そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

ここはどこですか

 ──チュンチュン

 なんだ、うるさいな。
 寝かせてくれよ。

 ──チュンチュンチュンチュン

 話を聞いているのかコイツら。
 静かにしてくれ。

 ──チュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュン

 うるせぇんだよ! 黙れや!
 あれ? おかしいな声が出ない。
 風邪でも引いたか。

 まぁ、寝起きは喉が乾燥して声が出ないからな、そういうことだろう。

 さて、ここはどこだ。
 森か? 放置されてんのか生えっぱなしだな草が。
 でも、自然の綺麗さって奴が残ってるな。
 秘境って感じがするな。

 で? 俺は、誰だ。
 分からないな、分からないなら考えても仕方ないだろう。
 取り敢えず動きたい。
 でも動けない。

 というか視界悪いし、あの囚人になったウサギに出てくるドアの目みたいな感じになってる気がする。
 良くわからんな。
 俺は、捕まっているのだろうか。



 俺が目覚めて3日位たっただろうか。
 素晴らしいことを発見した。
 なんと、飲まず食わずで生きているんだ。

 何でだろうな。
 ま、ラッキーとだけ思っておこう。
 まぁこれで俺の念願の静かに暮らすと言う夢が叶うわけだ。
 都会の喧騒から離れた俺は自由だ。

 ん? 念願? 俺は、いつからそんなことを考えていた?
 それに、都会? 何となく言ってみたけどなんだそれ?

 静かに暮らすと言うのは恐らく本心だろう。
 大切にするとしよう。
 でもなぁ、動けないのはちょっとな。
 声もまだ出ないし。


 それから1週間たった。
 未だに俺は、誰か分からない。
 全然答えは出ない。
 困ったもんだ。
 でも、不思議と焦りは無い。


 そして1ヶ月たったな。
 風景は全く変わらないな。
 暇なのでじっくりと草とか木を見ていたんだけど、全く成長をしていないようだった。
 おまけに景色はずっと綺麗なんだよな。
 見てて飽きないな。


 こんな感じになって2ヶ月だ。
 雨が降った。
 雨が降っていようと変わらず綺麗だ。
 これはこれでなかなか見応えがある。
 雨が止んだ後も素晴らしかったぞ。

 光を反射した木の葉っぱは生き生きとしていて、草に乗った雨粒の輝きがまた宝石のようで美しい。
 何を言っている。

 さて、そろそろ動かないのも飽きてきた。
 でも、移動とかも出来るならしたい。


 ふんぬぅぅぅぅぅぅ!!


 体に力を入れて前へと進む(様な感じ)で踏ん張る。
 そんな感じで3日くらい頑張った。
 不眠不休だ。疲れないけどな。


 ブチブチ


 なんか音が鳴ったぞ。
 この音はあれだな、蔦とかそんな物が千切れた音だ。

 ブチブチブチブチブチブチ

 おぉ、徐々に動いている気がするぞ。 
 もう一息か。

 ピシッ、ピシピシッ

 来た来た来た。
 よし、もう一丁。

 ボゴォァァァァァァァン!

 よっしゃあ! 抜けたぁ!
 あれ? 勢いが止まらない

 抜けた? 勢いで俺は前に転びそうになる。
 咄嗟に足をだしその地面を踏みしめ──
 られない。
 地面がなかった。
 なかったというか俺は、その場所から少し浮いていたらしい。
 咄嗟の事で顔から落ちた。


 あだだだだ、痛……くない。
 何とか立ち上がって見るも、昨日も雨が降っていたせいか。 
 地面へとついた手が滑った。

 前のめりになった俺は、微妙に坂になっているこの地面から転げ回る。

 ぶおおおおおおおお!! 止めてくれぇ!

 あ、川だ目の前に川がある。

 回転し続ける視界で川を捉えた。
 あれ、このままだと落ちるんじゃね?

 止まれ! 止まるんだ!

 ああああああああぁぁぁぁぁぁ!

 ドバンッ!

 盛大な水しぶきを上げて俺は、川に落ちた。


 ヤバイ! 溺れる!

 ジタバタともがくが冷静に考えると地面に着いてるし。
 何の問題もなかった。
 焦らせやがって。

 さて、頭も冷えた所で川から出るとしよう。
 む、これは、俺の手か。
 石みたいだな。

 そして俺は、水面に写っていた自分をみた。

 石造りの体。
 でも彫刻のように整えられている角ばった手足。
 石に覆われたマスクの様な顔に赤い瞳だけが浮かんでいる。

 何だろうな、こんな物の名前だけは出てくるぞ。



 ──ゴーレム。



 俺は、ゴーレムだった。

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