公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

堕天ユウティーシア

「あれ? ここはどこ?」

 私は、自分がどこにいるのか分からなかった。
 部屋の中を見渡すけど、どの調度品もすごくお金がかかっているのが分かる。
 どれか1個でも、一般市民の家族が1カ月は優に暮らせるくらいの価値があると一目で分かってしまうくらいすごい調度品。

 私は眠っていたベッドから立ち上がると、首を傾げる。
 服装は貴族学院に向かう際に着ていたドレスじゃなくて、下着姿だった。
 その下着も細かい刺繍が施されていて下着だけでもとても高価だと思わせる。
 部屋の中を見渡していた私は、部屋の中で唯一存在する扉の前に向かい扉の前に立つとドアノブを開けようとするけど、扉が開く様子がない。
 どうやら鍵が掛っているよう。
 ここがどこか分からない以上、無闇に何かを壊して出ていくのはどうかと思いながら部屋の中を物色していくけど、タンスの中にもクローゼットの中にも洋服らしき物は何も入っていない。
 一通り部屋の中を探したけど収穫は何もなかった。
 私は仕方無く、ベッドの上に腰を下ろすと、ちょうど扉がノックされた。

「失礼します」

 女性の声が扉越しに聞こえると同時に外から扉の鍵が開けられる音が聞こえてくる。
 そして扉が開くと3人のメイド服を着た使用人が部屋に入ってくる。

「ユウティーシア様、旦那様が御待ちです」

 使用人が私に語りかけてくる。
 私が首を傾げていると女性は私の手を取り立ちあがらせると姿見の前に座らせた。

「旦那様に会う前に今の姿ですと好ましくはありませんから」

 私は、使用人3人に淡いピンク色のドレスを着せられてから、髪を結えさせられ耳にピアスと高そうな宝石で彩られたネックレスを着けさせられた。
 そして成すがまま化粧を施されると、自分で言うのはなんだけどとても綺麗な女性が映っていた。

「とても綺麗ですわ!」

 使用人の人が御世辞を言ってきてくれるけど私としては今一、実感が沸かない。
 それよりも――。

「あの、ここはどこの御屋敷で……「ユウティーシア様は、そんな事を気にしなくていいのですよ?」……ハイ」

 私は、さっきまで自分が何でここに居たのかを気にしていたけど、使用人の話を聞いてどうしてそんなどうでもいい事を気にしていたんだろうと自分を恥じた。

「そうですよね。それで旦那様というのは?」
「いやですわ。エイル様に決まっています」

 エイル様……。
 誰だっけ?
 思い出せない……。
 私が必死に思い出そうとしていると使用人の人は眉元を顰めると。

「ユウティーシア様の夫のエイル様ですよ?」
「私の夫……あ――そうでした。エイル様……エイル様に会わないと」

 どうして私は、大事な事を忘れていたんでしょうか?
 そうです。
 私は、エイル様と婚約していて一週間後には挙式を上げる予定になっていました。

「それでは、ユウティーシア様。こちらへ――」
「はい」

 私は、シュトロハイム家という籠の中に囚われていた鳥でした。
 そして、そこから救い出してくれたエイル様と婚姻を結んだのです。
 使用人に連れられて執務室と思われる部屋の前に立つと、使用人が何度か扉をノックすると声が執務室の中から聞こえてくる。
 私は高鳴る感情を抑えきれず使用人が開けた扉から執務室の中へ足を踏み入れると、そこには見た事が無い黒いローブを着た女性と、愛しの男性であるエイル様が歓談していた。

「え、エイル様。そちらの方は……?」

 私のエイル様に、慣れ慣れしく話をしている女性が気にいらない。
 それにエイル様も、女性に対して気安そうに語らっているのが嫌!
 そんな私の様子を二人ともジッと見てくるのがまた苛立つ。

