とある英雄達の最終兵器
第126話 多分これは王女様にしていい訓練じゃない
ルチアの説明を一通り受けた一同は再度、情報機密について念を押された後、解散となる。
「さーて、風呂入って寝――」
クイックイッ。
時刻を見れば九時。テュールはゆっくりと風呂に入り、ベッドでゴロゴロし、そしてぐっすり寝ようと目論む。が、そんな安寧を崩されかねない嫌な予感を背後から感じる。
(……振り向いたら負けな気がする)
「さーて、風呂入って寝よっと」
ズルズル。
テュールは自らの直感に身を委ね、わざとらしい声で再度そう宣言し、服を引っ張る手を努めて無視して歩き始める。
ググッ。ピタッ。しかし、テュールの服を掴んだ手は諦める気はないようで万力のごとく力を入れ直し、テュールをその場に縫い止める。
「…………」
「……ししょー。修行」
そして、予想されていた人物からの予想されていた内容が遂に形となる。
「…………もちろんする気だったとも? 闘技大会も近いしな? さぁ、みんな大好き修行の時間だ! というわけで、お前とお前も参加だ」
ガシッ。ガシッ。こうなったらテコでも動かないと悟ったテュールは諦める。が、せめてもの意地でテップとリリスの肩を掴み、強制招集する。あえて修行が嫌いな二人を選ぶあたりテュールの性格の悪さがよく分かる。
「……いや、俺は、その、あっそうだ! いたたたたた! ツヨシに蹴られた顔が割れそうだっ! このままだとブサイクになってしまう! 全世界の俺のファンのためにも今は休養を――!」
「……ズ、ズルいのだテップ! リリスもお腹痛いのだっ! 今日プリンを五個食べたからそれで痛いのだっ! こんな状態で修行なんかしたら鼻からプリンが出ちゃうのだ!」
わざとらしく顔を押さえうずくまるテップと鼻を両手で隠すリリス。そこに――。
「ほらよ」
ローザが回復魔法をかける。
「「……」」
無言で手をゆっくりと下ろし立ちすくむ二人。そして、テュール、レーベ、ローザを含めた五人は静かに見つめ合う。
「んじゃ、俺らは風呂入ってくるなー。あんま遅くまで修行して寝坊すんなよー」
「そうだねー。特にテップとリリスは……いや、テュールもお寝坊さんか。ま、きっとベリトが起こしてくれるよー。じゃーおやすみー」
ガシッ。ガシッ。
「「…………」」
ニッコリ。テップがとびきりの笑顔でアンフィスとヴァナルの間に割って入り、肩を組む。
「「私達は――」」
ガシッ。ガシッ。急いで部屋を出ようとしたカグヤとセシリアを掴むのはリリスとレーベだ。
「フフ、私はミアを寝かさないといけ――」
「うーもしゅぎょうする!!」
「なっ……!?」
ヒシッ。ウーミアがその小さな翼を羽ばたかしてテュールの胸に飛び込んでくる。そして、テュールはレフィーに向けて黒い笑みを浮かべる。
「フフ、皆さん仲がよろしいですね。私も修行のお手伝いさせてもらいますね。鍛錬場お借りできますでしょうか?」
「カカ、もちろんだ。折角だからあたしがお前らを鍛えてやるよ」
こうして、結局ローザと遊楽団全員で修行することとなる。残りの者はと言うと――。
「あたしは寝るさね。夜更かししてこれ以上皺くちゃになったら大変だからね」
「私も休ませてもらいますね。セシリア? 修行も大事だけどお肌も大事にね?」
などという呑気な様子であった。だが、その言葉の威力は絶大で女性陣は皆自分の顔をペタペタと触り、沈痛な表情を浮かべる。あのリリスでさえもだ。ウーミアだけは、自分の顔でなくテュールの顔をペタペタと触って喜んでいた。
そして、一同はルチアとエリーザに挨拶し、部屋を去る。鍛錬場に向かう足取りはやや重かったのは気の所為ではないだろう。
一方、遊楽団とローザを見送ったルチアとエリーザは王族専用の露天風呂に入浴しようという話になり、いそいそと部屋を片付け、電気を消し、扉を閉め、浴場へとつま先を向ける。
パチッ。バタン――。
扉の閉まった残響音が暗く静かな部屋に木霊し、二人分の足音が遠のいていく。
「ククク……」
そして、聞かれてはいけない話――。絶対に漏れてはいけない話をしていた部屋から笑い声が生まれる。
「ククク……ハーッハッハッハッハ!! 世の中のお父さん方ぁぁああよく聞いて下さいぃぃ!! こんなもんですよ!! 子供が育って奥さんが仕事に復帰したら、旦那なんてもはや空気なんですよっ!! うわぁぁぁん、ラグナロクに寝返ってやるぅぅうう!!」
