悪役令嬢に成り代わったので奮闘しました。だからって貴公子と呼ばれるとは思わなかったんです
小さな茶会
あのパーティーがあってから、ルカは度々屋敷に訪れる。だから今もこうして小さな茶会を開いている。
「クリスはあれ以来、パーティーに参加していないのか?」
目の前にいるルカが優雅に紅茶を飲みながらこちらを見た。
「ああ。年末の舞踏会までは控えるよ。そういうルカは多くのパーティーに参加している様だね。」
「まあな。俺は将来、お前の補佐になりたいと考えている。だからパーティーに参加して公の場には今から慣れておきたいんだ。」
その言葉に少し動揺する。本来、私という異分子がいなければ彼はキャンベル家当主の座についていたのに。
「‥‥ルカは当主になりたくないのか?。」
気づけばそんなことを聞いてしまっていた。ハッとしてルカの顔を見ると、何を聞かれたのかも分からない様な、そんな顔をしていた。
でもその後、フッと吹き出して口を開いた。
「俺は、お前に視野を広げられた。自分を不幸者だと思い、閉じこもっていた俺を引っ張り出してくれた。お前には恩がある、とても大きな。それを俺は、俺の一生をかけて返したい。例え俺の父が俺が当主になることを望んでも俺はそれを決してしない。」
そう言ったルカの目には強い意志がこもっていて、それこそが彼の本心なんだと告げていた。
「そうか、分かった。私もルカの決意に応えられるように、立派な当主となってみせるよ。」
もしルカとヒロインが恋に落ちて、私から離れたくなったら離れても構わないから。その日が来るまでは側にいてほしい。
「期待してる。ところで本当にパーティーに参加しないのか?次のパーティーにはお前を誘いたいんだが。」
「何か特別な催し物でも?」
「いや、そういう訳ではない。ただパーティーでは俺はアレクサンドル殿下と親しくさせて頂いている。お前も殿下に紹介できたらと思っているんだ。駄目だろうか?」
アレクサンドル殿下。本来ならばクリスティーネの婚約者である。温厚な性格、女性受けしそうな綺麗で優しい顔立ち。金髪碧眼の彼はまさしく王子様。
「悪いね。まだ作法が完璧じゃない。ダンスだってまだまだだ。この様な醜態を第一王子に晒す訳にはいかないから、お断りするよ。」
「そうか。残念だが年末まで待つとしよう。にしてもお前が完璧じゃないなら、多くの人間はそれより酷いぞ。」
「そんなことないさ。私なんて嗤われてしまうよ。」
「随分と謙虚だな。」
そんな他愛ない話をして、時間が過ぎていく。そろそろ帰る、と言ったルカの顔はかなり暗かった。
「やはりまだ実家とは上手くいかないか。」
「俺の母は俺のことが嫌いだからな。クリス、また来ても構わないだろうか。」
こちらを見て申し訳なさそうにするルカ。まぁ確かに従兄弟同士にしては干渉し過ぎなのかもしれない。けれどそんなことどうでもいい。
「ああ、いつでも来てくれて構わないよ。私もルカと話すのは楽しいから。じゃあまたね。」
「‥‥ありがとう。」
ルカは馬車に乗ると、窓から顔を出しこちらを見ていた。私もまた、馬車が見えなくなるまで見送っていた。
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