最強になって異世界を楽しむ!
装飾曲3
「ふう〜……」
自分とエレナの前に土の壁を作り、爆風の影響を受けないようにしたリナは、大きく息を吐き、呼吸を整える。
爆発の範囲や威力は、マリーに遠く及ばないが、アラベスクを包み込むには十分な範囲だった。
間違いなく直撃、直前までそれを目で確認していたリナは、エレナへ駆け寄る。
「どこへ行く」
爆風での中心から、低く冷たい声が聞こえた。
リナは思わず足を止め、見たくないという己の気持ちを抑え、ゆっくり振り返る。
爆風が収まっていき、そこから姿を現したのは、左腕と左足を失ったアラベスクだった。
「その状態では勝ち目は低いはずです。大人しく引いてください」
「引いてください、か。今追撃すれば俺を殺せるかもしれないぞ?」
今のリナは、かなりの魔力を使ってしまっている。
マリーの魔力量が異常なだけであり、普通は魔法陣を2回も使えば休憩が必要になる。
短剣を使った接近戦もできなくはないが、今のアラベスク相手でも、通じるかどうか怪しい。
「だがまあ、この慢心のせいでさっきは死にかけた。おまえ達に抵抗する力がなくても、敬意を示して全力で殺してやろう」
「左半身がほとんどないのに、全力ですか」
「教えといてやる。俺たち幹部の中に最初から全力を出すやつはいない。人間相手に本気なんて、みっともないからな」
喋るアラベスクの体は、少しずつだか大きくなっていた。
体の変化をリナが警戒していると、アラベスクは言葉を続ける。
「俺たちが本気を出すのは、敵が自分と同等かそれ以上だと思った時だけだ。そして、お前は本気を出すに値する」
アラベスクの爪と牙は鋭く伸び、背中からコウモリのような羽が生える。
肉体は倍の大きさとなり、人間に近かった姿は今は影も形もない。
「カッコ悪くなりましたね」
「すぐにその口を開けなくしてやろう」
リナは時間を稼ぐため、短剣を構えて魔法の準備をする。
追ってくるだろう、ワタルたちを待つために。
***
「爆発音?」
「爆発魔法じゃな。ペースを上げるぞ。もうすぐ着くじゃろう」
リナの使った爆発魔法は、ワタルとマリーにも聞こえていた。
2人は要塞の方向から聞こえたその音に、戦闘が始まっていることを知り速度を上げる。
そのまま走ること2時間。
2人が目にしたのは、一目見ただけでは整理できない光景だった。
要塞は崩れ、地面の所々に赤い槍が刺さっている。
そして、光景の中心には化け物という名が相応しい生物が、人間の姿をした女性と戦っていた。
女性の方は疲労が蓄積しているようで、体に数多くの切り傷ができ、血を流していた。
「マリー!」
「わかっておる!」
2人はその女性がリナだと気付き、ワタルは化け物へと走り出し、マリーは魔法陣を展開する。
そこで魔力を感知したのか、化け物がワタルの後ろ、マリーへと視線を向ける。
だが、その時にはワタルが魔剣レクシアを引き抜き、斬り掛かっていた。
化け物は両手の爪を交差させて防ぐが、ワタルがそこを無理矢理押し込み、後ろへと引かせる。
「待ってましたよ」
リナは目の前に立つワタルを見て、気が抜けたのかその場に座り込む。
化け物はそれを見るなり、足元の血だまりから槍を作り出し、ワタルとリナに向けて投擲する。
「止めろ」
マリーが魔法を発動させ、ワタルとリナの目の前に土の壁を作り出し、血の槍を防ぐ。
「リナさん、エレナは?」
「無事ですよ。今は少し離れた木陰で休んでもらってます」
「そうですか。よかった」
ワタルはエレナの安否を聞き、リナの答えに安堵する。
リナも傷は負っているが全て軽傷で、それよりも精神的な疲れの方が酷そうだった。
「増援か。よく時間を稼いだものだ」
「ワタルさん、あれが魔王軍幹部のアラベスク。真祖の吸血鬼です」
アラベスクは化け物となった姿で、ワタルとリナを見る。
ワタルはアラベスクから少しも視線を外さずに、マリーを呼びリナを庇うようにして立つ。
