そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

決着、森の侵入者

 今まで歩いてゆっくり移動してたが少し緊急事態だ、走ろう。
 といってもそこまで速くは走れてないな、恐らく重さ的な問題だろうか。
 歩くよりは断然早いし少しでも時間短縮が出来れば御の字だ。
 それに体力も減ることはないと思う、感覚的だが。

 狐人間からはどうなっているかを道中聞いた、アイツが勝手に話してるだけだが。
 どうやって対峙しているか、あのおっさんでも攻め手に欠けるとか、相手は硬いだとか。
 特徴もきいたな、知ってます。
 だんだんと折れている木か目立つようになってきた。
 そろそろ着くのでは無いだろうか。


 戦闘音が大きくなってきたな。
 といっても恐らく狐人間が話していたガケトカゲのハンマーだろう。
 あれ当たったら痛そうだよなぁ。
 え? おっさんは何度か当たってる?
 耐久力凄まじいな。
 持久力もか、ずっと戦っているらしいし。



 さて、そろそろ着く頃だな。
 うるさいし、衝撃も伝わってくる。
 どんな暴れかたをしてるんだか。
 おっと、なんか飛んできた。
 俺のとなりの木を巻き込んでへし折ったその物体は、以前俺に絡んできたおっさんではないか。

 「角!? また飛ばされたのかい!?」

 2回目かよ。
 そんなに強いのか。

 「あぁ、あれから15回は飛ばされちまってな」

 多いな、まさかそんなに飛ばされるとは。
 と言うか数えてたのか。
 森の危機だろうに、コイツらは些か危機感が足りないと思うな。

 「君、よくそんなに飛ばれて生きてるねぇ、私だったら死んでるよぉ」

 狐人間は苦笑いを浮かべている。

 「へっ! あのときのゴーレム程じゃねぇよ! アイツは化け物だ」

 ほう、本人の前でよくもぬけぬけと話したな。
 奴の前にお前から始末してやろうか。
 なんて代わりもしない目付きでおっさんを見ていたらやっと気がついたらしい。

 「ぬおっ! なんでテメェがこんなところに居やがる!」
 「話聞いてなかったのかい!? 呼んでくるって言ったじゃないか!」
 「俺をやる気にさせる冗談かと思ってたぜ!」
 「こんな状況でそんな冗談いわないよぉ! 君じゃ勝てそうもないから一番人気強い魔物をつれてきたんじゃないかぁ!」
 「なに!? いなくなってたのはそう言うことか! かなりの演出で腕をあげたと思ってたぞ! と言うか、一番は俺だぁ!」
 「15回も飛ばされるような奴は認めないよぉ。せめて私達が来るまでに倒せていたら考えていたけどねぇ」

 おっさんは大分アホだな。
 筋肉に能力を振り分けすぎたようだ。
 おい、狐人間、冗談はよせ善良なゴーレムさんが一番強いわけないだろうに。

 「ヤッベェ! 放置しすぎた、急いで戻る、おい、ゴーレム! 参戦は許す、だが俺の邪魔をしたら許さん!」

 お前になんの権利があって言ってるんだ。
 安心しろ、お前が倒せるなら万々歳だ。
 暮らしのためにとか言ってきたが想像以上に強そうだし帰ろうかなぁ。

 「君、なんかやる気無さそうに見えるよぉ? 気のせいかなぁ。でも考えてごらん、君の一発でのびた角が15回飛ばされても気絶しないんだ攻撃力は想像よりも低いかもねぇ」

 気のせいだろう。 
 きっと俺のは当たりどころが悪かっただけだろう。
 あのときのおっさんは酔っていたから負けたと思うんだ。
 断じて俺の実力じゃないと思う。
 長話がすぎたな。
 向かうとしよう。


 かなり荒れ狂っているな、他のやつらも戦ってはいたんだろうがもう離れていておっさんとガケトカゲとか言う奴の勝負になっている。
 ガケトカゲの動きと攻撃は単調だが、おっさんじゃなければかなりの攻撃力だろう。
 だから他のやつらは離れて正解だな。
 頑張れ、おっさん。

 「君は行かないのかぃ?」

 共闘とかしたことあるわけないだろう。
 おっさんがやられたら仕方なく行くしかない。
 おっさんも疲弊してるな、動きが悪い……気がする。
 正直素人だ見てわかるわけがない。

 「これは、角が不利だねぇ、打ち所が悪かったのかなぁ、動きが悪い」

 悪かったらしい。
 俺、コイツと会話してないのになんでそんなタイミングで話せるのだろうか。
 読心術?

