事故死したので異世界行ってきます

暇人001

最終話 救世主

「準備はできたか?できたなら早くかかってこい」

 瞬間岩をギリギリと踏み込み一気に翔かかるリベリアル。
 それと同時に俺も追随するかのように大きな音を立て踏み出した。

「【天迦霧双ガラク・ザ・ファントム】」

 リベリアルとルシファーを深い霧が包み込む。

「ほう……先程とは比べものにならない程に速く、そして一太刀に鋭さが増したな」

「ウォォォッッッツツ!」

 リベリアルが全力でエンドラをルシファーに向け振り下ろす。
 霧を纏ったエンドラは素早く振り下ろされ肉を切り裂き骨を断つかと思われた。

 ガキンッ!

 金属同士がぶつかり合う甲高くも鈍い音が響く。

「我にスペルビアを出させた事を誇りに思い死ぬが良い。死を刻め……傲慢の劔・スペルビア」

 この上なく美しい漆黒の刀身にこの上なく豪華な黄金の装飾。まさに己を強者だと謳う傲慢・ルシファーに相応しい剣が今リベリアルに向けられる。その瞬間、剣を振って無いにも関わらず無数の刺突と斬撃が繰り出された。

「【霧幻雷斬ファントム・ライジスト】ッッツツ!!」

 本能的に生命の危機を悟ったリベリアルはすかさず防御を展開する。
 そしてルシファーの刺突、斬撃は全て霧を切り刻み不発……するはずだった。

「グハッっ……」

「その程度の小細工で我が剣技を受けきれるとでも思ったのか?フハハハッ!」

「リベリアルっ!!」

 空のない天を仰ぎゆっくりと落下するリベリアルを抱きかかえて着地する。
 着地するや否や俺はすぐさま回復魔法をかけた。

「ど、どうして……」

「無駄だ、何人たりともスペルビアによって受けたダメージを回復することは出来ない。大人しく死を見届けてやれ。それくらいの時間はくれてやろう」

 無慈悲なルシファーの声が俺とリベリアルの鼓膜を静かに揺らす。

「グハッ……役に立てずすまない……」

 リベリアルの腹部からは赤い血がドロドロと流れ、咳き込むたびに鼻を刺す鉄のような匂いを放つ鮮血が口から溢れ出ている。

「喋るなっ!!」

「私を救ってくれた事感謝している……本当にありがとう……人類を救ってく……れ……」

 その言葉を最後にリベリアルは息を引き取った。

「ウァァォァァアァアアアッ!!!」

 俺の中で何かが崩れ去っていくのを感じた。

「フハハハハハハ!!!元から勝てる見込みなど無いのに挑んでそして死んでいく、実に面白い!」

「殺す……お前だけは絶対に殺す……」

「やってみろ。まぁ無理だと思うがな?フハハ!」

「無属性魔法…【虚無の断罪インフェルノ・ジャッジメント】」

 そう唱えた瞬間ルシファーの顔色が変わったのが見えた。

「っ!?無属性だと!?」

 空間が歪み2体の巨大な彫刻像が生み出される。

「スベテノ悪ヨ」

「スベテノ善ヨ」

「「我ノモトニ平等ニ裁カレヨ」」

 二体の彫刻像がそう言った瞬間、俺とルシファーの胸元に拳ひとつ分程の魔法陣が描かれた。

「な、何をする気だッ!!!」

「不可視にして不可避の一撃だ……」

「何をしたァアアアッ!!!絶望と敗北を切り刻め・スペルビアっ!!!」

 俺の方に向かって無数の斬撃波が飛ばされる。それらの斬撃波は全て巨像に遮られる。

「裁キヲ中止スル」

「「スベテノ悪ニ裁キヲ」」

 俺の胸元に描かれた魔法陣は消え去り、ルシファーの胸元に描かれた魔法陣は徐々に体内へと入って行った。

「やめろォォォオオッッツツ!!」

 ルシファーは生命の危機を察し声を荒げて彫刻像に向かって斬撃を繰り出した。だが傷一つつく事なく彫刻像はルシファーを睨んでいた。

「「断罪」」

 その音声とともにルシファーの抗う声は途端に消えた。

「なんとか……勝てたのか……」

「「スベテノ善ヨ我ニ代償ヲ捧ゲヨ」」

 再び俺の胸元に魔法陣が描かれる。

「わかってるよ……だが、魔神の復活だけは止めさせてもらう……」

「「スベテノ善ニ告グ、ソノ行動ヲ許可スル」」

「ありがとよ……」

 俺はリベリアルの側にに落ちているエンドラを手に取り、祭壇に駆け上がり漆黒のオーラを纏った魔王の骸の頭に突き刺した。瞬間魔王の纏っていたオーラは飛び散るように消え去り、祭壇にはただ虚しく王の骸が孤独に祀られている。

