スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜

Knight

二十章 ─ 覚醒 ─

あの後、ラグナと再会した俺とノエル。
目的は似ている為、互いに協力してテルミの待つ所へ走り出す。その先にあるのは統制機構支部。確信は無かったが、そこに居るとなんとなく思っていた。

「そういや、悠人」

「どした?」

「最初の頃より大分姿変わったよな。なんかふっ切れたみてぇでよ」

「嗚呼、そーゆー事か。まぁ、色々あってな?」

「そうか。今のお前、すげぇ頼りになるわ」

「さんきゅ」

イグニスの追撃が無い今、邪魔する奴等は居ない…と思っていた時があった。目の前に現れた人物を見たと同時に足を止め、見据える。あの時刃を交えたツバキだった。

「……ラグナ。ノエル。先に行け」

「悠人、ここは私が…」

「いいから早く。ツバキは、俺に用があるらしい」

「分かった。先行くぞ、ノエル」

「……分かりました。悠人、頑張って」

「嗚呼。すぐ行くからよ」

二人が先に行かせたのを確認した後、ツバキを見る。
クリーム色だった服はイメージチェンジでもしたのか真っ黒に染まっており、瞳すら真紅に染まっている。
何かあったなと内心思い、ファイティングポーズをとる。対するツバキはそこに居るだけで威圧感が凄い。

「帝様に楯突く者には、死を…」

「(帝…?確か統制機構の一番偉い奴だよな…。其奴がツバキに何かしらしたという事か?)」

「桐生悠人、いえ…アヤメ=ムツキ。十二宗家でありながら帝様を裏切った。コレは万死に値する事よ」

「俺はムツキ家の中で落ちこぼれだったんだ。当主親父は頭脳だけ良くても世の中じゃ通用しねぇとか言いやがる。だから咎追い兼研究員として生きる術を身につけた。咎追いは資金稼ぎをするにも丁度いいからな」

「貴方はそうかもしれない。でも、貴方がした事はムツキ大佐も裏切った事になる。実の兄を裏切った気分はどうかしら?」

「向こうはとっくに俺を忘れてる。落ちこぼれだった餓鬼の俺の事なんて所詮そんなもんだ。まぁ、顔すら忘れてるとは思わなかったがな…っ!!」

地面を蹴って肉薄し、拳の乱舞を浴びせるが全て紙一重で躱される。魔素を使った幻影も使い、乱舞を止めない。たった今考えついた《幻影乱舞ファントム・ラッシュ》だ。即興な為精度は荒いが、即興でもいい事はある。対策を考える暇が無いという事だ。現に少しづつではあるが追い込んでいる。

「くっ…厄介ね、コレは…」

「隙あり!!」

「えっ、きゃあ?!」

唐突に止めてからの右脚の蹴りをかます。女性を蹴るのは気が引けるが、闘ってる最中に情けをかけるのも失礼だろう。そもそも刃を俺に向けた時点で如何なる理由があろうとも敵だ。敵は倒す。

「(あれっ…ちょっと待て、今何か物騒な事考えなかったか、俺?)」

今まで考えなかった事。"敵を倒す"、それだけは一回も無い。だが、今まさに考えていた。ツバキは確かに敵対をしているが、自分の意志って訳じゃない。さっき言った帝様というのが、ツバキに何かしらしたんだろう。なんて考えている中、急に寒くなる。思わず後ろを振り向くと、そこに居たのはジン=キサラギだった。

「桐生悠人。ここは僕に任せろ」

「それがいいな。それと、ツバキが豹変した原因…帝様が関係しているかもしれない」

「帝が…?」

「嗚呼。さっきぼそっと呟いていたからな。間違いじゃねぇ」

「……分かった。帝が関係しているなら、尚更僕が相手する必要がある。貴様は先に行け」

「さんきゅ」

ジンを置いてラグナ達を追いかける。
さっきから感じている嫌な予感、俺の考えが変わり始めている事、もしかしたらノエルも同じかもしれない。ノエルと俺と同じく変貌を遂げた時があるから可能性は無くはない。

