僕は彼女に脅迫されて……る?

ハタケシロ

第13話 突然の訪問者

「……?」

「いやいや!なんでそこではてな?ってなるの!?」

この凄く見た目が派手な人が麗華さんの婚約者だと聞いて僕は混乱しているのに、どうして当の本人はこんなにもピンと来てないんだ!

「え、だって本当に誰か分からないんだもん!」

だもん!ってめちゃくちゃ可愛いーと思ってしまった自分がいるよ!コンチクショー!!

「麗華華麗さすがにその対応はどうなの?私がその派手なヤツの立場なら枕を濡らすわ」

橘さんは過去のことを思い出しているのかトラウマスイッチが入ってめんどくさい感じになってるし、麗華さんは麗華さんでとりあえず僕の身体を触ろうとしてくるしなんなの!!

「んん。いいかな?」

さすがにこの状況に嫌気をさしたのか、自称婚約者という方が場を落ち着かせる。
良かったこの人が居てくれて。
僕だったらもうこの状況はどうしようも出来なくなってたからね。
だからね?麗華さん?どさくさに紛れて僕の腕に胸を押し付けないでね?
橘さんも対抗しようとしないで!

「まさか俺を忘れるとは、まぁ麗華らしいね」

髪を掻き上げる姿はすごく様になっている。
自信溢れる姿に僕は少し尊敬した。

「知らない顔も居るから軽く自己紹介でもしようかな。俺の名前は福沢龍吉ふくざわりゅうきち。かの有名な福沢諭吉とは全く関係ない」

関係ないんですか。

「というわけで」

どういうわけなのか分からないけれど、福沢龍吉さんは僕の方へと、もっと詳しく言うと麗華さんの方へと近づくとその華奢な身体の細い腕を引っ張って無理やり

「れ、麗華を貰いに…き、きた!」

本来なら、本来ならが分からないんだけど、こういう場面ではすんなりと連れて行かれるはずの麗華さんが、まぁあ!離れない!僕の腕にしがみついてはその豊満な胸をこれでもかってくらい押し付けてける!
この感触をずっと楽しみたいって気持ちもあるんだけど、そろそろ反対の腕が橘さんの握力で折れそうだからなんとかするよ!!

「そ、その手を離してください」

福沢龍吉さんと橘さん。
僕はこの2人に言った。

「あ?」

派手な見た目が先行して最初はなんとも思ってなかったけど、この人強面だ!すごく怖い人だ!
今の低くて重い声なんて今日僕が枕を濡らすよ!

でも、嫌がっている麗華さんをこのままにしておけない僕は勇気を出して言葉を出した。

「麗華さんが嫌がっているじゃないですk」

「ぬへへーこれはいいわ。合法的に太陽くんに触れるし舐められるし、〇〇できる!」

ダメだ!全然嫌がってない!
というか〇〇って何!?

「え、ちょ。そ、そろそろすんなりと彼の所から離れてくれないと困るんだけど」

なかなか僕の腕を、というかガッチリと掴まえて離れる気がサラサラない麗華さんに根をあげたのか、ついに弱音を出す福沢龍吉さん。

「はぁ。いい加減しつこいわね。福沢くん」

しびれを切らしたのか、はたまた邪魔をされていることにそろそろ堪忍袋の緒が切れたのか、麗華さんが口を開いた。

「か、華麗?」

「そもそも何?私をいつから呼び捨てするようになったの?」

「え、いや、これはだね」

「福沢くん」

「はい」

「離れて」

「……はい」

麗華さんの気迫に押されたのか、さっきまで掴んでいた手を離し、すんなりと指示に従う福沢龍吉さん。
よし、じゃあ橘さんも離そうね。
なんか、主人を取られた子犬みたいに掴んでいてくれていて最初は可愛かったんだけど、やっぱり人間サイズの橘さんにやられると痛い!すごく痛い!
途中から聞こえてくる「ご主人様は私を性奴隷として大切にしてくれる。ご主人様は私を性奴隷として大切にしてくれる」って小声で言ってるけど、怖い!怖いよ!

「説明するわね太陽くん」

若干状況が掴めていなかった僕に、麗華さんは察してか、説明を開始した。……耳元で。

「れ、麗華さん。出来れば橘さんにも聞こえるように、僕から離れて説明してくれると嬉しいんだけど」

「嫌よ。太陽くんの耳を鼓膜を私の吐息と声で埋め尽くしたいんだもん。私の声で染めてあげたいの」

ドキリとしちゃうことを言われるけど、なんだがゾワッとするような感覚に襲われる。

「私の声しか聞こえない耳にしてあげるわね」

怖いやつだこれ!怖い!恐怖しかないよ麗華さん!

