俺が道端で拾った本はただの本じゃなかった件について

破錠 斬々

(終):涙

吾輩の正体を知った人間たちは理由もなく怒りを私や妻にぶつけ始めた。

人間「どこへ逃げた?あいつを殺さないと祟りが起きるぞ。早く探せ!」

吾輩たちは捕まらないように必死で逃げた。野や山を越えてある程度人里から離れたところで小さな使われていない小屋を発見した。一夜だけでも過ごそうと思い吾輩は疲れ切った妻を小屋に寝かせて食料を探しに出た。

その後小屋から離れて5分も経たないうちに人間たちは近くまで追いかけていることに気づき吾輩は急いで小屋に戻った。しかしそれは遅く吾輩が見たのは小屋が大きな炎に包み込まれ妻の悲鳴が聞こえその声を聞いて喜んでいる人間たちの姿だった。

吾輩はその風景を見ながら怒りと後悔に涙を流した。あの時小屋を見つけなければ、あの時妻だけを置いていかなければ、あの時彼女と出会っていなかったらと。

吾輩は彼女を置いて行き幼きマリーを抱きしめ逃げた。事情を知ってか吾輩の実家は吾輩を受け入れマリーを本当の家族のように大切にしてくれた。時間が経つにつれてマリーの表情も柔らかくなり母の存在を忘れているようだった。しかし、吾輩はその逆だった。時間が経つほど人間たちへの怒りが強くなりマリーのことさえ事あるごとにどうしても人間と比べてしまっていた。

「お父様〜。お人形遊びしましょう〜」

無邪気に父親に近づくマリーの姿はとても可愛らしかった。だが、彼女の子ではあるが人間のハーフであるマリーを心の底から愛せない自分がどこかにいた。

「すまんなマリー私はこの後商人との会談があるのでな。遊びなら使用人に頼みなさい」

「はい…申し訳ございませんお父様」

マリーが年頃にもなると吾輩との心の距離はもう取り戻せないほど広がっていた。吾輩の口調も仕事で威厳を示すため一人称も私から吾輩と呼ぶようにもしてマリーにとって吾輩はいつのまにか知らない存在になってしまったのだろう。

「お父様私今日で16になりました。これで私も大人の仲間入りです。少しはお父様のお仕事の手助けができるのではないかと…」

「マリー今私は仕事で忙しんだ後にしてくれ。あ、それとその机の上にある写真を見ておきなさい。大人の仲間入りになったのなら結婚せねばな。自分とこの家にふさわしい男を選びなさい」

マリーが16歳にもなると吾輩は娘が間違った恋をせぬよう早々と結婚をさせるようにした‘。これでも吾輩は我が子に最低限の親としての役目を果たしているつもりだったのだ。

「旦那様、マリー様が魔法陣を使って異世界へ行かれました!」

とある日、吾輩はいつものように仕事をしていると使用人達が騒ぎ出しマリーが人間界へ逃亡したことを知った。吾輩は愚かにもその時やっと自分の行ってきたことが娘の不幸を読んでいたことに気づいたのだ。

「すぐに捜索隊を出せ。異世界へは行くな。この世界へ戻ってくると必ず捕まえられるようにしておくんだ。捕まえるためなら多少怪我をさせても構わん」

それからは何年も時を重ねた。マリーが見つかる目での間吾輩は彼女との楽しかった記憶を思い出したりマリーにもっと父親らしいことをしてあげたかったと考えるようになった。

レノワード「吾輩がが話せるのはこれくらいだ。どうだ?これでも人間と本は共存できると言うのか?」

レノワード卿は窶れたような表情をしてこちらを見る。その姿には先ほどまでの威圧的オーラはもうない。

修一「確かに貴方自身が体験した話では人間と本の共存は難しいでしょう。でも、俺たちは違います。最初こそは戸惑いましたが時間をかければかけるほど人は共存の道に走り出すんです。奥様もそうだったんじゃないんですか?」