「(無事でいてくれ…)」

だが、この願いは叶わない事になる……




「はぁ…はぁ…」

「……一旦休むか?ノエル」

「いえ…大丈夫です」

「ならいいんだけどよ。無茶はするなよ?」

「はい…」

全力疾走をしたのは久しぶりだった。
過去に走ったと言えば、悠人絡みの出来事が最後かもしれない。あの頃からずっと側に居るけど、悠人を知れば知る程謎がどんどん出てくる。
悠人がツバキに《アヤメ=ムツキ》と呼ばれた理由も、結局聞けずじまいだった。

「まぁ…なんだ。悠人も頑張ってる。ノエルも頑張る時だろ?」

「……分かってはいます」

だけど、嫌な予感が払拭出来ていない。
このまま辿り着いたとして、この先はどうするのだろう。私の運命は私が決める、なんだろうけど…統制機構に着いた時に私の運命がその場で決まりそうで怖い。

「…やっぱ悠人と一緒の方がいいか?」

「い、いえ…そういう訳ではなくて」

「……噂をすれば、か」

「へっ…?」

素っ頓狂な声を上げた直後。
誰かが凄いスピードで走ってきた。薄い水色の髪、数々の闘いをくぐり抜けて来た為か、煤けたコート。槍状に変形した武器。紛れもなく、桐生悠人本人だった。どういう訳か、黒い翼も生えていた。

「悠人…?」

「ちと遅れた。ジンの奴に後を任せてきたしな…」

「ジンが?彼奴、何を…」

「……ツバキ=ヤヨイの変貌ぶり。アレに帝が関係している可能性があるって言ったら先に行けって言われてよ」

「……そーか。ま、大丈夫だろ」




その頃の統制機構頂上。
テルミとνニューが眺めているのは一人の少女。ニューにそっくりだが、よく見るとあの時行方不明となった少女に似ている。その少女の名は《アヤメ=ムツキ》。彼女が何故此処に居るのかはテルミ達のみ知る。

「此奴を見たら、幾ら奴でも絶望する。そしたら、《剣》として覚醒し、この世界を滅ぼす存在になる!いいねいいねぇ…楽しくなって来たじゃねぇか…!!」

「…対象、確認。同一体とみなす」

「ヒヒッ、ようやくお出ましってか?なぁ…桐生悠人」

テルミの目線の先に立つ三人。一つは大剣を提げた男。一つは長髪の少女。最後の一つは…見た目こそ隣に居る少女に似ているが、身長はその隣に居る男と大体同じ。煤けたコートを羽織ったその人物こそ、テルミが狙う《剣》の覚醒に近い人物。

「……決着つけようか。テルミ」

「てめぇはぶっ飛ばす。テルミ」

「…好きにはさせません、ハザマさん。いえ、ユウキ=テルミ」

それぞれ得物を構える。少女は二丁拳銃、男は白い刀身が目立つ大剣、真ん中の人物はと言うと…霧を纏った。それ等を一瞥したテルミは最高にゲスな顔をした後に高笑いをする。

「さぁ、来いよ。そして俺様を殺して見せろ!!」

「「ブレイブルー、起動!!」」




俺とラグナはテルミ、ノエルはニューを相手する事になった。
ブレイブルーを使っていてもテルミとやっと互角と言った所だろう。それほど此奴テルミの元々備わっているスペックが高い。流石六英雄という事か。コンビ技を何度もかますが、ことごとく躱される。

「ほらほらどーした?そんなんじゃ俺様の首は捕れねぇぞ?」

「うっせぇ、今ぶんどってやるよ!!」

「待てラグナ!!」

相変わらず挑発に乗りやすいラグナをたしなめようとした時だ。遥か遠くに佇む一人の少女を見た時、俺の動きが完全に止まる。そこを狙われ、奴のハイキック《蛇翼・崩天刃》を喰らった。上空に打ち上げられた後に俺の何かが"ぷち…"と途切れた。