「ちょっと離れなさいよ!麗華華麗!」

「…………」

「無視するなー!」

「なにか、うるさいのが騒いでいるけれど、説明するわね。彼の名前は福沢龍吉。福沢諭吉とは関係ないけれど、私と同じボンボンの生まれよ」

派手な見た目と乗ってきた車がリムジンっていうのでなんとなくそうだろうとは思ってたけれど、やっぱりお金持ちなんだ。

「それよりー。今日このあとどうする?この火照った状態じゃあ寝られないでしょ?」

「麗華さん?何を言っているのかな?」

「私はいつでもOKよ?」

「麗華さん!?」

「おい!さっきかはなにコソコソしてやがる!」

僕と麗華さんが2人だけで喋っているのが気に触ったのか、福沢龍吉さんが割って入った。

良かった。このまま誰にも邪魔されずに麗華さんの声を耳元で聴き続けていたら僕はどうにかなっちゃうところだったよ。
大人の階段を上るって!何を考えてるんだ!!

「太陽くんとの時間を邪魔しないでくれる?」

綺麗な女の人が放つ独特な声音で威嚇され

「ごめんなさい!」

速攻で福沢龍吉さんは謝った。



で、真面目に麗華さんから福沢龍吉さんについて聞いたところ、福沢龍吉さんは麗華さんの幼馴染らしくて年齢は僕たちの一個上らしい。らしいと言うのは麗華さんが全くと言っていいほど覚えてなくて多分とつけてたから。

小さい頃に福沢龍吉さんから一方的に結婚しようねと言われたのを福沢龍吉さんは互いに交わした約束だと認識したらしくて今日迎えに来たという感じらしい。
なんからしいばっかりで麗華さんが本当にこの人に興味がないことが分かっちゃってなんとも言えない気分になったよ。

「というわけだから帰りなさい福沢くん」

「でも!」

「でももないでしょ?私は約束なんてしてないんだもの。それに私には心に決めた人が……それどころか私の身体に刻み込んだ人がいるもの。逞しい聖剣で私の身体奥深くにね」

「それって……まさか!」

人をも殺せそうなすごい形相で睨みつけてくる福沢龍吉さん。

って!ちょっと待って!?
麗華さん!?何を言ってるのかな?ちょっと飛ばしすぎじゃない!?いろんな意味で!

「おいお前。今の……どういうことだ?」

鬼の形相で近づいてくる福沢龍吉さん。
どうもこうも身に覚えがなさすぎて何も言えないんですけど。

「華麗の身体を抱いたってことか?」

「ただ抱いたわけじゃないわよね?太陽くん。あんなことやこんなことまでしたものね!」

麗華さーん!これ以上傷口を!戦火を広げないでー!
死人が増えちゃうからー!!

「ちょっと!私はまだされてない!どういうことなの!?ご主人様!」

橘さんはすこーし黙っておこーかー。

「てんめー!華麗だけじゃ飽き足らずこんな可愛い子にまで手を出したのか!」

「出してない!出してないよ!」

誰かー太郎でもいいから助けてー!!

「やっぱりダメだ!今日はなんとしても華麗を連れて行く!」

「だから言ってるでしょ?私は約束なんてしてないし第一福沢くんにはこれっぽっちも興味ないんだから」

「でもこんな男の近くに置くわけには行かねぇ!調べたら小さな部屋で一緒に居るんだろ?!だったら尚更」

「そんなことないわ。確かに小さな部屋だけど、愛を確かめ合うのに部屋の大きさなんて関係ないんだから!」

すごくいい事を言ってるように聞こえんだけど、なんでだろう。麗華さんが言うと変な風に聞こえちゃう。

「それに見て!私たちの新しい愛の巣をこうして作ったのよ!」

麗華さんが指さす方を見てみると、僕の元々住んでるアパートの隣には、早朝から工事のお兄さん達が一生懸命作ったであろう立派な一軒家が建っていた。

あー取り壊して一軒家を作ったんだね。
うん?今、私たちの新しい愛の巣って言わなかった?麗華さん。

「太陽くんと私と、将来生まれてくる太陽くんと私の子供たちのために新築で建っていたアパートを取り壊して作ったのよ?」

ドヤ顔で、そして居るはずのない赤ちゃんを優しく愛でるように自分のお腹をさする麗華さん。いろいろと爆弾発言が多すぎ処理できないよ!

