俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい
激昴
「ふぁあ……」
目が開かない。意思なき瞼が睡眠を欲しているようだ。
未だ夢心地であるが、気合いで無理矢理に布団を引き剥がす。
ねっむ。
あー、身体中汗でベトベトだ。少し、いやとても気持ち悪いので出かける前にシャワーを浴びるか。
「……」
覚えている。昨日の事は。
寝られないかとも思ったけど案外すんなり眠りにつくことが出来たみたいだ。
体が重い。許されるのならば一日中お布団のご厄介になりたいほどだ。しかし今日は昼前から美沙のバスケットボールの大会が控えている。堕落はいけないだろう。
『ドタドタ』
「……んん?」
陰鬱な気分を無理やり押し込み起き上がろうとしていると、騒がしく階段を駆け上がる音が聞こえたきた。
『コンコンコン』
「お兄ちゃーん?起きてる?」
この声は最愛の妹である心愛だな。朝から元気なようで何より。
「起きてるよ。おはよう心愛」
「よかった!おはようお兄ちゃん。早速だけど私今日お友達との約束あるからお出かけしてくるね!」
お友達?おチビちゃん三人衆の早乙女ののちゃんと速水愛菜ちゃんかな。
それにしてもわざわざ出かける前に挨拶をしに来てくれるとは優しい子だ。
「そっか、楽しんできてね」
「うんっ!行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
……いや、もしかしたら昨日の俺の落ち込みようを見て、心配になり様子を見に来てくれたのかもしれない。だとするなら、中学生にしてはよく出来た妹だ。俺には勿体ないくらいの。
心愛が走り去る足音を聞きながら、少しばかり微笑みが漏れてしまうのだった。
*          *          *
「ふぅ〜すっきり」
汗で不快感満載だった体もシャワーを浴びることによりきれいさっぱり。文明の利器とは素晴らしいものだ。
さて、準備もほとんど終えたことだしそろそろ大会の会場へ向かうか。まぁ会場と言っても春蘭高校のことなのだけど。莉央ちゃんも行くみたいで一緒に行動する予定だ。
「財布とスマホは持って、あとは……」
俺が持ち物の確認を行っている時だった。
「えー心愛忘れて行っちゃったの?」
「そうだよー……。どうしよう、届けに行こうかな?」
「めんどくさいね…」
母さんと姉さんの少し慌てたような話し声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「あ、ジンちゃん。心愛がね、お弁当持っていくの忘れちゃったんだよ」
なるほど。そういえばさっき俺の部屋まで挨拶に来てくれた時もドタバタしてたな。時間に余裕がなかったのかもしれない。それでうっかりと。
しかしお弁当とは。一体どこへ行くんだ?
「お友達とピクニックするらしいからお弁当なかったら流石に困るよね……」
ピクニックか。可愛いなおい。前世だと、ませた女子中学生なんかはオシャレなカフェに行くイメージだったけど。
……うん、でもなんかあのちっちゃい3人組だとカフェよりもピクニックの方が似合いそうだな。
「何処に行ったの?」
「えと、近くの大っきい公園だと思うよ。あの駅の近くの」
ああ、あそこか。あそこなら丁度いい。
「うん、わかった。僕がお弁当持って行ってあげるよ。どうせ駅に行くし通り道だからさ」
「本当に?助かるよ〜ジンちゃん。じゃあこれお願いします!」
そう言ってお弁当袋を手渡された。明るいピンク色を基調として、可愛くデザインされた小さなウサギのキャラクターが所狭しに描かれている。
……ちっちゃいな。これだけの量で足りるのか?3口くらいで終わりそうだけど。まあ年頃だしそんなものなのかもしれない。
「はい、任されました。じゃあ僕も行ってくるね」
「行ってらっしゃい、あなた……」
……はい?
