とある英雄達の最終兵器
第138話 次回からは略さずにちゃんと書こう……
「……セシリア? 何がなんだか分からんのだが、紅茶ってこんなに種類があるのか?」
メニューにはずらりと茶葉の産地と銘柄が並んでおり、ホットとアイスの違いしか分からないテュールには何がなんだかさっぱりであった。
「はい。産地や銘柄によって香りや味が違いますよ。また摘む時期によっても変わりますね」
「ふむ、なるほど」
「特にこのリエースでは紅茶は盛んでして、多くの銘柄はここで作っています。ちなみにお祖母様が紅茶を発案したと聞いていますね」
(あー、だから日本で聞いたことのある紅茶の名前なのか、アッサムとかダージリンとか。さてはルチアが似た味の茶葉を育てて名前を付けたんだな)
テュールが既視感を覚える有名な茶葉の謎が解明できた。だが、その謎は解明できても紅茶に詳しくないテュールはアッサムだのダージリンなどの味は一切覚えていないため何の参考にもならなかった。
「ふむ、なるほど、分からん。と言うわけで……よし、決めた──」
散々メニューと睨めっこしたテュールは少しカッコつけた声でクマスターに注文をする。
「アレを頼む」
ズビシッ。
テュールは店内の黒板に書かれた『本日のオススメ!』という欄を指さす。そこにはダージリン、セカンドフラッシュ、SFTGFOPと書かれていた。
「ほぉ。アレが何を指すのか分かって注文してるのか?」
クマスターはイヤラシイ笑みを浮かべながらSFTGFOPの意味が分かっているのか小僧と問う。当然テュールが分かるはずもない。だがうちの主人公は強がってしまった──。
「と、とととと当然だ。えーっと……。すくすく、ふっくら、とれたて、極上の、ふわふわ、オムライス、パン付きだ。つまり新鮮な卵を使って作られた極上のオムライスとパンが紅茶に付いてくるという紅茶屋ならではの逆転の発想だろう?」
ズガガガーン!!
テュールの言葉は何気なくやり取りを聞いていた者たちに恐ろしいほどの衝撃を与えた。反応は二通り──本来の意味を知る者は驚愕。そして本来の意味を知らない者は──歓喜。
「おぉーいいな! 俺もふわふわオムライスとパンが食べたい! それにしよう! マスター! ふわオムとパンセット!」
「リリスもそれにするのだ! えへへーオムライスは大好物の一つなのだー♪」
「……ん、私も」
「うーも! うーも! うーーーも!!」
向こうのテーブルで本来の意味を知らない者は四人。そして、四人は一様に目をキラキラさせクマスターに注文を通す。
そんな目を輝かすチミっ子達を見て、顔が引き攣ってしまうクマスター。だが、いまさらオムライスとパンは付きませんとは言えない空気。子供の夢を壊してはならない。クマスターは、サービス業の鏡とも言える紳士であった。結局──。
「か、畏まりました。すくすくふっくらとれたて極上のふわふわオムライス、パン付きのダージリンを五つ、です、ね?」
──はーい!
全てを呑み込み、注文を繰り返すクマスター。向こうのテーブルからは声を揃えてその注文の確定を言い渡す。当然、その注文が通ったことに他の面々は更に驚きを覚える。そして、自分で言っておきながらこの男──テュールも動揺してしまっていた。
(え? 嘘? 絶対違うよね? そんな奇跡あるわけないよね? 軽食はあるけどオムライスとかメニューにないし……。え? え?)
しかし奇跡的に合ってる可能性もゼロではない、そう思い、テュールはチラリと隣を向く──。
フルフル。
目を閉じ、首を横に振るセシリア。
(やっぱり違ってたーーー!!)
