける二人。
「お疲れ様。子供達の世話をするっていのは思ってたより疲れるんだな。カグヤがいてくれて本当に助かったよ。ありがとう」
「ううん、お互い様だよ。テュール君こそお疲れ様。今日はすごく新鮮で楽しかったけど、やっぱり私も一日終えてみると疲れたかな」
ややぐったり気味なテュールに対して言葉では疲れたと言ってるもののまだまだ元気そうに笑うカグヤであった。
それから二人は今日あったことをお互いに報告し合う。途中からは何故かうちの男子チームは、こっちの女子チームは、と自慢合戦になってしまい、二人とも身を乗り出し熱弁し、お互いの瞳に自分の姿が見える程に近づいた時にハッと我にかえり元の位置へとゆるゆると戻る。
そこからはお茶を飲む音だけが聞こえ、お茶がなくなってしまうと──。
「あー、もう一杯いれようか?」
「んー……、ううん、大丈夫。ありがとう」
自分だけお茶を足すのもなんだか気まずいテュールは、浮きかけた腰をそっと降ろし、背もたれによりかかる。一旦会話がなくなった場面からもう一度エンジンをかけられるほどテュールは器用でも女性に慣れているわけでもなかったため、静かな時間が流れる。
ティールは改めてカグヤに視線を向ける。
(やっぱり綺麗だなぁ……)
料理する姿、子供の面倒をみる姿、一緒に食器を洗った姿、そして今、静かに外を見る姿。美しい少女は外見だけでなくその内面や所作まで美しかった。
「ん?」
その視線に気付いたのがカグヤがテュールへと振り返る。目が合ったテュールは気恥ずかしくなり、空中に視線を彷徨わせる。視界の端にいるカグヤは不思議そうな表情であるが落ち着いているように見え、色々とテンパっているのが自分だけだと思うと軽い自己嫌悪に陥りたくなる。
「ねぇ、テュール君?」
「ん?」
そんなテュールにカグヤから声を掛けてくる。テュールは努めて平坦な声を出そうとしたが、やや上ずってしまった。
「ちょっと風にあたらない?」
「あぁ、そうだな。それは名案だ」
(なんだ名案って! 俺はアホか!)
「フフ、ありがと」
テンパるテュールに対してカグヤは優しく笑って裏の勝手口から外へと出る。昼は暑いくらいだが夜になると過ごしやすい涼やかな風を感じることができる。風と一緒に運ばれてくるのはホッとするような草の匂いとどこかドキドキするような甘い匂い。
勝手口を開け放したまま並んで立つ二人はどちらともなく空を見上げる。テュールが前世で過ごしていた東京では到底見ることのできない夜空がそこにはあった。異世界だからか、星々は赤や黄色、白など宝石箱のようにキラキラと様々な色で夜空を彩っている。
「綺麗だな……」
「綺麗だね……」
テュールとカグヤの頭の上には──月、地球で言うところの月にあたるであろう大きな光が二人をぼんやりと照らしていた。
どのくらい経ったろうか。やや風にあたりすぎて肌寒さを感じる。そろそろ戻ろうかと言おうか言わまいかテュールが悩んでいると、おねえーたーん! と開け放してあった勝手口からピナの声が聞こてくる。どこー? どこー? と泣きながら近づいてくる声は台所あたりまで来ているように感じる。当然、テュールに聞こえているということはカグヤにも聞こえているということだ。カグヤは慌てて勝手口からダイニングへと戻る。
どうしたの? ピナ? という声が向こうから聞こえる。ゆっくりと後を追うテュール。
勝手口を閉めて振り返るとピナはすでにカグヤの腕の中にいた。カグヤが理由を聞いたところ怖い夢をみたらしい。しばらく頭を撫で続け、カグヤと寝ることになったところで落ち着いた。
「おねーたん、いいの?」
申し訳なさそうな顔でピナが聞き返す。当然笑顔でカグヤは返事を返す。ようやくピナに笑顔が戻った。そんな二人を微笑ましく見ていたテュールも一人になってしまえばすることもないので、早めに就寝することとする。
客間は簡素な木枠のベッドが四つほどあり、それぞれが四隅に寄せられて配置されている。ベッド自体の幅は狭いが客間の間取りの狭さもあってやや圧迫感を感じる。入り口から見て左奥のベッドにカグヤとピナは一緒に入る。
テュールはタリサに客間はここだけと説明された時にダイニングで寝ると断ったがカグヤとこれまた一悶着し、なぜかテュールが折れる形で客間に一緒に寝ることになった。
そして、カグヤとピナから対角線上にあるベッド──と、言っても狭い部屋のため大した距離は空いていないが、に入るテュール。
部屋の明かりを消し、目が慣れていない暗闇の中でぼんやりと天井を見つめるテュール。カグヤが手を引いて客間に移動している時点で目が半分トロンと落ちてきていたピナはベッドに入るのと同時に夢の世界へ旅立ってしまったみたいだ、可愛らしい小さな寝息が聞こえてくる。カグヤがピナにおやすみと囁くのが聞こえる。
「テュール君もおやすみ」
「あぁ、おやすみカグヤ」
そして、テュールは目を閉じ、一瞬で──。
(寝れるわけないっちゅーのっ!! 今日の俺はなんだ!? どうなってるんだ!? あれか魔法か? 精神干渉系の魔法か!?)