母さんが惚けた顔で訳の分からないことを言い出した。恐らくだけど、お弁当を夫に手渡す妻でも妄想してたのだろう。当たっているかは分からないけど、あながち間違ってもないと思う。
「はぁ……本当に。気にしなくていいよ、行ってらっしゃい仁」
母親の醜態にため息で返す姉さん。うむ、いつ見てもクールでカッコイイ。
「あははそうだね。いってきます!」
我が家族はいつも通り平和、と。落ち込んでいた気分も晴れ渡るようだ。とても助かる。
さ、サクッとお弁当渡して美沙の応援に行こうか。
あ、ちなみにソフィには着いてきてもらわない事にした。たまには羽を伸ばしたいからな。
*           *            *
「あっついな……」
家から少し歩いただけで汗が吹き出してくる。は、早く俺に冷房を……。
「あー、やっと着いた」
時間的には10分といったところだろうけど、体感的には10キロマラソンを完走した気分だ。……言いすぎたかもしれない。とにかくそれだけしんどかったということだ。
この公園って結構大っきいんだよな。ど真ん中に立派な噴水があってそこを中心に草原が広がっている。公園を囲うように幾本もの樹木も生えてるし、もしかしたら心愛達を探すのに時間かかってしまうかも。電車の時間もあるからそんなに時間はかけられないぞ。
「心愛〜どこですか〜」
幸いにも人の気配はほとんど無い。広いとは言え、見つからないという事態には陥らないだろう。
「いいから……、……!!」
「やめ……!……して!……けて!!」
ん?
何やら騒がしい声が聞こえる。中央の噴水辺りからだ。行ってみるか。
友達とはしゃいでる心愛かもしれないからな。
歩き始めるとすぐに、遠目に噴水が見えてきた。その近くには……5、いや、6人?6人ほどの人影が見て取れる。
「なんか……」
はしゃいでるというよりかは……揉めてる?この距離からでも、あれは楽しんでるような雰囲気じゃなく、剣呑なものだと感じる。
少し遠くてまだ心愛がいるか判断できない。もう少し近付くか。
「おいいい加減にしろよお前!クソチビが俺に反抗するんじゃねえ!!」
「やだ……!助けて!!誰か!」
……は?
あれは心愛だ。ののちゃんと愛菜ちゃんもいる。それはいい。
その3人組の他に男が3人、心愛たちを取り囲むようにして立っている。
そのうちの1人は、必死に抵抗する心愛の腕を掴んで何処かに連れていこうとしているようだ。
なんだあいつ?殺すぞ。
全身が力んだ気がした。拳を強く握りすぎて爪が食い込んだ気がした。
落ち着け俺。
ふぅ……。とにかく事情が分からん。もしかしたら心愛たちが何かしたのかもしれない。取り敢えず話を聞いてみるか。
「すみません!うちの妹がなにか……」
俺は数メートルの距離まで来たため、声をかけようとした。しかし、それは最後まで続くことは無かった。
「うぜぇ!!」
「……きゃ!!?」
『ガスッ!』と鈍い音が耳を通り抜けた。その瞬間心愛が地面に倒れ込んだ。何が起こったのか理解するのにそう時間はかからなかった。
「反抗するからだぞ?なぁ?」
息を荒くしながらニヤニヤする男。
「うぇえ……ぃだい……うぅ……」
頬を手で抑えながら泣きじゃくる心愛。
慌てて心愛に駆け寄るののちゃんと愛菜ちゃん。
面白そうに手を叩く男2人。
そうか。
殴られたのか。
心愛が、殴られたのか。アイツに。
心愛の可愛らしい笑顔が、元気ハツラツな声が、頭に響く。あの優しくて気遣いが出来る心愛が。あの汚い男に?
