【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

姉妹の思い出(4)

「そもそも、お前ら落ち着け! 俺が小さい女の子に手を上げるようなゴミみたいな奴だと思っているのか?」
「そ、それは……」

 俺の言葉にユリカが、少しだけ! 本当に少しだけ戸惑った色合いを瞳に映す。
 まだ、俺が積み上げてきた信頼は完全には崩れていないようだ。
 ――おそらく、「心の中では、ユウマさんがそんなことするわけ無いわ!」とか、思っていてくれたりするはず。
 してるよな?  

 そしてセイレスと言えば……
 その手に持っている黒板には、白いチョークで「姉妹丼ですか? 姉妹丼ですよね!?」と書かれていた。
 ――こいつは、早くなんとなしないと駄目だな。

 エリンフィートば、俺が困った状況を見て、これまた、とっても! いい笑顔を俺に見せてきている。
 ――まじ殴りたい。

 最後にリネラスは……。

「お前……も、もう体は……だ、大丈夫なのか?」
「ダイジョウブ――」
「ど、どうして……片言なんだ……?」
「分からないけど、何故かね……なぜかね……殴りたくて仕方ないなって……」
「殴りたくって仕方ないって!? どういうことだ?」
「何故か分からないけど、無性に――」

 リネラスは、言葉の途中で俺に殴りかかってきた。
 俺は、そのこぶしを受け止める。

「お、おもい!?」

 受け止めて分かる。
 今までのリネラスとは思えないほど、こぶしに力が入っている。
 それに、この魔力の流れ――。
 身体強化に近いことをしている。
 それも、俺の身体強化に近い。

 よく見るとリネラスの空のように澄んでいた瞳の色が緑色へと変化している。
 つまり、これは――。
 エルフ特有の強化魔法?

「重いって何? 私、そんなに重くないから!」
「いや――。そうじゃなくてだな……」

 怒ったリネラスが、見当違いな話をしてくる。
 ただ、それは時間稼ぎにも使える。

「リネラス!」
「な、なによ?」

 攻撃してこようとしていたリネラスが動きを止めた。

「そもそもだ、俺は幼女には興味がない!」
「ええええええええええー……。ど、どどどどっど、どういうことなの? おにいちゃんんんん」
「ユウマお兄ちゃん、最低なの!」

 何故かは知らないが幼女二人組み――。
 俺の妹アリアとセイレスの妹セレンがベッドの上で裸のまま叫んだが、「どういうことなの?」とか「最低なの!」とか言われても困る。
 妹はどこまで行っても妹なわけであって恋愛対象にはならない。
 それに、成人もしてないようなお子様を相手にするほど、俺は変態じゃないし……。

「とにかくだ! 俺は幼女に手を出すほど見境が無いような人間じゃない!」
「――で、でも! ユウマのベッドに二人が寝ていたのは真実だし……」

 リネラスは、俺と妹とセレンを交互に見ながら、どうしていいのか分からないような顔をしている。
 そんな彼女を見ながら、元気になったことはいい事だと思いつつ、無罪で殴られたことに少しだけ苛立っていたが、それは俺の無実をきちんと説明した後でも遅くないだろうと思い――。

「ところでアリアとセレンは、どうしてベッドの中に裸で寝ていたんだ? それに部屋の鍵を掛けていたと思うが、どうやって入ってきたんだ?」

 俺の言葉に二人とも、首を傾げたあとセレンが両手を合わせながら。

「実はね、寒くてお手洗い行くのが面倒で気がついたら――」

 セレンの声が後半にいくにつれ小さくなっていく。
 俺を含めた周りの人間は、もう大体察したような表情をしている。

「つまり、ベッドが寝れる状態じゃなくなったから、他の部屋のベッドを使おうとしたと?」
「……う、うん……」

 セレンが俺の言葉を肯定するかのように頷いてきた。
 あとは――。

「それでね! 私がね! お兄ちゃんは、暖かいから一緒に寝たらいいよ! って教えたの! 教えたの! 教えたの!」
「何度もリプライしなくていいからな。つまり俺の部屋にお前達が来たのは、アリアの差し金ってことか……」
「うん! それに一緒に寝るなら暖かいから洋服もぬいじゃえーって痛っ!?」

 俺は妹の頭に軽く手刀を落としながら大きく溜息をついた。

「それで、鍵がかかってる部屋の扉を、お前はどうやって開けたんだ?」
「そんなの簡単なの! スラちゃん!」

 妹の言葉に合わせるように、手のひらサイズの透明な色をしたスライムが、妹の髪の毛から出てきた。

「この子にね! 鍵穴から入ってもらって開けてもらったの!」
「そ、そうか……」

 俺は妹の話に呆然と言葉を返す。
 どうやら、妹は魔王から魔物使いになって、とうとう盗賊になってしまったようだな。

「あ、あの……ユウマ?」

 話が大体、分かったところでリネラスが恐る恐る話しかけて――。

「わ、私はユウマの事を信じていたよ?」
「お前達は、どの口がって――」

 気がつけば部屋の中には、俺とリネラス、そしてセレンと妹しかいない。
 どうやら、他の連中は事の真相が分かったことで退散してしまったらしいが……。

「あ、私……用事が――」

 リネラスは、独り言を呟きながら部屋から出ていこうとする。
 俺はリネラスの腰まで伸ばしてある金髪を掴む。
 ぐふぇ! という声が聞こえたが、このまま逃がすつもりはない。

「まぁ、待てよ。俺に無実を罪を着せたんだ。まずは。きちんと話をしようか?」
「ユウマ、顔がこわい! すっごく! いい笑顔だから! すごくいい笑顔だから!」

 さて、何の罰をリネラスに与えるとするかな。





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