「ご主人様……いつの間に麗華華麗とそんな事を……私とはしてくれないのに……」

やめてー橘さん。これ以上はいろいろとヤバイと思うからその辺にしてー!

「分かったかしら?福沢くんの入って来れるスペースなんてないの。だから諦めて帰りなさい」

「諦めきれるはずないだろう!ここ何年も華麗のことだけを思って学校も辞めて親父の仕事を頑張って手伝って来たっていうのに!……こうなったらお前!」

「は、はい」

「俺と勝負しろ!」

「勝負?」

「俺とお前何らかの形で勝敗を決して勝った方が華麗と結婚できる。どうだ?」

どうだと言われても僕には権利がない。
たって結婚は麗華さんが決めることだし、負けでもした日には。

「その勝負受けるわ」

「え?」

「大丈夫よ。太陽くんが負けるはずないもの」

「そうよご主人様。勝っても負けても私はご主人様の性奴隷。一生ついて行くから安心して!」

熱い展開になってなんか勝手に受けられても僕の心はまだ決まって

「じゃあ決まりだな」

決まっちゃったよ!

「こっちから勝負をふっかけたんだ。場所日時勝負内容は全部お前が決めていいぜ。なーに俺に二言はねぇ」

「じゃあ今で」

「へ?」

「勝負内容は麗華さんが今現在どっちが好きかで」

「え?へ?」

「じゃ麗華さん。今現在でどっちが」

「もちろん!太陽くんに決まってるじゃない!」

「早!……んん。というわけで勝負は僕の勝ちですね」

「え、いやちょっと待て!」

「二言はないんでしょ?福沢くん」

「ちくしょ!覚えてろよ!華麗!またいつか華麗を迎えに来るから待ってろよ!」

僕をずーと睨みながら福沢龍吉さんはリムジンに乗り込みこの場を去っていった。



「ふー」

部屋に帰り、まだバクバクしている心臓を僕はなんとか落ち着かせようとする。

「まさか太陽くんがあんにも機転が利くとは思わなかったわよ?」

「いやーなんか長引かせるのって好きじゃないし、それに一応か、彼氏だからね僕は」

早めに蹴りをつかせたかったし、麗華さんのためにって思ってね。

「え、/////」

おや?なんか珍しい反応だ。
麗華さんが照れるなんて。

「ご主人様」

神妙な面持ちで声をかけてきた橘さん。
意外なことにしっかりと服をいや、なぜか着物を着ている。

「どうしたの?」

「抱いてください」

「何を言ってるの!」

「だって麗華華麗は抱いておいて私は抱けないって言うの!?」

「だから違うよ!僕は麗華さんをだ、抱いたことはないし、それにまだど、経験はないし」

「嘘よ!麗華華麗とはやたって言って私を焦らそうとする焦らしプレイをしようとしてるんでしょ!?この変態!」

「なんか久しぶりに言われた気がするけど違うから!そこまで考えてないから!」

「そ、そこまで!?どこまでなら考えていると言うの!?」

「どこまでも考えてないよ!僕は麗華さんも橘さんも大切にしたいと」

「え、/////」

なんやかんやで照れてる橘さんは初めて見た気がする。

2人とも照れてしまっこの日は静かに眠りにつくことができた夜だった。






と、思っていた時も僕にはありました。

「麗華!迎えに来たぞ!」

「「「早っ!」」」

「え、いや早くないですか?」

さすがに早すぎると僕は思う。

「思い立ったら吉日って言うだろ?」

「いやいくらなんでも早すぎるかと」

というか僕の部屋は土足厳禁なんだよね一応。
麗華さんがたまにコスプレなんかをする時はそのコスプレ衣装に合わせた靴を履いたりしてるけど、綺麗な状態のやつだし。

「え!?コスプレ姿を見たいですって!?」

どうして麗華さんは声に出してない言葉までわかっちゃうんだろう…。

「言ってない!言ってないよ!」

そう。決して声には出してない。
見たいといえばそりゃ男だから美少女である麗華さんのコスプレ姿は見たいけどさ。

「あ、そう言えば野口と平等院が麗華に会いに来るかもって言ってたぞ」

「ねぇ。いつから私を呼び捨てでいいと言ったかしら?呼び捨てや醜く罵ることを許したのは太陽くんだけなんだけれど」

嬉しいような嬉しくないようなことを麗華さんはすごく冷めきった声で福沢龍吉さんに言う。角度的には表情は見えないけれど、

「き、今日のところは帰るかな。うん。それじゃあな」

と言い残して福沢龍吉さんは帰っていった。

「じゃあ寝ましょ?」

「耳元で囁かないで!」

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