「リナさん、まだやれますか?」
「魔力はほとんどないですけど、あと数発なら」
「なら3人でやりましょう。幹部相手ですから」
「私もいるよー」
ワタルはアラベスクを間近で見て、下手をすれば簡単に殺される相手だと悟る。
レクシアはワタルの言葉に文句を言い、リナは立ち上がって短剣を構える。
「死体が3つ増えたな」
「死ぬのはそっちですよ。召喚『アンデッド』」
「生まれよ、ゴーレム」
アラベスクがそう言ってこちらへ踏み込もうとする瞬間に、ワタルとマリーが同時にスキルと魔法を使う。
アンデッドとゴーレム、合わせて30を超える数が、アラベスクへと襲いかかる。
アラベスクは鬱陶しそうにそれらを見て、血の剣を作り薙ぎ払っていく。
アンデッドとゴーレムたちもアラベスクに傷はつけるが、傷は浅くすぐに消えていく。
「大火力で一気に叩くよ。2人は魔法陣を」
「了解じゃ」
「わかりました」
ワタルはマリーとリナに指示を飛ばし、アラベスクへと走り距離を詰めていく。
アラベスクは最後のアンデッドとゴーレムを薙ぎ払い、ワタルの方を向いて血の剣を構える。
「レクシア、聞いてたよね」
「もっちろん」
「よし。俺とレクシアで動きを止めるよ」
「はーい」
ワタルはレクシアと簡単に方針を確認し、魔剣レクシアをアラベスクへ投擲する。
アラベスクはそれを血の剣で上へと弾くが、それはワタルの予想通りだった。
「私も活躍するよ」
上へと弾かれた魔剣レクシアは、人の姿へと変わる。
その瞳は黄色になっており、レクシアの右腕は電撃を纏っていた。
その腕を振り下ろすと、真下のアラベスクへ電撃が飛び、そんな攻撃を予想もしていなかったアラベスクは電撃をまともに受け、隙ができる。
「なに」
「水よ、包み込め」
そこへ、ワタルが魔法によって水でアラベスクを包み込む。
ワタルは水球の水圧を上げようとするが、水球が見る見るうちに赤黒く染まっていく。
やがて水球は完全に赤黒くなると、色の変わった水球から大量の水の礫が2人に飛んでいく。
「ぐっ」
ワタルは近くに着地したレクシアを引き寄せ、盾で水の礫から身を守る。
幸い衝撃も軽いもので、礫は全て防ぐことができた。
盾から顔を出して水球を見ると、水球はばしゃりと崩れ中から無傷のアラベスクが出てくる。
「血が溶けた液体は操作範囲内だ」
「相性悪すぎるね。レクシア、左右から行くよ」
「うんっ!」
ワタルの得意の水魔法が通じないと知ると、すぐに攻撃を剣による接近戦へと変える。
ワタルは右から夜想曲の剣を、レクシアは左から自分の右腕だけを魔剣へと変化させ、同時に斬り掛かる。
「人間如きの力で……っ!?」
アラベスクは両手に血の剣を持ち、ワタルとレクシアの攻撃を受け止めようとするが、想像以上の力だったのか、アラベスクの膝が曲がる。
「炎よ、燃え移れ」
そこへワタルは炎を、レクシアは電撃を剣を伝わせて流す。
アラベスクは対応が遅れ、両腕の肘までに傷を負い後退する。
「おまえ達、人間か?」
「普通の人間ですよ」
「私は魔剣だけどね」
すかさず追撃をかける2人だが、その剣はアラベスクの四方に現れた血の壁により、弾かれ後ろへ下がる。
「今夜は満月だ。おまえ達のような実力者を殺すに、相応しい夜だ」
唐突にそう呟いたアラベスクの言う通り、辺りは薄暗くなり、月が光り始めていた。
満月のため明るいが、日が出ている時に比べると視界が悪い。
「血よ、集まれ」
アラベスクの言葉に応えるように、周囲の血がアラベスクの頭上へと集まる。
要塞の内部の血も集まっているようで、血の球は直径5mを超える大きさとなる。
「これを使うのはおまえ達で2回目だ」
アラベスクが右手を上げると、血の球が分かれていき、大量の血の槍を作り出す。
その数は100を優に超えていて、矛先は半分がワタルとレクシアに、もう半分が後方のマリーとリナへ向けられている。
「いくぞ」
アラベスクが右手を振り下ろすと、血の槍が雨のように一斉に4人に降り注ぐ。