部屋の隅で空気と化していたイアンは、完全防音の部屋であることをいいことに日頃のストレスをぶち撒け、大声で歌いはじめる。
それから一時間程経った後、イアンは仕事が残っていたことにハッと気がつき、平静を装って部屋を出る。がんばれイアン! 負けるなイアン! 世のお父様方はイアンを応援しています。
さて、そんなイアンのことなど露ほども気にかけていないローザと遊楽団の面々はと言うと――。
「さって、あたしが教えるのは体をぶっ壊れにくくする方法だな。ま、当然今までの修行でもやってきたことだろう。だが、あたしのは一味違うぜ? なんてったって世界で唯一の樹界魔法での格闘技、世界樹格闘術を編み出したからな」
「え、そのユグドラーツって俺らにも使えるんすか?」
ドヤ顔でユグドラーツなる格闘術の始祖を名乗るローザ。樹海魔法が使えずともオーバー・ザ・ロウ状態になれるのか興味が湧いたテュールは直ぐにそう尋ねる。他の者も昨日のレーベとの組手の際の反則級の戦闘能力が手に入るのかとその目に真剣さが宿る。
「カカ、まぁ待て待て。そう焦んなって。結論から言うとオーバー・ザ・ロウは無理だ。あれは樹海魔法が使えねぇと発動できないからな。カカ、お前らあからさまにガッカリするんじゃねぇよ。だが、今から教えるのはそれに近しいレベルまで辿り着ける修行法だ。しかもこれはあたしにしか教えられない。ん? どうだ? ワクワクしてきたろ?」
話の途中で顔色をコロコロ変えて聞き入ってる皆の顔を楽しそうに眺めながらローザがそう問う。
「……教えて下さい」
皆がそんなからかい半分のローザにぐぬぬぬとなっている中、レーベは深く頭を下げた。それを見て、ローザは一瞬フッと表情を崩し、優しい目をする。
「カカ、安心しろ。ここまできて教えねぇなんてことは言わねぇよ。まず、この極意の名は、マナアクセルだ。その名の通りマナを加速させるってこったな。マナってのは元々はこの世界に存在しない樹界由来の生命エネルギーのことだ。これをユグドラシルが世界中に行き届かせた。結果、どの種族もマナ器官というものが存在する」
ローザの言葉に顔を見合わせる一同。しかし、皆、似たような表情をしており――。
「あぁ、マナ器官っていうものの存在は多分、あたししか知らないだろうな。オーバー・ザ・ロウ状態で何年も修行していた時にふとマナが体の中で流れている道にようやく気付けたんだからな。そして、それを意識すると取り込んだマナはマナ器官へと流れて、ここで人体の生命エネルギーへと変換され、体が修復するってわけだ」
ローザが自分の体を指でなぞりながらマナの流れを説明する。そして、丹田のあたりを最後に指しそこがマナ器官だと言う。
「んで、あたしはこのマナ器官を鍛えた。すると、どうだ。皮膚や血管が破ける、骨にヒビが入るくらいならオーバー・ザ・ロウを使わなくても瞬時に修復できるようになった。つまり、毎ターン回復しながらもろば斬りを使えるわけだ、カカ、りゅうおうもビックリだな。……ん? なんのことだ?」
自分で説明していながら、何か訳の分からないことを言わされた様子のローザ。そして、唯一心当たりのあるテュールはジト目で宙空を見つめ、この話題をスルーすることに決めたようだ。
「ん、コホン。さて、それでマナ器官を鍛える方法だが、まずあたしが回復魔法をかける。んで、マナが何か、そしてその流れがどうなっているか知覚することから始める。あとは、ひたすらマナの吸引、変換を意識しながら反復練習することだ。その内マナ器官の感覚が分かってくる。あー、あとこれめっちゃ痛いから」
「「「え?」」」
皆が今回の修行は、地味で根気がいるものの、辛く苦しいものではないと安堵しかけた瞬間に引き戻すローザ。実に良い笑顔である。
「あぁ、怪我もしてねぇのに無理やりあたしがマナ器官目掛けて大量のマナ送り込むんだ。体中からマナが吹き出るからな? もちろん血まみれだ。カカカ、あたしも自分のマナ器官を見つけた時はちょっとばかし後悔したもんだ。強くなる方法を見つけちまったからにはやめるって選択肢がないからな。つーわけで、並べ。一人ずつマナをプレゼントしてやる」
「「「…………」」」