『ガシャ』
母さんが折角作ってくれたお弁当を地面に落としてしまった。後で謝ろう。
全身の血が泡立っている気がする。
髪の毛が逆立っている気がする。
目が充血している気がする。
もちろん全部気のせい。そんな奇妙な現象現実世界では怒らない。
それでも、そう言いたくなるほど、怒りが止まらない。
どう殺すかアイツ。
中川真二の事件を思い出す。今となっては懐かしいが。
あいつをボコボコに出来たのは、ここは異世界なんだと俺が高ぶっていたから。異世界なら、悪い奴をやっつけても大丈夫だと、そう思ってしまったから。前世でラノベ主人公が敵をボコボコにしてたから。現実でそんなことをしたら、暴行罪か傷害罪で逮捕される。故に、そんなことはしない。
今も、やっと異世界に馴染んで来て高ぶりが落ち着いた。だから、昔みたいな無茶苦茶なことはしなくなってた。前世と同じように。
それでも。
アイツだけは。
分からない。もしかしたらこの前原仁の体に精神が引っ張られて思考が物騒になっているのかもしれない。
でも俺はアイツが憎い。
あんなに優しい心愛が泣いていた。助けを求めていた。俺は間に合わなかった。そんな自分が憎くて、だから八つ当たりも入っている。
なあ。
殺すぞオマエ。
目が開かない。意思なき瞼が睡眠を欲しているようだ。
未だ夢心地であるが、気合いで無理矢理に布団を引き剥がす。
ねっむ。
あー、身体中汗でベトベトだ。少し、いやとても気持ち悪いので出かける前にシャワーを浴びるか。
「……」
覚えている。昨日の事は。
寝られないかとも思ったけど案外すんなり眠りにつくことが出来たみたいだ。
体が重い。許されるのならば一日中お布団のご厄介になりたいほどだ。しかし今日は昼前から美沙のバスケットボールの大会が控えている。堕落はいけないだろう。
『ドタドタ』
「……んん?」
陰鬱な気分を無理やり押し込み起き上がろうとしていると、騒がしく階段を駆け上がる音が聞こえたきた。
『コンコンコン』
「お兄ちゃーん?起きてる?」
この声は最愛の妹である心愛だな。朝から元気なようで何より。
「起きてるよ。おはよう心愛」
「よかった!おはようお兄ちゃん。早速だけど私今日お友達との約束あるからお出かけしてくるね!」
お友達?おチビちゃん三人衆の早乙女ののちゃんと速水愛菜ちゃんかな。
それにしてもわざわざ出かける前に挨拶をしに来てくれるとは優しい子だ。
「そっか、楽しんできてね」
「うんっ!行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
……いや、もしかしたら昨日の俺の落ち込みようを見て、心配になり様子を見に来てくれたのかもしれない。だとするなら、中学生にしてはよく出来た妹だ。俺には勿体ないくらいの。
心愛が走り去る足音を聞きながら、少しばかり微笑みが漏れてしまうのだった。
*          *          *
「ふぅ〜すっきり」
汗で不快感満載だった体もシャワーを浴びることによりきれいさっぱり。文明の利器とは素晴らしいものだ。
さて、準備もほとんど終えたことだしそろそろ大会の会場へ向かうか。まぁ会場と言っても春蘭高校のことなのだけど。莉央ちゃんも行くみたいで一緒に行動する予定だ。
「財布とスマホは持って、あとは……」
俺が持ち物の確認を行っている時だった。
「えー心愛忘れて行っちゃったの?」
「そうだよー……。どうしよう、届けに行こうかな?」
「めんどくさいね…」
母さんと姉さんの少し慌てたような話し声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「あ、ジンちゃん。心愛がね、お弁当持っていくの忘れちゃったんだよ」
なるほど。そういえばさっき俺の部屋まで挨拶に来てくれた時もドタバタしてたな。時間に余裕がなかったのかもしれない。それでうっかりと。
しかしお弁当とは。一体どこへ行くんだ?
「お友達とピクニックするらしいからお弁当なかったら流石に困るよね……」
ピクニックか。可愛いなおい。前世だと、ませた女子中学生なんかはオシャレなカフェに行くイメージだったけど。
……うん、でもなんかあのちっちゃい3人組だとカフェよりもピクニックの方が似合いそうだな。
「何処に行ったの?」
「えと、近くの大っきい公園だと思うよ。あの駅の近くの」
ああ、あそこか。あそこなら丁度いい。
「うん、わかった。僕がお弁当持って行ってあげるよ。どうせ駅に行くし通り道だからさ」
「本当に?助かるよ〜ジンちゃん。じゃあこれお願いします!」
そう言ってお弁当袋を手渡された。明るいピンク色を基調として、可愛くデザインされた小さなウサギのキャラクターが所狭しに描かれている。
……ちっちゃいな。これだけの量で足りるのか?3口くらいで終わりそうだけど。まあ年頃だしそんなものなのかもしれない。
「はい、任されました。じゃあ僕も行ってくるね」
「行ってらっしゃい、あなた……」
……はい?
