公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

理想と現実の果て

 リースノット王国は、中心に王城がありそこを取り囲むように貴族屋敷エリアが存在している。
 そしてその外側に、市民が暮らしている。
 私は、シュトロハイム公爵邸を出た後、貴族エリアの赤煉瓦が敷き詰められている通りを歩く。
 今回、門を通らず壁を飛び越え外に出ようと考えながら歩いていると、目の前に白い猫の妖精であるケットシ―が道端に座っているのが見えた。
 そして私を見る――。

「やっぱり。あんさんは、わての思った通りの事をするんやな」
 ――と、話しかけてきた。
 私は、目の前にいるケットシ―をじっと見た。

「どうして、アナタは私の行動が……」
 私の言葉にケットシ―が目を細める。

「そんなの……「決まっているだろう?」……」
 ケットシ―の言葉の後に続いた言葉は、私のよく知っている人物の声であった。

 どうして……どうして……。

「どうして、ここにウラヌス卿がいらっしゃるのですか?」
 私の言葉に――。

「ユウティーシア嬢ならここを通ると分かっていた。そのためにそれを派遣していたのだから」
 ウラヌス卿は、ケットシ―を指さす。 
 つまり……このケットシ―は……。

「そう、ユウティーシア嬢を監視するために派遣していた」
 私を監視するために……?
 どうして……。

「どうして……そんな事を……?」
 私は頭の中が真っ白になる。
 ウラヌス卿は、私の協力者だったのでは……?

「どうして、そんなことをか? そんなのは決まっている。
君が、この国とって最も危険な人物だからだよ。
気がついてないとは言わせない。
わずか5歳で私に取引を迫ってくる子供などいる訳がない。
それに君の知識は先鋭的すぎた。
思いつきで言っていると最初は思っていた。
……だが違う。君の知識には私達が知りえない年月を積み重ねてきた重みがある。
説得力がある。
そして、それだけの知識を持ちながら君は慢心していない。
たかが10歳にも満たない子供が出来るモノではない」
 彼の言葉に私は黙ってしまう。
 それでも彼の話は続く。

「白色魔宝石? 誰もがそこに興味を引かれるだろう。だが君の本当の価値はそこじゃない。私達が知り得ない知識にこそある。
君が持っている知識の価値から見たら白色魔宝石なんて、ただの付属品に過ぎない。
君は、自分がこの国から出れば、全ては丸く収まると思っていたのだろう?

それは違う。もうその段階は5年前に過ぎ去っている。

君が私に提供した知識は、この国をこの世界を根底から覆すほどの物だ。
私は、君から教えられた知識の1割しか、リースノット王国では使っていない。

1割だ。たった1割の知識をリースノット王国は施政に取り入れただけで、北の大国であるアルドーラ公国の国力をわずか4年で覆すほどの力を……リースノット王国は手に入れたのだよ?

10倍以上の国力と軍事力を持っていたアルドーラ公国を超える力を、たった4年でだよ?
……たしかに白色魔宝石を軍事転用したのは大きい。
だが、それ以上に食料自給率を上げたのは大きかった。
知っているかね?
この国の経済力を、軍事力をどのくらいまで伸びているかを。
世界3大軍事国家の一つである軍事国家ヴァルキリアス。
そして北の大国アルドーラ公国を、同時に相手どって戦える。
それほどの力をわずか5年で、リースノット王国は手にする事が出来たんだ」
 そこでウラヌス卿は一度、口を閉じてから私を見てから、手を上げてきた。
 それと同時に、近くの建物から数百もの魔法師が姿を現した。
 そしてウラヌス卿は、私に語りかけてくる。

「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム。君が、このまま国から出ていくなら国家反逆罪として君を拘束させてもらおう。
 悪いが、ユウティーシア嬢。君に叛意があろうとなかろうと、これは国王陛下から勅命だ」
 ウラヌス卿はそれだけ言うと、口を閉じた。

「それなら……」
 私は喉を鳴らしながら、半身に構える。

「言い忘れていたが、君が逆らった場合は、いくらシュトロハイム公爵家が3大公爵家であっても国家反逆罪に処せられる。つまり言いたいことは分かるね?」
 私は、震える体を手で押さえる。
 つまり、リースノット王国は自国の安全保障のために、私の家族を人質に取った。

  

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