【書籍化作品】無名の最強魔法師
深層心理の迷宮(3)
施術という言葉を俺は初めて聞いた。
たしか、俺が持つ知識の中にある施術というのは、人体の医学的に直す事だったはずだ。
俺は、部屋に中にいるリネラスの母親であるリンスタットさんの方へ視線を向ける。
「ユウマさん――」
リンスタットさんは、泣き腫らしていたようで――。
俺は、リネラスの部屋の箪笥の上に置かれていた布を取ると【魔法】で水を作りだし布に染み込ませると、分子運動を低下させ水を凍りつかせた。
「リンスタットさん、これを――」
濡らした布をリンスタットさんに渡す。
俺から布を受け取ったあと、リネラスが寝ている寝台横の床に膝をつくと、リンスタットさんは、リネラスの手を握っていた。
「エリンフィート、本当に何とかなるんだろうな?」
「大丈夫です。本当は、聖人なら私でなくても、この子を生き返らせる事はできたんですけど――」
「聖人? そういえば、前も言ってたよな? 聖人ってのは――」
「今は、それよりも時間が惜しいです。まずは、リネラスを生き返らせる事を優先としたいのです?」
エリンフィートの抗議を含むような視線に俺は思わず「わかった」と頷いてしまう。
まずはリネラスを生き返らせる事が最優先なのは俺も同じだ。
聖人の話については後で聞けば問題ないだろう。
「それでは、始めます」
エリンフィートが、俺とリンスタットさんに聞こえるように語りかけてくると、手に持っていた白い水晶をリネラスの胸の部分――心臓部へと近づけていく。
すると――。
「こ、これは――」
驚嘆した小さな声がエリンフィートの口元から吐き出されてきた。
「一体、どうしたんだ?」
「そ、それが……ユウマさん、あなたはリネラスに、何か特別な魔法などをかけましたか?」
「いや、全然――回復魔法くらいしか……」
とてつもなく焦っているエリンフィートの言葉に、俺も思わず焦ってしまう。
「…………こ、これは、まさか……で、でも。……そ、それしか考えられ――」
「分かったことがあるなら、きちんと説明しろ! ――何か問題が起きたんだろう? 何か分かった事があるなら――」
「痛い――痛いです!」
エリンフィートの言葉に、俺はハッとして――。
目の前を見ると。エリンフィートの両肩を俺は何時の間にか強く握りしめていた。
「これは……重症ですね」
「重症? リネラスがか?」
俺の問いかけにエリンフィートは、否定的な意味合いを込めて頭を振ってくる。
「リネラスさんは、ユウマさんの回復魔法により肉体構造が変質しています。ですから――死んではいません……ですが器を動かすための媒体がないのです。ですから、ユウマさんが、この、結晶体の魔力を与えてください」
「そうか――」
「ですが……」
「何だ? 何か問題でもあるのか?」
俺の言葉にエリンフィートは、眉元をひそめると「いいえ、なんでもありません」とだけ呟くと俺に、手に持っていた白い結晶石を渡してくる。
白い結晶を受け取ると、脈動のようなモノを感じる。
「これは……鉱物なのか?」
「いいえ、それは白色魔宝石と呼ばれる遥か昔に、とある人物により作られたモノです」
「――とある人物……?」
「はい。さあ、初めてください。そこでユウマさんは、リネラスさんの深層心理に直接触れる事になるでしょう」
「深層心理……?」
俺の質問にエリンフィートは、頷いてくると。
「はい。だからこそ、気を付けてください。決して諦めないでください。そこでは魔法も使えません」
「魔法が?」
「はい――。ですから……本当は人間に頼むような真似はしたくないのですが……ですが、そうしないと、壊れてしまうから――」
「リネラスがか?」
「いいえ……リネラスさんの事ではありません」
「それじゃ、一体――」
「まだ、分からないのですか? 自分の気持ちを、まだ理解してないのですか?」
「何を言って……」
俺とエリンフィートの禅問答が続いたところで。
「ユウマさん。娘をよろしくお願いします」
リンスタットさんが膝をついたまま、俺を見上げて話しかけてくる。
その目には強い光が宿っていて――。
「――だ、だが……」
魔法が使えないと言う事は、何かあった時に何の対応もできない事を意味する。
それは、とても危険で――。
「ユウマさんしか、リネラスさんを救う事はできないんですよ?」
「――ッ!?」
エリンフィートはまっすぐに俺を見て問い詰めてくる。
その瞳は、俺と試してるようにも見えて。
「……」
俺は何も言葉を返す事はできない。
アライ村に住んでいた時から……。
魔法が使えるようになってからずっと俺は……。