母さんが惚けた顔で訳の分からないことを言い出した。恐らくだけど、お弁当を夫に手渡す妻でも妄想してたのだろう。当たっているかは分からないけど、あながち間違ってもないと思う。
「はぁ……本当に。気にしなくていいよ、行ってらっしゃい仁」
母親の醜態にため息で返す姉さん。うむ、いつ見てもクールでカッコイイ。
「あははそうだね。いってきます!」
我が家族はいつも通り平和、と。落ち込んでいた気分も晴れ渡るようだ。とても助かる。
さ、サクッとお弁当渡して美沙の応援に行こうか。
あ、ちなみにソフィには着いてきてもらわない事にした。たまには羽を伸ばしたいからな。
*           *            *
「あっついな……」
家から少し歩いただけで汗が吹き出してくる。は、早く俺に冷房を……。
「あー、やっと着いた」
時間的には10分といったところだろうけど、体感的には10キロマラソンを完走した気分だ。……言いすぎたかもしれない。とにかくそれだけしんどかったということだ。
この公園って結構大っきいんだよな。ど真ん中に立派な噴水があってそこを中心に草原が広がっている。公園を囲うように幾本もの樹木も生えてるし、もしかしたら心愛達を探すのに時間かかってしまうかも。電車の時間もあるからそんなに時間はかけられないぞ。
「心愛〜どこですか〜」
幸いにも人の気配はほとんど無い。広いとは言え、見つからないという事態には陥らないだろう。
「いいから……、……!!」
「やめ……!……して!……けて!!」
ん?
何やら騒がしい声が聞こえる。中央の噴水辺りからだ。行ってみるか。
友達とはしゃいでる心愛かもしれないからな。
歩き始めるとすぐに、遠目に噴水が見えてきた。その近くには……5、いや、6人?6人ほどの人影が見て取れる。
「なんか……」
はしゃいでるというよりかは……揉めてる?この距離からでも、あれは楽しんでるような雰囲気じゃなく、剣呑なものだと感じる。
少し遠くてまだ心愛がいるか判断できない。もう少し近付くか。
「おいいい加減にしろよお前!クソチビが俺に反抗するんじゃねえ!!」
「やだ……!助けて!!誰か!」
……は?
あれは心愛だ。ののちゃんと愛菜ちゃんもいる。それはいい。
その3人組の他に男が3人、心愛たちを取り囲むようにして立っている。
そのうちの1人は、必死に抵抗する心愛の腕を掴んで何処かに連れていこうとしているようだ。
なんだあいつ?殺すぞ。
全身が力んだ気がした。拳を強く握りすぎて爪が食い込んだ気がした。
落ち着け俺。
ふぅ……。とにかく事情が分からん。もしかしたら心愛たちが何かしたのかもしれない。取り敢えず話を聞いてみるか。
「すみません!うちの妹がなにか……」
俺は数メートルの距離まで来たため、声をかけようとした。しかし、それは最後まで続くことは無かった。
「うぜぇ!!」
「……きゃ!!?」
『ガスッ!』と鈍い音が耳を通り抜けた。その瞬間心愛が地面に倒れ込んだ。何が起こったのか理解するのにそう時間はかからなかった。
「反抗するからだぞ?なぁ?」
息を荒くしながらニヤニヤする男。
「うぇえ……ぃだい……うぅ……」
頬を手で抑えながら泣きじゃくる心愛。
慌てて心愛に駆け寄るののちゃんと愛菜ちゃん。
面白そうに手を叩く男2人。
そうか。
殴られたのか。
心愛が、殴られたのか。アイツに。
心愛の可愛らしい笑顔が、元気ハツラツな声が、頭に響く。あの優しくて気遣いが出来る心愛が。あの汚い男に?
『ガシャ』
母さんが折角作ってくれたお弁当を地面に落としてしまった。後で謝ろう。
全身の血が泡立っている気がする。
髪の毛が逆立っている気がする。
目が充血している気がする。
もちろん全部気のせい。そんな奇妙な現象現実世界では怒らない。
それでも、そう言いたくなるほど、怒りが止まらない。
どう殺すかアイツ。
中川真二の事件を思い出す。今となっては懐かしいが。
あいつをボコボコに出来たのは、ここは異世界なんだと俺が高ぶっていたから。異世界なら、悪い奴をやっつけても大丈夫だと、そう思ってしまったから。前世でラノベ主人公が敵をボコボコにしてたから。現実でそんなことをしたら、暴行罪か傷害罪で逮捕される。故に、そんなことはしない。
今も、やっと異世界に馴染んで来て高ぶりが落ち着いた。だから、昔みたいな無茶苦茶なことはしなくなってた。前世と同じように。
それでも。
アイツだけは。
分からない。もしかしたらこの前原仁の体に精神が引っ張られて思考が物騒になっているのかもしれない。
でも俺はアイツが憎い。
あんなに優しい心愛が泣いていた。助けを求めていた。俺は間に合わなかった。そんな自分が憎くて、だから八つ当たりも入っている。
なあ。
殺すぞオマエ。
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たく
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