とある英雄達の最終兵器
第148話 ともに在るべき者
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ。ポメ、最後の課題だ……。すまない、これも試験なんだ我慢してくれ」
「「「アウッ!」」」
あの後もいくつも理不尽な課題が出され続け、その度にてんやわんやにこなしていく三人であったが、ここまでは何故かクリア扱いされていた。そして、最後の課題──飼い主がその愛獣を攻撃し、反撃しなければ合格という実に合否が分かりやすい試験が始まる。
テュールの隣ではいち早くクルードが自らの愛獣であるニルヴァルムを殴り飛ばしていた。ニルヴァルムは決して怒気など出さず、その身を立て直し、凛と前を向く。クルードは満足げにニルヴァルムを撫で、次はお前の番だとテュールに視線を送る。
その視線を受け、息も絶え絶えなテュールは一つ深呼吸をする。そして呼吸を整えたあと、顔を上げ、ポメベロスに目配せをし、右腕をゆっくりと振りかぶった。
(すまない、ポメッ! お前を殴る俺も痛いんだ! 家に帰ったらめいいっぱい噛んでくれて構わないからっ!)
テュールは目を閉じ、下唇を噛んで、愛らしくこちらを見つめていたポメベロスに心の中で精一杯謝る。
そして、遂にその拳を振り下ろした。
「「「ウ? アウッ! ハッハ」」」
ペロペロとポメべロスの舌がテュールの拳へ伸びる。
そう、テュールの拳はポメベロスの鼻先寸前で止められていた。そしてテュールは暫く凍ったように動きを止めていたが、突如膝からガクリと崩れ落ちる。そして、両腕を高く振り上げ、地面を強く叩くと、慟哭を上げた。
「ダ、ダメだっ!! ミルキーさん、俺には、俺にはこいつを殴ることなんて出来ないっ!! クソッ!! こんな試験、クソくらえだ!! 自分の愛する家族を殴ってまで俺は……、俺は騎獣の資格なんて欲しくないっ……」
そう心の内を吐露する。そんなテュールのもとにミルキーは無言で近付いていく。そして、しゃがんで目線を同じにすると優しい声で語りかけた。
「ふふ、偉いね。私はね、キミみたいに騎獣のことを家族として見れる、そんな優しい人こそが騎獣と共に在るべき人だと思うよ」
「ミルキーさん……。もしかして、この試験の本来の意味って……」
「……うん。在るべきだとは思うよ。けど殴れなかったから不合格ね?」
笑顔でまさかの判定を言い渡す。今までのゆるい判定はなんだったのだろうか。そして今の無駄に良いシーンになりかけたのはなんだったのだろうか。クソ食らえと言って試験を放棄したテュールは、自分から言いだしたことだが、この結果に納得できそうになかった。
「……ん、ツヨシ。歯を食いしばって」
「ぶるふぁっ♪ ごぶれっるっふぁああああ!!」
そして、この一幕を見ていたレーベは躊躇うことなく渾身の右ストレートをツヨシへと叩きこむ。そしてよろよろとたたらを踏んだツヨシはそれでも尚笑った。それを見たミルキーは笑顔で、親指を立てる。
(俺、この人嫌いかも……)
テュールはこの世界に来て、嫌いだと思う人にほとんど会わなかったが、今日初めて本気で嫌いになりそうな人を発見してしまった。
「あっ、けどテュール君はここまでの成績もいいし、ポメちゃんが可愛いから合格にしてあげる。内緒よ? フフ、お姉さんに感謝しなさい」
そう言って、その巨乳はふんぞり返った。テュールはどうしても、ありがとうございますを言いたくなかったので、代わりにペコリと頭を下げた。
そして、混沌を極めた騎獣試験はなんとか三名、三頭とも合格となり、最後の余興である騎獣レースへと移る。
一方、観客席では──。
「フフ、では皆様どなた様に賭けますか? はい、クルード様ですね? こちらはレーベ様、おやおやテュール様の人気がないですね。テュール様のオッズはかなり高くなっていますので、オススメですよ?」
いつの間にか執事が賭けの胴元になっていた。そしてうず高く盛られたチップの山。一番人気は当然俊足の魔獣、灰氷狼であるニルヴァルムだ。試験を見てもよく訓練されているのが分かり、大本命となっている。
二番人気はベヒーモスであるツヨシだ。牛だと思われているが故に鈍足だという意見が大半を占める。しかし、試験でのパフォーマンスからそのポテンシャルを信じる者がちらほらと出てきており、ニルヴァルムには遠く及ばないもの決して少なくない数の者が賭けている。
そして、最下位はテュールとポメベロスペアだ。それはそうだ、騎獣レースというのはそのパートナーを自ら、もしくは騎獣車に乗せて走るのだから体格という要素は非常に大きなウェイトを占める。そしてポメベロスは小型犬であった。
「わ、私はテュールさんを信じます!」
「私もテュールくんを信じてるよっ」
「じゃあ、リリスもそうするのだー!」
「フ、仕方ない。ミア、パパを応援してやるか」
「うんー! ぽめめがんばれー!」
女性陣はそんな最下位ペアに応援の意味も込めてBETする。金額はあえて明示するのは避けておこう。
「んじゃ、俺はツヨシだ」
「うんーボクもツヨシ」
「あっ、俺も俺もー」
そして男性陣はガチな予想に、ガチな金額をBETする。
こうして、愛と金の渦巻く騎獣レースが幕を開ける。
「「「アウッ!」」」
あの後もいくつも理不尽な課題が出され続け、その度にてんやわんやにこなしていく三人であったが、ここまでは何故かクリア扱いされていた。そして、最後の課題──飼い主がその愛獣を攻撃し、反撃しなければ合格という実に合否が分かりやすい試験が始まる。
テュールの隣ではいち早くクルードが自らの愛獣であるニルヴァルムを殴り飛ばしていた。ニルヴァルムは決して怒気など出さず、その身を立て直し、凛と前を向く。クルードは満足げにニルヴァルムを撫で、次はお前の番だとテュールに視線を送る。
その視線を受け、息も絶え絶えなテュールは一つ深呼吸をする。そして呼吸を整えたあと、顔を上げ、ポメベロスに目配せをし、右腕をゆっくりと振りかぶった。
(すまない、ポメッ! お前を殴る俺も痛いんだ! 家に帰ったらめいいっぱい噛んでくれて構わないからっ!)
