【書籍化作品】無名の最強魔法師
儚さの中に
リネラスと食事をした後に彼女と別れ宿屋へと俺は戻ってきた。
宿屋に足を踏み入れると宿屋入り口の受付カウンターで椅子に座りながらイノンがうつ伏せになったまま寝ていた。
俺は、その様子を見て疲れているんだろうと思いながら近づく。
「イノン、起きろ!こんな所で寝ていると風邪を引くぞ!」
いつもよりもフィンデイカ村の気温が低く感じられることもあり、風邪でも引いたらまずいなと思いつつ、話しかける。
おそらく、俺が湖を拡大した為に気化潜熱により大気の気温が下がっているのだろう。
イノンの肩に手を置きながら体を揺すと、彼女はゆっくりと瞼を開いていく。
「ああ、ユウマさんですか。すいません、寝てしまっていて……」
「別にかまわないが風邪を引くぞ?」
「本当ですね。いつもより寒く感じます」
イノンが大きな青い瞳を伏せながら体を震わせている。
俺は宿屋内の大気分子運動を魔法で制御し温度を上げる。
「暖かい……ユウマさん、何かされましたか?」
「ああ、宿屋内の温度を少し弄っただけだ。これなら過ごしやすいだろう?」
まぁ、すぐに熱は外に逃げてしまうが、それでも無いよりはマシだろう。
もうすぐ冬だからな……。
「はい。魔法師の方は何でもできるんですね……」
「何でもは出来ない。出来る事だけだ」
とくに、俺の魔法は科学が根底にある。
そのため、物理に特化した魔法になっていて出来ない事の方が遥かに多い。
「ユウマさん……お父さんとお母さんを生き返らせる事は出来ますか?」
イノンの問いかけに俺は頭を振る。
肉体組織の構成を組み替える事はできるし、修復も可能だし、俺の【身体強化】の魔法のように細胞単位での強化も可能だが、それはあくまでも科学に沿った内容でだ。
俺の知識の中にある内容では、肉体の構成や配置などはある程度解明されているとは言っても人間の意識にまで、人の科学力が及んでいるのかと言えばそうでもない。
だから、俺の科学を基礎に置いた魔法が強力であっても限界は必ず存在する。
「それは無理だ。一度死んでしまった人の命は蘇らす事は俺には出来ない」
そんな事が出来るのは、神秘的な魔法を使える者くらいだろう。
俺の科学魔法では絶対に不可能だ。
「私は、ユウマさんの事を私はずっと見てきました。すごい魔法を使っていろいろなクエストをすぐにこなしていましたよね? そんなユウマさんでも無理なんですか? 黒髪黒目の聖女様は、人も生き返らせる事が出来たと聖書にも書かれていました。だからユウマさんだって本当は出来るんじゃないんですか?」
そこでようやく俺は気がつく。
イノンが涙を零しながら話していることを。
そして、俺の魔法が万能だと勘違いしていることを。
「俺はそんなにすごい力はもっていない。俺が使える魔法では死人を蘇らせる事は出来ない」
俺はイノンに語りかけながら思う。
その聖女とやらが本当の神秘の魔法を使うならそれも可能なのだろう。
だが俺の知識には限界が存在する。
限界が存在すると言う事は、俺の魔法にも限界はあるし万能ではないのだ。
「それだけの力をもっているのに! それでも! 私はどうしたらいいんでしょうか――」
俺は、心の中でため息をつきながらイノンを見る。
どうしたらいいと言われても困ってしまうな。
俺は宿屋の窓から外を見ると、まだ時刻は夕方を少し過ぎたくらいに思われた。
少し気分転換にイノンを誘ってもいいかもしれないな。
「イノン、美味しい店があるんだが俺の驕りで行ってみないか?」
俺の言葉にイノンは頭を振る。
ふむ……これでは駄目となると……。
「イノン、立って目を閉じてもらえるか?」
「え?」
「いいから立って目を閉じてくれ」
イノンは、俺の言葉に頷くと立ち上がって目を閉じた。
俺は【肉体強化】の魔法を発動させてからイノンを抱き上げる。
「ユ、ユウマさん!?」
「目を開けるなよ」
俺は宿から出ると【身体強化】の魔法を最大まで引き上げる。
そしてイノンごと強化した状態で、上空へ向けて跳躍した。
雲を貫き空に舞い上がると俺は足元を見る。
そこには、フィンデイカ村は豆粒くらいの小ささに見えた。
「イノン、目を開けていいぞ?」
「えっ!? ええええ? こ、これって空を飛んでいるんですか? どうやって?」
「空は飛んでいない。跳躍しただけだ。今は、落下しているところだ」
「落下って、だ、大丈夫なんですか?」
イノンが顔を青くして俺にしがみ付いてくる。
俺はその様子を見ながら言葉を選びながら語りかける。
「イノン、あれを見てみないか?」
「ど、どれをですか?」
イノンは俺が顎で示した夕日の方へ視線を向けると、顔色を変えて見入っている。
