最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

魔女の里2

 魔女の里の長と名乗る少女から、ワタルたちは里の奥にある、一際大きな建物へ案内された。

「マリー、今更里に戻ってくるなんて、どうしたんだい?」
「わしの仲間の呪いを解いてほしくてな。それを頼みに来たのじゃ」

 マリーと少女は、建物の中に入って座るなり、用件を話し始めた。

「マリーに仲間ができるなんて、面白いこともあるものだね」
「喧嘩を売っておるのか?」
「冗談だよ」

 マリーは、自分は魔女に嫌われていると言っていたが、目の前の少女はマリーを嫌っている様子はない。
 それどころか、仲良さそうな、まるで幼馴染のようだった。

「さて、まずは名乗ろうか。ボクは魔女の里で長をしているレイだよ。よろしく」
「ワタルです」
「ハラルです」
「あ、敬語じゃなくていいよ。長なんて言ってるけど、年齢も見た目もマリーと大差ないんだし」
「わしの数少ない、魔女の友人じゃ。それで、なぜわしを里に入れた?」

 レイとの自己紹介をし合うと、マリーがずっと聞きたかったのか、レイにそう追求する。

「ボクの優しさかな」
「真面目な話じゃ」

 ふざけるレイに、マリーがピシャリと言い放つ。

「……実はね、今魔女の里で対立が起きてるんだ」

 レイは少し黙ったあと、ゆっくりと話し始めた。

「半年ぐらい前からかな。突然ほかの魔女を攻撃する魔女が出たんだ。昨日まで普通だった魔女が攻撃してきたんだ。それも複数ね。信じられなかったよ」

 話しているうちに、レイはため息が多くなる。
 それほど気が重いのだろうか。

「その攻撃した魔女たちはどうしたんじゃ?」
「もちろん捕まえようとしたさ。でも、殺すわけにはいかないから手加減したんだけど、そのせいか逃げられちゃってね」

 あはは、レイは自虐気味に笑う。

「その時に長老様が亡くなってね。その子供であるボクが、里の長になったんだ」
「ふむ……」

 話が一段落し、マリーは顎に手を当てて考え込む。
 そして、思い当たることがあったのか、顔を上げた。

「洗脳か」
「多分ね」

 2人はそれだけで納得したようだが、ワタルはなんのことかさっぱりだ。

「ごめん、俺なんのことかわからないんだけど」
「攻撃した魔女たちは、魔法で洗脳されている、ってことですよ」

 ワタルの疑問に答えたのは、マリーではなくハラルだった。

「ハラル、今のでわかったの?」
「私は音魔法を使いますからね。洗脳も音魔法の1種です」

 ハラルは威張るでも自慢するでもなく、当然のように説明する。

「私の音魔法は、振動なんかを利用した破壊のための攻撃魔法です。洗脳は、音楽や歌によって脳を支配する、支援魔法ですね」
「その通りだよ」

 ここまで言われれば、ワタルにも理解できた。

「洗脳をかけてる黒幕がいるってことか」
「そういうことじゃ。問題は、どこにいるかじゃがな」
「それなら目星がついてるよ」
「本当か!」

 1番時間のかかると思われた場所の割り出しが済んでいると聞き、マリーは驚いたように聞き返す。

「場所は里から東にある、竹林の奥だよ。でも、そこは洗脳された魔女たちが守ってて、手が出せないんだ」
「守りは万全というわけじゃな。洗脳されたのは何人じゃ?」
「14人だよ。それも、攻撃用の魔法を得意とする魔女ばかり」

 1人でも強力な魔女が、14人というのはかなりの戦力だ。

「それで、わしらにその竹林へ責めるのを協力しろと?」
「いや、言いにくいんだけど、マリーたちだけでどうにかしてほしいんだ。ボクたち魔女同士の戦闘は、自然への影響が大きすぎるから禁止されている。知っているだろ?」
「だから、里を出たわしを利用するということか。面倒なものじゃ」