「悠人!!」

「俺、は…誰だ……?」

ラグナの声が聞こえる。だが、俺は自分の名を忘れてしまった。原因は、あの一瞬で見た一人の少女。その少女は、紛れもなく……

「彼処に居るのは、アヤメ=ムツキだよな…?だったら、俺は…?誰なんだ?」

「余所見すんじゃねぇよっと!!」

「ぐぁっ!!」

動けないんじゃない。動こうとしてくれない身体を容赦なくいたぶるテルミ。様子がおかしい事に気づいたのか、唐突に脚を止めた。

「嗚呼…アレを見たのか。ククッ…幾らてめぇでも、絶望せざるを得ないだろうよぉ!!」

「テルミィィィ!!」

「おっと」

動きを止めた隙を狙い、ラグナが鎌に変形させた大剣を振るう。だが、それを難なく躱したテルミはあの少女について説明を始める。聞きたくないのに、身体が動かない。腕すら動こうとしない。

「あの少女。アヤメ=ムツキっつったか?アレはなぁ…お前のオリジナル。つまり、桐生悠人。お前は造りもんだよ!!その人格も、力も全て!!お前が此奴から奪ったものだ!!」

「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!!俺は俺だ、桐生悠人だ!!その少女の事は知らない!!」

「嘘も何も、俺様はこの目で見たからなぁ…?知らないのも無理はねぇ、此奴の事を思い出さないよう、俺様がお前の記憶から抜き取っておいたんだよぉ!!ヒャハハハ!!」

「そん、な……」

その言葉が決定的な止めとなった。
今まで生きてきた"俺"という存在が端から崩れていく。代わりに何かが俺を侵食し始めた。否、"あの少女と一つになろうとしている"。融合した後、俺は完全に少女の一つになり、消えるだろう。だが、今の俺に止める術は無かった…




「悠人?!」

悠人が消えようとしている。
テルミの仕業なんだろうか。余所見をした時、ニューの技《グラビティシード》を喰らい、その場で膝をついてしまう。重力が強くなったように、私の動きを封じた。

「対象、封殺。その場で見てるといい」

「何を…」

珍しく人の言葉を発したと思ったが、注目は悠人に向いている。その場に崩れ落ちた悠人の身体が透け、テルミの遥か後ろにある黒い柱に似たモニュメントの近くに居た少女。その少女の身体も透け、悠人と一つになろうとしていた。止めたくても、身体が動かない。




「……どーなった?」

「成功だ…!!ヒャハハハ!!やっぱ最高だぜ桐生悠人!!完全に融合しやがった!!」

「…本気かよ」

テルミの側に降り立つ少女。その面影はどことなく悠人に似ているが、全くの別人だ。あの時のニューと同じ武装を纏った少女は、喋る事なく佇む。それだけでもそこに居るだけで威圧感が強い。

οオミクロン=15フィフティーン、いや…災厄の剣アラマサよ。窯へ向かえ。そしてアマテラスをぶっ壊せ!!」

「了解。」

その一言だけ発し、窯へ向かおうとするアラマサと呼ばれた少女。だが、俺はアラマサの前に立ちはだかる。行かせてはならない、そう感じたからだ。

「行くなら…俺を倒してからにしやがれ……」

「対象、捕捉。排除、容認。ムラクモユニット展開」

無機質な言葉を紡ぎ、戦闘体制に入るのを見た後に俺も武器を構えた。だが、心の何処かでは敵わないと予感している。それでも、俺がやらねば誰がやるという状況だ、俺しか止められない。

「行くぞ…悠人!!」

その声を開幕の一言にし、アラマサに斬りかかった。




それでは、又次の章でお会いしましょう((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

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