僕は彼女に脅迫されて……る?

ハタケシロ

第4話 彼氏彼女の関係

「って!ちょっと待って!麗華さん!」

僕らの教室、E組に入る直前に彼女は、僕と太郎と前園さんにしか聞こえない程度の声量で付き合ってる宣言を言った。

僕かと言えば、彼女にしか聞こえないように、いきなり付き合ってる宣言をした彼女に僕はつっこんだ。

いや、付き合ってるんだけど!付き合ってるんだけども!

「はぁ!?付き合ってる!?」

そして、太郎の悲鳴とも、雄叫びとも思える声が飛ぶ。その声音には悲壮感が混じっていた。

彼女の衝撃発言に驚いたのか、太郎のその声は朝から応援団にも勝てそうな程の声量だった。

「ちょっと!近くでそんなに大きな声出さないでよ!」

そして、前園さんの右ストレートと思われる正拳が、太郎の腹めがけて炸裂する。

わーお。ボコべっていう鈍い音が聞こえたぞー。

それと、太郎のせいで近々始まるであろう応援歌練習なんていうイベントを思い出しちゃったじゃないか。あー嫌だな応援歌練習。

「痛てぇ!ばっ、咲月お前……!殴ることはねぇだろ?!俺じゃなかったら骨いってんぞ!?」

太郎、そうは言ってるけど、あの音は骨も言ってたよね?

「うるさいわね!怪我したら私が昼夜問わず面倒みるからいいでしょ!?」

「そうじゃあねーだろ!?いいか?まずは……」

前園さんと太郎が何故か始めた口論を宥めようとした僕だけど、これに生半可な気持ちで参戦したらただじゃ済まないと思い、躊躇する。

ってその前に……

「ちょっと来て!」

前園さんと太郎の口論をオロオロした様子で見ている彼女の腕を掴み、この場を離脱する。

彼女には、聞きたいことがあるからだ。

そして、太郎と前園さんを置いて、彼女を僕は連れ出した。



彼女を連れ出した場所。それは、例の体育館の裏だ。朝練をやっていたであろう部活の人達が居なくなるとほんとに人の気配というものがないね。

「いきなり何するのよ。痛嬉しかったじゃない!」

「あ、ごめ……ん?」

僕が掴んていた腕を、どこか愛おしそうに見つめる彼女。まさか、嬉しいと言われるとは思ってなかった僕は、耳を疑う。

彼女は腕を見つめながらも、その顔は思案していた。

「なんで私をここに連れて……はっ!この変態!」

「ちょっと待って!君が何を考えたのかは分からないけど違うから!君の考えてるのと違うから!」

「こんな人気の無い場所に連れ込んで……私を犯す気でしょ!?この変態!」

「だから違うって!」

「はっ!まさか、朝の続き?この発情期!」

「それも違う!ていうか、朝の続きってなに!?」

もしかして、若妻とかの続きじゃないですよね!?

「嫌がる私を無理矢理……それは、それで……さぁ…!来て!」

「なんで受け入れ態勢とってるの!?」

彼女は、両手を広げて僕を迎えいれようとしている。気のせいか、さっきまで保たれていた一定の距離が縮まってる。

「普通に考えれば当たり前のことじゃない。彼氏である太陽くんが、彼女である私を求めることは!」

「ちょ、ちょっと待って!待って!ストップ!止まって!その事で、いや、その関連で話があるんだ!」

僕の言葉がやっと彼女に届いたのか、やっと彼女はその歩を止めた。

「関連……?はっ!プレイの内容!?この変態!」

「プレイとか言わない!そっちの話じゃなくて彼氏彼女の方の話!」

「え?私たちが付き合っていて週8で一緒にお風呂に入ってる方の話?」

「いろいろツッコミたいところが多いけど、そう!その話!」

あー。まだ会ってから一週間も経ってないのと、週8って言うのと、一緒にお風呂に入ってるについてツッコミたい!

