公爵令嬢は結婚したくない!
お家騒動(7)
「そうですか。よろしくお願いしますね」
「畏まりました」
グラスさんに案内される。
階段を上がり長く続く廊下を歩き用意された一室に通された。
部屋に入り、まず感じたのは甘い匂い。
たぶん御香を焚かれていたのだろうと推察できる。
室内の調度品は、どれも高そうな物ばかり。
細かな所まで細工が施されている。
「こちらが、ユウティーシア様のお部屋となります。何か、ありましたら仰せ付けてください」
「いえ、大丈夫です」
エリンさんと連れてグラスさんは部屋の外へと出ていく。
扉が閉まったところで、私は部屋の中を散策する。
いくつか扉はあるのだけれど、お風呂が隣室に用意されているのは驚いた。
中世よりも前の文明なのに2階に浴室があるとは、思っても見なかったから。
「あとは……」
他の部屋は、衣類が置かれているクローゼット――、衣裳部屋と言った部屋。
あとは寝室くらい。
寝室には大きなベッドが置かれており、それを見た瞬間――、眠気が襲ってくる。
白亜邸から、ずっと長旅でやはり疲れが溜っていたのか……。
「馬車の中で寝ていたけど疲れは取れていないのね」
思わず独り言が口から出てしまう。
「……とりあえずお風呂に入りましょう」
丁度、浴室が用意されていることだし。
基本的に、アガルタの世界の貴族――、とくに伯爵家から上の貴族令嬢は湯浴みをする際には御付きの人が体を洗ってくれたりと、至れり尽くせりをしてくれる。
だけど、私の場合は一人で入る方が気が楽なので……。
――そこまで考えたところで。
「あれ?」
私は思わず首を傾げてしまう。
どうして、私は一人で入る方が楽だと思ったのか、その理由が分からなかったから。
何か同姓の女性と一緒に湯浴みをするのが苦手だった理由があるはずなのに……、その理由が思い出せない。
すごく大切な事だったことなのに……。
「うーん……」
しばらく考えても答えは出ない。
やはり気のせいなのかな? と思いつつも睡魔は襲ってくるわけで……。
「とりあえず、湯浴みをしてから考えましょう」
寝室から最初に通された部屋へと戻ると、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「はい」
いつもの通り言葉を返すと「エリンです」と、言う声が聞こえてくる。
「いいわよ、入って――」
「失礼します」
エリンさんが部屋に入ってくる。
「グラスさんと何かあったの?」
「執事のインク・グラスは、白亜邸で従事している者も統括していますので、これからの事を含めて指示を受けておりました」
「そうなのね」
「はい。今日は、どうなさいますか?」
「そうね。湯浴みをしてから、少し休みたいわ」
「畏まりました」
私は、エリンさんを部屋において浴室へと入り脱衣所らしき場所でドレスを脱ぐ。
彼女は、私が一人で湯浴みをすることを好んでいるのを知っているので、余計な事はしない。
体と髪を洗ったあと、浴槽――、浴槽と言っても10畳くらいはあるけど――、そんなお風呂に体を浸ける。
「ふぁああ……」
やっぱりお風呂最高……。
お風呂から出たあとは、エリンさんに髪を梳いてもらい就寝の準備を終えたあと、寝室へと入る。
「それではグラスの方には、私の方から伝えておきます」
「ええ、よろしくね」
就寝することを、エリンさん経由でグラスさんに伝えてもらう事にしたあと、私は寝室のベッドで横になる。
途端に、意識が薄れていき私は意識を手放した。
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