俺の妹はヤンデレでした

繭月

5話

〈永田 隆盛〉
俺は一人葵を待たずに教室に戻ると俺の席の前であからさまに柏木が落ち込んでいて周りのクラスメイトは心配そうに彼女の様子をうかがっている
俺は我関せずの姿勢でラノベを読み始める
「・・・」
「・・・」
チラチラと柏木が俺の方に視線を飛ばしてくる
「・・・なにか?」
「・・・別に、隆盛君は落ち込んでる女の子を助けたりしないんだなって思って」
「助けを求められれば助けるけど?」
柏木が睨んでくるが全然怖くはないので読書に集中する
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・はあ、それで葵のことだろ?なに?」
ずっと睨まれてたら怖くはないが全然集中できない
「別に助けなんて頼んでないけど」
「・・・なら睨むのをやめてくれないか?」
「別に睨んでないもん」
今度は頬をフグのように膨らませてきた
全然怒ってるように見えない、っていうか可愛くなったんだが・・・二次元には全然かなわないがな
「葵と話したいならなんとかしてやれるぞ?」
俺の発言に柏木は「なんでわかったの?」という顔をしている
柏木が俺を頼る悩みなんて葵のことしかないし今日のこいつは葵をチラチラ見るだけで近づいたりせず明らかに挙動不審だった
「それで、どうすんの?」
「え、いや話す機会は欲しいから・・・お願いします」
予想以上に素直だった
「わかった」
俺が了承したのとほぼ同時に葵が戻ってきた
(ふふふ、ギャルゲーで鍛えた俺のフラグたての力見せてしんぜよう)
俺は一人誰にも気づかれないようにほくそ笑む





〈星原 葵〉
教室に戻ると隆盛と一人の女の子が楽しそうに話していたが俺と目が合うと笑顔が固まった
俺なんかしたかな?
「・・・」
「葵ちょうどよかった。ちょっと来てくれ」
「ん?なに?」
隆盛に呼ばれて教室に入ると朝の自己紹介の時とは違う恨みや妬み、品定めをするかのような視線がとんでくる
「なあ、俺なんかしたか?」
俺が尋ねると隆盛も視線に気づいたようで
「そりゃあ、あんな美少女に抱きつかれてたらな」
隆盛の指摘でようやく自分が注目されてる理由がわかった。瑞樹は身内贔屓無しにしても美少女と言えるほどの可愛さを持っている。つまり恨み妬みの類が男子から、品定めのような視線が女子からということか
「それで何かよう?」
「ん?あ、葵に紹介したい人がいるんだよ」
「この人?」
俺は隆盛と話していた女子に視線を送る
「そう、こいつは柏木 楓。うちのクラスの人気者なんだぜ」
「・・・」
「ん?葵どうかしたか?」
「いやちょっと気になることがあってな」
俺はもう一度柏木さんの顔を失礼と思うがまじまじと見つめる。俺に見られるのが嫌なのか柏木さんはさっきからずっと下を向いて耳を赤くしている
「あ、ごめん。それよりさ柏木さん、昔俺と会ったことない?」
どこかで見たことある気がする
俺が尋ねると俯いていた柏木さんが弾かれるように顔を上げた
「お、覚えてるの?」
「えっと、多分だけど五年前の夏祭りだったけ?」
「そう!」
「え、まさかの展開。俺のギャルゲーの腕の見せ場は?」
「何言ってんだ隆盛」
「いやこっちの話。それよりもよくそんな昔のこと覚えてるよな」
「まぁそりゃあ・・・言っていいの?」
「ダメ」
当時のことを思い出したのかさっきよりも更に顔を赤く染めている
「なんだよそれー。疎外感を感じるんだけど」
「はは、まあ柏木さんに教えて貰えばいいよ」
「助けてやったんだあとで教えろよな」
「いーやーだ」
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了のチャイムが鳴り柏木さんは席に着く
「おい葵あとでこっそり教えてくれないか?」
「・・・柏木さんが許可したらな」




〈柏木 楓〉
「・・・はあ」
今日何度目かわからないため息をこぼすが午前までのと違い幸福感に包まれている
「葵くんが覚えていてくれてたなんて・・・」
今までの緊張が一気に緩んだことに弁当を食べてお腹が満たされていることも重なって抗いがたい眠気に襲われて眠りの世界に入っていく



〈五年前〉
「・・・」
当時引っ越してきたばかりの私には友達がいなく一人でお祭りに参加していたのだが周りは家族やカップル、友達同士で来ていて私は夏祭りの喧騒すら孤独感を強く感じてしまっていた
「もう帰ろう」
そう思ったのはいいものの引っ越したばかりで自分の家がどこかすらわからない
せめて人の少ないところに行こうと思い人の流れとは逆の方向へと進んでいるといつのまにか神社の境内に来ていた
「・・・」
境内から見る祭りはとても幻想的で更に自分の孤独を際立たせていた
「・・・ねぇ」
「ひっ!」
そんなときに後ろから声をかけられ反射的に悲鳴をあげそうになるが相手の格好をみて悲鳴を抑える
私に話しかけてきたのは半袖に短パンといかにも子供っぽい格好をした同じくらいの歳の男の子だった
「こんなところでどうしたの?」
「・・・」
「もしかして迷子とか?」
「ち、違う、そんなわけないでしょ!」
とっさに嘘をついてしまった
「そっか。でもこんなところでなにしてるの?」
「べつになんでもいいでしょ!名前すら知らない君には関係のないことだよ」
「・・・」
そこでその男の子はなにか考えるそぶりを見せて
「ねえ君名前なんていうの?」
「はあ?」
「あ、僕は星原 葵だよ」
「・・・柏木 楓」
「ふーん、よろしくね楓」
いきなり名前呼びなんて人懐っこいなこいつ
「それでさ僕一人で祭りをまわってたんだけど一人だとつまらないから一緒に行かない?」
「・・・友達いないの?」
「いるよ。でもみんな隣街の大きな花火大会に行ってて一人なんだ」
なにこの街隣の街と花火大会で勝負とかしてるの ︎
「君もそっちに行けばよかったのに」
「毎年そうしてたけど今年はお母さんとお父さん忙しくて・・・」
この子私と同じなんだ
「わかったよ。私も一人じゃつまらないと思ってたし一緒にまわろ」
「じゃあ行こ!」
そう言って葵は私の手を掴んで走り出す