レノワード「そんなのは所詮綺麗事だと言っているんだ!貴様には超えられるのか!?種族の壁を!」

彼の怒りのこもった声にはビリビリと電気が走るような威圧が込められていた。だが、俺は怯むことなく応戦する。

修一「超えられるんですよ!その証拠が俺たちなんです!種族の壁がなくなったからこそ友を体を張って助けようとするんですよ!」

俺の言葉にレノワード卿は俺の周りを見渡す。麻里さんやアスカ、眉を。

レノワード「…吾輩は知らんぞ。お前達種族が滅びの道に走っても助けてはやれぬぞ?」

修一「そんなの俺の知ったことじゃないですよ」

レノワード卿は大きくため息をついた。深く深く吐いたため息からは何十年も溜まった毒素が出たような雰囲気だった。

レノワード「マリー、お前には今好意を寄せている男はいるか?」

麻里さんは自分に問いかけられている質問に戸惑いながらも自信を持って答えた。

マリー「はい、種族差を今超えた方を私は日々好きになっています」

レノワード卿は「そうか」と笑いながら天井を見上げた。その次には麻里さんに向かって「マリーお前も私が知らないうちに大きくなったものだな」と麻里さんを見つめる。

レノワード「修一…と言ったか?貴様がこの世界に来た理由はなんだ?」

話しかける相手は麻里さんから俺へと変わった。俺は戸惑いながらもこの世界へ来た本来の目的を話す。

レノワード「そうか。貴様にはマリーに合わせてくれた恩がある。その男を探す手伝いをしてやろう」

修一「ほ、本当ですか!?」

俺は彼の意外な言葉に驚かされた。嬉しさのため反射的にアスカの方向を見た。アスカも嬉しそうな表情をして俺を見つめた。

レノワード「しかし、それには条件がある。アスカをこの世界へ置いて行け」

修一「な、何でですか?」

レノワード卿は真剣な眼差しでアスカを見つめる。

レノワード「この子はもともとこの世界の子だ。本来本は人間の世界へは許可なしでは行ってはいけないのだ。男を見つける為の最低限の条件だ。もし、吾輩の力を借りぬと言うのなら別に彼女をこの世界に置いて行く必要はないがどうする?」

繭「そ、そんな条件飲めるはずないでしょ?」

繭は怒ったような表情でレノワード卿へ噛み付くように怒鳴る。アスカもレノワード卿の言葉により動揺している。

レノワード「何故だ?彼女の記憶は戻らなくてもいいのか?」

レノワード今日の目を見ると真実を述べているのは明白だった。しかし、アスカ1人をこの世界に置いて行きたくない。

修一「アスカはどうしたいんだ?記憶を取り戻すのと記憶を取り戻せないかもしれないけど俺たちと一緒にいるのはどっちがいい?」

俺は情けなくもアスカ本人に聞いて見ることにした。彼女は一体どうしたいのか。俺たちと離れ離れになってでも記憶を取り戻したいのか否か。どちらを選択をしてもアスカの意見を尊重してあげたい。

アスカ「わ、わしはできれば記憶を取り戻したい。だからー」

あの後アスカが選択したのはこの世界に残るということだった。アスカ本人は苦渋の選択だったのだろうがこの場にいる者のほとんどはあまり喜ばしい顔をしなかった。

繭「アスカちゃん、本当にいいのね?もしかしたら私たちと二度と会えなくなるわよ?」

アスカは小さく頷きずっと下を向いたままだった。繭もそれ以上はアスカに聞くことはなくただただずっと沈黙した時間が流れた。

麻里「アスカちゃんは私が責任を持って預かります。どうか、安心して元の世界に戻ってください」

修一「分かりました。レノワード卿、麻里さん、アスカのことよろしくお願いします」

2人が頷くと再び呪文を唱え始め視界に白く眩い光が目を覆った。瞑った目を開けると目の前には俺たちが通っている学校があった。周りはまだ薄暗く街全体が暗くなっていた。不思議に思い校舎についている時計を見ると時刻はまだ、日の出が出る少し前だった。