その言葉に顔が青ざめ、腰が引ける一同であった。
「さーて、風呂入って寝――」
クイックイッ。
時刻を見れば九時。テュールはゆっくりと風呂に入り、ベッドでゴロゴロし、そしてぐっすり寝ようと目論む。が、そんな安寧を崩されかねない嫌な予感を背後から感じる。
(……振り向いたら負けな気がする)
「さーて、風呂入って寝よっと」
ズルズル。
テュールは自らの直感に身を委ね、わざとらしい声で再度そう宣言し、服を引っ張る手を努めて無視して歩き始める。
ググッ。ピタッ。しかし、テュールの服を掴んだ手は諦める気はないようで万力のごとく力を入れ直し、テュールをその場に縫い止める。
「…………」
「……ししょー。修行」
そして、予想されていた人物からの予想されていた内容が遂に形となる。
「…………もちろんする気だったとも? 闘技大会も近いしな? さぁ、みんな大好き修行の時間だ! というわけで、お前とお前も参加だ」
ガシッ。ガシッ。こうなったらテコでも動かないと悟ったテュールは諦める。が、せめてもの意地でテップとリリスの肩を掴み、強制招集する。あえて修行が嫌いな二人を選ぶあたりテュールの性格の悪さがよく分かる。
「……いや、俺は、その、あっそうだ! いたたたたた! ツヨシに蹴られた顔が割れそうだっ! このままだとブサイクになってしまう! 全世界の俺のファンのためにも今は休養を――!」
「……ズ、ズルいのだテップ! リリスもお腹痛いのだっ! 今日プリンを五個食べたからそれで痛いのだっ! こんな状態で修行なんかしたら鼻からプリンが出ちゃうのだ!」
わざとらしく顔を押さえうずくまるテップと鼻を両手で隠すリリス。そこに――。
「ほらよ」
ローザが回復魔法をかける。
「「……」」
無言で手をゆっくりと下ろし立ちすくむ二人。そして、テュール、レーベ、ローザを含めた五人は静かに見つめ合う。
「んじゃ、俺らは風呂入ってくるなー。あんま遅くまで修行して寝坊すんなよー」
「そうだねー。特にテップとリリスは……いや、テュールもお寝坊さんか。ま、きっとベリトが起こしてくれるよー。じゃーおやすみー」
ガシッ。ガシッ。
「「…………」」
ニッコリ。テップがとびきりの笑顔でアンフィスとヴァナルの間に割って入り、肩を組む。
「「私達は――」」
ガシッ。ガシッ。急いで部屋を出ようとしたカグヤとセシリアを掴むのはリリスとレーベだ。
「フフ、私はミアを寝かさないといけ――」
「うーもしゅぎょうする!!」
「なっ……!?」
ヒシッ。ウーミアがその小さな翼を羽ばたかしてテュールの胸に飛び込んでくる。そして、テュールはレフィーに向けて黒い笑みを浮かべる。
「フフ、皆さん仲がよろしいですね。私も修行のお手伝いさせてもらいますね。鍛錬場お借りできますでしょうか?」
「カカ、もちろんだ。折角だからあたしがお前らを鍛えてやるよ」
こうして、結局ローザと遊楽団全員で修行することとなる。残りの者はと言うと――。
「あたしは寝るさね。夜更かししてこれ以上皺くちゃになったら大変だからね」
「私も休ませてもらいますね。セシリア? 修行も大事だけどお肌も大事にね?」
などという呑気な様子であった。だが、その言葉の威力は絶大で女性陣は皆自分の顔をペタペタと触り、沈痛な表情を浮かべる。あのリリスでさえもだ。ウーミアだけは、自分の顔でなくテュールの顔をペタペタと触って喜んでいた。
そして、一同はルチアとエリーザに挨拶し、部屋を去る。鍛錬場に向かう足取りはやや重かったのは気の所為ではないだろう。
一方、遊楽団とローザを見送ったルチアとエリーザは王族専用の露天風呂に入浴しようという話になり、いそいそと部屋を片付け、電気を消し、扉を閉め、浴場へとつま先を向ける。
パチッ。バタン――。
扉の閉まった残響音が暗く静かな部屋に木霊し、二人分の足音が遠のいていく。
「ククク……」
そして、聞かれてはいけない話――。絶対に漏れてはいけない話をしていた部屋から笑い声が生まれる。
「ククク……ハーッハッハッハッハ!! 世の中のお父さん方ぁぁああよく聞いて下さいぃぃ!! こんなもんですよ!! 子供が育って奥さんが仕事に復帰したら、旦那なんてもはや空気なんですよっ!! うわぁぁぁん、ラグナロクに寝返ってやるぅぅうう!!」