寝れるわけもなく、ゴロゴロと転がりたい気持ちを押し殺し、今日一日を思い返して悶える。そして暗闇の中一人反省会が始まった。
(なんだ月を見ながら綺麗だねって。アホか、俺はアホか? イエス、アホだ。ここは異世界だからか万が一にも曲解されることはないと思うが、ダメだ。恥ずかしすぎる! あと胸ぽすんな。あれヤバイだろ。いやヤバイのは俺か? 俺だな……。俺はチョロインだったのか……?)
今も気付けばカグヤのベッドに意識がいってしまう。視覚が使えない分、聴覚が敏感になってしまい、ちょっとした息の漏れる音やベッドの中で身じろぎをする際の衣擦れの音にドギマギしている。こんな状態で寝れるわけがないため意識を逸らす努力をする。
(モヨモトが一人、モヨモトが二人、モヨモトが三人──)
頭の中にホホホと笑うモヨモトが増え続ける。百人ワンセットで増やしたら次はリオンだ。
(リオンが一人、リオンが二人、リオンが三人──)
頭の中にガハハハと笑うマッチョが増え続ける。寝れない。次はルチアだ。
(ルチアが一人、ルチアが二人、ルチアが……、あ、リオンがルチアをからかって殴られた。巻き添えでモヨモトがボーリングのピンのごとく……、ププ)
一方、そんな夢うつつの現場へ駆り出されているなど夢にも思わないイルデパン島の面々はと言うと──。
「「「はっくち!」」」
「あれあれー? 三人一緒にくしゃみするなんて珍しいね?」
そう言われて顔を見合わせるルチア、モヨモト、リオンの三人。そして唐突にルチアはリオンを殴る。
「って、いきなりなんだババア!!」
「うるさい! なんとなくだよ! 他に理由があるさね? 次のは今の暴言に対してだよ」
そう言うと先程とは勢いも重さも段違いな一撃がリオンに突き刺さる。
理不尽なっ、そう聞こえた気がするが殴り終えた瞬間にルチアは寝ると言って一瞥すらせず踵を返していた。
そんな不条理極まりない場面を見てモヨモトが呟く──。
「女というのはほんに怖い生き物よの……ホホホ……」
「フフ、ホントだね~」
「な、納得がいかん……」
流石に今回はリオンがちょっぴり可哀想だな、と思うモヨモトとツェペシュであった。
そして、テュールの夜は長い。そんな理不尽な場面を生み出した原因であるテュールは、イルデパン島の皆を頭の中にあらかた増殖させ尽くすと次は、リバティで出会った人たちを脳内に生み出し始める。
(セシリアが一人……、うん、可愛らしい。リリスも一人……、うん、可愛らしい。カグヤも一人……、ぬ、脳内でアンフィス、ヴァナル、ベリトがニヤニヤしている。生意気な! お前らなんかこうだっ!)