 あ、おっさんがぶっ飛んで記録を更新した。
 あれは痛そうだなぁ。
 おや、起き上がってこないな、やられたか。
 ほら、ガケトカゲ雄叫びあげてるし、あれ勝利の雄叫びだな。
 よし、この森はもう負けだ、大人しく明け渡して引っ越しだな、いやぁ、大忙しになるぞ。

 「ちょっとちょっと! どこにいくんだよぉ! 戦っておくれよぉ!」

 そう思っていた時期が俺にもありました。
 でもな、無理をしてはいけないと思うんだ。
 逃げるんじゃない、そう、これは戦略的撤退だ。
 考えてみろ、俺は所詮は人の形をした石だ。石ころはハンマーに勝てません。

 そんな言い訳を狐人間に向かって言ってるけど聞こえないよね。
 あー残念だ。

 そんな事思ってたらこっちに気づいたガケトカゲ。
 なんだよ、見せもんじゃねぇぞ失せろ。
 こっちに吠えながら向かってきたガケトカゲ、狐人間と狼は俺から離れていった。
 あ、置いていくなよ。

 ──ブォォォォン!

 風を無理やり切り裂く音が鳴り、俺を横薙ぎにするように尻尾ハンマーを振るガケトカゲ。
 全く防御なんてしていない俺の体は飛ばないものの2、3メートルは後退した。
 すげぇ威力じゃん。
 ゴーレムじゃなきゃ死んでるぜ。
 生憎、痛みはなかった。どうやら痛覚はないんだな。

 ──パキッ

 ん? なんの音だ、随分近くから鳴ったな。

 ──ピシッ

 あー、分かった。これは俺の胴体部分が欠けたらしいな。
 いや、待て! ヤバイじゃん!ちょっとヒビ入ってるし!
 直し方なんて知らないぞ。どうしよう。

 仕方ない、もう怒った! 怒ってないけどな。
 取り敢えず許さん!
 するとまた吠えながら突っ込んでくるガケトカゲ。
 同じ攻撃が何度も通用すると思うなよ。
 アイツはハンマーが重いだから振り回せば反動で自分も回る。
 それを狙いハンマーをギリギリでかわし、直ぐに接近すると、予想通りに奴の体は回り顔がこちらを向いた。
 そして対処される前にその顔に向けて渾身の一撃を回転している方とは逆に殴り飛ばす。

 ──ガァァァァァ!

 大袈裟に飛んだガケトカゲ。
 だがまだ終わらすつもりはないぞ。
 俺は倒れているガケトカゲの尻尾を持ち上げる。
 なかなか重いな、多分。そして体を軸にして振り回す。
 ははは! これが本物のハンマーなげだ。
 回りに有る木を薙ぎ倒すが追加ダメージのつもりでわざと叩きつけている。

 飽きたので放すことにしよう。
 急に回転が止まり宙に舞うガケトカゲは飛んでいく……そう言えばあの方向はおっさんが飛んでいった場所だったような気がする。
 気のせいだろう。「ぐぇっ!」とか大声で聞こえたが多分デカイ蛙でもいただけだ。

 さて、どれ程弱っているかが問題だ。
 これでまだまだ余裕だとなるとちょっと面倒だ。
 向かってみると大分削れたようで何よりだ、足取りの覚束ないガケトカゲがヨロヨロとこちらに向かっている。
 あぁ、これ以上は可愛そうになってきてな……
 とでも言うと思ったか、うるさくしてくれた分ぶん殴ってやるわ。

 「こ、降参だべぇ!! 許してくんろぉ!」

 頭を下げて許しを請う。


 おまえ、喋れたんかい。


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