そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

プロローグ:勇者

「どう言うことだ!」

 城にある訓練所で怒声が響く。

「どうって言われてもよぉ。助けらんなかったんだから仕方ねぇだろぉ? 俺達じゃ間に合わなかったんだよぉ」

 一方、怒鳴られている人物は飄々と、柳に風とばかりに受け答えするのみ。そこには反省の色はない。

「分かっているのか! 僕達は大切な仲間を失ったんだぞ!」
「それ言うの何度目だよ剣聖様よぉ。お前ぇだって分かってんだろ、アレが役立たずだったのはよぉ」
「っ!」
「それに、このクラス全員が生き残る保証なんざ何処にもねぇだろぉ? 甘ったれてんじゃねぇよ」
「それでも……」

 俯きながら拳を握りしめる男。普段ならば整ったその顔は後悔と自分の力足らずで大事なクラスメイトを失った事で歪んでいる。
 最も物理的に距離があったのでどう足掻いても間に合わなかったのだが……。

「俺は疲れてんだ、戻らせて貰うぜぇ」

 何を言っても無駄と判断した体格の良い男は訓練所から去っていく。黙ってはいたが体格の良い男のパーティーメンバーも男に着いていく。

 ──その顔は酷く狂喜に満ちた笑顔であった。

「くそっ、僕の力足らずで」

 訓練所で未だに1人佇む煌めく鎧を着け、腰には先程呼ばれていた剣聖の名に相応しいだろう剣を腰に携えた男の嘆きだけが木霊する。

「……天馬君」

 すると後方からその男の名を呼ぶ声がする。天馬、そう呼ばれた少年は異世界人。
 突然何者かによって、この世界へと召喚された勇者の1人で剣聖でイケメン。ザ・中心と言う感じの熱血漢の男である。

「……アゲハか、どうした? 休んでいた筈じゃ」

 アゲハ、と呼ばれた少女は暗い顔をしている。それはもう、普段で考えると回りも心配する位には。普段なら結構強気な性格でクラスでは天馬と共に人気者、おまけに天馬に思いを寄せているテンプレ美人だ。

「うん、そうだったんだけどさ……あんな話聞いたら……」
「済まない、僕が不甲斐ないばかりに」
「天馬君は悪くないよ! 別の迷宮だったし……間に合わないのも無理は無いと思う」

 天馬達は日本から喚ばれた極普通の学生であった。だがそれは異世界に召喚されたことによりそのブランドは無くなってしまい、現在は魔王を打倒するために力を着けている所だった。
 今はまだ召喚されたばかりで一月も経っていない。訓練のために迷宮に潜り、今日は引率なしの迷宮攻略だった。

 だがそこで悲劇は起きた。クラスメイトの一人が死んだとの報告が入り、クラスは騒然とし、王宮も慌ただしくなった。
 だが亡くなったのはクラスでも目立たない、変人扱いされており、誰も彼の考えが分からないほどの人物だった。

 それは天馬の中でも同等の評価だった。訓練では突然竜巻を発生させ、それを他人にも起こし、もはや災害と言っても良いほどだ。
 天馬に至っては決闘で手を抜かれたと思い憤慨していたのだから。帰ってきたらもう一度と思った矢先に姿を消し、決着は煮えきらないまま終わってしまった。
 当の本人はやる気など欠片も無かった訳だが。

 そして、クラスでは元々その人物の評価が低いのか大騒ぎになるほどても無かった。元々、誰と親しい訳でもなかった上に、竜巻を天馬に起こしたせいでぶっちぎりに評価は落ちていった。
 それは王宮でも言えることで、クラスメイト達は兵士、大臣、メイド等と仲良く接していたが彼だけは社交的では無かった故、誰の心にも残ることは無いと言う皮肉である。

「クラスメイトが死んじゃったのは驚いてるし、怖いよ……私だってそうなっちゃうと思うと、震える」
「アゲハ……」
「だから私はもっと強くなりたいな。そして天馬君には笑っていて欲しい! 悲しいことだけど、私達は彼の分まで生きていく義務があると思うの、確かに変人だったけど死んで良い人じゃ無かったと思うから……だから!」
「……そうか、そうだな! 彼の分まで生きて、笑って。元の世界に帰ろう……俺はまだ頼りない、力を貸してくれ!」
「勿論!」





「しかしよ、殺せたのは良いけど手強かったなアイツ」
「あぁ、[回転]とか言う意味不明なもんだったが、手強かったなぁ」
「殺しがいがあったのも事実だけどな」
「にしても仮にもクラスメイトだろ? 城下町連中なら未だしもバレないか?」

 仮にも王宮、物騒な話をすれば怪しまれる可能性もあるのだが、事後処理で色々と忙しなく働いている城の人々はそんな話に気をとられている暇がなかった。

「ビビってんのかよぉ? 俺らが殺った証拠はなんもねぇ」
「で、でもよ~!」
「まぁまぁ、でもな田嶋。お前みたいに無駄に堂々としてたらそれこそ怪しまれんぞ?」

 田嶋と呼ばれた男は先程天馬と話していた飄々としていたガタイの良い男だ。今回の迷宮でクラスメイトを殺した張本人だがその態度はとても初めて人を殺したとは思えない。

「んー、それもそうだなぁ。じゃあ、俺達ぁ目の前でアイツが死んだって事で鬱になったって事で当分は部屋から出ねぇ方が良いなぁ」
「お前本当に初めて人殺したのか?」
「あ?」
「い、いや……何でもない」
「じゃあ手はず通りやれや」

 そうして自分の部屋へと入っていく田嶋。残りの四人は初めて人を殺したせいか、多少やつれており、田嶋の意見に賛同するしかない。

 何しろもう後戻りなど出来ないのだから。
 

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