俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい
お願い
心臓が高鳴る。手汗が滲む。顔が強張る。
高揚と緊張で今までにない感覚だ。
かつてこれほどまでの人数の美女、美少女に囲まれた事があっただろうか?確かに多数の視線を浴びた事は幾度となくある。
だが、これは....
「ま、前原仁君ですか!?そうですよね!?」「カッコいい....」「結婚して下さい!」「ほ、本物!?」「仁様ぁああああ!」「実物ヤバイ」「えっと、その、握手を!」「ファンクラブ入りました前原仁様!!」「スポ男のあの笑顔を私に向けて下さいお願いします!!」「仁君こっち向いてぇえええ」
女子中学生、女子高生、女子大生、OL、主婦。
俺を取り囲み口々に言葉を投げ掛けてくる女性達。まるで壁だ。
前世のアイドルはこんな気持ちだったのかもしれない。堅牢のように俺の周りを固く閉ざし、弾丸のような圧力と速度で話す。凄まじいとしか言いようがない。
普通の人ならば間違いなく尻込みしてしまうだろう。
しかし、
「おはようございます皆さん。初めまして前原仁と申します。僕のために春蘭まで来てくれたんですか?とっても嬉しいです!」
俺を舐めてもらっては困る。俺は前世ではオタクでありながら高度なコミュ力を誇る事に定評があった。例え美女美少女達に取り囲まれたとしても、例えゴリマッチョ強面お兄さん達に身体中を締め上げられようとも、笑顔で爽やかに接してみせる。
...後者は嘘だけど、まあ俺は人と話すことは苦手ではないということだ。
心の中でそう考えている通り、俺は笑顔でファンたちに返答した。
我ながら猫被りが上手いものだな、とは思う。だがこれもファンサービスの一環という事で許して欲しい。
「「.....」」
俺が笑顔を保ちつつそう思考していると、あれほど騒がしかったファンたちが何故かシンとしている事に気付いた。
皆んな一様に目を丸くさせ顔をキョトンさせた状態で固まっているようだ。
...なんだこれは?てっきり例の如く笑顔を振りまいたら、顔を赤くさせて喜んでくれるものかと思っていたのだが。おかしいな、何かマズイ事を言ってしまったのだろうか?それともスポ男の写真に比べて見劣りしてしまっていたのだろうか?
やばい、冷や汗が出そうだ。
俺は内心かなり焦った。
しかしそれは杞憂で、やはりこの世界は俺に甘いもので。
「うぇえ...がっごいいよぉ...」「神よ...感謝永遠に」「美天使美天使美天使美天使美天使」「眩しすぎて目がぁあああ!!」「おろろろろろろ」
涙を流す者。天に祈りを捧げる者。無表情で同じ言葉を繰り返す者。目を抑える者。吐く者。
多様な反応を見せてくれるものだが、どうやらガッカリさせたわけではないらしい。
むしろその逆か。嬉しい。
しかしさっきから吐いてる人は別に気持ち悪くて吐いてるんじゃないよね?感動のあまりとかそういうことだよね?うん、そうに違いない。
やはり俺はかなりの美少年だなっ!
俺がそう鼻息を荒くしていると、俺とファン達の周囲が俄かに騒々しくなってきた。
「何あれ?」「天使君のファン達みたいだよ?」「あ〜やっぱ来ちゃったか。そんな気がしてたんだよね〜」「まあ気持ちはわかるよね」「うんうん」「前原君今日もカッコいいなあ、春蘭来て本当に良かった」「舐め回したいよね」「「うん」」
....ファンの子達とのやり取りはとても楽しいけれど、それによって登校してくる生徒達が騒めき出しているみたいだ。
校門は皆んなの通り道だから迷惑になるかもしれないし、この辺りが潮時か。
「皆さん、今日は来てくれてとても嬉しいです。でも、学校に来るのは他の生徒達や先生方、近隣住民の方々にも迷惑がかかるかもしれないのでこれ以降は控えましょうね?」
俺のためにわざわざ来てくれたファンの子達にこんな事は言いたくないのだが、ここは心を鬼にしなければいけない。
人ととはやらねばならぬ時があるのだ。
「...ごめんなさい」「だって前原くんに会いたかったんだもん...」「仁様に怒られてしまいました...」「怒られるのも...イイ....」
怒ったつもりはなかったのだが、少しばかりのダメージを与えてしまったみたいだ。最後の人は知らん。
ここはちゃんとフォローしないと。
「勘違いはしないで欲しいんですけど、僕は皆さんが来てくれて本当に嬉しかったんですよ?それに、可愛い子ばっかりで照れちゃいそうでしたよ。....この場にいる人達僕は全員大好きですよ?だから落ち込まないで下さい。ねっ?」
真っ当なやり方より、こうしてゴリ押しでいったほうがいい、気がする。励ましの言葉ではなく、甘い言葉を囁くのだ。イケメンのみに許される伝家の宝刀。
...しかし何だこのあざとさマックスのフォローは。
自分で言ってて凄く恥ずかしい。
こんな臭い二番煎じみたいなセリフできちんとフォロー出来ているのだろうか?