 マリーの火力を見ているワタルは、レイの言い分に心から納得する。
 魔法陣を使った魔法の撃ち合いなど、地形が変わりかねない。

「ボクも個人的には協力したいんだけと、ボクの魔法は捕縛には向かないから」
「じゃろうな。竹林をどう攻めるかは、わしらで決めていいんじゃな?」
「頭おかしい作戦以外なら、なんでもいいよ」
「よし、なら早速向かうとするかのう」
「その前に、この腕を治そうか。見た感じ呪いだろう」

 建物を出ていこうとする3人を、レイが呼び止めワタルの左腕を掴む。
 ワタルの服の裾をまくって紫色に光る文字列を見て、すぐに呪いだと断定した。

「悪魔からのものでな。わしでは解呪は無理じゃ」
「だろうね。ボクの友人ならできると思うから、先にそっちに行こう。あ、2人は待ってて。人数が増えると面倒だから」

 レイはワタルの腕を掴んで、引っ張って行く。
 マリーとハラルも建物を出てついて行こうとするが、レイがそれを止める。

「俺の腕を治したら、そのまま逃げるかもしれないよ?」
「マリーが選んだ仲間が、そんなことするような人じゃないってことぐらい、ボクにだってわかるよ」

 ある程度歩くと、レイはワタルの腕を離して立ち止まる。

「ワタル。マリーのこと、よろしく頼むよ。マリーは危なっかしいから」
「レイは優しいんだね。わかってる。マリーは死なせないって約束するよ」
「ワタルこそ、優しいんだね」

 レイはワタルの言葉を聞き、満面の笑みで再び歩き出した。



 レイの友人だという魔女に腕を見せたところ、魔法陣の中心に立たされた。
 それから5分ほど待てば、左腕の文字列が消えていき、やがて完全に文字が消えると、左腕も動くようになった。

「ありがとうございます」
「里長であるレイの頼みだからね。それより、お兄さんイケメンだね」
「え?」
「はい、ストップ! ほら、行くよ」

 マリーやレイとは似ても似つかない、豊満な体をした魔女のお姉さんの言葉にワタルが困惑していると、レイから腕を引かれて無理矢理建物から出される。

「魔女の里には男がいないんだ。だから、この里にいる魔女は、男の人に目がないんだ」
「それってつまり……」
「ボクは違うからね」

 レイもそうなのか、と思ったワタルだったが、レイにジト目で見られすぐに目を逸らした。

「まったく、でも私だって結婚とか……」
「お主ら、なんのつもりじゃ」

 なにか言いかけたレイの言葉は、遠くから聞こえたマリーの声にかき消される。
 いつもよりも大きなマリーの声に、なにかあったのかとワタルが走り、遅れてレイも走る。

「偽物の魔女が、今更どの面下げてこの里に来たわけ?」
「レイに用があったからだと言ったじゃろう。それより道を開けてほしいんじゃが」
「は? 逃がすわけないじゃん。偽物には、少し痛い目をあってもらわないとね」

 2人が見たのは、3人の魔女に絡まれるマリーと、その後ろで黙って立っているハラルだった。
 聞いた感じでは、マリーがいちゃもんを付けられているらしい。

「なにをしている。マリーはボクの客だ」

 先に行動したのはレイだった。
 レイは3人の魔女へ、少し怒ったような表情で歩いていく。

「里長が偽物を庇うわけ?」
「マリーは偽物じゃない」

 3人の魔女はレイ相手にも怖気付くことはなく、むしろ反発していた。
 ワタルはそれをしばらく眺めていたが、魔女の1人の言葉がまずかった。

「はっ、偽物の魔女が冒険者ごっこなんてして、楽しいの? 仲間もどきも集めちゃってさ」
「聞き捨てないね」
「なにあんた?」
「マリーの仲間だよ。仲間をバカにされて黙っておけるほど、お人好しじゃないんだ」
「かっこつけちゃって、笑わせんな!」

 ワタルの言葉に1人の魔女が怒りを爆発させ、杖を構える。
 残った2人の魔女も、それに触発されたのか同じように杖を構えた。

「ワタル、私も我慢の限界なので、手を出してもいいですか?」
「もちろん。レイ、いいよね」
「はあ……好きにしてください」

 レイは諦めたようにマリーを連れ、少し離れる。
 その場には、臨戦態勢となった3人の魔女と、ワタルとハラルが睨み合っていた。

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