【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(18)




「すごいな! これは! まさか一日で建ててしまうとは……」
「誉め言葉は良いから払う物を払ってくれ」
「…………おい、コイツはいつもこんななのか?」

 コクタックがケインに話かけているが、ケインは溜息をつくと何も説明せずに肩を竦めている。
 そして、仕事が終わったという完了のサインをもらったあとは、すぐに別の仕事へと向かう。
 


 ――そして……。

「ふう、だいたい終わったな」

 フィンデイカ村の冒険者ギルドマスターから渡された依頼書は殆ど完了した。
 ただし――、時刻はすでに夕方になっている。
 まぁ100件近い仕事を一人で終わらせたのだから、仕方ないとしよう。

「ケイン、そろそろ冒険者ギルドに帰るぞ」

 俺はケインが返答を返してくる前に、歩きだす。
 リネラスとの待ち合わしている時間もそろそろだからな。
 さっさと、仕事が終わった達成金をもらって合流した方がいいだろう。

「お、おい! 待てよ!」
「待たない」

 小走りで走り寄ってくるケイン。

「なあ、アンタ。一体、何者なんだ? 俺が見た事がない魔法や理論を知っているように見えるんだが……」
「さあな」

 この世界は、イノンとユリーシャの精神世界だ。
 あまり余計な知識を披露するのは、巻き戻りになる可能性が高い。
 余計な事は言わない方がいいだろう。

「なあ、魔法って簡単に覚えられるのか?」
「知らん」

 そもそも、俺が使っている漢字魔法と、一般の魔法師が使う触媒を利用した魔法は、形式がまったく異なる。
 ただし、例外はある。
 S級冒険者クラスになれば、何らかの手段で能力を使う事も出来るようだが、その手段はしらない。
 おそらく種や仕掛けがあるのだろう。

「ケイン、冒険者ギルドに到着したぞ」
「お、おう」

 フィンデイカ村の冒険者ギルドの扉を開ける。
 すると冒険者ギルドのカウンターに座っているセレンやセイレスの母親であるユィーフィアに詰め寄っている男が視界に入った。

「お願いします! 娘のユリーシャを救ってくれる冒険者の手配をお願いします!」
「現在、回復魔法が使える魔法師は、海の港町カレイドスコープにしかいないのです。すぐに手配をしても往復で2週間は……」
「それでは娘が……」

 どうやら、かなり切羽詰まった状況に差し迫っているようだ。
 本来であるなら、ユリーシャやイノンには接しておきたいが……、ルーグレンスの事を考えると無暗に干渉するのは……。
 下手に干渉して巻き戻しを受ければリネラスに文句言われそうだし。

 どうしたものか。

「ケイン、戻ったか。どうだったんじゃ?」
「これを見てくれよ」

 どう立ち回ればいいのか考えていたところで、ケインが達成した依頼書をコークスに見せている。

「ほう、ほう! ほう! すごいのう。これほどの仕事を半日も掛けずに終わらせるとは……。お主、本当に何者なんじゃ?」
「さあな、フィンデイカ村の冒険者ギルドに所属しているFランク冒険者ユウマだ。それ以上でも、それ以下でもない」
「ユウマ」
「なんだ?」
「そこの者の依頼を受けてもらうことは出来ないか?」
「依頼?」
「うむ。君に渡した依頼書の中には回復魔法が必要な依頼書が偶然紛れ込んでいたようじゃ。こちらの不手際ですまなかったが……」

 そこでコークスは口を一旦閉じると、イノンとユリーシャの父親の方へ一瞬、視線を向けたかと思うと――。

「君は、その依頼書の内容を達成することが出来た。つまり回復魔法が使えるということじゃな?」 
「まあな」
「――なら、彼の娘のユリーシャを助けることは出来ないか? もちろん、今回の依頼書の達成量から見てS級冒険者にしよう」
「ふむ……、まあ構わないが?」
「そうか……」
「イノク!」
「コークスさん、聞いていました。彼が?」
「うむ。年若く見えるがS級の冒険者ユウマという。回復魔法も使える魔法師じゃ」
「S級!?」

 


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