「はわぁああ!そんな!かわっ可愛い!?だっ大好き!?こんな所でプロポーズなんて...」「結納はいつにしようかしら」「お母さんに仁くんと婚約する事にしたって電話するよ!」「仁様ぁ...お慕いしております...」「ヤろう」
う、うん、大丈夫みたいだ。...大丈夫なんだろうか?
毎度毎度考えなしに発言しているせいか、話が飛躍する事が多い気がする。これどう収拾つければいいんだろう....。
うーん...。
まあ放置でいっか。面倒な事は放置に限るな、うん。
その後俺はなんとか騒ぎを鎮静させ、教室へ向かった。
かなりの数の生徒に注目されてて結構恥ずかしかったな。ファンの子達には一人一人握手をしてから帰って貰った。せっかく来たのに何も無しっていうのは気の毒だからな。
俺が廊下を歩いていると、
「よっ!おはよ!」
後ろから肩を組んでくる奴が1人。
この重量感とこの男男した声は、
「おはよう、聖也」
クラスに3人いる男子のうちの1人大垣聖也だ。昨日学校を休んだせいか久々に会った気がする。相変わらずデカイなこいつ。
「昨日学校休んでどうしたんだよ?」
「ちょっと風邪ひいちゃってさ」
「あーそうだったのか。俺はてっきりスポ男で話題になり過ぎてひき込もったんじゃねえかと思ってたんだが」
「あはは。そんなたまじゃないよ」
朝一の雑談を交わしながら教室へと入る。
やっぱり男友達っていうのはいいね。女の子と話すのも好きなんだけど、同性ってだけで少し気楽になるというか、安心感があるというか。同じ気持ちの人結構多いんじゃないかなあ。
「....前原きゅんきたぁああ...!」「これで今日も頑張れるよぉ....」「昨日は生きた心地がしなかったよね...」「神が再臨された...」「....しゃあ!」
俺が扉をくぐった瞬間、教室の至る所からそんな声が聞こえてきた。
小声なんだけど聞き取れてしまうんだよね。
俺が1日休んだだけでクラスが崩壊しそうな勢いだな。悪い事をした。
「みんなおはよう。昨日は休んじゃってごめんね。今日からまたよろしくね?」
「「はぅっ...!」」
ふふっ、このクラスはやはり楽しいな。少し期間が空いた事により再確認できた。
莉央ちゃんと美沙はまだ来てないみたいだな。早く2人の可愛い顔が見たい。
「...お前相変わらずだな」
「ふふっ、みんな反応が可愛いじゃん」
聖也の呆れたような声を尻目に席に着く。
知り合いたての頃は女子に優しくする事によく注意されたものだが、最近は諦めたのか呆れるだけに留まってるんだよね。なんかごめんね?
さて...始業まではまだ少し時間があるけど早めに準備でもしよう。
1限目は確か現代文だったかな。
そうして俺が鞄から教科書を出そうと手を伸ばした時、
「前原仁くん!前原仁くんはいるか?」
ドアが勢いよく開いたかと思えば凛々しくも柔らかな声が朝の教室に響き渡った。
僅かな喧騒に包まれていた教室がピタリと静まる。
次から次へと....。
今度はなんだろう?
