そのゴーレム、元人間につき
相談は大事
七三貴族とのいざこざが有った翌日、俺とエマは領主の元へと向かっていた。
「結局尻尾は帰ってこなかったのか」
「はい、なんの連絡も有りませんでした。全く、報告連絡は大事と言うことが分からないんですかね、あの人」
人じゃなくて魔物だけどな。
しっかし尻尾の奴は野暮用で着いてきた割には目的は明かしてくれなかったな。
ケチめ、減るもんじゃ無いだろう。
今度見つけたら回してやるとしよう。
俺とエマは道中、他愛もない話をしつつ、領主の住んでる家、館と言うべきか? に辿り着き、門の前に立っている兵士二人の内一人に話しかける。
「領主に会いたいんだが、会えるか?」
「聞いてみますね、少々お待ちください。あ、お名前を伺っても?」
「ランドだ」
「ありがとうございます。それではお待ちください」
そう言って門番は一人を残して館の中へと入って行った。
「領主ってこんな簡単に会えるものか? 俺はその辺の知識は分からんがそう簡単なものではないと思うんだが」
「普通は会えませんよ。領主って一応貴族ですし、ここは辺境で完全な田舎なので地域との交流が深いんですよ。だからこうして直ぐに会えるかの手続きが早いんだと思います」
「へぇ、詳しいんだな」
「こ、これは一般常識ですよ」
ん? ただ感心しただけなんだけどな。
どうしてそんなに焦っているのやら。
「お待たせしました。ヘンリ様がお会いになるそうなので、向こうのメイドに着いていって下さい」
「助かります」
戻ってきた兵士に促されエマが進む。
俺もそれに続いて後を追っていくと、扉の前に待っていたメイドは頭を下げた後案内をしてくれる。
「やぁ、よく来てくれたね。ささ、座ってくれたまえ」
そう俺達に促す男。
物腰柔らかで目元の優しい壮年。
しかしその、顔と相まって服の上からでもわかる引き締まった肉体を持っておりそれなりの戦闘力を持っているだろう事がわかる男。
この辺境ファンの領主、ヘンリだ。
名前はさっき門番が言ってたから思い出した。
「それで、私に話とは? 聞いても良いかな」
「はい、私の方から説明させて頂きます」
そうしてエマが孤児院の状況、王都の貴族が絡んでいそうな事、七三貴族による脅迫等の説明をしていく。
「やっぱりか……」
全て聞き終わったヘンリは額に手を当てる。
「やっぱりと言うことは……何か有るんですか?」
「君達も院長から聞いたとは思うけど、院長からは支援金の相談が来ていてね。私も何故こんなに減っているのか調べていたところだよ」
へぇ、流石は住民に慕われているだけ有るな。
持ち掛けられた相談に真摯に対応して迅速に動くなんて普通は上に立つような人間にはできないと思ってたんだがな。
なるほど、それが慕われている理由か。
確かに見ていて悪い奴とは思えないし、むしろ好ましいタイプだ、今のところはな。
「孤児院の支援金と言うのは此方が王都へと直接請求するものでね、この国では一応孤児院の支援は義務付けられている。それこそ国を上げての物だ、君達も見ただろう? 孤児院と言うには結構大きく、そして庭もかなり広いあの孤児院を」
「確かに、かなりの広さですよね。あれなら子供達ものびのびと出来そうですし」
「うん、教育機関は貴族が言っちゃ悪いが差別的だからね、学校の類いには入れられないけれど孤児院の中でならある程度は学べるしどんな子だろうと受け入れられる。だからこの国の孤児院は結構重要となってるんだ」
この国でどれだけ孤児院が大切にされているかは分かった。
そもそも国が親が居なくなったり捨てられたりした子供をどうにかして独り立ちさせる事も恐らく考えているのだろう。
「じゃあなんで支援金が減るんだ? そんな事をすれば完全に国の指針に逆らっている様なものだろ?」
「それがね、やっぱり貴族は孤児なんかを見下している節があるからなんだよね。実際に孤児院ごときに国の金をそんなに使ってやる必要はないとか言ってくる輩も居るからね。今回仕掛けてきたブンシャ家もその中の1つだよ。やっぱり今回の支援金の減額は彼が絡んでるとは思うね」
「どうやって支援金を減らすことが出来たんだ?」
「それは簡単だよ。自分がそこへ支援金を送るなんて言っておいて嘘の報告を国へと送っている可能性があるかもね」
「それ犯罪じゃないんですか?」
「立派な犯罪さ、でも支援していない証拠が無いからね。いくらブンシャ家が孤児院の排斥を大々的に言っているからとそれが決定的になる訳じゃ無い。全く面倒な事をしてくれるよ」
「領主としては何ができる?」
「そうだね、明日。借れと話し合いの場を設けているから、その時に私からつついてみるよ」
「助かる」
さて、相談することはそれだけだっただろうか。
「あ、忘れてた。孤児院の方で不自然な腐食があって結構ボロボロになっているんだが何か知らないか?」
「うーん、ただの老朽化じゃないかな? 私も外に出歩けるほど時間がなくて孤児院を見れていないのだけどそんなに酷いのかい?」
「床は腐食が進んでいつ崩れてもおかしくは無いほどだな、一応全部直して抜けることは無いが、恐らく壁や天井も弱ってきている筈だ」
「それは……そう、助かるよ。君が孤児院を修復してくれるなら此方もありがたい。どうせなら依頼として修理を受けてくれないかな? 勿論必要な道具の費用は此方が出そう、どうかな?」
依頼と言う形を取り、さらに必要な材料などの費用まで出すとは……懐が深いのだろうか。
「いや、それは構わないが、良いのか? そんなにホイホイ金を使って」
「ここの人達は優しいからね。 皆賛成してくれるさ。それに綺麗になれば子供達も張り切ってくれそうだしそれが後にこの国とまでは行かないけど街の為になってくれれば喜んでやるよ」
この男の行動理念は優しいのか、はたまた裏があるのか分からないな、読めないし食えない男だ。
「一応このあとも孤児院に行く予定だから、少しずつ直して行く」
「お願いするよ。私もギルドに依頼を出しておくとしよう」
そう言ってヘンリは自分の机へと向かう。
俺とエマもその後直ぐに館を出ることにする。
「そうそう、何かあればまた来ておくれ。私が動けない分君たちの情報は頼りになるからね」
「分かった、此方としても相談に乗ってくれる事も有りがたいからな」
今度こそ話は終わり、俺とエマはメイドの案内のもと館を出て、孤児院へと向かう事にした。
「一応は向こうでも調べてくれるらしいし、こっちはこっちで出来ることをやろう」
「そうですね、世の中適材適所ですから」
はてさて、七三貴族は今日は来るのだろうか。
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