そのゴーレム、元人間につき
2つの思い
──勇者の死亡。
その報告は城下町には秘匿されたものの、城内は多少慌ただしくなり、兵士は箝口令の為に上司から部下へと口を酸っぱく指示されていく。
メイド等は心が傷ついたであろう他の勇者達のカウンセリング等で東奔西走であった。
そんな騒がしく忙しい王城で此方にも走り回る人物が1人。立場や体裁を気にしなければならない身分の者がそうしたことをすればお咎め無しとはいかないだろう。
だが現在は忙しい、誰もが回りを気にしている余裕などない。
それはサナ=アーデン=プラウドもその1人だ。
彼女はこの国──プラウド王国第一王女であり、かなり立場の高い人物だ。
品行方正、才色兼備と四字熟語が大量に並びそうな程の才能の塊だ。
「全く……使えないなら使えないなりに、騒ぎを起こさない様に消えてくれれば良いものを……厄介な事をしてくれるわ」
彼女を知っている、そして幼い頃から見てきた者が聞くと驚き目玉を飛び出すエフェクトがつくだろう発言だが、それを聞くものは誰もいない。
彼女にとって、自分の発言を他者に聞こえないように細工するなど朝飯前だからだ。
勇者が1人死ぬ。いくら勇者だろうと死なないと言うことは無いのだが、これはあまりにも早すぎた。たとえ使えないと回りから思われていたとしても、仮にも勇者。実力は普通の冒険者よりも高い、そんな存在が死んだのだから少なからず影響と動揺が大きく、誰もが王も頭をかかえる。
それは、サナも同じだ。そんな彼女は報告から数日、部屋に籠るようになった勇者達を励ますために王からの命令が下されていた。悪態つきながらもその心根は誰にも悟られず順調に勇者達を癒していく。
そうして最後の1人であり、最も欠けてはならないであろう存在、三神天馬の部屋へと駆けつけていた。
「彼は勇者達の中でも最高傑作、『剣聖』のスキルを持つ男……他は良いとして最低でも彼には立って貰わなきゃね」
他の勇者も強い、強いのだが天馬はそれと比べることも烏滸がましい程のスキル、才能、努力がある。最悪他が使えずとも天馬だけでも動かす必要があった。魔王を倒すため、引いてはこの国の地位の為に。
(いっそ体でも差し出したら動くかしらね? ……まぁ、これは最終手段にとっておくわ)
誰もが、それこそ父親である国王ですら見たことの内容な邪悪な笑みを浮かべ天馬のいる部屋をノックするサナ。だが、返事が無かった。
最悪の事態としては勇者が脱走しそのまま行方不明になることだ。有り余る力を持つ勇者は一般の冒険者と比べると天と地程にも差がある。そしてその中でも最強の天馬が消えたとなれば死んだ勇者とは比にならないほどの騒ぎが起き、唯一の柱が消えた他の勇者も何をしでかすか分からない。
流石のサナもその予感が過ると冷静でいられないだろう。
「天馬様!? 開けますよ!」
そこにはやはり天馬はいなかった。もぬけの殻だったのだ、最も、異世界から着の身着のままで来た勇者達に部屋に置いておく家具等はない。
しかしそれが逆に不安を掻き立てる。最初から変わっていない部屋だと、本当に居なくなったのではないかと焦る。
「一体どこへ……」
「あれ? サナ様? こんなところでどうしたんですか?」
「へ?」
突如後方から聞こえた声に反応し振り替えると、そこには服が土や泥で汚れまくった剣聖の勇者、三神天馬がキョトンとした顔で立っていた。
そしてその後ろには天馬と共にいつもおり、パーティーを組んでいる大和アゲハも一緒だ。此方も汚れまくっている。
「えーと、どちらにいらしたのですか?」
「仲間を失いましたからね……これからは失わないようにと少しでも強くなるために訓練をしてました。あ! すみませんこんな見苦しい姿で、落としてきます!」
慌てて浴場のある方へ向かおうとする天馬へ、サナは後ろから抱きついた。
天馬はおどろきとまどっている!
アゲハはこんらんしている!
