公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

ここは私の居場所ではないんですよ……。

 スペンサーの裏切りにより敵地に置いて行かれた私。ユウティーシア・フォン・シュトロハイムは、リースノット王国の国境警備騎士団に、王城まで連行されていた。

 規則的正しく移動する馬車の音を聞きながら、私は現状を打破するためにどうしたらいいか考える。
 そして結論。
 現状では、どうにもならない。
 私は、心の内で溜息を吐きながら目を閉じた。
 そして、かなり疲れていたのかすぐに寝てしまった。

「ユウティーシア様。そろそろ王城です」
 私は、同席している騎士の方に声を掛けられた事で目を覚ました。
 馬車の窓から外を見るとたしかに王都の街並みが見える。
 そして私が乗る馬車の行き先にはリースノット王国の王城がそびえ立っていた。

 ほどなく馬車は、リースノット王国王城の門をくぐりぬける。
 そして5歳の時に、一度だけ来た王城入り口前に馬車は停車した。

 それから馬車のドアが外から開けられ、左に座っていた騎士が下りたあとに、私も馬車を降りる。

 すると……目の前には、お父様とお母様が立っていた。
 お父様は気難しい顔をして。
 お母様は何か言いたげな表情で私を見てきている。
 私は心の中で話す内容を取捨選択していく。

「お父様、お母様。この度は、大変ご迷惑をお掛け致しました」
 私は、少しだけ頭を下げながら謝罪の意を示す。
 きっと呆れられているとおもう。

「ティア! これからは、お前に護衛をつける事にする」
 お父様の声には、若干の怒りが含まれている。
 そう私は感じた。
 たしかに、リースノット王国の第一王位継承権クラウス様の婚約者である私が連れ去られたりでもしたら大問題でしょう。
 でも、妹もいることですし、変な人間に嫁ぐよりかは、私がいなくなった後釜に妹が王妃として、嫁いだほうが幸せになれると思うんですよね。
 それに私には、そういうのは向いていませんから。
 ほら、私とか現実主義であると同時に男性と結婚とかそういうのは考えられませんから。

「わかりました」
 私は素直にお父様のお言葉に頷く。
 今は、まだ私の真意を測られるのはまずい。
 それに、このくらいの問答という事そして何より国境警備騎士団の方々が、アルドーラ公国の関与を知らなかった事を考えると、学園長からの密告という事では無さそう。

 そうすると、ここはいったん、アルドーラ公国の連中に全ての罪を着せて、学園長さんを利用する事にしましょう。

「ティア心配したのよ?」
 気がつけば、お母様が私を抱きしめていた。
 強すぎず、弱すぎず、それでいて包み込むように……。
 何故か分からないけど、私にはその感覚は危険だと思わせた。
 だから……私は、とっさにお母様から離れた。

 これはいけない。

 情にほだされるなんて、そんなのは達だけで十分。
 私には、そんなのは必要ないしあったらいけない。

 私が離れた事でお母様はショックを受けたのか赤い瞳に涙を湛えていた。
 胸が何故か、締め付けられるように痛い。
 こんな感覚を感じたのは初めて……。
 私は、頭をふる。

 私は、この世界の人間ではないのだから……ここは私の居場所ではない。
 そしてそんな事を考えてしまう私は……。
 そんな風に思ってしまう私は異質の存在。

 妹も生まれ、お父様とお母様の間には、まだ会った事はないけどお兄様がいるらしい。

 だから、前世の記憶を持つ私が、彼らに関与するのは良くない。

 だから、私のような混ざり者が、彼らの家族関係に割って入ってはいけない。

 だから私は……。

「お母様、私の事を心配下さったことは大変うれしく存じます。これからはこのような事がないように気をつけます」
 私には、それだけしか言えない。
 何故なら、いつか出ていく私の居場所は、ここにはないのだから。




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