「「スベテノ善ニ告グ、代償ヲ捧ゲヨ」」

 俺の胸元に描かれた魔法陣が回転しながら心臓に近づいていくのが実感できた。

 あぁ……俺はここで死ぬのか……でも、リベリアルの願いは叶えられたよな……

 死を迎える寸前、走馬灯のようにリリカやリベリアル、ラギナにミルコ、それから学校の生徒たちと楽しく語り合った日々を思い出し不意に涙が零れおちる。
 全てに覚悟を決め死を悟った俺はゆっくりと目を瞑った。

 静寂を切り裂くようにある一声が耳に飛び込んできた。

「王族魔法【消去イレーズ】」

 瞬間、スペルビアでさえ傷ひとつつかなかった巨大な彫刻像はみるみるうちに崩れ去り、心臓に入っていく時とは逆回転をしながら魔法陣が胸元に浮かび上がり砕けるように消え去った。

「ラギナどうしてここに!?」

「ふぅ……なんとか間に合ったわ。相変わらず無茶な真似をする男よ。さぁ皆がお主の帰国を待ちわびておる。帰るぞ」

 助かったと言う安堵、世界を救ったという達成感に包まれ俺は気を失った。




「うっ……ここは……」

 目を開けると小汚く、低い天井が視界いっぱいに広がっていた。

「ユウくんっ!!」

 その声とともに、最愛の妻リリカに包まれる。シンも心配そうにこちらを見ているが目を合わせるとプイっと視点を逸らしてしまった。

「終わったのか……?」

「うん……終わったよ、全部終わったんだよ…」

 その言葉を聞くなり、涙を流しながら、リリカを両手で抱きしめた。

「シン、遅くなってすまないな」

「こっちこそ……ごめん。国の恥だなんて言って……」

「気にするな、本当に俺は国のーー」

「ごめんなさいユウくん、もうシンには伝えてしまったの」

「そうか……え、えぇっ!?」

 びっくりして反射的に上半身がムクッと起き上がってしまった。

「もしもの時に、ただ犬死しただけだと思われてはあんまりだと、儂が告げ口した所為だ。申し訳ない」

 声が聞こえてくる方に首を振るとそこにはラギナが立っていた。

「なんでこんなとこに!?」

「お父さん、今まで誤解してたよ」

「ど、どうした?」

「俺も、お父さんみたいな立派な国の英雄に。いや、人類の英雄になってみせるよ!!」

「ホッホッホ!これは楽しみじゃのう?」

 ラギナが笑うとそれにつられるように俺とリリカも和かに笑いあった。

「なんで笑うんだよっ!!ぜってぇー親父を超えてやるからなー!!」
 
 
 斯くして異世界の平和は守られた。そして民は、いや人類は忘れることはないだろう、平和を願いその為に命を賭した勇者リベリアル・ヴァン・ヴィルヴォルブと国王スズキ・ユウスケの名を。
 彼等の名前は未来永劫語り継がれるであろう。

 そして、英雄の息子もまた、無数の偉業を成し遂げ語り継がれることになるのであった。





今話を持ちまして連載を終了させていただきます!
急に急ぎ足になってしまい申し訳無いです(T ^ T)
最後まで閲覧してくださった方、本当にありがとうございました!
評判がよければ後日談や、続編(シンのお話)も書かせていただこうと思います!

また、4/1からNo Heavenという題名で新作を連載する予定ですのでもしよろしければそちらの方も読んで頂けると幸いです(T ^ T)

今まで本当に、本当にありがとうございました!
No Heavenを読んで下さる方はそちらで、そうでない方はまたどこかでお会い出来ることを心より祈っております!

コメント

  • 暇人001

    長らくありがとうございました!

    0
  • 黒時計

    とても良かったです!✨
    暇神さんの臨場感あふれる情景描写とか
    主人公の心の声が聞こえるのとかがたまらなく好きです笑笑
    これからも頑張ってください! 応援してます!✨

    1
  • 暇人001

    最後まで読んでくださり誠にありがとうございます!
    感想本当にありがたいです!

    1
  • ショウ

    面白かったです。最後良い話でした、少し、嫌、結構うるってきました

    1
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