「な、ななな何を!?」
「心配……したんですよ? 彼が居なくなり、あなた様まで居なくなっては……私……」
「サナ様……」
サナは頬を赤く染め、目尻に涙を浮かべている。振り返った天馬はサナの肩に手を置き微笑む。アゲハは鼻を手で抑え込む。鼻血が出たようだ。
「大丈夫です、絶対に居なくなったりしませんから……見ててください、信じてください。俺は絶対に魔王を倒します。その前に風呂ですけどね!」
「……ふふ、分かりました。信じてます!」
「は、鼻血が……ダメダメ、こんなところで死ぬわけには……」
爽やかな笑みを浮かべ、天馬は物凄い速さで浴場へと消えた。アゲハも少し遅れて追っていき、その場にはサナだけが取り残される。
「……はぁ、余計な心配をしたわ。全く、服が汚れたじゃない。これは廃棄ね、まぁ、動いてくれるなら文句は言わないわ」
抱きついたのも、涙ぐんだのも演技。どこまでも打算的で計画的に勇者を自らの駒にするために少しずつ行動していく。
1人死んでしまい、少なからず自らの動きに影響を与え焦ったものの。ここまでは想定内の事だった。
自らの計画に仇為す様な者がいれば勇者だろうと彼女は始末するつもりだったのだ。
そしてサナは気づいていた。死んだ男は他の勇者と比べて誰も信用しておらず、此方の話も怪しんでいた。
サナも当初はどうするか考えていたが、彼の能力からみて脅威ではないと判断し放置してはいたが、少しだけ気がかりだった。
そしてその者の死亡報告で周りが暗くなる中、懸念の消えたサナは喜んだ。しかしそれは、見せられない。内心でガッツポーズをして心置きなく計画を進められると歓喜した。
サナ=アーデン=プラウドは、使えるものは全て利用するつもりだ。それがたとえ自らの父であり、国王だろうとも。
◇
サナに爽やかな笑みを浮かべ風呂場へと消えていった天馬の顔は赤かった。
(何してんだよ! 超恥ずかしいんだけど! 死ぬ、羞恥で死ぬ!)
確かに自分はモテることに自負はあった。責任感も強く、皆にも慕われている。魔王ですら倒して見せると心の中で思うのは簡単だった。
だが、天馬はそれを口にするとはじめて我に帰る。自分の言った言葉はいつも恥ずかしいと客観的に感じてしまうのだった。
風呂へ逃げたのも、サナへ照れたのではなく、自分の言った台詞を反芻した時に沸き上がる羞恥心からである。
風呂までもう少しのところで天馬は足を止め、天井を見る。面白いものは何もない、ただ、見上げた。死んでしまった仲間への謝罪とこれからは自分がちゃんと仲間を守り抜くことの誓いを立てた。
「魔王は、俺が倒す」
そうして風呂へと歩く。
その顔はすごく赤かった。
その報告は城下町には秘匿されたものの、城内は多少慌ただしくなり、兵士は箝口令の為に上司から部下へと口を酸っぱく指示されていく。
メイド等は心が傷ついたであろう他の勇者達のカウンセリング等で東奔西走であった。
そんな騒がしく忙しい王城で此方にも走り回る人物が1人。立場や体裁を気にしなければならない身分の者がそうしたことをすればお咎め無しとはいかないだろう。
だが現在は忙しい、誰もが回りを気にしている余裕などない。
それはサナ=アーデン=プラウドもその1人だ。
彼女はこの国──プラウド王国第一王女であり、かなり立場の高い人物だ。
品行方正、才色兼備と四字熟語が大量に並びそうな程の才能の塊だ。
「全く……使えないなら使えないなりに、騒ぎを起こさない様に消えてくれれば良いものを……厄介な事をしてくれるわ」
彼女を知っている、そして幼い頃から見てきた者が聞くと驚き目玉を飛び出すエフェクトがつくだろう発言だが、それを聞くものは誰もいない。
彼女にとって、自分の発言を他者に聞こえないように細工するなど朝飯前だからだ。
勇者が1人死ぬ。いくら勇者だろうと死なないと言うことは無いのだが、これはあまりにも早すぎた。たとえ使えないと回りから思われていたとしても、仮にも勇者。実力は普通の冒険者よりも高い、そんな存在が死んだのだから少なからず影響と動揺が大きく、誰もが王も頭をかかえる。
それは、サナも同じだ。そんな彼女は報告から数日、部屋に籠るようになった勇者達を励ますために王からの命令が下されていた。悪態つきながらもその心根は誰にも悟られず順調に勇者達を癒していく。
そうして最後の1人であり、最も欠けてはならないであろう存在、三神天馬の部屋へと駆けつけていた。
「彼は勇者達の中でも最高傑作、『剣聖』のスキルを持つ男……他は良いとして最低でも彼には立って貰わなきゃね」
