BLOOD HERO'S

ノベルバユーザー177222

episode5 #51「帰還」

 ---「すいません。わざわざ見送りまで」

 あまり活気のない駅の改札口で炎美と柑菜、そして神楽の3人が話しをしていた。

 「いいんですよ。どうせ暇ですし」

 神楽は笑いながら冗談っぽく言うがホテルには今宿泊している者も予定客もいない。本当に時間を持て余しているのだ。

 それに炎美もホテルには一泊しかしていない。残りの日にちは全て病院での療養生活だったからだ。

 「はい。これよかったら電車で食べてください」

 神楽はスッと炎美に風呂敷を差し出してきた。風呂敷を手に取ってみると思いの外重く感じた。

 「ごめんなさいね。あんまり時間なくて大したもの作れなかったんだけど」

 「いえいえ、ありがとうございます」

 神楽は申し訳なさそうな顔をしているが炎美にはここまでして貰った神楽に感謝しかなかった。

 「とりあえず玉子焼きとかハンバーグとかピーマンの肉詰めとかあと酢の物とかポテトサラダとかあとおにぎりだと塩とか味噌とか10種類ぐらいしか作れなかったのよねー」

 「………」「………」

 (この人、一体この弁当作んのに何時間かけたんだ?)

 炎美と柑菜はただただ唖然とした。炎美はふと風呂敷をよく触ってみると重箱が5段ぐらい重なっている事に気がついた。最早この量は2人で食いきれるものではないと感じていた。

 「やっぱり若い子はこのくらいの量じゃ足りないかしら?」

 「い、いえ。大丈夫です!ちょうどいいぐらいです!」

 「美味しくいただきますね!」

 沈黙していたせいで神楽が心配そうに2人を見る。思わず慌てて炎美と柑菜は神楽を説得した。そんな2人の背中は冷や汗をかいていた。

 「あっ、そろそろ電車来る頃ね。早く行かなきゃ!」

 「そ、そうだな」

 このままでは神楽が売店で食料を調達してきそうだと思い柑菜は話しを逸らした。ちょうど電車も到着した所だった。それに乗じてホームに向かおうとする炎美と柑菜。

 「ふふ、またいらしてください。お二人でいらしてくれれば特別なお部屋ご用意しますよ」

 「ち、違いますよ!そういうのじゃないですから!!」

 「??」

 ホームに向かおうとする2人に声をかける神楽。冗談混じりの発言を柑菜は間に受け顔を赤くしながら誤解を解こうとするが炎美には何の話しているのか分からなかった。

 ---「ハア…」

 「?柑菜、どうかしたのか?」

 「な、何でもないわよ!」

 柑菜は車内で小さくため息をついた。電車に乗っても柑菜の顔は赤くなっておりむしろ炎美と隣に座っているせいで余計赤くなっている。しかし炎美は一向に気づかなかった。

 「それにしてもようやく終わったな」

 「後仕事は全部、私に回ってきたけどね!」

 電車はまだ発車しない中、炎美から話を持ちかけてきた。しかし炎美の発言に皮肉混じりに返す柑菜。

 ---電車のドアが閉まるとゆっくりと動き始めた。炎美はふとホームの方に目を移した。

 「………」

 その時、1人の男がこちらを見ているような気がした。電車に乗っているから視線を集める事はあるだろうが男は明らかに炎美を見ていた。

 気になった炎美はその男に目がいった。そして2人の視線が合った。

 その瞬間、時が止まったかのように電車が止まった。いや、電車だけではない。そばにいる柑菜も他の乗客も何もかもが止まっていた。

 止まった時間の中で見つめ合う2人。まるで好きだった女の子を久しぶりに見たような。いや、親しい友人と別れるような。どれも今の炎美の心境には当てはまらなかった。

 真っ白な髪、そして死んだ魚のような目をしているのが特徴的だった。それ以外はごく普通中肉中背の一般男性であった。

 一体誰なのか?炎美は振り絞るように思い返してみた。

 「-んみ、炎美?」

 「ッ!?」

 その時柑菜から声をかけられふと我に帰った。その瞬間、周りの時間が動き出した。電車も動きだし駅はあっという間に見えなくなった。

 「どうしたのよ?ボケ~っとして?」

 「…なんでもない…」

 我に帰ると爆睡していたかのように意識がぼんやりとしていた。ぼんやりとしながらも柑菜の呼びかけに空返事で返す炎美。

 ---そんな炎美を余所目に電車は六英へと向かって行くのだった。

 ---「…アイツが黒崎炎美か」

 駅のホームで突っ立つ白凪。電車が動いた時、炎美と視線が合った。その時初めて黒崎炎美という男を認識した。多原から話は聞いていたもののどういう姿かは教えられていなかったからだ。

 「多原さんの話では俺と対峙するかも知れんと言われたが果たして俺と対等に渡り合える相手だろうか?」

 駅のホームで独り言を呟く白凪。白凪は対峙するかも知れない炎美をこの目で見たくなりここに来ていた。しかし電車が見えなくなった後もしばらくはそこから動くことはなかった。

 ---「…さて、行くか」

 そしてしばらく立ち尽くしていた白凪は捨て台詞のような発言を残し駅を後ろを振り返り立ち去って行くのだった。

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