【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

奇跡の代償(前編)

 それになにより。

「ごめんなさい……ユウマ。ごめんなさい……」

 泣いて謝ってくるリネラスを見て、俺が連れてきたのに……。
 彼女が自分は足手まといで俺を危険に晒したと泣いているのを見て――。

「もう大丈夫だ」

 俺は、リネラスに膝枕されていた事にようやく気が付きながら体に力を入れて立ちあがる。
 まだ体には痺れがあるが、動けないほどではない。

「ユ、ユウマ! もう少し休んでないと!?」

 リネラスは涙で濡れた青い瞳で俺を見てくる。
 だから俺は妹のアリアにするように、リネラスの頭の上に手を置いて撫でながら話しかける。

「リネラスが気にする事じゃない。リネラスを、ここに連れてきたのは俺だ。だからお前が何か気に病む必要はない」
「でも! でも! わ、私……」

 リネラスが両手で目を覆って嗚咽している。
 俺は溜息をつきながら、何故か今回の俺が怪我をしただけではない何らかの記憶を重ねて自分を追い込んでいるのではないのかと思ってしまう。
 ただ、そんな事を聞けるほど、俺とリネラスの仲は深くはない。

 どうしたらいいかと迷っていた所で、発動させた【探索】の魔法が、2個のグレーの光点を見つけた。

「……リネラス、その話は後にしよう。兵士達は、今回のことでクルド公爵邸から全て逃げ出したはずだ。それなのに、まだ生物が存在している。」
「……それって」
「ああ、おそらく連れ去られた冒険者ギルドの受付セイレスの可能性がある。悔むのは後でも出来る! だが、今を蔑にしたらダメだろう?」

 俺の言葉にリネラスはゆっくりと頷いてくる。
 俺とリネラスは、【探索】魔法が表示されていた場所へ向かう。
 そこは噴水であったが、俺の【探索】の魔法が地下には部屋が存在していると証明している。
 噴水を【風刃】で斬り裂き破壊すると、噴水の下からは地下へ伸びる階段が姿を現した。

「いくぞ」
「う、うん」

 俺とリネラスは階段を降りていく。
 そして赤茶色の鉄の扉を開くと、いくつもの石作りの小さな部屋が並んで存在していた。
 そして……。

「……ひどい。こ、こんなのは、あんまりです……セイレス、そんな……」

 そこには、呼吸を止めた女性が鎖に吊るされている。

「ユウマ……」

 リネラスは俺に話しかけてくるが、俺はまっすぐに女性に近づいていく。
 そして女性の鼻先に手を当てると呼吸が止まっている。
 ただ、肉体はまだ熱がある。
 おそらく、俺の【探索】の魔法は熱があったから生きている生物と判断して2人を表示したのだろう。って!? 2人?

 俺は、急いで奥の扉に向かう。
 先ほどから【探索】の魔法に反応していたもう一つのグレーの表示は、この奥からだ。
 扉を開けると小部屋の中には、10歳にも満たない少女が鎖に繋がれていた。
 衰弱はしているが生きている。
 【風刃】の魔法で少女の鎖を断ち切った後に【肉体修復】魔法で体を治していく。

「大丈夫か?」
「……」

 少女は、意識を取り戻したようだが虚ろな眼差しで静かに俺とリネラスを見ている。
 これは、まさか……。
 俺は後ろを振り返ると。

「もう大丈夫、冒険者ギルドが助けにきたからね」

 リネラスの言葉に少女は虚ろな眼差しのまま、俺を見た後にリネラスを見て。

「冒険者ギルド……? お、おねえちゃんも助けてくれた?」

 少女の言葉を聞いた俺は、誰の事か問いただそうとした所で、リネラスが手を翳して俺の行動を制止してきた。
 そして少女は、気を失ってしまった。

「リネラス、この少女を知っているのか?」
 俺の言葉にリネラスは頷いてくる。

「セイレスの妹のセインです。まさか、こんな小さな子まで」
「居た堪れないな、連れ去られた冒険者ギルド関係者の唯一の生存者か」

 俺は溜息をつきながら兵士が戻ってきたら困ると思い、【探索】の魔法を再度発動させる。
 そして気がつく。
 まさかな……。
 俺はすぐに小部屋から出ると【風刃】の魔法を発動させセイレスを釣り上げていた鎖を切り裂く。

「ユ、ユウマ!? どうしたんですか?」
「もしかしたら……セイレスを助ける事が出来るかもしれない!」

 人間を構成する物質の中で、思考などを司りっており未だに解明されてない部分こそがニューロンだ。
 俺の知識では、それを修復する術がない。
 だから、死んだ場合は生き返らせる事が出来ない。
 つまり逆を言えば、脳さえ無事なら!
 俺は、倒れてきたセイレスを受け止めながら【肉体修復】の魔法を発動。
 傷ついたその体を細胞単位で修復していく。

「ユ……ユウマ? い、一体なのを?」

 俺とリネラスが見ている間にも四肢を失い体中に怪我を負ったセイレスの体が修復されていく。
 そして……。

 完全に肉体を修復された女性、セイレスはゆっくりと目を開けていく。
 俺はその様子を見て溜息をついた。
 まさか、呼吸が止まっていただけとは思わなかった。
 それにしても……死んでいたら、リネラスや少女にどれだけの傷跡を残したのか想像すらできない。

「セイレス!」

 リネラスがおんぶしていた少女を俺は引きうけて抱き抱えると、セイレスとリネラスは二人して抱き締め合って涙を流している。
 俺は二人と見た後に、一つ重要な事に気がついた。

 3人もいると俺が抱いて走って帰る訳にはいかないのだ。
 また問題が発生してしまったな。

 まぁ……それでも今は、この奇跡を喜ぼうじゃないか。
 俺はリネラスとセイレスの二人を見て、そう思わずにはいられなかった。




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