最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

秘密の魔法陣

「ちょっと反応が薄くない? もっとこう、歓迎の拍手とかないのかな?」

 人になった魔剣、レクシアを見て呆然とするワタルとエレナへ、レクシアがムッとした表情で文句を言う。

「脳が追いつかない」
「人の姿になる魔剣など、わしも初めてみるんじゃが」

 それもそのはずで、ワタルとマリーはどちらも脳の処理が追いついてなかった。
 エリヤが人格のある魔剣、と言っていたのだが、まさか人の姿になるなど考えもしなかった。

「とりあえず、いろいろ教えて欲しいことがあるんだけど」
「私の知る限りのことなら、なんでも教えてあげるよ」

 頭を整理し、ワタルがレクシアへと質問を始める、
 それでわかったのは、レクシアは神殺しと呼ばれる魔剣で、レクシアを恐れた神々が封印したということ。
 レクシアには呪いが掛けられており、普通なら触ることすらできないということ。
 主にこの2つだった。

「それで、なんで人の姿になれるの?」
「私にもよくわからないんだよね。私が作られたのって数千年前なんだけど、自我が生まれて、人の姿になれるようになったのは100年前ぐらいかな。」
「原理がさっぱりじゃな。意味がわからん」
「私以外の魔剣も、その頃に自我を持ったから、100年前になにかあったんだと思うよ。私以外はみんな壊れちゃったけど」

 レクシア自身も最初から人の姿になれる訳ではなく、気付いたら自我が生まれ、人の姿になれるようになったのだという。
 そんな魔法は見たことも、聞いたことすらない。

「禁忌の魔法かのう」
「禁忌の魔法ってそんなこともできるの?」
「魔法の常識を覆すものばかりじゃからな。ありえん話ではない」

 相談するワタルとマリーを、レクシアがじっと見つめる。
 その視線に気付いた2人が、何か用があるのかとレクシアへと顔を向ける。

「2人は恋人同士なの?」
「なんて?」

 脈絡もなく、そんなことを言ってくるレクシアへ、思わずワタルが聞き返す。

「仲が良さそうに見えたから、恋人なのかなって思って。違うの」
「違うよ。俺たちは同じパーティの仲間だから」

 ワタルはそう言ってマリーの方を向き、同意を求めようとするが、マリーは俯いて動いていなかった。

「マリー?」
「わ、私たちが恋人なんてないから! そう、仲間だから!」
「あ、うん。そうだね」

 マリーは顔を赤くし、ぶんぶんと首を振る。
 精神年齢が低く、魔女になってからは男と関わることはなかったため、恋愛経験のないマリーは初だった。
 ワタルとして、肯定されるのも困るが、ここまで慌てて否定され、内心かなり傷ついていた。

「恋人じゃないなんてもったいないね。惹かれ合う男と女、純粋な恋愛。素晴らしいものよ」
「あー」

 突然愛を語りだしたレクシアを見て、ワタルは悟った。
 この魔剣、恋愛脳なんだ、と。

「あのさ、とりあえずその話は置いといて、この場所ってレクシア以外になにかあったりする?」
「特になにもないと思うよ。あ、でも奥に通路があるでしょ? 私はあそこに入れなかったんだけど、奥になにかあるみたい」

 このままではレクシアの恋愛語りが続きそうだったので、ワタルが話を変える。
 この場所は魔剣の封印以外に、なにか目的はないかと思いそう聞いた。
 レクシアが言う奥の通路というのは、レクシアが刺さっていた台座の後ろに、隠れるようにして下へと続いていた。
 ワタルはマリーにエレナを任せ、レクシアとその通路へ向かう。

「レクシアは入れないんだっけ?」
「そうなの。私が入ろうとすると、結界みたいなのが張ってあって、通れなくて」

 そう言ってレクシアが通路の入口へ手を伸ばすと、見えない壁に阻まれるように、それ以上奥へ手を伸ばせない。

「俺は……入れるみたいだね」

 ワタルも警戒したがら手を伸ばすと、なんの抵抗もなく通路へと入れた。
 レクシアになにかあったら大声で呼ぶように頼み、ワタルはゆっくりと下へ続く通路を歩く。

「なんでこんな通路が……」

 少し歩いたところで地面は水平になり、松明などはないのに明るい通路──恐らく魔法によるものだろう──を進んでいく。
 通路は一本道で、道中には何もなかったが、しばらく歩くと通路の再奥へとたどり着く。
 そこは狭い通路とは違い、少し広めに作られた部屋だった。
 部屋には魔法陣があり、その中心に1冊の本が置いてある。

「読めないね、これ」

 その本に慎重に触れて、罠がないことを確認してワタルは本を拾い上げる。
 表紙には何も書いておらず、中をパラパラとめくってみるが、見たことない文字ばかりでワタルには読めなかった。
 ワタルはひとまず本をしまうと、鞄から紙とペンを取り出し、床の魔法陣を模写していく。

「マスター! 早く戻ってきて!」

 あと少しで模写が終わるというところで、通路の入口の方から、小さく響いたレクシアの声が聞こえた。
 ワタルは慌てて模写を終わらせ、元来た道を全力で走って戻っていく。

「早く早く!」

 ワタルが通路から出ると、エレナを背負ったレクシアと、マリーが洞窟の通路でワタルに急ぐように言っていた。
 その原因はこの空間で、壁と天井が狭まってきており、既に最初に来た時の10分の1ほどの広さもなくなっていた。

「部屋が狭まるなんて聞いてない!」

 ワタルは弾かれたままだった剣を拾い、急いで通路へと走る。
 間一髪のところで体ごと飛び込み、なんとか押し潰されるのだけは避けることができた。
 振り向くとそこは岩肌の壁で、最初からそこは行き止まりであったかのように、空間があった痕跡はなくなっていた。

「どうなってるんだろ」
「空間魔法……いや、それにしては規模がおかしい。どれだけ優秀な魔導師でも、小部屋を作るぐらいしかできないはずじゃが」

 空間まほうとは、何もない場所に空間を作り、そこに物を入れておける最高難易度の魔法だ。
 書物には、過去に自分の剣を収納できる空間を作る魔導師が作った空間が、最大の大きさだと書いてある。
 それらから、マリーはすぐに魔法によるものの可能性を排除する。

「なんにしても、まずは報告だね」
「そうじゃな」
「あ、私も連れていってくれるよね。マスター」

 ワタルとマリーの間に入り、レクシアがニコニコとした笑顔で聞いてくる。
 もちろんワタルは断る理由がないため、レクシアを快く迎える。

「うん。よろしくね、レクシア」

 その言葉を聞いて上機嫌になったレクシアを連れ、洞窟の外へと歩く。
 途中でエレナも意識を取り戻し、理由を説明してそれぞれレクシアへ自己紹介し、4人で楽しく王都へと帰っていった。

「最強になって異世界を楽しむ!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く