本当に俺は話題に事欠かないな。
朝からの怒涛のラッシュに、少し恨みがましげに入口を見やる。
「君にお願いしたい事があるのだが」
其処にはキリリとした笑みを浮かべる爽やかイケメン、桐生隼人生徒会長が立っていた。
...お久しぶりですね。
高揚と緊張で今までにない感覚だ。
かつてこれほどまでの人数の美女、美少女に囲まれた事があっただろうか?確かに多数の視線を浴びた事は幾度となくある。
だが、これは....
「ま、前原仁君ですか!?そうですよね!?」「カッコいい....」「結婚して下さい!」「ほ、本物!?」「仁様ぁああああ!」「実物ヤバイ」「えっと、その、握手を!」「ファンクラブ入りました前原仁様!!」「スポ男のあの笑顔を私に向けて下さいお願いします!!」「仁君こっち向いてぇえええ」
女子中学生、女子高生、女子大生、OL、主婦。
俺を取り囲み口々に言葉を投げ掛けてくる女性達。まるで壁だ。
前世のアイドルはこんな気持ちだったのかもしれない。堅牢のように俺の周りを固く閉ざし、弾丸のような圧力と速度で話す。凄まじいとしか言いようがない。
普通の人ならば間違いなく尻込みしてしまうだろう。
しかし、
「おはようございます皆さん。初めまして前原仁と申します。僕のために春蘭まで来てくれたんですか?とっても嬉しいです!」
俺を舐めてもらっては困る。俺は前世ではオタクでありながら高度なコミュ力を誇る事に定評があった。例え美女美少女達に取り囲まれたとしても、例えゴリマッチョ強面お兄さん達に身体中を締め上げられようとも、笑顔で爽やかに接してみせる。
...後者は嘘だけど、まあ俺は人と話すことは苦手ではないということだ。
心の中でそう考えている通り、俺は笑顔でファンたちに返答した。
我ながら猫被りが上手いものだな、とは思う。だがこれもファンサービスの一環という事で許して欲しい。
「「.....」」
俺が笑顔を保ちつつそう思考していると、あれほど騒がしかったファンたちが何故かシンとしている事に気付いた。
皆んな一様に目を丸くさせ顔をキョトンさせた状態で固まっているようだ。
...なんだこれは?てっきり例の如く笑顔を振りまいたら、顔を赤くさせて喜んでくれるものかと思っていたのだが。おかしいな、何かマズイ事を言ってしまったのだろうか?それともスポ男の写真に比べて見劣りしてしまっていたのだろうか?
やばい、冷や汗が出そうだ。
俺は内心かなり焦った。
しかしそれは杞憂で、やはりこの世界は俺に甘いもので。
「うぇえ...がっごいいよぉ...」「神よ...感謝永遠に」「美天使美天使美天使美天使美天使」「眩しすぎて目がぁあああ!!」「おろろろろろろ」
涙を流す者。天に祈りを捧げる者。無表情で同じ言葉を繰り返す者。目を抑える者。吐く者。
多様な反応を見せてくれるものだが、どうやらガッカリさせたわけではないらしい。
むしろその逆か。嬉しい。
しかしさっきから吐いてる人は別に気持ち悪くて吐いてるんじゃないよね?感動のあまりとかそういうことだよね?うん、そうに違いない。
やはり俺はかなりの美少年だなっ!
俺がそう鼻息を荒くしていると、俺とファン達の周囲が俄かに騒々しくなってきた。
「何あれ?」「天使君のファン達みたいだよ?」「あ〜やっぱ来ちゃったか。そんな気がしてたんだよね〜」「まあ気持ちはわかるよね」「うんうん」「前原君今日もカッコいいなあ、春蘭来て本当に良かった」「舐め回したいよね」「「うん」」
....ファンの子達とのやり取りはとても楽しいけれど、それによって登校してくる生徒達が騒めき出しているみたいだ。
校門は皆んなの通り道だから迷惑になるかもしれないし、この辺りが潮時か。
「皆さん、今日は来てくれてとても嬉しいです。でも、学校に来るのは他の生徒達や先生方、近隣住民の方々にも迷惑がかかるかもしれないのでこれ以降は控えましょうね?」
俺のためにわざわざ来てくれたファンの子達にこんな事は言いたくないのだが、ここは心を鬼にしなければいけない。
人ととはやらねばならぬ時があるのだ。
「...ごめんなさい」「だって前原くんに会いたかったんだもん...」「仁様に怒られてしまいました...」「怒られるのも...イイ....」
怒ったつもりはなかったのだが、少しばかりのダメージを与えてしまったみたいだ。最後の人は知らん。
ここはちゃんとフォローしないと。
「勘違いはしないで欲しいんですけど、僕は皆さんが来てくれて本当に嬉しかったんですよ?それに、可愛い子ばっかりで照れちゃいそうでしたよ。....この場にいる人達僕は全員大好きですよ?だから落ち込まないで下さい。ねっ?」
真っ当なやり方より、こうしてゴリ押しでいったほうがいい、気がする。励ましの言葉ではなく、甘い言葉を囁くのだ。イケメンのみに許される伝家の宝刀。
...しかし何だこのあざとさマックスのフォローは。
自分で言ってて凄く恥ずかしい。
こんな臭い二番煎じみたいなセリフできちんとフォロー出来ているのだろうか?