「で、何を話したいの?」

やっと、気分が落ち着いたのか、彼女は凛とした顔で聞いてくる。早めの段階でその表情を作ってもらいたいものだ。

「うん。僕と麗華さんは付き合ってるんだよね?」

「ええ。そうよ?え?なに?もしかして、別れたいの?殺すわよ」

「違くて!そうじゃなくて!って怖い!目が怖い!」

彼女の目は鋭く、その目つきだけで人を殺せそうなレベルだった。

「ほっ……んん。え?じゃあなんなの?」

「ほら、僕らは付き合ってるけどさ、僕らの本来の関係は主人と下僕の関係でしょ?」

「?……!あぁそうよ!その通りよ!あなたは彼氏と言う名の下僕なんだから!」

一瞬なんのこと?
みたいな顔を彼女はした気がするけど、気のせいか。

「そう。それでさ本来の関係がそれである僕らのことを付き合ってるって言っていいの?とか思ってさ」

表面上は付き合っているとはいえ、本来の関係が主人と下僕の僕らの関係を、そう他人に言っちゃっていいのかな?と僕は思った。
まぁ、僕は彼女の下僕だから助言的なことしか言えないから、こういう風にしか言えないのだけれど。

こんな僕の問いに対して、

「別にいいじゃない?付き合ってるのは事実なんだし」

と、彼女は言った。

「麗華さんがいいのならいいけど」

まぁ、彼女がいいと言うのならいいのかも。
マイマスターには従わないとね。

「太陽くんは、その、私と付き合ってるていうのが嫌なの?」

彼女はこう聞いてきた。
嫌か、どうか……か。

正直な気持ちは嫌じゃない。
僕だって高校生になったばかりだけど、一介の高校生だ。それなりに、リアリア充充したい。

まぁ、真実があれで、リア充かは分からないけど。

「僕は嫌じゃないよ」

だから、正直な気持ちを答えた。

「そ……。じゃあ……しゃんとしてよね?か、彼氏なんだから」

そう言った彼女の顔は、朱に染まり、どこか照れているみたいだった。



「で、付き合ってるとはどういうことだ。太陽?」

教室にはいり、カバンを席に置いて、いろいろやっている僕の机に、僕が教室に入る頃には口論が終わっていたみたいで先に入っていた太郎がすごい剣幕で聞いてくる。怖いな〜。

それと、どうでもいいことかもしれないけど、彼女が教室に入った瞬間、わっと教室内がざわめき出すのが分かった。あれは、すごかったよ。アニメとかで見る美少女が教室に入っただけで、クラスの男子がざわめき出すのをリアルで見れるなんて思っても無かったからね。

それと、僕が入った時にはクラスの男子ほぼ全員から殺気を送られたよ。まさか、体験できるなんて思っても無かったから、ビックリしたよ。……100人…いや、…友達10人できるかな……。

付き合ってるという情報はまだ出回ってないだろうし、たぶん朝の手を繋いだことなんだろうな~。

「えっとね、その」

まさか事実を言うわけにもいかず、僕がいい淀んでいると、彼女が近くにやってきて代わりに答えてくれる。

「言葉の通りよ辰巳くん」

「華麗ちゃん……」

すごいよ太郎。
まさか、朝の今でもう彼女のことを下の名前で呼ぶなんて。
これが、コミュ力の高い秘訣なんだね。

「私と太陽くんは彼氏、彼女という関係で付き合っているわ」

気のせいか、彼女は、彼氏彼女というフレーズだけ強く言った気がした。
まぁ、主人と下僕の関係なんて言えないもんね。

「残念だったね太郎。華麗もう付き合ってて」

そこに、前園さんもやって来た。

「告白する前に振られるなんて残念ね!あとで愚痴は聞いてあげるわよ!」

落ち込んでいる太郎を追撃するように、前園さんは太郎をうすら笑いでおちょくる。
やめてあげて!太郎のHPはもう0だ!

「ほら、もうあんたの狙ってた華麗は柳瀬くんと付き合ってるんだし」

そして、チラチラと太郎の顔を伺いながら、前園さんは言葉を重ねる。
太郎が狙ってたと言うのを本人がいるのに言っちゃう前園さんは色々な意味で怖いなと思いつつ、アピールしている前園さんは可愛いなと思ってしまう。

「そうだな。他の子探さないとな~」

けれど、太郎には前園さんのアピールは伝わらなかったみたいだ。
太郎のバカ!