自分とエレナの前に土の壁を作り、爆風の影響を受けないようにしたリナは、大きく息を吐き、呼吸を整える。
爆発の範囲や威力は、マリーに遠く及ばないが、アラベスクを包み込むには十分な範囲だった。
間違いなく直撃、直前までそれを目で確認していたリナは、エレナへ駆け寄る。
「どこへ行く」
爆風での中心から、低く冷たい声が聞こえた。
リナは思わず足を止め、見たくないという己の気持ちを抑え、ゆっくり振り返る。
爆風が収まっていき、そこから姿を現したのは、左腕と左足を失ったアラベスクだった。
「その状態では勝ち目は低いはずです。大人しく引いてください」
「引いてください、か。今追撃すれば俺を殺せるかもしれないぞ?」
今のリナは、かなりの魔力を使ってしまっている。
マリーの魔力量が異常なだけであり、普通は魔法陣を2回も使えば休憩が必要になる。
短剣を使った接近戦もできなくはないが、今のアラベスク相手でも、通じるかどうか怪しい。
「だがまあ、この慢心のせいでさっきは死にかけた。おまえ達に抵抗する力がなくても、敬意を示して全力で殺してやろう」
「左半身がほとんどないのに、全力ですか」
「教えといてやる。俺たち幹部の中に最初から全力を出すやつはいない。人間相手に本気なんて、みっともないからな」
喋るアラベスクの体は、少しずつだか大きくなっていた。
体の変化をリナが警戒していると、アラベスクは言葉を続ける。
「俺たちが本気を出すのは、敵が自分と同等かそれ以上だと思った時だけだ。そして、お前は本気を出すに値する」
アラベスクの爪と牙は鋭く伸び、背中からコウモリのような羽が生える。
肉体は倍の大きさとなり、人間に近かった姿は今は影も形もない。
「カッコ悪くなりましたね」
「すぐにその口を開けなくしてやろう」
リナは時間を稼ぐため、短剣を構えて魔法の準備をする。
追ってくるだろう、ワタルたちを待つために。
***
「爆発音?」
「爆発魔法じゃな。ペースを上げるぞ。もうすぐ着くじゃろう」
リナの使った爆発魔法は、ワタルとマリーにも聞こえていた。
2人は要塞の方向から聞こえたその音に、戦闘が始まっていることを知り速度を上げる。
そのまま走ること2時間。
2人が目にしたのは、一目見ただけでは整理できない光景だった。
要塞は崩れ、地面の所々に赤い槍が刺さっている。
そして、光景の中心には化け物という名が相応しい生物が、人間の姿をした女性と戦っていた。
女性の方は疲労が蓄積しているようで、体に数多くの切り傷ができ、血を流していた。
「マリー!」
「わかっておる!」
2人はその女性がリナだと気付き、ワタルは化け物へと走り出し、マリーは魔法陣を展開する。
そこで魔力を感知したのか、化け物がワタルの後ろ、マリーへと視線を向ける。
だが、その時にはワタルが魔剣レクシアを引き抜き、斬り掛かっていた。
化け物は両手の爪を交差させて防ぐが、ワタルがそこを無理矢理押し込み、後ろへと引かせる。
「待ってましたよ」
リナは目の前に立つワタルを見て、気が抜けたのかその場に座り込む。
化け物はそれを見るなり、足元の血だまりから槍を作り出し、ワタルとリナに向けて投擲する。
「止めろ」
マリーが魔法を発動させ、ワタルとリナの目の前に土の壁を作り出し、血の槍を防ぐ。
「リナさん、エレナは?」
「無事ですよ。今は少し離れた木陰で休んでもらってます」
「そうですか。よかった」
ワタルはエレナの安否を聞き、リナの答えに安堵する。
リナも傷は負っているが全て軽傷で、それよりも精神的な疲れの方が酷そうだった。
「増援か。よく時間を稼いだものだ」
「ワタルさん、あれが魔王軍幹部のアラベスク。真祖の吸血鬼です」
アラベスクは化け物となった姿で、ワタルとリナを見る。
ワタルはアラベスクから少しも視線を外さずに、マリーを呼びリナを庇うようにして立つ。
「リナさん、まだやれますか?」
