公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

望まない願い

「そう……」
 お母様は、さみしそうに呟くとそこで言葉を止めた。
 何か言いたそうな表情をしているのは分かるけど……私が聞くのもおかしな気がして軽く頭を振ってその考えを追い出す。

 そして私はお父様の方へ視線を向ける。
 相変わらずお父様は、不機嫌そう眉根を顰めている。

「お父様、このたびは大変ご迷惑をおかけしました。私のような者のために国境警備騎士団まで動員して頂いて……」
 私は頭を下げながら謝罪の意を示す。

「それでは、私はこれにて貴族学院に戻ります」
 私は頭を下げながらお父様に伝える。
 学園長に今回の事件の口裏合わせと今後の打ち合わせをしないといけない。
 私が今後の事を考えていると、お父様は――。

「ティア、国王陛下とクラウス殿下が王城内で待っているから、着いて来なさい」
 ――と。告げてきた。
 私は、思案しつつ。 

「はい」
 短く上品にお父様の意見に従う言葉を紡ぐ。
 お父様は私の手を取るとお母様に目配せをした後、お互いに頷きあうと歩き出した。
 私は首を傾げ、お父様に手を引かれながらついていく。

 そして国王陛下がいらっしゃる部屋。以前も来た事がある執務室の前に到着する。
 お父様が何度か扉をノックした後、扉を開けるとそこには、クラウス様に国王陛下そしてウラヌス卿とハデス卿に……そして、ケットシ―が居た。

 私は無意識のうちに体を強張らせるけど、お父様が部屋に入ったことで、手を引かれしまい体は勝手に動いてしまう。
 そして私は執務室に脚を踏み入れた。

 部屋の空気がとても重い。
 それと同時に嫌な予感がする。

「それではまずは、報告から致しましょう」 
 ハデス卿が、私を一瞥し話し始める。

「今回、アルドーラ公国と内通していたのはメイヤー家となります。メイヤー家は、海洋国家ルグニカの迷宮から産出される低品質の魔石を、ウラヌス卿が管理する商会に下ろす形になっています」
 国王陛下は、ハデス卿が渡した資料を見ながら頷いている。

「今回、誘拐を企てたのは報告によりますとアルドーラ公国第二王子スペンサーと判明しています。スペンサー側は去る間際に後日に謝罪をするとの事でしたが、その辺はリースノット王国として開戦もやむをえなしと考えて対応した方がよろしいかと思われます」
 私は、そこでふらつく。
 この国に、戦争でアルドーラと戦うほどの戦力はない。
 私が、ウラヌス卿と行ってきた改革は、食料自給率と引き上げと国内の魔道具の生産と開発だけ。

 軍事に手は回ってはいない。
 だから、開戦なんてそんなのは……。

「現在、リースノット王国の騎士団は全員が中級魔法師と同程度の魔力量を有しているため、アルドーラ公国と戦争をした場合に1カ月ほどでアルドーラ公国を降伏させる事は出来るでしょう。おそらく、こちらの戦力が整う前に、ユウティーシア嬢を拉致し我が国と同じように白色魔宝石により戦力の増強をと考えた可能性があります」
 え?今……なんて……言ったの?
 白色魔宝石を、軍事に転用したの?
 私はそんな事の為に、白色魔宝石を作って渡していた理由じゃないのに。
 生活を豊かにするための物を軍事に応用して……。

「ハデス卿、私はそんな事のために……「ティア。静かになさい」……ですが、お父様!」
 私はつい声を荒げてしまう。
 信じたくない。
 でも、その一方で人間なんて、そんなものだというのを経験則から理解してしまう。
 だから……。

「申し訳ありません。取り乱してしまえいました」
 私はそう言いながらも唇を強く噛みしめる。
 馬鹿だ、私は……。
 人間がそういう生き物だと言う事を。何億年も見てきて知っていたではないか。
 どうして、この世界の人間がそこに辿り着かないと思っていた。
 違う、思いたかった。

 だってこの世界は……。 

 そこまで考えたところで、何か鍵が開いた音がした。

 私は、急速に迫ってくる記憶の奔流に呑み込まれるようにして、カーペットの上に膝をつくとそのまま意識を失った。

 そして最後に聞こえたのは……。



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