【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

リリナを助けようとしたら土砂に飲み込まれた

 ヤンクルさんに石灰岩がある場所を聞いた翌日、俺はその場所へ来ていた。
 そこは村からほとんど離れておらず魔物や野生の動物もめったに出ないらしい。
 周囲は切り立った崖で土が露出している。
 雨の日だったら崩れてくる可能性があるかも知れないが最近は晴れの日ばかりだったので大丈夫だろう。

 俺は周囲に転がっている5センチから10センチ程の石灰岩を拾い集めていく。
 日が暮れるまで石灰岩を集めていたが家の台所の床の全てをセメントで覆う量を確保するにはかなりの日数がかかりそうだ。
 俺は持てるだけの量を持ってその日は家に帰った。

 そして翌日からはお昼まで家の周辺の草むしりや、畑にときたま生える草を刈ったりしてから川に行かずに石灰岩が取れる場所まで往復する毎日を送った。

 朝になり瞼を擦りながら起きると『今日は雨が降りそうだな』と親父の話が聞こえてきた。
 俺は玄関まで歩いていき外を見る。
 すると外は暗く空は黒い雲に覆われていた。
 あと2回行けば必要な石灰岩の量が確保出来たかも知れないのに本当に残念だ。
 まあ、急ぐ必要もないだろう。

 雨が降ったら石灰岩が転がっている場所は危険だからな。
 もし崖が崩れてきたら助からないと思うし。
 いくら町から近いと言っても生き埋めになったら助からないだろう。
 そうしているうちに雨が降り始めた、

 「いかなくて良かった」
 一人呟きながら俺は今日一日、家の中で過ごす事に決めた。
 部屋の中でゴロゴロして時間を潰していると、家の戸口を叩く音が聞こえてきた。
 親父は畑の様子を見にいくと出かけて、母親は料理をしているから自然と俺が対応することになる。
 俺は、台所に降りてから戸口を空ける。
 するとそこにはヤンクルさんが立っていた。

「ユウマ君か、丁度よかった。娘のリリナは遊びに来ていないか?」
 俺は首を傾げる。
 リリナが遊びにきた事なんて一度もない。

「……いえ、来ていませんけど?」

「そうか、やっぱり……」

「どうかしたんですか?」

「実は、娘は人見知りで感情を表に出すのが苦手な子なんだ。友達になりたいのに素直になれずに拳で語ろうとするんだ。だから友達がずっといなかったんだ」

「そうなんですか」
 感情を表に出すのが苦手とか嘘だろ?俺とかめっちゃ被害者なんだけど。
 謝って損したまで言われたんだけど?そりゃ友達できないわ。
 だいたい拳で語るとかどこかの熱血主人公かと……。

「それで、娘が私や妻に心配をかけまいとユウマ君の家に遊びに行っていると言っていたんだ。普通なら信じないけどユウマ君と約束したからもしかしたらと安心していたら……」
 あーなるほど。
 たしかに、リリナと仲良くする条件で石灰岩が落ちている場所をヤンクルさんに教えてもらっていたな。
 川にもまったく行ってなかったから遭遇してなくて忘れていたわ。

「……ユウマ君、娘が居る場所に心当たりはあるかな?」
 俺は川でリリナに何度か会っていた事を思い出す。
 もしかしたらリリナは川に居るのかも知れない。

「そうですね、俺はリリナと何度か川縁であったのでもしかしたらそこに居るかも知れません」

「そうか!助かるよ。ありがとう」
 ヤンクルさんはすぐに川へ向かって走っていった。
 それと入れ替わりに親父が家に戻ってきた。

「どうしたユウマ?こんな所に立っていたら濡れるぞ?」
 親父は家の中に入ると何やら考え込んだ後。

「そういえば、ヤンクルさんの娘さんが谷の方へ向かっていったがユウマは何か約束でもしていたのか?」
 俺は親父の言葉を聞きながら頭を振る。
 そんな約束なんかしてないし第一、ここ最近会ったことすらない。

「そうか、なら良いんだがお前が集めてる白い石ころと同じような物を抱えてるのをここ何日か見ていたからな。てっきり一緒に遊んでるとばかり……」
 親父の話の途中で俺は立ち上がった。
 この雨の中、崖がある場所に向かった?
 それは……かなり危険だ。
 何せ、植物の根が張ってない土が剥き出しの崖でいつ崩れるか分からない。

「少し出かけてくる!」
 俺は戸口を空けて家の外に出る。
 風はそこまで強くはないが雨音がかなり強くなってきている。
 後ろから『ユウマ、どうかしたのか?』と親父から問われるが確証が無い以上、大人を集めてくださいとは言えない。
 第一、危険予測が出来る子供なんておかしいと思われるだろう。

「くそっ!……」
 俺は悪態をつきながら石灰岩が落ちてる谷まで走る。
 そして、リリナの姿を見つけた。

「ユウマくん……」
 リリナは両手に石灰岩を抱えていた。
 そして顔を真っ赤に染めあげていく。

「リリナ!ここは危険だ。すぐに村に戻るぞ!」
 俺はリリナの腕を掴む。
 唐突の事だったのかリリナが抱えていた石灰岩は地面の上に零れ落ちた。
 リリナはそれを拾うとしたが、俺はリリナを引っ張る。

「ここは危険なんだ、いつ崖が崩れるか分からない。だからそんな物よりも「そんなものじゃないよ!」……」
 いつもと違うリリナの反応に俺は唖然としてしまった。
 だって目の前にいるリリナは涙をポロポロ零していたからだ。

「……だ、だって…ユウマくんに私、酷いこといっぱいしたから……ユウマくんが一生懸命集めてた白い石を渡せば仲直りできると思ったから……」
 俺は目を伏せてしまった。
 俺は契約という形でリリナと仲良くしようと思ったが、リリナはそうじゃなかった。
 ヤンクルさんの言うとおり不器用だっただけなのだろう。
 それでも謝って損したという捨てセリフは後で追及しなければいけないが……。

「分かったよ。今日からは俺たちは友達だ。だからとりあえず村に戻ろう」
 俺の言葉にようやくリリナがうなずいてくれた。
 そして谷から出ようとした所で、ズズズと嫌な振動が足元を伝わってきた。
 俺は崖の方へ視線を向ける。
 それと同時に崖が崩れた。

「リリナ!」
 俺はリリナの名前を叫びながら、リリナを崖から崩れてくる土砂が届かない範囲外まで力いっぱい突き飛ばす。
 するとリリナは驚いた表情で俺を見てきたが、俺はそのまま崩れてきた大量の土に飲み込まれ意識を失った。




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