テュールは目を閉じ、下唇を噛んで、愛らしくこちらを見つめていたポメベロスに心の中で精一杯謝る。
そして、遂にその拳を振り下ろした。
「「「ウ? アウッ! ハッハ」」」
ペロペロとポメべロスの舌がテュールの拳へ伸びる。
そう、テュールの拳はポメベロスの鼻先寸前で止められていた。そしてテュールは暫く凍ったように動きを止めていたが、突如膝からガクリと崩れ落ちる。そして、両腕を高く振り上げ、地面を強く叩くと、慟哭を上げた。
「ダ、ダメだっ!! ミルキーさん、俺には、俺にはこいつを殴ることなんて出来ないっ!! クソッ!! こんな試験、クソくらえだ!! 自分の愛する家族を殴ってまで俺は……、俺は騎獣の資格なんて欲しくないっ……」
そう心の内を吐露する。そんなテュールのもとにミルキーは無言で近付いていく。そして、しゃがんで目線を同じにすると優しい声で語りかけた。
「ふふ、偉いね。私はね、キミみたいに騎獣のことを家族として見れる、そんな優しい人こそが騎獣と共に在るべき人だと思うよ」
「ミルキーさん……。もしかして、この試験の本来の意味って……」
「……うん。在るべきだとは思うよ。けど殴れなかったから不合格ね?」
笑顔でまさかの判定を言い渡す。今までのゆるい判定はなんだったのだろうか。そして今の無駄に良いシーンになりかけたのはなんだったのだろうか。クソ食らえと言って試験を放棄したテュールは、自分から言いだしたことだが、この結果に納得できそうになかった。
「……ん、ツヨシ。歯を食いしばって」
「ぶるふぁっ♪ ごぶれっるっふぁああああ!!」
そして、この一幕を見ていたレーベは躊躇うことなく渾身の右ストレートをツヨシへと叩きこむ。そしてよろよろとたたらを踏んだツヨシはそれでも尚笑った。それを見たミルキーは笑顔で、親指を立てる。
(俺、この人嫌いかも……)
テュールはこの世界に来て、嫌いだと思う人にほとんど会わなかったが、今日初めて本気で嫌いになりそうな人を発見してしまった。
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そう言って、その巨乳はふんぞり返った。テュールはどうしても、ありがとうございますを言いたくなかったので、代わりにペコリと頭を下げた。
そして、混沌を極めた騎獣試験はなんとか三名、三頭とも合格となり、最後の余興である騎獣レースへと移る。
一方、観客席では──。
「フフ、では皆様どなた様に賭けますか? はい、クルード様ですね? こちらはレーベ様、おやおやテュール様の人気がないですね。テュール様のオッズはかなり高くなっていますので、オススメですよ?」
いつの間にか執事が賭けの胴元になっていた。そしてうず高く盛られたチップの山。一番人気は当然俊足の魔獣、灰氷狼であるニルヴァルムだ。試験を見てもよく訓練されているのが分かり、大本命となっている。
二番人気はベヒーモスであるツヨシだ。牛だと思われているが故に鈍足だという意見が大半を占める。しかし、試験でのパフォーマンスからそのポテンシャルを信じる者がちらほらと出てきており、ニルヴァルムには遠く及ばないもの決して少なくない数の者が賭けている。
そして、最下位はテュールとポメベロスペアだ。それはそうだ、騎獣レースというのはそのパートナーを自ら、もしくは騎獣車に乗せて走るのだから体格という要素は非常に大きなウェイトを占める。そしてポメベロスは小型犬であった。
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「じゃあ、リリスもそうするのだー!」
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「んじゃ、俺はツヨシだ」
「うんーボクもツヨシ」
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