「で、どっちから告ったんだ?」

「あーそれはね」 

なんて言おうかな?と思っていると代わりに彼女が答えてくれた。

「私からよ」

「え?華麗ちゃんから!?」

「そうよ」

「まじかよ~いいなー太陽」

羨望の眼差しで見てくる太郎。
うん。あれは、いいものじゃないよ?太郎。
とんでもなく、すごいことになるから。
弱みを握る握られるってね。

「ち、ちなみなんだけどさ華麗。告白の内容とか教えてくれない?」

「ええ。いいわよ」

前園さんの希望に答えて、彼女は告白の内容を教えている。事実は言わないよね?自分の秘密を相手に見せて、その時の瞬間を記憶メディアに残しといて脅すなんて。

前園さんにしか、聞こえないように喋っている彼女を見ながら、僕はヒヤヒヤしていた。



授業のない学校が終わり放課後。
僕たち4人は太郎が立案した親睦会をするべく、一路ファミレスへと来ていた。

まさか、学校帰りにファミレスに寄るなんていうイベントを、高校生になって二日目で叶えられるとは思わなかったよ。中学のときの僕じゃ考えられないね。

「それにしてもすごかったね。華麗」

「なんのこと?」

彼女、麗華さんの対面上に座る前園さんがメニュー表を開きながら言う。
皆にも見えるようにするあたり、前園さんは気が気いて素敵だなーと思う。

こんな子に好意を寄せられている太郎に若干のイラだちを感じちゃう。

「ん?どうした?太陽。俺のことをそんなにみつめ……いや、睨んで。怖いぞ?」

「気にしないで。僕は裸眼で視力が2.0しかないんだ」

「めちゃくちゃいいじゃねーか!」

どうやら、顔に出ちゃってたらしい。
いけない。いけない。
笑顔じゃないと。せっかくの友だちを無くしちゃうところだよ。

「笑顔が怖いんだが」

まったく、笑顔を怖いとか言うなんて失礼しちゃうな太郎には。

ちなみにだけど、僕の目の前に太郎、その隣に前園さん。そして、僕の隣に麗華さんと言うのが席順だ。

「ほら、対面式での1年生代表挨拶」

「そう?べつに、すごくないと思うのだけど。ただ紙に書いてある文書を読んだだけだし」

「えーと、そうじゃなくてね」

「?」

二人の会話を太郎に嫉妬しながら聞いていた僕は、麗華さんが前園さんの聞いた言葉の意味を理解してないと分かった。

「麗華さん違うよ。前園さんが言いたいのは、麗華さんが挨拶を凛として述べて、その容姿と、声で上級生の男子を見とれさせてたってこと」

彼女の対面式での挨拶は、入学式の時と同じく素晴らしかった。張り詰めた若干の緊張の中に響く、彼女の凛とした声は、聞いていた全員の気持ちを心地よいものにしたと思う。僕も聞き惚れちゃったし。

「だよね?」

確認のため、前園さんに確認を取る。
前園さんが言いたいことがこれじゃなかったら恥ずかしくて明日学校に行けなくなっちゃうよ。

「うん!そうそう!ほんとに凄っかたよ!華麗は!何人もの男子の先輩たちが華麗に惚れてるの傍から見てて分かったんだから!」

「そ、そうからしら?」

彼女は、前園さんが言ったあと、若干頬を染めて照れ笑いをする。その仕草もまた彼女の魅力を引き立てるのか、太郎がぼーと彼女を見つめていた。

その、ぼーと見ている太郎を前園さんがジト目で見ているのも僕には分かる。

「太陽くんはどうだったかしら?」

「どうって?」

「その……私の挨拶の姿とか……」

彼女にしては、珍しく、珍しく?
もじもじしながら聞いてくる。
そんな仕草もまた彼女の……以下略。

「うん。とてもよかったよ。凛としてたし、それに綺麗だったよ」

彼女の挨拶は、品があるというか、声が凛としているのも関係しているのかは分からないけど、こう、なんて言うのかな?とても綺麗だと思うし、カッコイイ。
挨拶一つで育ちの良さが分かるってものだ。

「き、綺麗……」

何故か彼女は、僕の言った言葉を繰り返し、両手を頬に添える。

ん~何か変なことを僕は言っちゃったのかな?
素直な感想を言っただけなんだけど。

「まったく~華麗ったらデレデレしちゃってー!可愛いんだから!」

「で、デレデレなんて、そんな」

「柳瀬くんに綺麗って言われてそんなに嬉しかったの?このこの~!」

「や、やめてよ咲月」

つつき合ってる女の子同士の光景はいいものだね。
こう、なんて言うのかな?心が落ち着くよね。

「ていうか昨日から付き合ってるんだよね??なのに、こんなになるなんて、どれだけ柳瀬くんのこと好きなのよ~!」

「も、もう!やめてったら!」

女の子同士の絡みを微笑ましく見つつ、この瞬間を、この時間を僕は楽しんだ。

麗華さんもこう見てると普通の女の子なんだけどなーという感想を持ちつつ、僕たちは夕飯時までファミレスで親睦を深めた。

ちなみに、会計時に、太郎がカッコつけて全員分の料金を出そうとしたけど、結局足りなくて皆で普通に割り勘にしたのはここだけの話。

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