そしてテュールは空が白み始めるまで脳内で遊び続け、ようやく意識が途切れて眠ることに成功したようだ。
「カグヤこっちは終わったよ」
今日一日にこなすべき家事、雑事を全て終えたテュールが子供部屋にいるカグヤに小さく声を掛ける。
「ありがとう。こっちはみんなぐっすりだよ」
囁くような声でそう返事をし、足音を立てないようそろりそろりと部屋を出るカグヤ。扉を閉める際ひどく慎重だったにも関わらず古くなった蝶番からキィと音が漏れてしまう。慌てて中を覗くカグヤ、つられるようにテュールも一緒に覗く。子供達は起きる気配はなく規則正しい寝息が五つそこにあるだけであった。
「「……ふぅ」」
一息ついて今度こそ、と静かに扉を閉め、二人は子供部屋の前から去る。
「お茶を用意したけどどうかな?」
「ありがとう。うんっ、いただくね」
子供たちの声がなくなった孤児院は静まりかえり、足音が二つコツコツとよく響く。カタッ。ダイニングへ着き、椅子を引いて腰掛ける二人。
「お疲れ様。子供達の世話をするっていのは思ってたより疲れるんだな。カグヤがいてくれて本当に助かったよ。ありがとう」
「ううん、お互い様だよ。テュール君こそお疲れ様。今日はすごく新鮮で楽しかったけど、やっぱり私も一日終えてみると疲れたかな」
ややぐったり気味なテュールに対して言葉では疲れたと言ってるもののまだまだ元気そうに笑うカグヤであった。
それから二人は今日あったことをお互いに報告し合う。途中からは何故かうちの男子チームは、こっちの女子チームは、と自慢合戦になってしまい、二人とも身を乗り出し熱弁し、お互いの瞳に自分の姿が見える程に近づいた時にハッと我にかえり元の位置へとゆるゆると戻る。
そこからはお茶を飲む音だけが聞こえ、お茶がなくなってしまうと──。
「あー、もう一杯いれようか?」
「んー……、ううん、大丈夫。ありがとう」
自分だけお茶を足すのもなんだか気まずいテュールは、浮きかけた腰をそっと降ろし、背もたれによりかかる。一旦会話がなくなった場面からもう一度エンジンをかけられるほどテュールは器用でも女性に慣れているわけでもなかったため、静かな時間が流れる。
ティールは改めてカグヤに視線を向ける。
(やっぱり綺麗だなぁ……)
料理する姿、子供の面倒をみる姿、一緒に食器を洗った姿、そして今、静かに外を見る姿。美しい少女は外見だけでなくその内面や所作まで美しかった。
「ん?」
その視線に気付いたのがカグヤがテュールへと振り返る。目が合ったテュールは気恥ずかしくなり、空中に視線を彷徨わせる。視界の端にいるカグヤは不思議そうな表情であるが落ち着いているように見え、色々とテンパっているのが自分だけだと思うと軽い自己嫌悪に陥りたくなる。
「ねぇ、テュール君?」
「ん?」
そんなテュールにカグヤから声を掛けてくる。テュールは努めて平坦な声を出そうとしたが、やや上ずってしまった。
「ちょっと風にあたらない?」
「あぁ、そうだな。それは名案だ」
(なんだ名案って! 俺はアホか!)
「フフ、ありがと」
テンパるテュールに対してカグヤは優しく笑って裏の勝手口から外へと出る。昼は暑いくらいだが夜になると過ごしやすい涼やかな風を感じることができる。風と一緒に運ばれてくるのはホッとするような草の匂いとどこかドキドキするような甘い匂い。
勝手口を開け放したまま並んで立つ二人はどちらともなく空を見上げる。テュールが前世で過ごしていた東京では到底見ることのできない夜空がそこにはあった。異世界だからか、星々は赤や黄色、白など宝石箱のようにキラキラと様々な色で夜空を彩っている。
「綺麗だな……」
「綺麗だね……」
テュールとカグヤの頭の上には──月、地球で言うところの月にあたるであろう大きな光が二人をぼんやりと照らしていた。
どのくらい経ったろうか。やや風にあたりすぎて肌寒さを感じる。そろそろ戻ろうかと言おうか言わまいかテュールが悩んでいると、おねえーたーん! と開け放してあった勝手口からピナの声が聞こてくる。どこー? どこー? と泣きながら近づいてくる声は台所あたりまで来ているように感じる。当然、テュールに聞こえているということはカグヤにも聞こえているということだ。カグヤは慌てて勝手口からダイニングへと戻る。
どうしたの? ピナ? という声が向こうから聞こえる。ゆっくりと後を追うテュール。