繭「ねぇ修一、屋上行かない?」

俺は繭の誘いに乗り2人で屋上に行くことにした。当たり前だが、朝早くの校舎には職員すらおらず完全に貸切状態だった。普段は誰かしらいるはずの校舎なのに物音1つたたないと流石に不気味に感じる。

修一「鍵…空いてる」

屋上に続く階段を登りドアノブを触ると鍵は閉まっていなかった。そして、そのまま俺はドアをゆっくり開けた。すると、ドアの隙間から朝の香りにする肌寒い空気が流れ込み外に出ると街を見渡せる景色が広がっていた。

繭「わあぁぁぁぁぁっー!」

屋上に出ると繭は街に向かって大声で叫び始めた。その声には溜まっていた毒を一気に吐き出すようなスッキリした印象を与えた。

繭「いやー、大冒険だったね。普通の高校生じゃ味わえないよ」

修一「本当、大冒険だったね」

俺たちは屋上の鉄格子に寄りかかりまだ薄暗い自分たちの街を眺めた。いつも通りの景色のはずが今はどんな大都市にも負けないように思える。

繭「こんあ濃ゆい生活だったけど、私たち、アスカちゃんと出会ってまだ1ヶ月しか経っていないんだよね」

たった1ヶ月、されど1ヶ月、俺の頭の中にはこの1ヶ月のアスカとの生活を思い出させる。楽しかったし面白かったし驚かされたし…

繭「あんた、何…泣いてんのよ…」

修一「えっ…あ、別に泣いてなんかいねえよ」

アスカとの生活を思い出していると自然と俺の目からは何粒の涙が出ていた。その涙一滴一滴には暖かい記憶が宿っていると感じ取れる。

修一「また、一緒に暮らしたいな…なぁ、アスカ」

修一「ヤバい、急がないと会社に遅れる…行ってきます!」

あれから数年が経ち俺は社会人となり働いていた。高校生の時とは全く違い毎日が疲れ果てる日々だった。しかし、それと同時に無数の希望と幸せに満ちている。

繭「あなた、お弁当忘れてるわよ!」

修一「いけない、忘れるところだった。行ってきます!」

繭「行ってらっしゃい!車に気をつけてね!」

俺はあの後繭と結婚し、繭のお腹の中には新しい生命が宿っている。結婚すると家族に話した時は姉さんがひどく怒っていたが今となっては笑い話だ。今日もいつもの日常が始まる。そう思い、俺は通勤路を一歩ずつ歩く。

すると、道端に不思議な本が落ちていたー。

???「そこのお主、わしを助けてくれぬか!?」


ご愛読ありがとうございます。

とうとう、この物語も最後を迎えました。今、思い返せば私の作家魂はここで火を灯しました。最初の頃は自己満足で書いていたはずがフォロワーさんが増えていくたびに次はどんな話にしたら喜んでもらえるかと読者の方々に合わせ考え始めるようになりました。

この話を書いている途中、「これが最後か…」と呟いた時に1話から読み返してみようと思いました。読み返していると下手くそな文章を目の前にして思わず自分の顔を覆い隠したくなるような思いになりました。

キャラクター同士の会話も一方的で話が全く定まっておらず、情景を説明する文章でさえも、何を言っているのかさっぱりでした。今でも十分下手くそですが当時の私が目の前にいたら後ろから頭を叩きたくなります。でも、こんな物語でもフォロワーの皆様25名(2018年9月16日午後9:42まで)とその他読者様のおかげで続けてこられました。

これからも、私は自分の脳みそからアイデアが出てくる限り全力を尽くして作家活動を歩んで参りますのでこれからもどうか、よろしくお願いいたします。

ーお知らせー

先月より「あの夏二人で見た打ち上げ花火は君の胸の中だった」を公開しております。まだ、1話しか書いていませんがこれからもっと続きを書いていきますのでご愛読くださいませ。

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