ずっと、ずっと俺は魔法に頼って生きてきた。
魔法が使えない環境と言うのが予想できない。
もし、深層心理に入ったときに対抗手段がなかったら――。
「怖いんですか?」
「怖い?」
エリンフィートの言葉に俺は、思わず問いかけ返す。
「そんなに魔法が使えない事が怖いですか?」
「――魔法が使えないことが……」
俺は答えを導きだすことができない。
部屋の中を見渡す。
するとリンスタットさんと目が合う。
リンスタットさんは、俺を見上げながら唇を噛んで。
「ユウマさん。娘が死んだのはユウマさんのせいではない事は分かっています」
「何を……」
「ですから……ユウマさんが、本当に怖いなら――」
その後の言葉をリンスタットさんは、口を閉じてしまう。
――分かっている。
本当は理解している。
リンスタットさんは、何を言おうとしたのか……。
でも、それは親としては言っては行けないこと。
だからこそ、決断を俺に委ねたのだろう。
俺は……。
俺は、魔法が使えないという事実に。
魔法が使えないという言葉に。
自分が、頼ってきた魔法に。
その魔法に。
その魔法が使えないということに。
俺は……俺は。
「どうするんですか? ユウマさん――」
俺は、エリンフィートの言葉に顔を上げる。
その表情は、俺を攻めているような感じを受けない。
ただ――。
「俺は……」
手に持っている白色魔法石を強く握りしめる。
鼓動が、手の平を通して俺に伝えてくる。
どうするんだ? と――。
「ユウマさんにとってリネラスさんは何なのですか?」
「俺にとって、リネラスは――」
分からない。
リネラスは俺にとって一体……。
「すまない――」
俺の言葉が、空しく部屋の中に響く。
リンスタットさんが、俯いてしまう。
「――俺は、自分の気持ちが分からない。だから……だからこそ……リネラスを救いたい」
続いた言葉にリンスタットさんは顔を上げて俺を見てくる。
その瞳には涙があり頬を濡らしていた。
俺は、リンスタットさんの隣に座ると、リネラスの胸元に手を当てる。
「ユウマさん、白色魔宝石を通して魔力を流すイメージをしてください」
「わかった――」
俺はエリンフィートの言葉に従って、イメージを行い【魔法】を行使し意識を失った。
たしか、俺が持つ知識の中にある施術というのは、人体の医学的に直す事だったはずだ。
俺は、部屋に中にいるリネラスの母親であるリンスタットさんの方へ視線を向ける。
「ユウマさん――」
リンスタットさんは、泣き腫らしていたようで――。
俺は、リネラスの部屋の箪笥の上に置かれていた布を取ると【魔法】で水を作りだし布に染み込ませると、分子運動を低下させ水を凍りつかせた。
「リンスタットさん、これを――」
濡らした布をリンスタットさんに渡す。
俺から布を受け取ったあと、リネラスが寝ている寝台横の床に膝をつくと、リンスタットさんは、リネラスの手を握っていた。
「エリンフィート、本当に何とかなるんだろうな?」
「大丈夫です。本当は、聖人なら私でなくても、この子を生き返らせる事はできたんですけど――」
「聖人? そういえば、前も言ってたよな? 聖人ってのは――」
「今は、それよりも時間が惜しいです。まずは、リネラスを生き返らせる事を優先としたいのです?」
エリンフィートの抗議を含むような視線に俺は思わず「わかった」と頷いてしまう。
まずはリネラスを生き返らせる事が最優先なのは俺も同じだ。
聖人の話については後で聞けば問題ないだろう。
「それでは、始めます」
エリンフィートが、俺とリンスタットさんに聞こえるように語りかけてくると、手に持っていた白い水晶をリネラスの胸の部分――心臓部へと近づけていく。
すると――。
「こ、これは――」
驚嘆した小さな声がエリンフィートの口元から吐き出されてきた。
「一体、どうしたんだ?」
「そ、それが……ユウマさん、あなたはリネラスに、何か特別な魔法などをかけましたか?」
「いや、全然――回復魔法くらいしか……」
とてつもなく焦っているエリンフィートの言葉に、俺も思わず焦ってしまう。
「…………こ、これは、まさか……で、でも。……そ、それしか考えられ――」
「分かったことがあるなら、きちんと説明しろ! ――何か問題が起きたんだろう? 何か分かった事があるなら――」
「痛い――痛いです!」
エリンフィートの言葉に、俺はハッとして――。
目の前を見ると。エリンフィートの両肩を俺は何時の間にか強く握りしめていた。
「これは……重症ですね」
「重症? リネラスがか?」