「あー、セシリア、あの呪文はなんだったんだ?」
小さな声で耳打ちして正解を尋ねるテュール。
「スペシャル・ファイン・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコです。紅茶の等級で最も高いということを指します……」
やや顔が強張っているセシリアがテュールの耳元でコソッと教えてくれる。
「……そ、そうだったのか。オムライスの注文が通ってしまったが大丈夫だろうか……?」
「マスターは料理もすごく上手なので、オムライスであれば大丈夫だと思いますよ。それに、もうオムライスなしではあちらは納得しないでしょう……」
チラリと向こうのテーブルを覗けば──。
「「オッムライス♪ オッムライス♪」」
リリスとウーミアがとても陽気にオムライスソングを歌っていた。更にそのリズムに合わせ、レーベの尻尾も左右に大きく振られている。
状況を察したテュールはクマスターを見る。
(すまない……)
テュールができたのは精一杯申し訳なさそうな顔をして、心の中で謝ることくらいだ。
そんなテュールと目があったクマスターはそれでも尚微笑んだ。ヤダ、クマスター男前。
しかし、このオムライス事件とも呼べる騒ぎのさなか、まったく気にすることなく一人の青年へうっとりと夢中になっている少女がいた。そうシャルバラだ。
「ヴァ、ヴァナル様はどれにするか決まりました?」
「あ、あはは。えぇと、じゃあボクもあれにしようかなー」
「まぁ、流石ヴァナル様っ! ダージリンのセカンド、スペシャル・ファイン・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコを選ぶなんて! 私も丁度同じものにしようとしていたんです。奇遇ですねっ」
ズガガガガーン!!
その言葉は先程までのクマスターの心意気を全て無にする一言であった。その時のクマスターの表情はもう何と表現すればいいか分からない。幸いなのは、向こうのテーブルはオムライストークで大盛り上がりでシャルバラの言葉が聞こえていなかったことだろう。
「了解……。君たちはオムライスいるのかい?」
それでも、オムライスを食べるか聞いてくれるあたりクマスターは根っからの善人なんだろう。
「へ? なぜオムライスなんでしょうか? そんなサービスありま──むぐっ」
「マスター。ボクらは紅茶だけでー。あと、スコーンを下さい」
これ以上クマスターへの精神攻撃は酷だと思ったヴァナルはシャルバラの口をその手で塞ぎ、そう注文する。
「……注文ありがとう。ヴァナル君」
クマスターのその注文ありがとうには切実さが多分に含まれていた。頷き合うクマスターとヴァナル。そして、残りの注文を取りにいこうと向こうのテーブルへと向かうクマスター。
「あっ、ごめんねー?」
「い、いえ。急なことで驚きましたけど、その、あの、嬉しかったです」
恋する乙女は強かった。
「テュールさん、テュールさん。あの……、私も普段テュールさんにあんな感じですか?」
ふと、不安に思ったのだろう。セシリアが自分の想いを寄せる相手に小さな声で問う。
「いや、あんなではない」
シャルバラに対し辛辣な表現をし、言葉を返すテュールであった。そんな二人はついついシャルバラとヴァナルのことが気になり、目で追い続けてしまう。
「ヴァナル様のご趣味はなんですか?」
「んー。テュールをからかうことかなー」
「ヴァナル様の好きな料理はなんですか?」
「んー。テュールが夜中作ってくれるラーメンだねー」
「ヴァナル様は──」
「──」
恋する乙女は強かった。
同じテーブルにいながら、まるで他人と相席しているかの如く存在を消されているテュールとセシリアは流石に苦笑いを浮かべ、目の前の光景に食傷気味になる。
「シャルバラさんて普段からこうなの?」
「い、いえ。こんなシャルは初めて見ましたね……。普段は落ち着いていて、むしろ一歩引いて周りをよく見るお姉さんと言った風で……」
「本当に?」
「……ちょっと自信がなくなってきました」
ヴァナルに触れそうな距離まで身を寄せたシャルバラは上目遣いで終わることのない質問攻めをしている。だが、そんなシャルバラが一瞬止まった。
「ん? どうしたんだ? おっ、このオムライス美味いな! セシリア食べる?」
「さぁ? どうしたんでしょう。あっいただきます。あーん。んっ、美味ひいれすっ」
一つのオムライスを二人で食べながらシャルバラを眺めるテュールとセシリア。オムライスが抜群に美味しかったため、先程の苦笑いから一転、心に余裕が戻り微笑んで見守ることができる二人。
