俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

実感

「あー...楽しかったな」

間も無く夏の季節だ。晴れ渡る空に浮かぶ雲の隙間から差し込む陽光が街を照らす。俺は今半袖のシャツを着ているがこうして外を歩いていると少し汗ばんでしまうほどである。夏休みに入ったらみんなと海やプールにも行きたいものだ。可愛い女の子達の水着姿が待ち遠しくてたまらん。

ののちゃん家でしばしの食事を楽しんだ俺は、今1人で家に帰っている所である。四半刻程で着く予定だ。
帰ったら家族とこれからの事を相談しなければいけないだろう。前世では自分が有名人になる妄想などをしていた時期もあったが、いざそれが叶ってしまうとこれが中々心労が伴ってきそうで複雑な気持ちだ。いや、まあ可愛い女の子達にキャーキャー言われるっていうなら?それも吝かではないんだけど?やっぱり男なら一度は憧れるよね。うん。


そんな下劣な考えを展開している俺。しかし先程から1つ気になることがあるのだ。その原因は俺より後ろ10メートルほど。確信しているわけでもないし嫌悪感があるとかでもないのだが、恐らく2人程の女の子につけられている。
さっきから、駅からののちゃん家までの道程を記憶しておこうと周りの風景を見回しながら歩いていたのだが、チラチラと視界の端に他校の制服を着た女子高2人組が映るのだ。偶々道が同じという偶然で済ませられれば良いのだが、俺があの2人に視線を向けようとすると、その瞬間サッと道影に意図的に隠れているようなのだ。だから多分つけられている可能性が高いと思う。

うーん...困った。別につけられていること自体は問題ない。可愛い女の子に後をつけられて嫌な男っているの?いや、いない。(反語)
ここで問題になってくるのは、あの女の子達に害意があるかないかという事だ。ただの興味本位での突発的な行動ならば仕方ないと思う。しかし、もし俺を害する意思を持ち尚且つそれを実行しようとするならばそれ相応の対応をしなければいけないだろう。あ、勿論女の子に手荒な真似はしないよ?優しくお帰り頂くだけだ。

...まあ、可愛い女の子になら害されたとしてもそれはそれで....。
っていうのは嘘です。ごめんなさい。

「こほん」

咳払いを1つ。とりあえず自らの思考展開を仕切り直すことにする。まずは目下の悩みを解決だ。

さてさて、あの2人はどちらだろうか?持つのは善意か?悪意か?確かめなければいけないな。

そうと決まれば行動は迅速に、だ。

そう結論付けた俺は、帰り道とは違う曲がり角を曲がる。そしてサッと壁に背を貼り付け、角で女子高生2人組を待ち受けることにした。
俺は息を潜めそっと耳を澄ませる。

タッタッタッというアスファルトの道路を走る足音が2人分聞こえてくる。
...来るな。やはりつけられていたようだ。大方急に曲がった俺を見失うかもしれないと危惧して少し急いで走ってきているのだろう。

段々音が大きくなってきた。

....きた。

俺は壁から背を離し、少し狭い道の真ん中に立った。何故ならこの方が何となくカッコよさそうだからだ。

数瞬後、

「ここ曲がったよね!?」

「うん!間違いないよ!」

そんな会話と共に姿を現す2人の女子高生。少し癖のある黒髪ロングの子と茶髪ショートの子だ。2人ともやはりというべきか美形である。

「「あっ.....」」

2人は道の真ん中に仁王立つ俺を見て動きを止めた。
まあ当たり前だろう。尾行対象がこうして待ち構えているという事はそれはつまり尾行がバレていたことを意味する。こうなってしまっては人間っていうのは焦りに焦って脳が機能しなくなるからな。

「こんにちは」

笑顔でそう挨拶する。余裕の態度を見せることによりこの状況の主導権は俺にあるのだと知ってもらう必要があるからな。先手必勝というやつだ。

「「こ、こんにちは...」」

俺の顔を見て顔を赤らめながら引きつった表情で挨拶を返す2人。何とも複雑な心情であることは察するに余りある。少し気の毒になってくる。

「さっきから僕の後をつけてたみたいですけど何か用ですか?」

だがここは心を鬼にしなければいけない。俺は、顔は笑顔に保ちつつも心は冷静に2人を警戒するようにしながら話し掛ける。

「「あ....えっと、ご、ごめんなさい!」」

と、女子高生達は又もや2人声を揃えて勢いよく頭を下げる。君達さっきからずっとハモってるね、仲が良いみたいで羨ましいよ。言葉に詰まるタイミングも同じって凄い。
ってそんな感心している場合じゃなかった。

「そんな、頭を上げてください!別に怒ってるわけじゃないんです、ただ僕に何か用事かなって純粋に思っただけなんです」

俺としてもまだこの2人の事を判断できていないのに頭を下げさせるのは忍びない。尾行自体は何とも思ってない...というか寧ろちょっと嬉しいと言いますか。まあそんな感じだ。

「あっ...そ、その....」

癖っ毛黒髪ロングの子が言い淀む。何かを言いかけては口をつぐむを繰り返している。
俺はその様子をじっと見つめているのだが、この子は俺と目が合いそうになると顔を赤くして目線を泳がしてしまうのでもしかしたら男慣れしていないのかもしれない。いやまあこの世界で男慣れしてる女の子の方が希少なんだけど。恵令奈さんとか。