「ずいぶんと上手く手懐けたモノね。これならいつでも――」
「ああ、ユウティーシア。こいつを殺せ!」

 殺せ? 目の前にいる女を? 人を殺すのは良くないこと……でも……。

「何を言っているの? エイル王子! 約束を違えるつもあああああああああ」
「うるさい」

 私は、目の前の女を遠慮なしの魔法で焼きつくす。
 エイル様の命令は絶対。
 エイル様の命令は神の言葉。
 それに私の旦那様と話すなんて極刑もいい所。

「よくやった。ユウティーシア」

 エイル様は椅子から立ち上がると私を抱きしめてきてくれた。
 額から流れ込んでくるエイル様の魔法が心地いい。

「はい。でも……私以外の女性とあまり話してほしくないです」

 私はエイル様からのキスを受け入れながら甘える。
 頭を撫でてくれるエイル様の手が心地いい。
 そこでふとローブを着ていた女の顔が露わになった。
 見た事がない顔。
 でも、突然その姿が変化する。
 私は首を傾げる。

「ほう――変化の魔法を使っていたのか。それにしても驚いたな……」
「……?」 

 どこかで見たことがある。
 この少女はどこかで……。

「まさかお前の妹のアリシアがスピカだったとはな……」

 私は、エイル様の言葉に首を傾げながら妹という言葉に意味を見いだせなかった。
 でも、それよりも――。

「ふむ……理解が出来ないか。自分の妹を、その手にかけてもまったく動じないとはな……素晴らしいものだな。精神魔法というのは! ハハハハハ」

 エイル様が、私の仕草を見て喜んでいてくれている事に私は微笑みを返した。
 でも、瞳から涙が止まらない。
 一体、私はどうしたんだろう? 

「ふむ、精神によけいな負荷がかかってしまっているな。ユウティーシア、お前は何も心配しなくてもいい。何も考えなくてもいい。もう考えるのは苦しいだろう? 悲しいだろう? 私だけを見ていればいい。私の命令だけを聞いていればいい」

 エイル様は、やさしい言葉で私をあやしてくれる。

「ハイ、ワカリマシタ。エイル様」

 そう、何も考えなくてもいい。
 だって、私は今はこんなに幸せなんだもの。
 エイル様の期待に答える事こそが私の幸せなのだから……。

「ちっ……ゴーレムか、しかしこれで分かったな。スピカの正体はアリシアか……ユウティーシア!」
「はい、なんでしょうか?」

 私はエイル様のお顔を見上げながら答える。
 一体、どうしてこんなにエイル様は怒っていらっしゃるのか……。

「私とユウティーシアの仲を裂こうとする者がいるようだ」

 私とエイル様の仲を裂こうとする人間がいる?
 だれなの? 許せない! 今までに感じた事がない怒りを覚えてしまう。

「シュトロハイム公爵家の人間だ、何をすれば分かるな?」

 私はエイル様の言葉に頷く。
 たしか私を良いように利用していた私の元家族だった人間達がいる場所。
 そんな人間が私とエイル様の仲を裂こうなんて許せない。

「エイル様、大丈夫です。エイル様のためにきちんと全員殺してきますわ」
「ふむ、よく言ってくれたな。私も心苦しいのだが、公爵家であっても罪人は罪人だからな。きちんと処刑しないとまずいだろう?」

 私はエイル様の言葉に頷く。
 本当、エイル様に助けられなけば私は一生家畜のままだった。
 私はエイル様のために邪魔な人間を処理しないといけない。
 それが恩に報いる事だから。
 私は、エイル様にキスをしてもらった後に部屋から出る。
 はやくシュトロハイム公爵家を皆殺さないと……私とエイル様の挙式が近づいているのだから。
 そうすれば、もっとご褒美が貰える。
 もっともっとご褒美がほしい。
 はやくエイル様と……。
 少しだけ私は妄想に浸った後、使用人に命じて黒いドレスに着替えるとすぐに馬車の手配を使用人に伝えた。



 その頃、ユウティーシアが出ていった部屋でエイルは一人高笑いをしていた。

「まさか……まさかここまで上手くいくとはな! こんな木偶人形をユウティーシアの妹と見せかけるだけでこんなに簡単に事が運ぶとは……笑いが止まらない! ユウティーシアの精神魔法を解けるのは上級魔法師以上の力を持つ者だけ……ユウティーシアがアリシアとクラウスを殺せば、この国で私に手を出せる者はいなくなる! せいぜい踊ってくれよ? 私の可愛いかわいいユウティーシア」





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