BLOOD HERO'S

ノベルバユーザー177222

episode6 #3「西城城制圧戦・後編」

 「ん?」

 3階を巡回している警備員の男が妙な音に気がついた。後ろを振り向くと100メートルはある長い渡り廊下の先にガラスの破片のようなものが落ちていた。

 「?何だ?」

 警備員の男は手に持っていた懐中電灯を照らして確認してみる。城内の灯りは全て消え月の明かりが微かに入ってくるがそれだけでは薄暗くてよく見えない。

 「鳥でもぶつかってきたか?」

 警備員の男は恐る恐る近づきながら割れた窓ガラスの所まで辿り着いた。辿り着くとしゃがみ込んでガラスの破片を1つ取り窓ガラスの方に視線を向けた。

 ガラスの破片は間違いなく窓ガラスのガラスだった。しかし辺りには鳥の死体などは見当たらない。

 「ん?」

 警備員の男が周りを見渡していると渡り廊下の先の階段がある曲がり角に何かが映った。目を凝らして見ると人の手のようなものが見えた。警備員の男は固唾を呑みゆっくりと近づいて行く。

 「………」

 警備員の男の顔には脂汗がいくつも浮かび上がってきた。多少の恐怖心はある。しかし仕事柄確認せずにはいられない。

 「zzz…」

 「…?」

 近づいて行ったその時、曲がり角の先から鼾をかくような声が聞こえた。警備員の男は突然の出来事で面食らってしまった。

 「…ハア。何だよビビらせやがって!」

 思わず脱力する声が漏れた。しかし先程までの緊張感が無くなりすぐに立ち上がり再び曲がり角の方に歩みを進める。

 この城の警備は中々に緩い。基本的に夜は城主の西城は部屋からは出てこないのでそれを良しとしてか居眠りをする警備員もいれば談話する警備員もいる。

 気が緩むのもそのはず。ここ10年以上侵入して来る者は居なかった。

 「オイアンタ、こんなとこで寝てたら風邪引く…」

 警備員の男は気を遣ってか曲がり角にいる人に声をかけたその時だった。

 「ッ!?」

 警備員の男が曲がり角の先に差し掛かろうとした矢先、剣を持った何者かが突き出そうとしてきた。ギリギリまで死角になっていた為、気づくのに少し時間がかかり後ずさるのが遅れてしまった。

 「!?がっ…あっ…」

 突き出された剣は警備員の男の身体を串刺しにした。あまりのスムーズさに声をあげる暇さえ与えなかった。刺された胸部から真っ赤な血が滴り落ちてきた。その血は刺さったままの剣にも伝ってきていた。

 警備員の男の身体は暫く痙攣を起こしやがて動かなくなった。それを確認すると剣は引っこ抜かれ警備員の男の身体は膝から崩れ落ちていった。

 「やったか?」

 「ああ」

 曲がり角の先に隠れていた重堂が覗くように死体を確認した。どうやら重堂が鼾をかいて寝たふりをしていたようだ。そしてその背後から白凪の剣で一刺し。即席の策にしてはすんなりと上手くいき重堂は胸を撫で下ろした。

 「ふう。なんかこういうの何度経験してもドキドキすんな?」

 「…そうだな」

 重堂の意見に対し剣に付着した血を拭いながら適当に返事を返す白凪。

 「渚、下の階はどうなってる?」

 「うん。ちょっと待ってて」

 そんな素っ気ない白凪は渚に状況を確認させる。渚は白凪の言われた通り集中して下の階の様子を確認する。

 「2階は3人居るね。こっちにはまだ気づいていないみたい」

 「そうか…」

 確認を取ると白凪は考え込み始めた。2階には3人。下りれる螺旋階段が両端に2箇所。位置は渚が把握しているがそれぞれバラバラの位置を巡回している。3人をまとめて始末するのはかなり難しい。

 「佐助」

 「ん?」

 しかし白凪は何か策を思いついたのか透斎に声をかけた。

 「おまえは向こうの階段に行ってくれ。合図を出したら僕とおまえで一気に下りて始末する。僕が2人殺るからおまえは1人頼む」

 「なるほど。承知した」

 白凪は作戦を提示すると懐からインカムを2つ取り出した。透斎はインカムを1つ受け取りすぐに反対側の階段へと向かって行った。

 「力也と渚はここで待機。渚はそのまま敵の位置を確認して僕に報告してくれ」

 「了解!」「おう!」

 重堂と渚にも指示を出すと白凪はインカムを装着した。それから作戦通り透斎が反対側の階段に着き白凪もギリギリ見えない位置にまで足を進めていた。

 「渚、間取りはどうなってる?」

 「えっと、廊下は外側に沿ってて内側に部屋が3つ。その間に廊下は無いね」

 渚の情報から白凪は2階のイメージ図を頭の中に作った。廊下は外側だけにあってそれに覆われるように部屋が3つ連なっている。

 「OK、じゃあ2人がこっち側の角に迫って来たら教えてくれ」

 「うん分かった」

 頭の中にイメージ図が出来上がると渚に細かい指示を出した。

 ---それから10分後

 「来た!」

 渚は小声で白凪に伝えると白凪はゆっくりと階段を下りていく。渚の情報では警備員の1人が階段近くの角の方で窓ガラスを開け一服しているようだ。そしてもう1人がその1人に近づいて来ようとしていた。

