最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

魔女の里1

「腕が動かない」

 魔族の大軍との戦闘から3日。
 ワタルはレクシアの力の反動は収まったが、それ以上に厄介なことが残っていた。
 幹部コラールから受けた呪い。
 それは未だに解けず、ワタルの左腕はピクリとも動かない。

「ハラル、これ治せない?」
「今の私は人間と同じですからね。本来なら簡単なんですけど」

 ハラルは朝食を食べながら答える。

「カレンに見せたらどうだ?」
「一昨日見せてきたよ。無理だって言われた」

 教会にも行ったが、カレン曰く、自分より強い相手から受けた呪いは治せない、とのことだった。

「ワタルくんの呪いは、コラールを倒さないと解けないってこと?」
「そうみたい」

 ワタルは大きく肩を落とし、ため息をつく。
 今のところ、コラールを倒せそうなのはハラルぐらいだ。
 そのハラルも、真面目にやればあの悪魔は私よりよっぽど強い、と言っていた。

「治す方法ならあるぞ」
「それ本当!?」

 マリーの言葉に、ワタルが食い入るように反応する。

「うむ。じゃがのう……」
「どうかした?」
「いや、この方法はあまりおすすめできんのじゃが……」

 言いにくそうというより、心底嫌そうにマリーが言葉を濁す。

「治せるなら、どんな方法でも頑張るよ」
「……そうじゃな。ワタルのためじゃ」

 ワタルの言葉を聞き、マリーも決心したように、口を開いた。

「魔女の里なら、確実に治せるはずじゃ」

 魔女の里。
 人間と魔族のハーフである魔女が住む里で、その場所は誰も知らないと言われている。
 魔女というだけあって女しかいないが、その戦闘能力は1国を凌ぐほどだとか。

「魔女の里かー」

 それを聞いたワタルの顔は晴れない。
 確かに、魔女の里ならば呪いを解くぐらい簡単なのだろう。
 だが、現在魔女は人間を嫌っており、互いに不可侵となっている。
 そんな場所に行くのは、流石に気が引ける。

「場所はわかるの?」
「わしも魔女じゃからな。当然わかるとも」
「よし、なら今から行こう」

 一刻も早く左腕を治したいワタルは、そう提案する。

「それは構わんが、全員は無理じゃ」
「どうして?」
「わしがついていても、里の中に入れることができるのは2人までじゃ。1人はワタルとして、あと1人は……」
「私行きたいです」

 マリーがワタル以外の3人を見回すと、すぐにハラルが手を上げた。

「ハラルなら魔法への耐性もある。申し分ないのじゃ」
「魔女の里、行きたかったんですよね」

 マリーの許可も得たハラルは、嬉しそうにニコニコしている。

「魔女を捕まえて奴隷にする、とかやらないよね?」
「ワタルは私をなんだと思っているんですか」

 その様子に違和感を覚えたワタルだったが、すぐにハラルに心外だと返される。

「私だって、魔女の里はみたことないんですよ。前行こうとしましたけど、見つけられませんでしたし」
「魔女の里は、魔法で普段は見えないようにされておるからな。場所を知ってなければ辿り着けん」

 魔女の里と言うほどなのだから、里1つ隠すのは容易なのだろう。
 それだけのことをやってのける集団だ。
 ワタルは気を引き締める。

「私とレクシアは留守番だな」
「私も行きたかったけど、魔法相手だとハラルの方がいいもんね」

 エレナとレクシアも納得しており、2人とも留守番を了承してくれた。

「魔女の里までは、片道で1週間はかかる。が、今回はわしが作っておいた転移魔法陣を使う」

 転移魔法陣とは空間魔法の1種で、膨大な魔力と魔法陣を作ることのできる魔女の移動手段だ。
 ワタルも文献で見たことしかなく、マリーが使わないので迷信だと思っていた。

「なんで今まで使わなかったの」
「1度行った場所にしたか使えんからな。わしが移動できるのは、魔女の里の近くと、王都だけじゃ」
「転移魔法陣を使えば、すぐに着くんですよね。なら、少し準備してから行きましょうか」

 そんなわけで、魔女の里に3人で行くことになり、準備をすることになった。



 それぞれ武器などの装備を整え、王都の北門から出てかなり離れた。

「人目につくと面倒じゃからな。さて、行くかのう」

 周囲に人の目が無いことを確認し、マリーが魔力を込めて魔法陣を展開する。
 この作業には少し時間がかかるとのことなので、その間ワタルはハラルに話しかける。
 今のハラルは、動きやすいようにか、銀髪をツインテールにしている。

「ハラルって、なんでステータス耐久特化なの? 筋力特化とかにして、相手をぶん殴ったりする方が好きだと思うんだけど」

 これは、ワタルがハラルのステータスを見た時から感じていた疑問だった。
 Sっ気のあるハラルならば、わざわざ攻撃を受けるような耐久特化のステータスはおかしい、そう思い。

「わかってませんね。耐久特化のステータスで、相手の攻撃を全部防いで戦意をなくさせて、ゆっくりいたぶるのが楽しいんです」

 想像していたよりも、かなり斜め上のエグい答えが返ってきた。

「女神とは思えないね」
「ワタルも試して見ますか? 私と模擬戦でもして」
「絶対嫌だ」

 ハラルと模擬戦などしたら、、絶対にただでは済まない。
 ワタルは即答して断る。

「2人とも、準備ができたぞ。魔法陣に の中に入るのじゃ」

 話しているうちにマリーの転移魔法陣が完成し、2人はその中へ入る。

「では、行くぞ」

 マリーが転移魔法陣を発動させると、景色が一瞬で切り替わる。
 変わった先の景色は、日も当たらず薄暗い木々の中、森だった。

「ここから1時間ほど歩けば、魔女の里に着くはずじゃ」

 マリーを先頭に、3人は森を進んで行く。
 マリーの足取りはしっかりとしたものだが、ワタルとハラルならば、まず間違いなく迷っていたと思えるほど、森は同じ景色が続いていた。

「そうじゃ。わしはほかの魔女から嫌われておるからな。もしかしたら戦闘になるかもしれん」
「初耳なんだけど」
「初めて言ったからのう」

 歩き始めてしばらく経った時、マリーが思い出したように2人にそう伝える。

「ここじゃ」

 それからまたしばらく歩き、マリーが足を止める。

「なにもないね」
「森ですね」

 事前に言っていたとおり、魔法で里を見えなくしているのか、2人には森にしか見えなかった。
 マリーが聞いたことのない言葉を呟き、杖を振ると突然目の前に、大きな門が現れる。

「認識阻害の魔法が解かれた!」
「いったい誰だ!」

 すると、門が開き中から十数人の女性たちが、騒ぎながら出てくる。

「久しぶりじゃな」
「マリー、何をしにきた」

 マリーをみた女性たちは、敵意こそ見せないものの、警戒をあらわにしている。

「ちょっと用事があってじゃな。長老様はいるかのう?」
「長老様なら2年前に亡くなられたよ。今はボクがこの里の長だ」

 その女性たちの奥から出てきたのは、金髪の髪をショートカットにした、緑色の瞳の少女だった。

「久しぶりだね、マリー。歓迎するよ」

 その少女は、そう言ってほかの女性たちに元の場所に戻るように言うと、3人を里の奥へと案内した。

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