【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(13)




 冒険者ギルドマスターのコークス。
 そして……、セイレスとセレンの母親である純血種のエルヴンガーデンのエルフ――、ユーフィア。

 二人の視線を受けながら冒険者ギルドの中に入る。

 冒険者ギルドの中は、以前に初めてリネラスと来た時と殆ど変わらない。
 一つだけ違うのは、イノンやユリーシャの父親がいないくらいだ。

 ちなみに、俺に迷惑をかけた冒険者3人組は健在。

 とりあえず、ここは前回と同じ行動を取った方がいいか。
 余計な事をしてループに入るのだけは避けたいからな。

 たしか前回は、クエストボードを見てから、ユーフィアに話かけたな。
 冒険者ギルド建物入り口の左手の壁に掛けられている掲示板の方へと視線を向けると「あの、フィンデイカ村の冒険者ギルドは始めてですよね?」と、ユーフィアの方から話しかけてきた。

 これは予想外の展開だ。
 いきなり前回のルートを外しているぞ? 
 
「……」

 さて、どうするか。
 このまま、話を進行するか?
 するしかないよな。

「まあ――」

 途中まで口を開いたところで、予想通りライルが近づいてくる。

「おいおい、こんな子供が冒険者な訳ないだ――ぐふぁああああ」

 ルートをショートカットするために強めにライフの脇腹に蹴りを入れる。
 ライルの体は、冒険者ギルドの建物のガラスを突き破り外へと吹き飛んでいく。
 さらには、ズドン! という音と共に外から女性や男たちの悲鳴が聞こえてきた。
 
「ライルさん!?」

 慌てて冒険者ギルドの建物から出ていくユーフィア。
 そして重い腰を上げて窓口までくるコーク爺。

「お主、何をしているんじゃ」
「いや、やられる前にやっただけだ。それに死んではいないから問題ない」
「そういう問題ではないんじゃが……」

 コーク爺が呆れた顔で溜息をつくが――。
 
「それに、俺は魔法師だからな。魔法師ごときに剣士が体術で遅れをとるのはまずいだろ?」
「ふむ……。お主、魔法師なのか?」
「だな。一応は、最強の魔法師という自負はある。人は俺のことを魔王とも呼ぶな」
「……魔王というのは、あまり良い呼び名ではない気がするんじゃが……」
「気にすることじゃない」

 話をしていると、「ギルドマスター!」と、ユーフィアが戻ってきた。

「ライルの様子はどうじゃった?」
「死んではいませんが……、しばらく身動きは取れないようです」
「ふーむ」 

 ――と。ジロリと俺をコーク爺が見てくる。
 だが、ライルは、体が動くと襲撃してくるからな。
 ここは大人しく両足を骨折したままで居てもらった方が安心だろう。

「君の名前は?」
「俺の名前はユウマだ」
「それではユウマ君。ライルは、いつも新人を潰しておったが、今回は事が起きる前じゃ。彼にも生活がある。君にも彼の生活費を出してもらいたいんじゃが?」
「断る! ――と、いうか俺は、びた一文持っていないからな!」
「「……」」

 コーク爺ばかりかユーフィアまで無言になる。
 仕方ないだろ。
 ここは精神世界なんだから。
 金を持って入れないからな。

「それじゃ金があれば出してくれるという事じゃな?」
「まあ、そうだな!」

 金は無いがな!

「それでは仕事を振ってやろう」

 コーク爺がテーブルの上に、山積みの書類を置くと、そう告げてきた。
 これは、以前とはルートがまったく違ってきたんだが……、本当に大丈夫か?




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