勝手口を閉めて振り返るとピナはすでにカグヤの腕の中にいた。カグヤが理由を聞いたところ怖い夢をみたらしい。しばらく頭を撫で続け、カグヤと寝ることになったところで落ち着いた。
「おねーたん、いいの?」
申し訳なさそうな顔でピナが聞き返す。当然笑顔でカグヤは返事を返す。ようやくピナに笑顔が戻った。そんな二人を微笑ましく見ていたテュールも一人になってしまえばすることもないので、早めに就寝することとする。
客間は簡素な木枠のベッドが四つほどあり、それぞれが四隅に寄せられて配置されている。ベッド自体の幅は狭いが客間の間取りの狭さもあってやや圧迫感を感じる。入り口から見て左奥のベッドにカグヤとピナは一緒に入る。
テュールはタリサに客間はここだけと説明された時にダイニングで寝ると断ったがカグヤとこれまた一悶着し、なぜかテュールが折れる形で客間に一緒に寝ることになった。
そして、カグヤとピナから対角線上にあるベッド──と、言っても狭い部屋のため大した距離は空いていないが、に入るテュール。
部屋の明かりを消し、目が慣れていない暗闇の中でぼんやりと天井を見つめるテュール。カグヤが手を引いて客間に移動している時点で目が半分トロンと落ちてきていたピナはベッドに入るのと同時に夢の世界へ旅立ってしまったみたいだ、可愛らしい小さな寝息が聞こえてくる。カグヤがピナにおやすみと囁くのが聞こえる。
「テュール君もおやすみ」
「あぁ、おやすみカグヤ」
そして、テュールは目を閉じ、一瞬で──。
(寝れるわけないっちゅーのっ!! 今日の俺はなんだ!? どうなってるんだ!? あれか魔法か? 精神干渉系の魔法か!?)
寝れるわけもなく、ゴロゴロと転がりたい気持ちを押し殺し、今日一日を思い返して悶える。そして暗闇の中一人反省会が始まった。
(なんだ月を見ながら綺麗だねって。アホか、俺はアホか? イエス、アホだ。ここは異世界だからか万が一にも曲解されることはないと思うが、ダメだ。恥ずかしすぎる! あと胸ぽすんな。あれヤバイだろ。いやヤバイのは俺か? 俺だな……。俺はチョロインだったのか……?)
今も気付けばカグヤのベッドに意識がいってしまう。視覚が使えない分、聴覚が敏感になってしまい、ちょっとした息の漏れる音やベッドの中で身じろぎをする際の衣擦れの音にドギマギしている。こんな状態で寝れるわけがないため意識を逸らす努力をする。
(モヨモトが一人、モヨモトが二人、モヨモトが三人──)
頭の中にホホホと笑うモヨモトが増え続ける。百人ワンセットで増やしたら次はリオンだ。
(リオンが一人、リオンが二人、リオンが三人──)
頭の中にガハハハと笑うマッチョが増え続ける。寝れない。次はルチアだ。
(ルチアが一人、ルチアが二人、ルチアが……、あ、リオンがルチアをからかって殴られた。巻き添えでモヨモトがボーリングのピンのごとく……、ププ)
一方、そんな夢うつつの現場へ駆り出されているなど夢にも思わないイルデパン島の面々はと言うと──。
「「「はっくち!」」」
「あれあれー? 三人一緒にくしゃみするなんて珍しいね?」
そう言われて顔を見合わせるルチア、モヨモト、リオンの三人。そして唐突にルチアはリオンを殴る。
「って、いきなりなんだババア!!」
「うるさい! なんとなくだよ! 他に理由があるさね? 次のは今の暴言に対してだよ」
そう言うと先程とは勢いも重さも段違いな一撃がリオンに突き刺さる。
理不尽なっ、そう聞こえた気がするが殴り終えた瞬間にルチアは寝ると言って一瞥すらせず踵を返していた。
そんな不条理極まりない場面を見てモヨモトが呟く──。
「女というのはほんに怖い生き物よの……ホホホ……」
「フフ、ホントだね~」
「な、納得がいかん……」
流石に今回はリオンがちょっぴり可哀想だな、と思うモヨモトとツェペシュであった。
そして、テュールの夜は長い。そんな理不尽な場面を生み出した原因であるテュールは、イルデパン島の皆を頭の中にあらかた増殖させ尽くすと次は、リバティで出会った人たちを脳内に生み出し始める。
(セシリアが一人……、うん、可愛らしい。リリスも一人……、うん、可愛らしい。カグヤも一人……、ぬ、脳内でアンフィス、ヴァナル、ベリトがニヤニヤしている。生意気な! お前らなんかこうだっ!)
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コメント
音街 麟
モヨモトが一人って数えだした時、思わず吹いたわww