俺の問いかけにエリンフィートは、否定的な意味合いを込めて頭を振ってくる。
「リネラスさんは、ユウマさんの回復魔法により肉体構造が変質しています。ですから――死んではいません……ですが器を動かすための媒体がないのです。ですから、ユウマさんが、この、結晶体の魔力を与えてください」
「そうか――」
「ですが……」
「何だ? 何か問題でもあるのか?」
俺の言葉にエリンフィートは、眉元をひそめると「いいえ、なんでもありません」とだけ呟くと俺に、手に持っていた白い結晶石を渡してくる。
白い結晶を受け取ると、脈動のようなモノを感じる。
「これは……鉱物なのか?」
「いいえ、それは白色魔宝石と呼ばれる遥か昔に、とある人物により作られたモノです」
「――とある人物……?」
「はい。さあ、初めてください。そこでユウマさんは、リネラスさんの深層心理に直接触れる事になるでしょう」
「深層心理……?」
俺の質問にエリンフィートは、頷いてくると。
「はい。だからこそ、気を付けてください。決して諦めないでください。そこでは魔法も使えません」
「魔法が?」
「はい――。ですから……本当は人間に頼むような真似はしたくないのですが……ですが、そうしないと、壊れてしまうから――」
「リネラスがか?」
「いいえ……リネラスさんの事ではありません」
「それじゃ、一体――」
「まだ、分からないのですか? 自分の気持ちを、まだ理解してないのですか?」
「何を言って……」
俺とエリンフィートの禅問答が続いたところで。
「ユウマさん。娘をよろしくお願いします」
リンスタットさんが膝をついたまま、俺を見上げて話しかけてくる。
その目には強い光が宿っていて――。
「――だ、だが……」
魔法が使えないと言う事は、何かあった時に何の対応もできない事を意味する。
それは、とても危険で――。
「ユウマさんしか、リネラスさんを救う事はできないんですよ?」
「――ッ!?」
エリンフィートはまっすぐに俺を見て問い詰めてくる。
その瞳は、俺と試してるようにも見えて。
「……」
俺は何も言葉を返す事はできない。
アライ村に住んでいた時から……。
魔法が使えるようになってからずっと俺は……。
ずっと、ずっと俺は魔法に頼って生きてきた。
魔法が使えない環境と言うのが予想できない。
もし、深層心理に入ったときに対抗手段がなかったら――。
「怖いんですか?」
「怖い?」
エリンフィートの言葉に俺は、思わず問いかけ返す。
「そんなに魔法が使えない事が怖いですか?」
「――魔法が使えないことが……」
俺は答えを導きだすことができない。
部屋の中を見渡す。
するとリンスタットさんと目が合う。
リンスタットさんは、俺を見上げながら唇を噛んで。
「ユウマさん。娘が死んだのはユウマさんのせいではない事は分かっています」
「何を……」
「ですから……ユウマさんが、本当に怖いなら――」
その後の言葉をリンスタットさんは、口を閉じてしまう。
――分かっている。
本当は理解している。
リンスタットさんは、何を言おうとしたのか……。
でも、それは親としては言っては行けないこと。
だからこそ、決断を俺に委ねたのだろう。
俺は……。
俺は、魔法が使えないという事実に。
魔法が使えないという言葉に。
自分が、頼ってきた魔法に。
その魔法に。
その魔法が使えないということに。
俺は……俺は。
「どうするんですか? ユウマさん――」
俺は、エリンフィートの言葉に顔を上げる。
その表情は、俺を攻めているような感じを受けない。
ただ――。
「俺は……」
手に持っている白色魔法石を強く握りしめる。
鼓動が、手の平を通して俺に伝えてくる。
どうするんだ? と――。
「ユウマさんにとってリネラスさんは何なのですか?」
「俺にとって、リネラスは――」
分からない。
リネラスは俺にとって一体……。
「すまない――」
俺の言葉が、空しく部屋の中に響く。
リンスタットさんが、俯いてしまう。
「――俺は、自分の気持ちが分からない。だから……だからこそ……リネラスを救いたい」
続いた言葉にリンスタットさんは顔を上げて俺を見てくる。
その瞳には涙があり頬を濡らしていた。
俺は、リンスタットさんの隣に座ると、リネラスの胸元に手を当てる。
「ユウマさん、白色魔宝石を通して魔力を流すイメージをしてください」
「わかった――」
俺はエリンフィートの言葉に従って、イメージを行い【魔法】を行使し意識を失った。
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