とある英雄達の最終兵器

世界るい

第53話 何で普段ちゃらんぽらんなやつがちょっと真面目なこと言うと持て囃されるのだろう。それがギャップ萌えです。

「んじゃ、ちとここじゃ狭いから場所移すぞー、ついてこい」


 カインはそう言ってくるりと背を向け、歩きだす。


 ルーナ先生に言わないでいいのか、という表情を皆が浮かべるが、一応カインも教師なんだ、まぁ大丈夫だろうということで皆しぶしぶついていく。


 5分程歩いただろうか。校舎裏の日当たりも良くなく、人の影すら見えない、寂れた空きスペースに到着する。


「ここは俺の学生時代のサボり場所でなー。何もないから人が寄り付かなくてサボるにゃ持ってこいだ。あー、そんな顔すんな、別に今日はサボりに来たわけじゃねぇよ」


 第一団の面々からのジト目に苦笑しながらそう説明するカイン。


「さて、んじゃ今から何の訓練をするのかって話だが……、鬼ごっこだ」


 鬼ごっこ? みんながキョトンとした顔で首をかしげる。


「そうだ。まぁ俺は冒険者だから冒険者の立場から話すぞ? 冒険者ってのは、ギルドから依頼を受けて、達成すれば報酬を貰える。誰でも知っているシステムだな。そして俺みたいなSSクラスの冒険者の報酬ってのはいくらか知っているか?」


 黙したまま反応を示さない者、首をかしげるもの、わかりませんと答える者。どうやら正確に知っている者はこの中にはいなさそうだ。


「ッフ、SSクラスの依頼となると一件で数百万ゴルドが動く。一件だぞ? 当然拘束期間が長ければ4桁万なんてのもザラだ。まぁそんなにSSクラスの依頼ってのはポンポン来るわけじゃないけどな、まぁそれでも年に数千万はギルドから稼いでいる。さて、これだけ莫大な金は果たしてどこから出る?」


「税金から出ています」


 カグヤが答える。皆も一様に頷いている。


「そうだな。ここらへんは社会科の勉強範囲内だから知っているだろう。つまり、俺達冒険者は多かれ少なかれ、戦う能力のない人々が仕事をして稼いだ血税で生きているんだ。必然、全ての住民を守る義務と責任がある。俺みたいな高給取りは特にな」


 さて、前置きが長くなったな、とカインは苦笑しながら続ける。


「そして、そんな人々を守るために最も重要なのは情報だ。脅威を発見した時、脅威と遭遇した時、当然自分たちだけで対処できるならそれに越したことはない、が、そうではない時、自分以上の脅威に遭遇した時にいかに自分の命を守りながら自国へ情報を持って帰れるかが重要となる。Sクラス以上が撤退してでも持ち帰ることを選んだ情報ってのはその国の未来を左右すると言っても過言ではない。というわけでお前らには撤退戦の訓練をしてもらう」


 今までちゃらんぽらんだと思っていたカインから真剣な話を聞き、顔が引き締まる第一団。正直テュールもこの話を聞くまではカインは戦闘がしたいからSSクラス冒険者になったんだなぁ程度にしか思っていなかった。ごめんね?


「でだ、一班は……後回しでいいわ。二班からやるぞ。んじゃルール説明な。まず、俺という脅威、つまり敵だな、と二班のお姫様たち5人がココ、校舎裏の端っこで遭遇したとの仮定だ。で、一班の男どもは向こうの端っこで待機していて、お姫様の内一人でも、男どもの誰かに情報を渡す、まぁここでは触れたらってことにして、勝ちだ。男どもはそっから動くなよー。何もするなよー。お前らは逃げなくていいからな?」


 分かったら男どもさっさと移動しろ、とシッシと手を振られる。とりあえずそれに従い移動する男5人。


「んで、二班。お前らは俺に触れられたら死亡扱いだ。死人に口なし、退場後は喋んなよ? 魔法による妨害はありだ。直接攻撃はありだが、その際に俺が手のひらでお前らに触れた時点でアウトな? 5人全員で伝えに行くも良し、4人で足止めして1人が伝えに行くも良し、当然逆でも良いぞ? 1人で足止めできるならな」


 カカカカと笑うカイン。カインからテュール達までおよそ500m程だろうか。少女と言えど、ハルモニアSクラス所属、比較的足の遅いセシリアでさえ、一般人のそれは軽く凌駕する。数十秒稼げば勝てる戦いだ。少女たちから一瞬慢心が見えた気がする。


「制限時間はなしだ。お前ら全員が死ぬか、生きて情報を持ち帰れるかだ。さて、んじゃ脅威って言うからには俺も本気だすぞ? ビビんなよとは言わねぇから、漏らすなよ? むんっ!!!」


 そう言ってカインは気合を入れると上半身の衣服がはじけ飛び、屈強で引き締まった筋肉、そして幾重にも刻まれた歴戦の傷跡を惜しげもなく晒し、闘気と殺気を全方位にばら撒く。


 少女たち5人はあまりの闘気、殺気に一瞬呆け――。


「ほい。まずは厄介そうなのから殺すのは当然だよな?」


 そう言いながら、並んで立っていたカグヤとレフィーの間に滑り込むと両者の肩に手を置くカイン。


「ず……ずるいのだー! まだ始めって言ってないのだー!」


 それを見てリリスがカインに指をさしながら怒鳴る。その指先が細かく震えているのは誰から見ても明らかだったが、今は他人を笑う余裕のない少女たち。


「いいか? お前ら訓練ってのは常に実戦を想定しているんだぞ? 脅威だぞ? 敵だぞ? 俺がそう宣言した時点でお前らは臨戦態勢に入っていなきゃいけねぇんだよ。んで、お前ら3人になっちまってるのに一歩も進んでねぇけど大丈夫か? 俺は待っちゃやらねぇ、ぞっ、と」


 そう言って足の遅いセシリアに襲いかかるカイン。


「走って!!!」


 レーベがそう叫び、カインに飛び蹴りを放つ。その一言で弾かれたように走り出すセシリアとリリス。


「ほぅ。足止め役を買ってでたか。だが、これが実戦で絶望的な相手を目の前にし、命を散らすと分かっていても出来るか? そして、あいつらはそんな死地に飛び込んだお前を見捨てて走れるか。よく考えておけ」


 足を掴まれてブラブラと宙吊りになっているレーベにそう言うカイン。


 そんなカインからの薫陶を宙吊りのまま受けているレーベは重力で体操着の上着がめくれてきている。眩しい程の白い肌とおヘソがチラっている。あ、両手で直した。レーベに羞恥心があって良かった。あと、隣のテップ君の息荒い。キモい。


 そしてカインからお前も死に、だ。そう言って手を離され、トサッと地面へと落とされるレーベ。死人に口なし、黙って頷き、退場する。


「さて、大事な仲間はもう半分以下になっちまったぞ? 距離はまだ半分以上残っている。さて、こんなんで俺から撤退できるかな?」


 そう言ってから地面がえぐれる程の踏み込みをもって、再度駆けだすカイン――。

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