【書籍化作品】無名の最強魔法師
司祭ウカルとユウマの両親
「どうかしたのか?」
いつもは気丈な妻が私の声に反応しない。
何度も肩を揺するとようやく気がついたのか目の焦点が結び私を見てきた。
「……あ。あなた、ユウマが!」
妻が差し出してきた手紙を見ると村を出る旨が書かれていた。
一体何の冗談なのか?
私はため息をつきながらテーブルの上においてある壷を見て空けた。
そこには、まばゆいばかりの金貨や銀貨が詰まっていた。
およそ、家族が一生暮らしていける金額だろう。
そして手紙が何通もあることに気がつく。
一通は私達宛てであり、他はヤンクルさんとその娘宛で2通。妹に一通、そしてウカル様宛と何も表紙に書かれてない手紙が置かれている。
表紙に何も書かれてない手紙を開けて読んでいくと、村長を村人達で決めてくださいと書かれていた。
「ま、まさか……ユウマは村から出ていったのか?」
ユウマが村から出て行く理由が分からない。
たしかにユウマは問題ばかり起こしていたが、私や妻がきちんと村人に謝って禍根ないようにしてきたつもりだ。
それなのにどうしてユウマは家から村から出ていくのか。
その理由が想像できない。
―――ドンドンドンドン
玄関の方から扉を叩く音が聞こえてくる。
私はすぐに扉を開けると、そこには息を切らせたウカル司祭がいらっしゃた。
「ユウマ君はいますか?」
「い、いえ。今は居りませんが……」
私の煮え切らない態度にウカル様が……。
「ユウマ君は村を出て行ってませんか!」
……とまるでこちらが隠してる事を言い当ててきた。
「やはり、そうですか……困ったことになりましたね」
ウカル様がやけに息子の事を思っている。
何かあるのだろうか?
「ウカル様、息子はすぐに戻ってくると思い……「戻ってきませんよ!もうユウマ君は戻ってきません」……え?」
ウカル様の言葉に、私も妻も理解が追いつかない。
一体、何を言ってるのだろうか?
「ユウマ君は、聖人です」
ウカル様の言葉に私と妻は頭が真っ白になる。
聖人、全ての宗教の源となった経典に書かれた聖女と同じ知識を有する者。その者は強大な魔力を持ち天と地を従えると言われている。これは全ての国家の経典にも記されており世界の終わりが近づくとき必ず生まれると言われている。
そして巡礼の旅に旅立った聖人は例外なく命を落とす。
「ウカル様、何かの間違いです。たしかに多少は魔法が使えますが息子にそこまでの力があるなんて……」
「貴方達は自分の息子が何をしてきたのか存じていないのですか?」
ウカル様の私達を見る目がとても冷めている。
「この村の井戸の事は知ってらっしゃいますよね?」
ウカル様の言葉に妻が頷く。
たしかアース神教の秘術で作られたと噂で聞いたが……。
「あれを作ったのは、ユウマ君です、管理を教会に委任したに過ぎません」
「浴場もユウマ君が作りました。これも教会が管理を任されてるだけです」
私や妻の反応を見て、ウカル様がため息をついてきた。
「貴方達は、自分の子供がどれだけ村に貢献しているのか理解してないのですね。娘さんのアリアさんのスライムを維持してるのはユウマ君から供給された魔力ですよ?それに表に出てください」
私や妻は家の外に出ると、遠くに巨大な白い教会が建っていた。
「あれを作ったのもユウマ君です。あの教会には対魔結界が組み込まれています」
私は驚いた。
対魔結界は、組み入れるのがとても難しく杖1本に組み込むだけで金貨1000枚はかかるという代物だ。
冒険者時代に一度見た事があったが、とても高くて手が出せない代物であった。
「さらに言いますが、ユウマ君が居なくなった事でこの地の力が急速に失われつつあります。この意味がお分かりですよね?元冒険者の方なのですから……」
「つまり近いうちに魔物が攻めてくるということをですか?」
「ええ、そうなりますね。そうすればユウマ君が作った壁が役に立つかも知れません。ですが、本当に貴方達は息子さんの事を何も知らなかったのですね?もしかして教会で子供達に勉強を教えてる事も知りませんでしたか?近年人口が増えている村の食料を支えるためにつねに森で危険を冒しながら狩りをしていたことも知りませんでしたか?」
次々と、ウカル様は息子ユウマが何をしてきたのかを説明してくる。
「貴方達は一度でもユウマ君を褒めてあげた事がありましたか?それ以前に自分の子供が何をしていたのか見てないとは……親失格ですね。妹さんが言ってましたよ?お父さんもお母さんもお兄ちゃんにはあまり構っていないと」
……たしかにそうなのかも知れない。
だが言って貰わなければ分からないではないか?
