とある英雄達の最終兵器

世界るい

第94話 君の名は――

「名前かぁ……。そうだな、レフィーは何か考えているのか?」


 テュールは子供の存在を知っていたレフィーが既に考えているかどうか尋ねる。


「あぁ、当然考えてある。というか、皆で考えた」


 レフィーのその発言に、カグヤ、セシリア、リリス、レーベの4人は得意気に頷く。


「だが、そうだな。父親であるテュールにも当然提案する権利はある。私達5人が納得するような名前であれば採用するが?」


「ふむ……。とりあえずそっちで考えた名前をまず教えてくれ」


 テュールは一つ頷き、参考にするためにも先にレフィー達の考えた名前を聞くこととする。


「あぁ、ウーミアだ」


 レフィーがそう言うと、今しがた名付けの対象となっている子の耳がピクリと動き、羽が少し慌ただしげにパタパタはためく。


「ホホ、良い名じゃのぅ」


「フハハハ、そうだな。古代龍語で翼か。可愛らしい翼を携えたこの子には丁度いい名前ではないか」


「ウーちゃんなのだ!」


「ウー強くする」


 リリスとレーベに至っては既に呼び名まで決めている様子だ。それを見兼ねたカグヤが――。


「みんな? ちょっと待ってね? テュールくんの意見もちゃんと聞いてからにしよ?」


 そんな提案をする。しかし――。


「ウー! ウー! ウーはウー!」


 小さな少女が自らをウーと呼び、その小さな翼をはためかせテュール達の周りを飛び回り始める。そんな絵を見せつけられたテュールは――。


「ウーミアだな! 実は俺もウーミアが良いと思ってたんだ! よーし、ウーミア? 今日からお前はウーミアだ!」


 テュールは飛んでいるウーミアを両手で優しく掴み、目を合わせると笑顔でそう告げる。


「良かったのだー! ウーちゃんはウーちゃんになったのだ! よろしくなのだウーちゃん! リリスはリリスなのだ!」


「フフ、ウーミアちゃん私はセシリアって言います。これからよろしくお願いしますね」


 こうして、モヨモトハウス内にいる人たちの自己紹介が次々と始まり、ウーミアは目を白黒させ戸惑いながらも必死に聞こうとしている。そしてそんな自己紹介タイムが終わると、一瞬空白の時間が生まれる。そんなタイミングにすかさずテュールは一つ息をつき、遂に――。


「ふぅ。さて、君たちさっきからウーミアに夢中で気付かなかったのかも知れない。あえて直視してこない理由は聞かないとしよう。そこで尋ねたいんだが、ねぇ、何か気付かない?」


 テュールは自身の変貌について皆に問う。


「お、おぅ。テュール髪切った?」


「のー」


 テュールはテップの質問に短く返事を突きつける。


「あー、分かった! ファンデーション変えた?」


「のー」


 ヴァナルが自信に満ち溢れた笑顔で指摘してくる。これに対する答えも否だ。


「はいはいはいなのだ!」


 物凄い勢いで手を何度も挙げるリリス。


「……はい、リリス君」


(これ、別にクイズじゃないんだけどなぁ。そんな挙手制の回答権のシステムとかないんだけどなぁ)


「シャンプーを変えたのだ!!」


(グッ……。た、確かに、昨日シャンプーが切れたから、新しいのに変えたけど、変えたけどさ。そうじゃなくない? ねぇ?)


「せ……正解だけど正解じゃない……。いや、お前ら見ろよ!! この翼! 角! 尻尾! 鱗! なぁ!? 昨日までなかったじゃんか!?」


 皆は、その指摘に対し――。


「……え?」


「いやいやいやいや! え? って場面じゃないよ? ここ違うよ? 言われてみれば確かにっていうレベルの変化じゃないでしょ? 髪の毛とかファンデとかシャンプーとかそんな変化に着目できるなら気付けるよ? てか、なんで俺がお前達の彼女みたいになってるんだよ!! はぁはぁはぁ……」


 テュールは顔を真赤にして早口でまくし立てる。隣では――。


「ぽめめー!」


「「「アウッ!」」」


 ウーミアとポメベロスが追いかけっこをしていた。


「ホホ、当然わしは気付いておったぞ」


(いや、当然だろ。なんでドヤ顔なんだよ)


「じ、実は俺も気付いていたんだけど、あえてな? ボケだよ! ボケ! ハハハハ!」


(おい、テップ正気か? マジで気付いてなかったのか? お前のその両目は何のためについているんだ?)


「それでテュール様? その……大変格好いいとは思いますが、あまりに大胆すぎて少々目立ちすぎるかと。そのままで過ごされるんでしょうか?」


 執事が真顔でテュールにそんなことを聞く。


「いや、流石に24時間365日この格好はツライ。さっきも街でウェッジさんに職質されて――って思い出した! お前ら俺を置いて逃げやがって!」


 ケラケラケラ。アンフィスとレフィーが悪びれることなく笑う。


(こ、こいつら……。龍族ってのはこんなんばっかかよ……!)


「ふむ、そうさねぇ。ファフニールはこれが何なのか知らないのかい?」


 ルチアが強引に話を引き戻し進める。


「うむ、我も初めて見る形態だ。まぁそれを言ったらウーミアに関しても、だがな」


 ファフニールのその回答を聞くと、皆沈黙してしまい閉塞感が漂う。しかしそこに――。


「とりあえずどうなっているかは置いておいて、戻るだけなら人化の術を試してみればいいんじゃねぇか?」


(!? それだ!)


 まさかのアンフィスからのまともな提案がなされ、全員がアンフィスの顔を見る。


「な、なんだよ」


 ちなみにウーミアとポメベロスも皆の視線につられてアンフィスを見るが、2秒で飽きてしまったようで追いかけっこに戻った。


 そしてテュールは早速試してみようと龍族の3人に尋ねる。


「それで、あまり気にしたことがなかったけど、竜化と人化ってどうやってるんだ?」


 その質問に対し、ファフニール、アンフィス、レフィーはお互いを見回した後口を一斉に開く――。


「「「なんとなくだ」」」

「とある英雄達の最終兵器 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く