【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(17)
「何をするも何も、まずは下準備だろう?」
幸い町の外れという好条件。
これなら、ある程度は攻撃魔法が使える。
頭の中で、空間が圧縮され弾けるイメージ――、事象を想像する。
それと同時に、掌を建物に向け【空間爆裂】という文字を頭の中で思い浮かべる。
そして、目の前の建物が木端微塵に吹き飛ぶ。
「【風壁!】」
咄嗟に展開した暴風を思わせる莫大な風の対流が壁となり猛烈な速度で飛んでくる建物の残骸を受け止める。
「よし、これでいいな」
「おいいいいい! お前、何してんの? 何しているんだよ! コルタックさんが言ったのは、食事処の店を建てて欲しいと言っていたよな!? どうして建物を壊すって発想に行きつくんだよ!」
ケインが、何やら熱く語ってくる。
まぁ本来、ケインは、この世界の――、精神世界の住民。
態々、何をするかを説明する必要はない。
――無いが……。
「ふっ、ケイン。お前ごときの小さな物差しで俺を測るなよ? 全ての創造の前には破壊がある。破壊なくして創造はありえない。有名な諺だ。覚えておけよ?」
「いや、だから――、何もない更地にしたら、どこから建材もってくるんだよ! ここらあたりは平野で何もないんだぞ!」
「やれやれ――」
「何だよ……、その態度は――、まるで俺が何も分かってないみたいな態度で接してくるのやめてくれないか?」
ケインの言葉に俺は肩を竦める。
「いいか? ケイン。そもそも俺達は何だ?」
「冒険者だが?」
「だろう? 冒険者が冒険しなくてどうする? 最初から、存在している場所――、建物を使って手を加えたところで、それは冒険と言えるのか?」
「――た、たしかに……」
「だろう? 冒険者と言うのは冒険をするから冒険者と言える。つまり! どんな仕事でも冒険をしない奴は冒険者とは言わない! そういうことだ!」
「……そうなのか?」
ケインが首を傾げるが、まあ――、俺の仕事を見れば分かるだろう。
「さて――、まずは建物を建てないとな……」
「コルタックさんは建築期間を2か月と言っていたけど大丈夫か?」
「ああ、余裕だ」
「お前の余裕はどこからきているんだ……」
ケインが呆れた表情で溜息をついている。
その様子を横目で見ながら両手を地面につける。
頭の中で思い描くは幼少期から持っている謎知識にある建物。
それも――、平屋建てレストランである建造物。
「【錬成!】」
魔法発動と同時に、地面から建物が迫り出してくる。
もちろん、土などでは作られてはいない。
全ての建造物――、窓から柱に至るまで的確な原子構造物質で作られた建物。
建物の骨組みから柱までも全てが鉄筋。
さらに、建物の内装は打ちっぱなしであるがモルタルの壁。
そして、建物の中が良く見えるように、大きな透明な窓ガラスまでもが存在する。
「――え? こ、これって……、なんだ?」
呆けた表情で、いきなり目の前に出現した建造物を見ながら魂の抜けたような声でケインは呟く。
「これはレストランという建造物だ!」
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