【書籍化作品】無名の最強魔法師
エルフとの交渉(前編)
倍以上の幹の太さ、高さも倍を優に超える。
「リネラス! ここが、エルフガーデンか?」
「どうしたの?」
俺が帆馬車を停めるとリネラスが帆馬車の中から出てくると従者席の横に座ると前方を見て「うん、エルフガーデンね」と、答えてきた。
「そうか、ようやく到着か」
俺の感慨深い言葉にリネラスは「うん」と答えると少し考えたあとに小さくため息をついていた。
どうやら、結構お疲れ気味のようだな。
「まだエルブンガストの木々を破壊したことを気にしているのか?」
「まだじゃないから! いまさっきの出来事だから! はぁ……でも、森が破壊されたタイミングで私達が行ったら勘ぐられるかも……」
「それは大丈夫だろう? 第一、これだけの破壊魔法を使える魔法師とか俺は見たことないぞ?」
「人間というのは普通から外れた出来事というのは中々結びつけにくいものだ。だから黙っていればバレないはずだし、なるようになるだろ?」
「ユウマは楽観的でいいわよね! 問い詰められるのは私かセイレスかも知れないのに!」
リネラスの言葉に俺は首を傾げる。
どうして問い詰められるのが俺じゃなくてリネラスかセイレスなのかと。
セイレスはエルフだから分かるがリネラスだって耳の形からして人間だろうに。
「なあ、どうしてリネラスが問い詰められ――」
ずっと発動していた【探索】の魔法に複数の統率された灰色の光点が表示された事で、俺は途中で言葉を止める。
「リネラス、反応ありだ。この統率された動きは間違いなく……「エルフね!」……」
リネラスは俺の言葉尻に言葉を被せるように答えてきた。
灰色の光点、おそらくエルフと思われる者の数は30。
それらがエルフガーデンの木々の上で、俺たちが侵入すれば取り囲めるように移動していく。
配置が終わったからなのか、3つほどの灰色の光点が近づいてくる。
「おい! そこの人間!」
目の前にそびえ立つ樹木の枝に乗ってる耳がない種族――エルフの女性が俺に向かって話しかけてきた。
エルフはリネラスと違って豊満な体つきをしており、髪の毛も太陽の陽光を照らして綺麗というか神秘的に見える。
もちろん、セイレスと同じく耳は長く尖っている。
「リネラス、あれがエルフなのか? 俺の考えてるまな板エルフとは違うんだが?」
「ま、まな板って……ユウマが何を言いたいのか良くわからないけど、かなりイラっときたんだけど!」
リネラスが俺の体を叩いてくるが、リリナと違って痛みは感じない。
俺とリネラスが話し合っていると俺に話しかけてきた樹上のエルフがジッとこちらを見てきていた。
女エルフ達は、全員豊かな物をもっていてまな板リネラスとはまったくの真逆でありとても神秘的な美人。
そんなエルフが、まったく問いかけてに答えない俺たちに苛立ちを覚えたのか「貴様! 何の目的でエルフガーデンに近づいた!」と再度、問い詰めてきた。
何が目的でエルフガーデンに近づいたと言われてもな……。
核心に触れずに答えておくか。
「ユウマ、ユウマ」
リネラスが俺の洋服の裾を引っ張りながら小声で話しかけてくる。
「どうした? お前があいつらと交渉するのか?」
「ううん、そうじゃなくてね。絶対に喧嘩腰で話さないでね。ユウマはすぐに相手を怒らせる発言をするから。そうで無くてもエルフは、気位が高い種族だから!」
――なるほどな。
エルフは高貴な種族だから理論か。
それなら俺の知識の中にもあるぞ?
気難しい上司をいかにうまく利用するかという知識がな。
俺はリネラスの肩に手を置く。
「なるほど。まぁ、交渉事は俺の得意分野だから任せておけ!」
俺はリネラスを安心させるように力強くリネラスの忠告に答える。
するとリネラスは不審な色を瞳の奥に浮かべると。
「まって! ユウマ待って! やっぱり私が話した方がいい気がしてきた!」
「おいおい、何を言ってるんだよ。こう見えても、俺は社交的だから大丈夫だぞ? 少なくても相手の弱みに付け込むような真似はしないからな」
俺の言葉にリネラスも心あたりがあるのか、「うぐっ!」と、言うと「わ、わかった……ユウマに任せる」と、しぶしぶ引き下がっていく。
まぁ俺も相手に問題が無い限り喧嘩腰で話す事はないからな。
なのに、俺が社交的だと言ったとたんにリネラスを含む全員から冷たい目で見られたんだが解せない。
「はぁ……とりあえずユウマに任せるわ。問題起こしたら間違いなく戦いなるから気をつけてね」
リネラスは、あきらめムードで俺にエルフとの交渉を託してくる。
「ああ、任せておけ!」
俺は頷きつつ目の前のエルフ達を見上げる。
「実はエルフガーデン内のエルフの集落でしばらく休ませてもらおうと思ってきたんだ」
「それは許可できない!」
「おい! 即答で却下されたんだが……」
俺は、横に座っていたリネラスに小声で話しかける。
リネラスは、額に手を当てると「もうすこし遠回しに話を持っていかないとダメ」と言ってくる。
そんな事を言われても、こちらの考えを先に提示しておかないとダメだろうに。
「サマラ様、もしかしたらアレは……」
「どうした?」
俺とリネラスが話をしている間に、樹上のエルフも何やら話し合いを始めていた。
話が終わるのを待っていると。
「たしかに……男……あの魔力の量は……」
いつの間にか女エルフばかり集まって樹上で何やら話合いというか会議のような事をしている。
樹上のエルフ達の話合いは中々終わららないようで、金髪の女エルフ……サマラと呼ばれたエルフが周囲のエルフと必死に話合いをしている。
「ユウマ。これはマズイかも……」
リネラスが眉間にしわを寄せて俺に語りかけてくる。
「ああ、たしかにな……こちらの話をまったく聞かず、あいつらは身内だけで必死に話合いをしている。もしかしたら、戦闘になるかもしれないな」
「ううん、そうじゃなくてね。ユウマが危険だって言ってるの!」
俺が危険? 何を言ってるのか分からないな。
二人で話をしていると会議というか話合いが終わった樹上のエルフ――サマラと呼ばれていたエルフは俺を見下ろしてくると「よし! そこの男とその一向、エルフガーデンに入っていいぞ!」と、告げてきた。
「リネラス、どうやら戦わなくて良くなったみたいだぞ?」
俺の言葉に「ああー……これはユウマが大変な事になりそう……」と、呟いているが戦わないなら問題ないだろうに。
とにかく、このまま森の前にいても仕方がないからな。
「分かった! 村まで案内してもらえるか?」
「うむ! 今、そちらにいく!」
金髪の美少女エルフが俺の傍まで近づいてくる。
「私の名前はサマラという。貴方の名前は――って!? ど、どうして……ここに……ここに貴様がいるのだ! 出来損ないのエルフである貴様が!」
先ほどまでの友好的な態度から一遍しサマラは、リネラスを指さして吐き捨てるように言葉を紡いできた。
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