当のシャルバラはモジモジしながら両手の人指しゆびをくるくると回しはじめ、さっきまで散々ヴァナルを見つめていた視線を床に落とす。そして──。
「あ、あの……。参考までに……。参考までに聞きたいのですが、す、好きな女性のタイプを教えていただけませんか?」
モグモグ。
「テュールさんっ。今いいところなんですからオムライスを食べる手止めましょうよっ」
「無理だ。こんなふわふわで極上のオムライスはちょっと食べたことがない。しかもこのビーフシチューソースはなんだ。煮込む時間なんてなかったろうに」
「あぁ、たまたまウチのが、昨日多めに作ってたんだよ」
「あ、そうなんすか。マスター奥さんいたんですね。あと、本当にオムライス美味いっす」
「もう、マスターもテュールさんも静かにして下さい!」
いつの間にかテュールの隣にはクマスターが立っており、気楽な様子で行末を見守っていた。そしてヴァナルはいつもの飄々とした感じで──。
「んー。好きなタイプねー。それは──」
メニューにはずらりと茶葉の産地と銘柄が並んでおり、ホットとアイスの違いしか分からないテュールには何がなんだかさっぱりであった。
「はい。産地や銘柄によって香りや味が違いますよ。また摘む時期によっても変わりますね」
「ふむ、なるほど」
「特にこのリエースでは紅茶は盛んでして、多くの銘柄はここで作っています。ちなみにお祖母様が紅茶を発案したと聞いていますね」
(あー、だから日本で聞いたことのある紅茶の名前なのか、アッサムとかダージリンとか。さてはルチアが似た味の茶葉を育てて名前を付けたんだな)
テュールが既視感を覚える有名な茶葉の謎が解明できた。だが、その謎は解明できても紅茶に詳しくないテュールはアッサムだのダージリンなどの味は一切覚えていないため何の参考にもならなかった。
「ふむ、なるほど、分からん。と言うわけで……よし、決めた──」
散々メニューと睨めっこしたテュールは少しカッコつけた声でクマスターに注文をする。
「アレを頼む」
ズビシッ。
テュールは店内の黒板に書かれた『本日のオススメ!』という欄を指さす。そこにはダージリン、セカンドフラッシュ、SFTGFOPと書かれていた。
「ほぉ。アレが何を指すのか分かって注文してるのか?」
クマスターはイヤラシイ笑みを浮かべながらSFTGFOPの意味が分かっているのか小僧と問う。当然テュールが分かるはずもない。だがうちの主人公は強がってしまった──。
「と、とととと当然だ。えーっと……。すくすく、ふっくら、とれたて、極上の、ふわふわ、オムライス、パン付きだ。つまり新鮮な卵を使って作られた極上のオムライスとパンが紅茶に付いてくるという紅茶屋ならではの逆転の発想だろう?」
ズガガガーン!!
テュールの言葉は何気なくやり取りを聞いていた者たちに恐ろしいほどの衝撃を与えた。反応は二通り──本来の意味を知る者は驚愕。そして本来の意味を知らない者は──歓喜。
「おぉーいいな! 俺もふわふわオムライスとパンが食べたい! それにしよう! マスター! ふわオムとパンセット!」
「リリスもそれにするのだ! えへへーオムライスは大好物の一つなのだー♪」
「……ん、私も」
「うーも! うーも! うーーーも!!」
向こうのテーブルで本来の意味を知らない者は四人。そして、四人は一様に目をキラキラさせクマスターに注文を通す。
そんな目を輝かすチミっ子達を見て、顔が引き攣ってしまうクマスター。だが、いまさらオムライスとパンは付きませんとは言えない空気。子供の夢を壊してはならない。クマスターは、サービス業の鏡とも言える紳士であった。結局──。
「か、畏まりました。すくすくふっくらとれたて極上のふわふわオムライス、パン付きのダージリンを五つ、です、ね?」
──はーい!
全てを呑み込み、注文を繰り返すクマスター。向こうのテーブルからは声を揃えてその注文の確定を言い渡す。当然、その注文が通ったことに他の面々は更に驚きを覚える。そして、自分で言っておきながらこの男──テュールも動揺してしまっていた。
(え? 嘘? 絶対違うよね? そんな奇跡あるわけないよね? 軽食はあるけどオムライスとかメニューにないし……。え? え?)
しかし奇跡的に合ってる可能性もゼロではない、そう思い、テュールはチラリと隣を向く──。
フルフル。
目を閉じ、首を横に振るセシリア。
(やっぱり違ってたーーー!!)