「はわぁああ!そんな!かわっ可愛い!?だっ大好き!?こんな所でプロポーズなんて...」「結納はいつにしようかしら」「お母さんに仁くんと婚約する事にしたって電話するよ!」「仁様ぁ...お慕いしております...」「ヤろう」
う、うん、大丈夫みたいだ。...大丈夫なんだろうか?
毎度毎度考えなしに発言しているせいか、話が飛躍する事が多い気がする。これどう収拾つければいいんだろう....。
うーん...。
まあ放置でいっか。面倒な事は放置に限るな、うん。
その後俺はなんとか騒ぎを鎮静させ、教室へ向かった。
かなりの数の生徒に注目されてて結構恥ずかしかったな。ファンの子達には一人一人握手をしてから帰って貰った。せっかく来たのに何も無しっていうのは気の毒だからな。
俺が廊下を歩いていると、
「よっ!おはよ!」
後ろから肩を組んでくる奴が1人。
この重量感とこの男男した声は、
「おはよう、聖也」
クラスに3人いる男子のうちの1人大垣聖也だ。昨日学校を休んだせいか久々に会った気がする。相変わらずデカイなこいつ。
「昨日学校休んでどうしたんだよ?」
「ちょっと風邪ひいちゃってさ」
「あーそうだったのか。俺はてっきりスポ男で話題になり過ぎてひき込もったんじゃねえかと思ってたんだが」
「あはは。そんなたまじゃないよ」
朝一の雑談を交わしながら教室へと入る。
やっぱり男友達っていうのはいいね。女の子と話すのも好きなんだけど、同性ってだけで少し気楽になるというか、安心感があるというか。同じ気持ちの人結構多いんじゃないかなあ。
「....前原きゅんきたぁああ...!」「これで今日も頑張れるよぉ....」「昨日は生きた心地がしなかったよね...」「神が再臨された...」「....しゃあ!」
俺が扉をくぐった瞬間、教室の至る所からそんな声が聞こえてきた。
小声なんだけど聞き取れてしまうんだよね。
俺が1日休んだだけでクラスが崩壊しそうな勢いだな。悪い事をした。
「みんなおはよう。昨日は休んじゃってごめんね。今日からまたよろしくね?」
「「はぅっ...!」」
ふふっ、このクラスはやはり楽しいな。少し期間が空いた事により再確認できた。
莉央ちゃんと美沙はまだ来てないみたいだな。早く2人の可愛い顔が見たい。
「...お前相変わらずだな」
「ふふっ、みんな反応が可愛いじゃん」
聖也の呆れたような声を尻目に席に着く。
知り合いたての頃は女子に優しくする事によく注意されたものだが、最近は諦めたのか呆れるだけに留まってるんだよね。なんかごめんね?
さて...始業まではまだ少し時間があるけど早めに準備でもしよう。
1限目は確か現代文だったかな。
そうして俺が鞄から教科書を出そうと手を伸ばした時、
「前原仁くん!前原仁くんはいるか?」
ドアが勢いよく開いたかと思えば凛々しくも柔らかな声が朝の教室に響き渡った。
僅かな喧騒に包まれていた教室がピタリと静まる。
次から次へと....。
今度はなんだろう?
本当に俺は話題に事欠かないな。
朝からの怒涛のラッシュに、少し恨みがましげに入口を見やる。
「君にお願いしたい事があるのだが」
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