 「佐助、準備はいいか?」

 『うむ、問題ない』

 白凪はインカム越しに透斎に確認を取ると透斎は即答で答えた。

 「じゃあいくぞ!3…2…」

 確認が取れるとカウントダウンを取りながらゆっくりと階段を下りていく白凪。透斎も腰に差した刀の柄に手をかけながらゆっくりと階段を下りていた。

 「1…」

 そしてカウント1を数えたとほぼ同時に白凪は階段を飛び降りた。透斎もそれと同様に階段を駆け下りて行った。

 「ん?」

 先に気づいたのは透斎が降りた階段の近くにいた警備員の男だった。透斎は階段を降りながら横目ながら警備員の男と視線が合った。

 「…斬り捨て御免!」

 「えっ…?」

 僅か数秒にも満たない時間だった。透斎は手にかけていた刀の柄を引き抜いた。そして刀をそのまま横に振った…ように見えたが透斎の持っている柄の先は、何も無かった。

 本来なら柄の先には刀身がある筈だがそれが存在しない、イヤ、見えないのだ。

 警備員の男には何が起こったのか訳が分からなかった。だが気づいた時には腹部から強烈な痛みと凄まじい熱を感じていた。

 「がっ…!?」

 そう感じた瞬間、自分が斬られたという事にようやく気がつき意識が朦朧としていくのを感じた。

 「許せ、罪なき者よ。我等も目的があるがゆえにお主達を斬らなければならんのだ」

 透斎は柄を鞘に納めると謝罪の言葉を述べるが警備員の男にはその言葉は届いてはおらず虚空を見つめながら前方に倒れていった。

 「………」

 透斎はその様子を最後まで見届けていた。何を思って見ていたのかは分からない。ただ倒れた後も暫く見続けていた。

 「佐助、聞こえるか?」

 その最中、インカム越しに白凪の声が聞こえてきた。

 『ああ。こっちは済ませたぞ』

 透斎は我に返り視線を死体から外しすぐに返事を返した。

 「こっちも終わったところだ。今渚に下の階の状況を見てもらった。残りは全部で5人。その内2人は部屋の中だ。残りの2人はそれぞれ巡回、1人は部屋を見張っているようだ」

 白凪は透斎の返事を聞くと1階の状況を説明をし出した。1階は大広間と西城がいる自室だけ。そこに警備が3人。内1人が部屋の見張り番をしている。

 『して、これからどうする仙?』

 状況の確認を終えると透斎は白凪に指示を促した。

 「さっきと同じだ。タイミングを見計らって一気に殺る。巡回してる奴1人と見張りの1人は僕がやる。佐助は1人を頼む」

 『承知した』

 白凪が指示を出すと透斎は即答で返してきた。透斎はどんな指示であっても心構えは出来ていたようだ。

 ---そして巡回の警備員2人が階段の近くまで迫って来ると先程と同様に白凪の合図で一気に階段を駆け下りる2人。

 「ん?なん…」

 巡回の1人は異変に察知したが避ける事なく白凪の剣が腹部から背中にかけてを一瞬のうちに貫いた。

 「!?なっ、何事がっ…!?」

 その光景を目の当たりにしたもう1人の警備員が慌てふためくがそれを制止するかのように背後から透斎の一振りが入る。そして巡回していた2人はほぼ同時に床に倒れ辺りは2人の血が広がり始めた。

 「あと1人か」

 白凪はそう1人で呟くとすぐさま西城の居る部屋へと駆け出して行った。

 「むっ?」

 部屋の前には2メートル越えする巨漢の男が立ち尽くしていた。部屋の前からは大広間を一望できる為、既に白凪達が侵入者である事は理解出来た。

 「久しぶりの来客か。それならちょっともてなしてやるか?」

 しかし男は動揺するどころか余裕の笑みを見せていた。

 「はあああーーー!!」

 すると男は小さく静かではあるが力強く声をあげる。そして声をあげると共に全身の筋肉に力を込め始めた。

 「巨人装甲ジャイアント・アーマーーー!!」

 男が一言そう言うと身体から鉄鎧が浮かび上がってきた。

 (!?コイツ、能力者か?)

 その姿を見て白凪はすぐに彼が能力者である事を理解した。

 10センチ以上はある戦車並の分厚い装甲。2メートル以上あった背丈が更に肥大化し5メートル以上にもなっていた。

 「はっははははーー!!どうだこの能力。そんなチンケな剣では俺の鎧に傷1つけられんわー!」

 男は白凪達を嘲笑うように言い放つ。しかし彼の言うとおり白凪の剣はあまり頑強なものではない。鎧に攻撃しても傷1つどころか剣が折れてしまう。

 「はっはははは!ここで終わりだ盗賊供!」

 この城に10年以上侵入されなかった理由、それは彼にあった。彼のこの姿を見てビビって逃げて行くのだ。それからこの城に入って来ようとする賊はいなくなっていた。

 「くらえ!巨人のジャイアント・ナックル!!」

 そして男から繰り出される鎧を纏った拳が白凪に向かってくる。

 「………」

 だが白凪の足は止まる事は無く男の顔を見ながら迫って来ている。

 (ふん。僕が命乞いでもすると思ってんのか?んな事するわけねーだろ!)

