【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

親類の絆(4)

「ユウマ、彼女は――」
「エルス――。悪いが今はイノンの話をしているんだ。黙っていてくれないか?」
「――ッ!」

 俺の言葉を聞いたエルスが体を震わせて膝をつく。
 彼女の呼吸が、とても荒くなっているように見えるが……今は、それよりも……。
 エルスの方からイノンの方へと視線を向ける。
 丁度、彼女と視線が交差する。
 イノンは、ずっと俺を見ていたようだ。

「俺には……。理解できないんだが――」
「ユウマさん、私達が一番最初に出会ったときの事を覚えていますか?」

 イノンの問いかけに俺は頷く。
 たしか、エルスと分かれてから兵士に追われていた彼女を助けたのが、初めての出会い。
 フィンデイカの村では――。

「そうか……。フィンデイカの村でマリウスが興味を示したのは……」
「はい。私の事です」
「つまり、最初から全部、仕組んでいたのか?」
「それは……」
「両親が殺されて、悲劇のヒロインぶっていた事も、好意的に接してきたことも全部……全部! 計算ずくで行動してきたのか? 命令をされたから。情報を送るために。全て、全て――」
「…………ごめんなさい」
「謝ってほしいわけじゃないんだよ! 理由を説明しろって言っているんだ!」

 なんだよ……。
 どういうことだよ……。
 ずっと、仲間だと思っていたのに、それは全てまやかしだったというわけか?
 一緒に行動してきたのも全部、計画的に仕組まれていたということか?

「……全部、嘘だったのか?」

 俺の問いかけにイノンは、頭を振ってくるだけで否定も肯定もしてこない。

「分かった」
「……」
「十分、理解した」
「ユウマさん……」
「もういい」

 二人から俺は距離をとる。
 さすがに裏切った人間を仲間として迎え入れるのは無理がある。
 だから……。

「ユリーシャに伝えておけ。俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやるってな」
「わ、私――」
「もういい!」

 これ以上、話をしても時間の無駄だ。
 リネラスの事もある。
 彼女がユリーシャと内通しているなら、問題ないだろう。
 戦いに巻き込まれても王族の身内ならば悪い扱いは受けないはずだ。
 なら、俺たちと一緒にいる意味もない。
 だから、彼女は逃げ出したのだろう。

「イノン、これから俺たちは敵同士だ」
「――っ!」
「仲間の情報を売るような奴を仲間としては認められない」



 二人から離れるときに「ユウマさん!」とイノンが悲痛な面持ちで問いかけてきたが、俺は無視した。
 彼女がユリーシャの内通者なら、打算的に行動してくる可能性が非常に高いから。

 二人と別れて戻るとユリカとリンスタットが心配そうな表情で、建物の入り口で立って待っていた。

「どうかしたのか?」
「ユウマさんが戻ってくるのを待っていたんです。それより、ユウマさんこそ、顔が真っ青ですよ? どうかしたんですか?」
「どうにもしてない」

 否定的な意味をこめて言葉を紡ぐ。

「それで、イノンさんは?」
「彼女は……彼女は、もう――」
「そうですか」

 最後まで話さなくても、ユリカは察してくれたようで――。

「まずは、リネラスを助けることを優先しよう」

 建物の中に入るとテーブル席には、妹とセイレスとセレンが座ってお茶を飲んでいた。
 そして、俺を見ると一様に暗い表情を見せてくる

「お兄ちゃん? 大丈夫?」

 3人に近づくと妹が俺に抱きついてきた。
 自然と妹の頭をなでながら、俺はなるべく彼女達に心配をかけないように心を落ち着かせるため、深呼吸を繰り返す。

「ああ、大丈夫だ。それじゃ話の続きをしよう」


 

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