「魔力はほとんどないですけど、あと数発なら」
「なら3人でやりましょう。幹部相手ですから」
「私もいるよー」
ワタルはアラベスクを間近で見て、下手をすれば簡単に殺される相手だと悟る。
レクシアはワタルの言葉に文句を言い、リナは立ち上がって短剣を構える。
「死体が3つ増えたな」
「死ぬのはそっちですよ。召喚『アンデッド』」
「生まれよ、ゴーレム」
アラベスクがそう言ってこちらへ踏み込もうとする瞬間に、ワタルとマリーが同時にスキルと魔法を使う。
アンデッドとゴーレム、合わせて30を超える数が、アラベスクへと襲いかかる。
アラベスクは鬱陶しそうにそれらを見て、血の剣を作り薙ぎ払っていく。
アンデッドとゴーレムたちもアラベスクに傷はつけるが、傷は浅くすぐに消えていく。
「大火力で一気に叩くよ。2人は魔法陣を」
「了解じゃ」
「わかりました」
ワタルはマリーとリナに指示を飛ばし、アラベスクへと走り距離を詰めていく。
アラベスクは最後のアンデッドとゴーレムを薙ぎ払い、ワタルの方を向いて血の剣を構える。
「レクシア、聞いてたよね」
「もっちろん」
「よし。俺とレクシアで動きを止めるよ」
「はーい」
ワタルはレクシアと簡単に方針を確認し、魔剣レクシアをアラベスクへ投擲する。
アラベスクはそれを血の剣で上へと弾くが、それはワタルの予想通りだった。
「私も活躍するよ」
上へと弾かれた魔剣レクシアは、人の姿へと変わる。
その瞳は黄色になっており、レクシアの右腕は電撃を纏っていた。
その腕を振り下ろすと、真下のアラベスクへ電撃が飛び、そんな攻撃を予想もしていなかったアラベスクは電撃をまともに受け、隙ができる。
「なに」
「水よ、包み込め」
そこへ、ワタルが魔法によって水でアラベスクを包み込む。
ワタルは水球の水圧を上げようとするが、水球が見る見るうちに赤黒く染まっていく。
やがて水球は完全に赤黒くなると、色の変わった水球から大量の水の礫が2人に飛んでいく。
「ぐっ」
ワタルは近くに着地したレクシアを引き寄せ、盾で水の礫から身を守る。
幸い衝撃も軽いもので、礫は全て防ぐことができた。
盾から顔を出して水球を見ると、水球はばしゃりと崩れ中から無傷のアラベスクが出てくる。
「血が溶けた液体は操作範囲内だ」
「相性悪すぎるね。レクシア、左右から行くよ」
「うんっ!」
ワタルの得意の水魔法が通じないと知ると、すぐに攻撃を剣による接近戦へと変える。
ワタルは右から夜想曲の剣を、レクシアは左から自分の右腕だけを魔剣へと変化させ、同時に斬り掛かる。
「人間如きの力で……っ!?」
アラベスクは両手に血の剣を持ち、ワタルとレクシアの攻撃を受け止めようとするが、想像以上の力だったのか、アラベスクの膝が曲がる。
「炎よ、燃え移れ」
そこへワタルは炎を、レクシアは電撃を剣を伝わせて流す。
アラベスクは対応が遅れ、両腕の肘までに傷を負い後退する。
「おまえ達、人間か?」
「普通の人間ですよ」
「私は魔剣だけどね」
すかさず追撃をかける2人だが、その剣はアラベスクの四方に現れた血の壁により、弾かれ後ろへ下がる。
「今夜は満月だ。おまえ達のような実力者を殺すに、相応しい夜だ」
唐突にそう呟いたアラベスクの言う通り、辺りは薄暗くなり、月が光り始めていた。
満月のため明るいが、日が出ている時に比べると視界が悪い。
「血よ、集まれ」
アラベスクの言葉に応えるように、周囲の血がアラベスクの頭上へと集まる。
要塞の内部の血も集まっているようで、血の球は直径5mを超える大きさとなる。
「これを使うのはおまえ達で2回目だ」
アラベスクが右手を上げると、血の球が分かれていき、大量の血の槍を作り出す。
その数は100を優に超えていて、矛先は半分がワタルとレクシアに、もう半分が後方のマリーとリナへ向けられている。
「いくぞ」
アラベスクが右手を振り下ろすと、血の槍が雨のように一斉に4人に降り注ぐ。
コメント