 男は白凪の視線に気がついたが命乞いを求めていると思い込んでいる。

 「…超越複製オーバー・リプエーティング

 しかし白凪は呟くように何かを唱えた。男にはそれが聞こえていないようだ。

 「ッ!?」

 そして次の瞬間、男の動きが電池が切れたおもちゃのように途端に止まった。

 「がっ…ぁぁぁぁ…ぁ…」

 叫ぼうとしたのか男が声を上げようとするがその声は小さくなっていた。

 男の喉元に強烈な痛みを覚えていた。男は痛みに耐えながら恐る恐る下に視線を移す。視線に映ったのは白く光る華奢な剣。白凪が持っている剣と酷似している。しかし白凪の両手には剣を握っている。

 (何故だ!?奴の両手は塞がっている。投げるのは無理な筈だ!?)

 男は頭の中で整理を始めた。白凪の両手には剣を握っている。だが男の喉元に刺さっているのは確かに白凪の剣。

 しかし剣を投げる様子も投げた形跡も見受けられない。だが確実に白凪の剣は自分の喉元に刺さっている。

 「………」

 男は何か言おうとしているが喉をやられ言葉が発せられない。リコーダーの穴を吹いているような音が聞こえるだけだった。

 「終わるのはお前の方だな」

 白凪は男に向かってそう言うと男の顔めがけて跳んで来る。

 「………」

 (や、辞めろ!ヤメローー!!)

 男は必死に叫ぼうとするが声は出せなかった。ただ涙目になりながら心の中で叫ぶ事しか出来なかった。

 「フン!」

 しかし男の願いは叶わず白凪の一振りで彼の首を切断された。その首はクルクルと宙を舞いながら床に落ちていく。そして首の無い胴体は暫く痙攣しながら膝から崩れ落ちていった。

 「ふう」

 白凪は男の血飛沫を浴びながらも一息つく。

 「どうやら仙は恐れ知らずのようだな」

 白凪が一息ついていると後ろから透斎の声が聞こえてきた。後ろを振り向くと透斎はゆっくりと歩きながら白凪のところに向かって来ていた。

 「奴は恐るるには足りなかっただけさ。大した事は無い」

 透斎の一言に返事を返す白凪。そう言いながらまるでさっきの事が無かったかのように落ち着いた表情をしていた。

 「仙ー!」

 更に階段の方から聞こえてくる渚の声。渚は重堂と共に白凪の所に駆け寄って来ていた。エコー・ヴィジョンで敵がいなくなったのを確認していたようだ。

 「全員揃ったみたいだな」

 白凪は全員が揃うのを確認すると一言そう言って3人を率いて西城の居る部屋へと歩いて行った。

 ---「何だか騒がしいですね?」

 西城がベットで鼾をかきながら爆睡しているその横で椅子に座る専属の医師は扉の向こうから聞こえてくる騒音が気になり扉の方向をジッと見ていた。西城の鼾も中々にうるさかったがそれ以上にうるさく苛立ちを募らせていた。

 「ったく、警備の方は何してるんですか?」

 苛立ちが募りに募り椅子から立ち上がり扉の方に向かって行った。

 「ちょっと!何してるんですか!?あまり騒がれると西城さんが起き…えっ!?」

 ドアノブに手をかけながら見張りをしていた警備員の男に注意を促そうとした。そして扉を開けた瞬間、白く光る剣が自分の腹部に向かって飛び出してきた。

 その剣を避けれる訳もなく医師は腹部を突き刺された。何が起こったのか理解出来ず、ただ赤く染まっていく自分の腹部を見ていた。

 「…あっ、ああああああああああ!!」

 ようやく自分が刺されている事に気がついたのか医師は顔を真っ青にしながら怯えたような声をあげた。そしてショックと激痛で意識を失い背中から倒れていった。

 「これで邪魔者は全員消したな」

 白凪は刺した剣を引っこ抜き、辺りを確認する。もちろん残りは西城1人のみ。さっきの騒音を物ともせず鼾をかいて眠りこけていた。

 「よくこんな時にぐっすり寝てられんな!?」

 部屋の中に入って早々に重堂は呆れたような声をあげる。他の3人も同感はしていたが表情や声には一切出さなかった。

 「呆気ねー幕切れだな!?なんか興醒めだわー」

 「そう言うな力也。これもまた仕方のない事だ。彼も痛い思いをせず死ねるのならまだ報われている方だろう」

 更に悪態をつく重堂に対しフォローを入れる透斎。しかし2人の言葉など西城に聞こえる訳も無かった。

 「まあいい。透斎の言うとおり、安らかに眠らしてやろう」

 白凪はそう言いながら西城の腹部めがけ剣を突き刺した。

 ---呆気ない幕切れとなった西城城の制圧。その事が志村の耳に入ったのはそれから1ヶ月後の事だった。

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