「とても綺麗だろう? あれは何れ消えるから美しいんだ。だからこそ、人に感動も与えられるし、また感情を揺さぶる事も出来る。そしてどんな事にも永遠なんて存在しない。物事は儚いからこそ尊くもあり何れ壊れるからこそ悲しくもあり美しいんだ」
イノンは、黙って俺の話を聞いている。
「たしかに俺は、強い力を持っている。それは否定しない。だがな自然の摂理に反する事は出来ない。たしかに俺には、イノンがどれだけ苦しく悲しい思いをしているのか分かってやれないし代わってやる事も出来ない」
空から落下している間にも、夕日が少しずつ地平線の先へ消えていく。
イノンの表情は俺からは見ることは出来ない。
でも静かに聞いてくれていると言う事は、分かってくれている事と思いたい。
「すぐに気持ちに折り合いをつけろとは言わないし、強制もできないし、俺に何が出来るとも言わない。それでも……気持ちを溜めこむのは良くはない」
おれはそこで一度言葉を区切る。
まぁ俺にも妹があるからな、こう言う時はどういう言葉を選ぶかくらいは大体分かる。
「まあ、あれだ。どうしてもと言うなら、泣く時くらいは俺の胸を貸してやってもいい。それに誰かの為に泣く事は決して恥ずかしい事じゃないからな」
俺の最後の言葉で、イノンは「はい……ありがとうございます」と言い出すと、小さく嗚咽している。
嗚咽は段々と大きくなっていき最後にはイノンは疲れて眠ってしまった。
俺は魔法で減速し地面に降り立ったあと宿屋に入る。
幸い日が沈んだ事で、空から落ちてきた俺とイノンを目撃した人間はいなかったようだ。
俺はイノンを抱きかかえたまま宿屋に入る。
抱いたままの泣き疲れて寝ているイノンを、自分の部屋に運ぶとベッドにイノンを寝かせる。
俺は、イノンをベッドに寝かせた後、彼女の表情を見ながら考える。
いくらイノンの気分転換のためだったとは言え、恥ずかしいセリフを吐いてしまった。
ただ、放っておけないと思ってしまった。
だから衝動的に行動に移してしまい、あんなことペラペラと話してしまう結果に。
思い起こすと自分が言った事で悶え苦しみそうだ。
とりあえずは、もう寝るとしよう。
俺はイノンを寝かせているベッドとは違うベッドで横になると目を閉じた。
宿屋に足を踏み入れると宿屋入り口の受付カウンターで椅子に座りながらイノンがうつ伏せになったまま寝ていた。
俺は、その様子を見て疲れているんだろうと思いながら近づく。
「イノン、起きろ!こんな所で寝ていると風邪を引くぞ!」
いつもよりもフィンデイカ村の気温が低く感じられることもあり、風邪でも引いたらまずいなと思いつつ、話しかける。
おそらく、俺が湖を拡大した為に気化潜熱により大気の気温が下がっているのだろう。
イノンの肩に手を置きながら体を揺すと、彼女はゆっくりと瞼を開いていく。
「ああ、ユウマさんですか。すいません、寝てしまっていて……」
「別にかまわないが風邪を引くぞ?」
「本当ですね。いつもより寒く感じます」
イノンが大きな青い瞳を伏せながら体を震わせている。
俺は宿屋内の大気分子運動を魔法で制御し温度を上げる。
「暖かい……ユウマさん、何かされましたか?」
「ああ、宿屋内の温度を少し弄っただけだ。これなら過ごしやすいだろう?」
まぁ、すぐに熱は外に逃げてしまうが、それでも無いよりはマシだろう。
もうすぐ冬だからな……。
「はい。魔法師の方は何でもできるんですね……」
「何でもは出来ない。出来る事だけだ」
とくに、俺の魔法は科学が根底にある。
そのため、物理に特化した魔法になっていて出来ない事の方が遥かに多い。
「ユウマさん……お父さんとお母さんを生き返らせる事は出来ますか?」
イノンの問いかけに俺は頭を振る。
肉体組織の構成を組み替える事はできるし、修復も可能だし、俺の【身体強化】の魔法のように細胞単位での強化も可能だが、それはあくまでも科学に沿った内容でだ。
俺の知識の中にある内容では、肉体の構成や配置などはある程度解明されているとは言っても人間の意識にまで、人の科学力が及んでいるのかと言えばそうでもない。
だから、俺の科学を基礎に置いた魔法が強力であっても限界は必ず存在する。
「それは無理だ。一度死んでしまった人の命は蘇らす事は俺には出来ない」
そんな事が出来るのは、神秘的な魔法を使える者くらいだろう。
俺の科学魔法では絶対に不可能だ。
「私は、ユウマさんの事を私はずっと見てきました。すごい魔法を使っていろいろなクエストをすぐにこなしていましたよね? そんなユウマさんでも無理なんですか? 黒髪黒目の聖女様は、人も生き返らせる事が出来たと聖書にも書かれていました。だからユウマさんだって本当は出来るんじゃないんですか?」