「....あの!」

と、そんな癖っ毛黒髪ロングの子を見かねてか、茶髪ショートの子が一歩俺の方に踏み出してきた。

「はい、なんでしょう」

出来るだけ優しげに反応してあげる。
実を言うともう既にこの2人に対する不信感は殆ど消えていると言ってもいい。悪さ出来るような性格じゃなさそうだしね。


「えっと...前原...仁くんです、よね?」

両手を胸の前で握りしめながら上目遣いでそう問うてくる。期待と不安が入り混じった表情で、それは少し後ろに立つ癖っ毛黒髪ロングの子も同様である。

...なるほど、こういう事だったか。スポ男か、はたまた別の何かか。何にせよ何かの媒体物を通して俺の事を知った子達ということか。

「はいそうです。どうして僕の事を?」

こういう事は聞くに限る。
すると癖っ毛黒髪ロングの子が一歩前へ踏み出す。

「わた、私達!昨日スポ男を読んで、前原くんに一目惚れしてしまって!それでさっき前原くんっぽい男の子を見かけていても立ってもいられなくなって....やっぱり本物だったんだ...」

前半は勢いで叫ぶように、後半は何かを噛みしめるように小さく呟く。

うん、やっぱりスポ男だったか。確かにさっきスイッターを見て俺の知名度が上昇中なのは理解していたが、こうして実際に経験するとまた改めて実感してしまうものだ。

「なるほど、そういう事でしたか。それは待ち伏せなどという不躾な真似をしてすみませんでした」

この子達に恐らく害意はないだろうと思う。であるならば、此方も真摯な態度で接しなければいけない。

「あっ!違うんです!尾行なんてしていた私達が悪いんですから!」

「そ、そうです!前原くんは何も悪くないんですから頭を上げてください!」

「...分かりました」

可愛い女の子からそう焦ったように言われては仕方がない。
そろそろ話を進めよう。

「お二人は先程僕に一目惚れしたと言ってましたが本当なのですか?」

...くっ、これ俺本人が質問するの無茶苦茶恥ずかしい。相手も返答するの恥ずかしいだろうし、愚問だったかもしれない。

「....はい。スポ男を開いた瞬間かつてない程の衝撃を受けました。明日の学校では恐らく前原くんの話題で持ちきりだと思います。現にスイッターは大騒ぎでしたから...」

「わ、私も一目惚れです!...生で見たらさらにカッコいいです....。直視できない...」

茶髪ショートの子、癖っ毛黒髪ロングの子の順番である。

「そ、そうですか...。不肖の身である僕に好意を寄せて頂いてありがとうございます」

こうしてリアルな声を聞くと少し気恥ずかしい。あと、どう反応していいのか分からん。取り敢えずお礼を言っておいたけど正解なのかどうなのか。

「い、いえ...。...あの、サインとかって貰ってもいいですか?」

そう控え目に発言する茶髪ショートの子。

おっと、これは良いタイミングと言わざるを得ない。先程ねねちゃんにサインをねだられてその場できちんと考えたからな。

「ええ大丈夫ですよ。紙とペンはお持ちですか?」

「...やったッ!はい持ってます!ちょっと待って下さいね!」

嬉しそうに声を上げ、背負っていたリュックサックを地面に下ろし中をゴソゴソし出す。

「えと、じゃあこの子と私の2人分お願いしてもいいですか?」

「勿論構いませんよ」

おずおずと2枚の紙とペンを差し出してくる茶髪ショートの子に快く返答する。
俺は考えたてのサインを丁寧に書く。これから先サインを求められる事も増えてくるのだろうか。ならば、家で少し練習とかした方がいいのかもしれない。

「はい、どうぞ」

「「ありがとうございます!」」

出来上がったサインを2人に手渡す。2人はサインが書かれた紙に皺をつけないように大事大事に持っているようで、少し嬉しくなってしまう。

これで用事は終了かな、と思った俺なのだが、何やら何か言いたげにソワソワとする2人。まだ何かあるのだろうか。

「どうしました?」

向こうからは何か言いだしづらそうだったので此方から話し掛けてみる。

「あ、あの...写真を...。私とこの子で1人ずつツーショットで撮って欲しいなあなんて...思うんですけど...ダメですかね?」

写真か。正直全然構わないな。そりゃ有名人に会ったんだから誰でも撮りたくなるだろうし。自分で有名人を自称するのもあれなのだが。

「全然大丈夫ですよ」

「「ッ!!ありがとうございます!」」

手を取り合って喜ぶ2人の女子高生。前世ではJKJKと言って憧れていた存在がお戯れになっている光景は眼福です。自分が高校生の時はJKのありがたみは分からなかったんだけど、大学生になった瞬間理解させられるんだよね。制服は尊いのだ、と。


俺はその後1人ずつツーショット写真を撮ってあげた。調子に乗って密着しすぎて癖っ毛黒髪ロングの子が鼻血を吹き出すハプニングがあったものの、満足してくれたようでよかった。ファンサービスも大切な事である。

「ではまた」

「はい!ありがとうございました!」

「あ、ありがとうございました!」

そう言って去って行く女子高生達。
「キャー...!無茶苦茶カッコよかったよぉ...!」
「ヤバかった...!」
と2人で小声で話しているのは残念ながら俺に聞こえているのだが。

さて、俺も帰りますか。
女子高生に振っていた手を下ろし、改めて帰路に就く。
これからこういう事態も増えてくるのだろう。芸能人って大変だったんだな。
いや、可愛い女の子達にサインや写真を求められるのは嬉しいけどね。男冥利に尽きるというやつだ。

これからどうなる事やら。

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