「あー、セシリア、あの呪文はなんだったんだ?」
小さな声で耳打ちして正解を尋ねるテュール。
「スペシャル・ファイン・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコです。紅茶の等級で最も高いということを指します……」
やや顔が強張っているセシリアがテュールの耳元でコソッと教えてくれる。
「……そ、そうだったのか。オムライスの注文が通ってしまったが大丈夫だろうか……?」
「マスターは料理もすごく上手なので、オムライスであれば大丈夫だと思いますよ。それに、もうオムライスなしではあちらは納得しないでしょう……」
チラリと向こうのテーブルを覗けば──。
「「オッムライス♪ オッムライス♪」」
リリスとウーミアがとても陽気にオムライスソングを歌っていた。更にそのリズムに合わせ、レーベの尻尾も左右に大きく振られている。
状況を察したテュールはクマスターを見る。
(すまない……)
テュールができたのは精一杯申し訳なさそうな顔をして、心の中で謝ることくらいだ。
そんなテュールと目があったクマスターはそれでも尚微笑んだ。ヤダ、クマスター男前。
しかし、このオムライス事件とも呼べる騒ぎのさなか、まったく気にすることなく一人の青年へうっとりと夢中になっている少女がいた。そうシャルバラだ。
「ヴァ、ヴァナル様はどれにするか決まりました?」
「あ、あはは。えぇと、じゃあボクもあれにしようかなー」
「まぁ、流石ヴァナル様っ! ダージリンのセカンド、スペシャル・ファイン・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコを選ぶなんて! 私も丁度同じものにしようとしていたんです。奇遇ですねっ」
ズガガガガーン!!
その言葉は先程までのクマスターの心意気を全て無にする一言であった。その時のクマスターの表情はもう何と表現すればいいか分からない。幸いなのは、向こうのテーブルはオムライストークで大盛り上がりでシャルバラの言葉が聞こえていなかったことだろう。
「了解……。君たちはオムライスいるのかい?」
それでも、オムライスを食べるか聞いてくれるあたりクマスターは根っからの善人なんだろう。
「へ? なぜオムライスなんでしょうか? そんなサービスありま──むぐっ」
「マスター。ボクらは紅茶だけでー。あと、スコーンを下さい」
これ以上クマスターへの精神攻撃は酷だと思ったヴァナルはシャルバラの口をその手で塞ぎ、そう注文する。
「……注文ありがとう。ヴァナル君」
クマスターのその注文ありがとうには切実さが多分に含まれていた。頷き合うクマスターとヴァナル。そして、残りの注文を取りにいこうと向こうのテーブルへと向かうクマスター。
「あっ、ごめんねー?」
「い、いえ。急なことで驚きましたけど、その、あの、嬉しかったです」
恋する乙女は強かった。
「テュールさん、テュールさん。あの……、私も普段テュールさんにあんな感じですか?」
ふと、不安に思ったのだろう。セシリアが自分の想いを寄せる相手に小さな声で問う。
「いや、あんなではない」
シャルバラに対し辛辣な表現をし、言葉を返すテュールであった。そんな二人はついついシャルバラとヴァナルのことが気になり、目で追い続けてしまう。
「ヴァナル様のご趣味はなんですか?」
「んー。テュールをからかうことかなー」
「ヴァナル様の好きな料理はなんですか?」
「んー。テュールが夜中作ってくれるラーメンだねー」
「ヴァナル様は──」
「──」
恋する乙女は強かった。
同じテーブルにいながら、まるで他人と相席しているかの如く存在を消されているテュールとセシリアは流石に苦笑いを浮かべ、目の前の光景に食傷気味になる。
「シャルバラさんて普段からこうなの?」
「い、いえ。こんなシャルは初めて見ましたね……。普段は落ち着いていて、むしろ一歩引いて周りをよく見るお姉さんと言った風で……」
「本当に?」
「……ちょっと自信がなくなってきました」
ヴァナルに触れそうな距離まで身を寄せたシャルバラは上目遣いで終わることのない質問攻めをしている。だが、そんなシャルバラが一瞬止まった。
「ん? どうしたんだ? おっ、このオムライス美味いな! セシリア食べる?」
「さぁ? どうしたんでしょう。あっいただきます。あーん。んっ、美味ひいれすっ」
一つのオムライスを二人で食べながらシャルバラを眺めるテュールとセシリア。オムライスが抜群に美味しかったため、先程の苦笑いから一転、心に余裕が戻り微笑んで見守ることができる二人。
当のシャルバラはモジモジしながら両手の人指しゆびをくるくると回しはじめ、さっきまで散々ヴァナルを見つめていた視線を床に落とす。そして──。
「あ、あの……。参考までに……。参考までに聞きたいのですが、す、好きな女性のタイプを教えていただけませんか?」
モグモグ。
「テュールさんっ。今いいところなんですからオムライスを食べる手止めましょうよっ」
「無理だ。こんなふわふわで極上のオムライスはちょっと食べたことがない。しかもこのビーフシチューソースはなんだ。煮込む時間なんてなかったろうに」
「あぁ、たまたまウチのが、昨日多めに作ってたんだよ」
「あ、そうなんすか。マスター奥さんいたんですね。あと、本当にオムライス美味いっす」
「もう、マスターもテュールさんも静かにして下さい!」
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