そこでようやく俺は気がつく。
イノンが涙を零しながら話していることを。
そして、俺の魔法が万能だと勘違いしていることを。
「俺はそんなにすごい力はもっていない。俺が使える魔法では死人を蘇らせる事は出来ない」
俺はイノンに語りかけながら思う。
その聖女とやらが本当の神秘の魔法を使うならそれも可能なのだろう。
だが俺の知識には限界が存在する。
限界が存在すると言う事は、俺の魔法にも限界はあるし万能ではないのだ。
「それだけの力をもっているのに! それでも! 私はどうしたらいいんでしょうか――」
俺は、心の中でため息をつきながらイノンを見る。
どうしたらいいと言われても困ってしまうな。
俺は宿屋の窓から外を見ると、まだ時刻は夕方を少し過ぎたくらいに思われた。
少し気分転換にイノンを誘ってもいいかもしれないな。
「イノン、美味しい店があるんだが俺の驕りで行ってみないか?」
俺の言葉にイノンは頭を振る。
ふむ……これでは駄目となると……。
「イノン、立って目を閉じてもらえるか?」
「え?」
「いいから立って目を閉じてくれ」
イノンは、俺の言葉に頷くと立ち上がって目を閉じた。
俺は【肉体強化】の魔法を発動させてからイノンを抱き上げる。
「ユ、ユウマさん!?」
「目を開けるなよ」
俺は宿から出ると【身体強化】の魔法を最大まで引き上げる。
そしてイノンごと強化した状態で、上空へ向けて跳躍した。
雲を貫き空に舞い上がると俺は足元を見る。
そこには、フィンデイカ村は豆粒くらいの小ささに見えた。
「イノン、目を開けていいぞ?」
「えっ!? ええええ? こ、これって空を飛んでいるんですか? どうやって?」
「空は飛んでいない。跳躍しただけだ。今は、落下しているところだ」
「落下って、だ、大丈夫なんですか?」
イノンが顔を青くして俺にしがみ付いてくる。
俺はその様子を見ながら言葉を選びながら語りかける。
「イノン、あれを見てみないか?」
「ど、どれをですか?」
イノンは俺が顎で示した夕日の方へ視線を向けると、顔色を変えて見入っている。
「とても綺麗だろう? あれは何れ消えるから美しいんだ。だからこそ、人に感動も与えられるし、また感情を揺さぶる事も出来る。そしてどんな事にも永遠なんて存在しない。物事は儚いからこそ尊くもあり何れ壊れるからこそ悲しくもあり美しいんだ」
イノンは、黙って俺の話を聞いている。
「たしかに俺は、強い力を持っている。それは否定しない。だがな自然の摂理に反する事は出来ない。たしかに俺には、イノンがどれだけ苦しく悲しい思いをしているのか分かってやれないし代わってやる事も出来ない」
空から落下している間にも、夕日が少しずつ地平線の先へ消えていく。
イノンの表情は俺からは見ることは出来ない。
でも静かに聞いてくれていると言う事は、分かってくれている事と思いたい。
「すぐに気持ちに折り合いをつけろとは言わないし、強制もできないし、俺に何が出来るとも言わない。それでも……気持ちを溜めこむのは良くはない」
おれはそこで一度言葉を区切る。
まぁ俺にも妹があるからな、こう言う時はどういう言葉を選ぶかくらいは大体分かる。
「まあ、あれだ。どうしてもと言うなら、泣く時くらいは俺の胸を貸してやってもいい。それに誰かの為に泣く事は決して恥ずかしい事じゃないからな」
俺の最後の言葉で、イノンは「はい……ありがとうございます」と言い出すと、小さく嗚咽している。
嗚咽は段々と大きくなっていき最後にはイノンは疲れて眠ってしまった。
俺は魔法で減速し地面に降り立ったあと宿屋に入る。
幸い日が沈んだ事で、空から落ちてきた俺とイノンを目撃した人間はいなかったようだ。
俺はイノンを抱きかかえたまま宿屋に入る。
抱いたままの泣き疲れて寝ているイノンを、自分の部屋に運ぶとベッドにイノンを寝かせる。
俺は、イノンをベッドに寝かせた後、彼女の表情を見ながら考える。
いくらイノンの気分転換のためだったとは言え、恥ずかしいセリフを吐いてしまった。
ただ、放っておけないと思ってしまった。
だから衝動的に行動に移してしまい、あんなことペラペラと話してしまう結果に。
思い起こすと自分が言った事で悶え苦しみそうだ。
とりあえずは、もう寝るとしよう。
俺はイノンを寝かせているベッドとは違うベッドで横になると目を閉じた。
コメント
ウォン
某物語シリーズの猫川さんのセリフににてますね
スザク
城石 苦味へ、成長したのさ.......
城石 苦味
村を旅立つ前と、死霊の森を抜けた後で、主人公の性格と言動に大きな差異があり、同じ主人公と思えません。