他の勇者も強い、強いのだが天馬はそれと比べることも烏滸がましい程のスキル、才能、努力がある。最悪他が使えずとも天馬だけでも動かす必要があった。魔王を倒すため、引いてはこの国の地位の為に。
(いっそ体でも差し出したら動くかしらね? ……まぁ、これは最終手段にとっておくわ)
誰もが、それこそ父親である国王ですら見たことの内容な邪悪な笑みを浮かべ天馬のいる部屋をノックするサナ。だが、返事が無かった。
最悪の事態としては勇者が脱走しそのまま行方不明になることだ。有り余る力を持つ勇者は一般の冒険者と比べると天と地程にも差がある。そしてその中でも最強の天馬が消えたとなれば死んだ勇者とは比にならないほどの騒ぎが起き、唯一の柱が消えた他の勇者も何をしでかすか分からない。
流石のサナもその予感が過ると冷静でいられないだろう。
「天馬様!? 開けますよ!」
そこにはやはり天馬はいなかった。もぬけの殻だったのだ、最も、異世界から着の身着のままで来た勇者達に部屋に置いておく家具等はない。
しかしそれが逆に不安を掻き立てる。最初から変わっていない部屋だと、本当に居なくなったのではないかと焦る。
「一体どこへ……」
「あれ? サナ様? こんなところでどうしたんですか?」
「へ?」
突如後方から聞こえた声に反応し振り替えると、そこには服が土や泥で汚れまくった剣聖の勇者、三神天馬がキョトンとした顔で立っていた。
そしてその後ろには天馬と共にいつもおり、パーティーを組んでいる大和アゲハも一緒だ。此方も汚れまくっている。
「えーと、どちらにいらしたのですか?」
「仲間を失いましたからね……これからは失わないようにと少しでも強くなるために訓練をしてました。あ! すみませんこんな見苦しい姿で、落としてきます!」
慌てて浴場のある方へ向かおうとする天馬へ、サナは後ろから抱きついた。
天馬はおどろきとまどっている!
アゲハはこんらんしている!
「な、ななな何を!?」
「心配……したんですよ? 彼が居なくなり、あなた様まで居なくなっては……私……」
「サナ様……」
サナは頬を赤く染め、目尻に涙を浮かべている。振り返った天馬はサナの肩に手を置き微笑む。アゲハは鼻を手で抑え込む。鼻血が出たようだ。
「大丈夫です、絶対に居なくなったりしませんから……見ててください、信じてください。俺は絶対に魔王を倒します。その前に風呂ですけどね!」
「……ふふ、分かりました。信じてます!」
「は、鼻血が……ダメダメ、こんなところで死ぬわけには……」
爽やかな笑みを浮かべ、天馬は物凄い速さで浴場へと消えた。アゲハも少し遅れて追っていき、その場にはサナだけが取り残される。
「……はぁ、余計な心配をしたわ。全く、服が汚れたじゃない。これは廃棄ね、まぁ、動いてくれるなら文句は言わないわ」
抱きついたのも、涙ぐんだのも演技。どこまでも打算的で計画的に勇者を自らの駒にするために少しずつ行動していく。
1人死んでしまい、少なからず自らの動きに影響を与え焦ったものの。ここまでは想定内の事だった。
自らの計画に仇為す様な者がいれば勇者だろうと彼女は始末するつもりだったのだ。
そしてサナは気づいていた。死んだ男は他の勇者と比べて誰も信用しておらず、此方の話も怪しんでいた。
サナも当初はどうするか考えていたが、彼の能力からみて脅威ではないと判断し放置してはいたが、少しだけ気がかりだった。
そしてその者の死亡報告で周りが暗くなる中、懸念の消えたサナは喜んだ。しかしそれは、見せられない。内心でガッツポーズをして心置きなく計画を進められると歓喜した。
サナ=アーデン=プラウドは、使えるものは全て利用するつもりだ。それがたとえ自らの父であり、国王だろうとも。
◇
サナに爽やかな笑みを浮かべ風呂場へと消えていった天馬の顔は赤かった。
(何してんだよ! 超恥ずかしいんだけど! 死ぬ、羞恥で死ぬ!)
確かに自分はモテることに自負はあった。責任感も強く、皆にも慕われている。魔王ですら倒して見せると心の中で思うのは簡単だった。
だが、天馬はそれを口にするとはじめて我に帰る。自分の言った言葉はいつも恥ずかしいと客観的に感じてしまうのだった。
風呂へ逃げたのも、サナへ照れたのではなく、自分の言った台詞を反芻した時に沸き上がる羞恥心からである。
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