ヘタレ魔法学生の俺に、四人も美少女が寄ってくるなんてあり得ない!

神楽旭

汗と涙の体育祭 一日目・第一種目

六月十八日。東京ドーム。
年に一度の巨大な体育祭『魔導大祭』の開会式第一会場に俺はいた。
『魔導大祭』は三日間の日程で行われ、最終日までの競技結果の点数が一番高かった学校が優勝だ。
「(会場二つに分けないと入らないんだよな)」
開会式第一会場であるここ東京ドームは、北海道から関東までの魔導学生が集められる。
学生は学校ごとに色違いの腕章を使って識別される。北海道が白、東北が緑、関東が青、関西が黒、九州が黄色と言った具合だ。
衛星中継を使って世界中に中継されるので、『魔導大祭』を見た海外の学生が短期留学に来ることも少なくない。


『魔導大祭』一日目の第一種目は徒競走。
もちろん魔法使用は許可されている。この間習った爆破魔法でも使ってみるか。
「(いや、爆破魔法は教師のノリでやらされたな)」
相手は東北高校。本州最北端の猛者が集まる学校だ。ナメてかかると陸奥みちのく魂で返り討ちをくらう可能性がある。

徒競走の会場はところ変わって駒沢オリンピック公園陸上競技場。
魔導大祭実行委員の生徒が一枚の紙を俺に手渡した。競技の説明用紙らしい。
「……第一種目『徒競走』は、魔法の使用は基本無制限。学生に重大な傷害の及ばない場合に限り、打撃等による妨害行為も許可……」
マズイ。さっそく乱闘臭が漂い始めたぞ。
俺は一抹の不安を抱きながらも、スタートラインに立つ。
「雨宮暁!僕は必ずこの戦いに勝って、君からあの三人を奪ってみせるからな!」
なんと隣のレーンは(自称)俺のライバル、神崎川君じゃありませんか。
「あ、神崎川じゃんか。まあ、お手柔らかに頼むよ」
俺は苦笑しつつ返す。多分神崎川の家族もいるだろうし、手荒な真似は出来ないだろう。
しかし、
「ふん。ライバル相手に手加減なんてしないよ。むしろ僕は君に勝つつもりでいるんだ」
前言撤回。やっぱり平常運転だわコイツ。
「そうか。んじゃ、俺も本気ガチでいくから」
神崎川の嫌味を聞きながらクラウチングスタートの体勢をとる。
ピストルの乾いた破裂音と共に、俺の視界を粉塵が遮った。
「(ちくしょうッ!爆破魔法か!)」
即座に俺も爆破魔法を詠唱する。
「我に爆裂の力を!『炸裂する紅蓮』クリムゾン・バースト!」
この魔法は杖無しでも発動できる。杖無しの場合、作用させる体の部位を意識しながら詠唱する。
直後、俺の体は宙を舞った。
「神崎川ぁ!ちょっとそこどけえええええええええええええええッ!!!」
「う、うわああああああああっ!?」
間抜けな叫びをあげる神崎川を横目に俺はゴールを目指す。
「不埒者に呪われし血を。『血染めの麗海』ブラッディー・マリン!」
俺の背後から大量の血が迫ってきた。まさか後ろのやつが唱えたのか!?
血の海が足下に達し、滑って派手にコケた。
滑った俺を蔑むような目で見ながら『血染めの麗海』ブラッディー・マリンを唱えた女子生徒がゴールへと近づこうとするが、
「あ、悪しき者に裁きの激流を…『裁きの聖水』ホーリー・アクア
ちょっとした川クラスの激流が女子生徒を直撃する。
足をとられた女子生徒は強引に走り出すも、
「待てよ…。あそこゴールに行くのは俺が最初だ…ッ!」
血まみれの手で女子生徒の足を掴む。
「ッ!…あなた、離しなさい!」
「やだね。俺がアンタより先になるまでまとわりついてやるよ」
女子に言うと引かれること請け合いなこの一言。
「…邪魔。今すぐ離れて」
「やだっつってんじゃん。何ならこの足舐めてやろグフッ!?」
俺の鼻っ柱に踵で蹴りが入れられた。全身血まみれなのに鼻血まで出てきた…。
今度こそ女子生徒は、ゴールテープを切った。 

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