部屋の隅で空気と化していたイアンは、完全防音の部屋であることをいいことに日頃のストレスをぶち撒け、大声で歌いはじめる。
それから一時間程経った後、イアンは仕事が残っていたことにハッと気がつき、平静を装って部屋を出る。がんばれイアン! 負けるなイアン! 世のお父様方はイアンを応援しています。
さて、そんなイアンのことなど露ほども気にかけていないローザと遊楽団の面々はと言うと――。
「さって、あたしが教えるのは体をぶっ壊れにくくする方法だな。ま、当然今までの修行でもやってきたことだろう。だが、あたしのは一味違うぜ? なんてったって世界で唯一の樹界魔法での格闘技、世界樹格闘術を編み出したからな」
「え、そのユグドラーツって俺らにも使えるんすか?」
ドヤ顔でユグドラーツなる格闘術の始祖を名乗るローザ。樹海魔法が使えずともオーバー・ザ・ロウ状態になれるのか興味が湧いたテュールは直ぐにそう尋ねる。他の者も昨日のレーベとの組手の際の反則級の戦闘能力が手に入るのかとその目に真剣さが宿る。
「カカ、まぁ待て待て。そう焦んなって。結論から言うとオーバー・ザ・ロウは無理だ。あれは樹海魔法が使えねぇと発動できないからな。カカ、お前らあからさまにガッカリするんじゃねぇよ。だが、今から教えるのはそれに近しいレベルまで辿り着ける修行法だ。しかもこれはあたしにしか教えられない。ん? どうだ? ワクワクしてきたろ?」
話の途中で顔色をコロコロ変えて聞き入ってる皆の顔を楽しそうに眺めながらローザがそう問う。
「……教えて下さい」
皆がそんなからかい半分のローザにぐぬぬぬとなっている中、レーベは深く頭を下げた。それを見て、ローザは一瞬フッと表情を崩し、優しい目をする。
「カカ、安心しろ。ここまできて教えねぇなんてことは言わねぇよ。まず、この極意の名は、マナアクセルだ。その名の通りマナを加速させるってこったな。マナってのは元々はこの世界に存在しない樹界由来の生命エネルギーのことだ。これをユグドラシルが世界中に行き届かせた。結果、どの種族もマナ器官というものが存在する」
ローザの言葉に顔を見合わせる一同。しかし、皆、似たような表情をしており――。
「あぁ、マナ器官っていうものの存在は多分、あたししか知らないだろうな。オーバー・ザ・ロウ状態で何年も修行していた時にふとマナが体の中で流れている道にようやく気付けたんだからな。そして、それを意識すると取り込んだマナはマナ器官へと流れて、ここで人体の生命エネルギーへと変換され、体が修復するってわけだ」
ローザが自分の体を指でなぞりながらマナの流れを説明する。そして、丹田のあたりを最後に指しそこがマナ器官だと言う。
「んで、あたしはこのマナ器官を鍛えた。すると、どうだ。皮膚や血管が破ける、骨にヒビが入るくらいならオーバー・ザ・ロウを使わなくても瞬時に修復できるようになった。つまり、毎ターン回復しながらもろば斬りを使えるわけだ、カカ、りゅうおうもビックリだな。……ん? なんのことだ?」
自分で説明していながら、何か訳の分からないことを言わされた様子のローザ。そして、唯一心当たりのあるテュールはジト目で宙空を見つめ、この話題をスルーすることに決めたようだ。
「ん、コホン。さて、それでマナ器官を鍛える方法だが、まずあたしが回復魔法をかける。んで、マナが何か、そしてその流れがどうなっているか知覚することから始める。あとは、ひたすらマナの吸引、変換を意識しながら反復練習することだ。その内マナ器官の感覚が分かってくる。あー、あとこれめっちゃ痛いから」
「「「え?」」」
皆が今回の修行は、地味で根気がいるものの、辛く苦しいものではないと安堵しかけた瞬間に引き戻すローザ。実に良い笑顔である。
「あぁ、怪我もしてねぇのに無理やりあたしがマナ器官目掛けて大量のマナ送り込むんだ。体中からマナが吹き出るからな? もちろん血まみれだ。カカカ、あたしも自分のマナ器官を見つけた時はちょっとばかし後悔したもんだ。強くなる方法を見つけちまったからにはやめるって選択肢がないからな。つーわけで、並べ。一人ずつマナをプレゼントしてやる」
「「「…………」」」
その言葉に顔が青ざめ、腰が引ける一同であった。
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