「そろそろかな?」
あたりは未だに祭りのおかげで明るいが時間はすでに7時半を過ぎていた
「ふーたくさん買っちゃった」
葵は両手にたくさんの屋台で買ったものを抱えていた
「それで次はどこに行くの?」
最初は渋々だったがいつのまにか私も夏祭りを楽しんでいた
「そろそろ時間だからもう屋台には行かないよ」
だからそう言われて寂しさが増した
「そう、だよね。もう遅いし帰らないとね」
私はまた一人になるのが嫌だったが出来るだけ強がった
しかし葵はなぜか驚いたように言った
「もう帰るの?」
「だって葵が時間だからって」
「僕はまだ帰らないよ」
私の早とちりだったようだ
「そ、それならどこにむかってるの!」
私は恥ずかしさを紛らわすために語尾を強める
「・・・」
そこでまた何かしら考えて
「内緒」
なにかイタズラを閃いたような子供の顔で言った
「なんでよ」
「まあいいからついてきてよ」
そう言って葵は私に荷物の半分を持たせて空いた片手で私の空いている手を握って祭りの会場から出る
「ちょっとどこに向かってるの!」
「まあまあ」
何度聞いても葵はそれだけ言ってどこかへと連れて行く
(は!もしかしたらこのまま大人の人に私を渡すのかも)
そういう考えが頭をよぎるとマイナスのことしか考えられなくなる
私が悪いことばかりを考えていると
「ついたよ」
いつのまにか小さな山の上にいた
「ここは?」
「え、知らないの?」
知っていて当然という顔で聞いてくる
「うん。最近引っ越してきたから」
「ああだからあんなところで迷子になってたのか」
勝手に納得する葵
「てか、迷子じゃないから」
「はいはい」
その時遠くで何かが爆発した音が聞こえた
「あ、もう始まった」
そう言って葵は私の手を離し奥に進んで行く
「こっちだよー」
手招きされた方に行くと
「うわぁ」
つい感嘆の
声を出してしまった
「ここ友達から教えてもらった秘密の場所なんだ。綺麗な花火が観れるのに全然人がいないって。すごいでしょ」
「うん」
大きな花火が目の前でいくつも綺麗な丸を作って咲く
「座りなよ」
葵はそう言って自分の横をポンポンと叩く私は言われたとおりに腰を下ろす
「・・・・」
「・・・・」
私たちはなにも喋ることなく花火を見続ける



どれくらい時間が経っただろうか私は独り言のようにつぶやく
「どうして誘ってくれたの?」
「寂しそうにしてたから・・・」
聞こえていたことへの恥ずかしさが込み上げてくるが最後に一言言っておきたかったことを言う
「誘ってくれてありがとう」
しかしちょうどフィナーレの花火が目の前で咲き私の声は花火の音でかき消された
「ん、なに?」
「いやなんでも」
眼下では花火終了のアナウンスが流れていた
「それじゃあそろそろ帰ろっか」
「あ!」
そこで私は自分が迷子だということを思い出した
「どうしたの?」
「えっと、家の場所がわからない」
声が尻すぼみになっていくがすぐそばにいた葵には聞こえていたようで
「やっぱり迷子なんじゃん」
そう言って葵はくすくすと笑っていた
それにつられて私も笑ってしまう
そのあとは葵に教えてもらいながら結局家まで送ってもらった
「じゃあな」
「うん、またね」
今思えば私はこの時には葵のことを好きになっていたのかもしれない




「・・・わぎ、起きろ柏木 楓!」
先生に名簿で頭を叩かれて目を覚ます
「は、はいなんですか?」
「なんですかじゃないだろう・・・」
キーンコーンカーンコーン
「・・・今日はここまで。柏木お前はいつも真面目だから今回は許してやる」
そう言って先生は教室から出て行った
「楓が授業中に居眠りなんて珍しいね。なんか幸せそうだったけどどんな夢をみてたの?」
クラスメイトで親友の本田 麻耶に尋ねられるが葵君と出会った時のことを思い出していたなんて言えるはずがない。というか葵君に寝顔見られてないよね
そう思い葵君のほうをチラッと見ると
「スー、スー」
授業が終わったのにまだ寝ていた
(写真撮って待ち受けにしたい!)
隆盛君はそんな葵君を起こさずにスマホのカメラで撮影していた
(・・・あとで送ってもらおう!)
結局葵君は次の授業で先生に起こされるまでぐっすりだった。

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