「バルガスさんにフィーナさん、恐らくユウマ君が居なくなった事でこの村は大変なことになるでしょう」
そんな!?ユウマのせいで私達は村から……。
「バルガスさん、貴方は今なんて考えたんですか?自分が息子のせいで酷い目に会うかもしれないと考えましたか?」
「……」
「ユウマ君が、村を出て行った理由が分かった気がします。貴方達二人はもう少し人の親として自覚を持ってユウマ君に接するべきでした。遅かれ早かれ彼は巡礼の旅に出ていたのですから。
貴方達のフォローは教会が極力してあげましょう。ユウマ君が聖人などとバレたら大変な事になりますからね、貴方達も言いふらさない様にお願いします。
それと娘のアリアさんですが教会の者がユウマ君を追って森の中に入って行ったのを見かけたそうです。
恐らく娘さんは、身勝手な貴方達と村人に見切りをつけたのでしょう。家の中のテーブルの上に置かれてるお金は、ユウマ君からの最後の心遣いなのでしょうね」
それだけ言うとウカル様は私達の前から去って行かれた。
「……あ、あなた……ユウマが……」
「分かっている」
ユウマが生まれた日、この手に抱きしめた感触を暖かさを幸せを忘れてしまったのはいつからだったのだろうか。よく怪我をする子であった。
森の中に入ってきては魔物や動物を連れてきては村に迷惑をかけていた。
そして、娘のアリアが生まれて私はユウマをほとんど見る事なく過ごしてきた。
妻も殆ど放任していたように思える。
何かあれば問題ばかり起こす息子を見て、早く村からと思ってしまったことが何度もあった。
ウカル様に指摘されて、私はようやく自分がどれだけ大切なモノを失ってしまったか気がついた。
なんておろかな親だったのだろう。
娘に愛想を尽かされても仕方が無いほど私は愚かであった。
そのとき、ヤンクルさんの教会へ避難しろと言う声が聞こえてきたと同時に魔物が村を襲ってきた。
私と妻はユウマが残した手紙だけを持って教会の端で震えていた。
息子がいなくなった事で魔物が襲ってきた事が判明したら、その矛先は私達に向かってくる。
そこまで考えて私は、自分自身の事しか考えていない事に気がついた。
娘や息子の心配をまったくしてなかった。
なんて最低な親なんだろうか?
ウカル様は必死に村人に話をしている。
私と妻はそれを呆然と聞いていた。
「ふざけないでください!あなた達はどれだけ偉いんですか?あなた達にユウマ君を攻める資格はありません。壁を作って村のために、貴方達のために不眠不休で頑張っていたのを貴方達は見なかったんですか?血を吐きながらも村のために頑張っていたその姿を見て、どうも思わなかったんですか!?」
ウカル様のその言葉に私も妻も胸を締め付けられる思いだった。
そう、息子は他国から攻められた時、一度も家に帰って来なかった。
たった一人で血を吐きながらも村人を娘を私達を救った。
私達はそれを当然のごとく享受した。
親である私達はそこで息子の身を案じないと行けなかったのに、娘のアリアには息子のようにはなったら駄目だぞ?と伝えていた。
息子が何か問題を起こすと大変だからと息子には相談するようにと話した。
だが、それは息子の身を案じたからではなかった。
ああ、私達は親失格だ……。
一度だけでいい、もう一度、息子に会って謝りたい。
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コメント
ノベルバユーザー333169
いいご両親ですね(笑)
ノベルバユーザー322977
これの作者サイコー!!!
ノベルバユーザー105349
無理やりご都合主義で話しをまとめようとしているのが前面に押し出されているせいか、全然不快になりません。これはある意味上手いやり方ですね(^-^;