イセカマジックストーリー《異世界×オカマ×魔法》
28天然?
野宿に次ぐ野宿。
ウィルは王都に居たときとは表情が180度変わっていた。既に駄々をこねた後のことだ。
完全に日は沈み、森には決して強くない月の光が落ちている。
それに照らされる一人の少女は、背後で火を囲み寝付いた三人の男女を魔物から守る見張り役であるが、その任務を遂行しているとは思えないほど虚ろな目をしていた。
「お父さん……帰って来て……」
その渇いた声は誰に聞かれるでもなく、暗い森の奥へと流されていった。
「わりぃ、俺の分のパンも買ってきてくれっか?」
購買へ行こうと財布を出した俺を呼び止めたのは大柄な男。学ランは全開で、露になっているのは校則のワイシャツではなく真っ赤なTシャツだ。耳にはピアスが付いている。
そんないかにも不良といった男に声をかけられたのは、俺の人生で初めての出来事だった。
その唐突なお願いに一瞬は戸惑ったものの、この人に逆らうのは危険だという俺の思考が、彼との会話を続けさせる。
「えっと、赤井くん、だっけ?何パンがいい?」
俺はクラス名簿を頭の中に思い浮かべ、必死に彼に該当するであろう名前を探した。
どうやらそれは正解だったらしい。
「お、なんだ素直じゃねえか。だがな、これは覚えとけ。男がパンっつったら焼きそばパン、これだけだ。」
赤井というクラスメイトからの遠回しなリクエストを汲み取り、了解と言って購買へ向かった。
これがその後一年もの間、俺を苦しめる元凶となるとも知らずに。
「っ!」
夢だったのだろうか。それとも起きた状態で並外れた集中力を発揮して、記憶の奥底から取り出した妄想だったのだろうか。
寝た実感が無い故に、そんなことを考えてしまう。
どちらにせよ、今更何にもならないことであるのには変わりない。
今までよりも、これからを生きようと、まだ薄暗い空を仰ぎながら改めて決心した。
交代で見張りをしながら一晩を過ごしたため、火を囲んで寝ているウィルとエナスが見えた瞬間に、今はネロの番であると予想がついた。
二人を起こさないように、痛む体をゆっくり起こすと、少し離れたところにいたネロと目があった。
「あなた、魘されてたわよ。大丈夫?」
その言葉から、やはり寝ていたのだという事実と、それを感じ取れない体との矛盾に陥り、体がむず痒くなる。
「なんか、変な夢見ちゃった。」
気持ち悪い感覚を抑えてそう答えると、ネロはそうと言って立ち上がった。
汚れた様子はなく、それは昨晩が安全であったことを物語っている。
手には地図が握られており、見張り中ずっと見ていたのか両端にはシワができている。
ネロは私の前に来ると、しゃがんで地図を広げてきた。
地図の上からは彼女のジト目が伺える。
「あなた、現在地がわかる魔法って使えるかしら?」
その問いと地図からして、ネロがなぜ道に迷ったのかは想像がついた。
そして問われた私も「現在地」と一言言えば場所は分かる。
しかしその前に一つ、ツッコミを入れずにはいられない問題を見つけてしまった。
「なんでそんな抽象的な地図見てるの…?」
そう。
彼女が見せてきた地図は、分かりやすく言えば日本全体が写っているような、とても現在地など把握できそうもないものだったのである。
実際に写っているのは、どこかイタリアに似た形の土地だったのだが。
問われたネロは目を大きくしたあと、キョロキョロとさせて明らかに動揺している仕草を見せた。
可愛い。
「し、仕方ないでしょ。これしか無かったんだから…。」
いや、にしても、という言葉は口にせず、その可愛さに免じて許すことにした。
ネロに待ってと言って、自分のバッグからマップを取り出した。
初めてこの世界に来たときにお世話になったマップだ。
あのときは気にしていなかったが、このマップは端までびっしり描かれているわけではなく、紙に浮かび上がっているような物だった。
それを思いだし、もしかしたらと思って取り出したのだ。
「やっぱり。」
マップに描かれている地形は、初めて見たときと変わっていた。
マップの中央には大きく森が描かれている。
その横にはダンジョンらしき穴もある。
つまり…
「現在地」
森の中に、赤い点が浮き上がってきた。
あまりにも予想があたり、少しにやけてしまう。
そのままネロにマップを見せると、数秒確認した後に彼女は肩を震わせ、真っ赤な顔をあげた。
「なんで先に言わないのよ!」
自らの行為を恥じているのか、あっさり解決されて怒っているのか、分からないがとりあえず可愛いということだけは伝えておこう。
その後、太陽が昇り、迷った森からはすぐに脱け出せました。
ウィルは王都に居たときとは表情が180度変わっていた。既に駄々をこねた後のことだ。
完全に日は沈み、森には決して強くない月の光が落ちている。
それに照らされる一人の少女は、背後で火を囲み寝付いた三人の男女を魔物から守る見張り役であるが、その任務を遂行しているとは思えないほど虚ろな目をしていた。
「お父さん……帰って来て……」
その渇いた声は誰に聞かれるでもなく、暗い森の奥へと流されていった。
「わりぃ、俺の分のパンも買ってきてくれっか?」
購買へ行こうと財布を出した俺を呼び止めたのは大柄な男。学ランは全開で、露になっているのは校則のワイシャツではなく真っ赤なTシャツだ。耳にはピアスが付いている。
そんないかにも不良といった男に声をかけられたのは、俺の人生で初めての出来事だった。
その唐突なお願いに一瞬は戸惑ったものの、この人に逆らうのは危険だという俺の思考が、彼との会話を続けさせる。
「えっと、赤井くん、だっけ?何パンがいい?」
俺はクラス名簿を頭の中に思い浮かべ、必死に彼に該当するであろう名前を探した。
どうやらそれは正解だったらしい。
「お、なんだ素直じゃねえか。だがな、これは覚えとけ。男がパンっつったら焼きそばパン、これだけだ。」
赤井というクラスメイトからの遠回しなリクエストを汲み取り、了解と言って購買へ向かった。
これがその後一年もの間、俺を苦しめる元凶となるとも知らずに。
「っ!」
夢だったのだろうか。それとも起きた状態で並外れた集中力を発揮して、記憶の奥底から取り出した妄想だったのだろうか。
寝た実感が無い故に、そんなことを考えてしまう。
どちらにせよ、今更何にもならないことであるのには変わりない。
今までよりも、これからを生きようと、まだ薄暗い空を仰ぎながら改めて決心した。
交代で見張りをしながら一晩を過ごしたため、火を囲んで寝ているウィルとエナスが見えた瞬間に、今はネロの番であると予想がついた。
二人を起こさないように、痛む体をゆっくり起こすと、少し離れたところにいたネロと目があった。
「あなた、魘されてたわよ。大丈夫?」
その言葉から、やはり寝ていたのだという事実と、それを感じ取れない体との矛盾に陥り、体がむず痒くなる。
「なんか、変な夢見ちゃった。」
気持ち悪い感覚を抑えてそう答えると、ネロはそうと言って立ち上がった。
汚れた様子はなく、それは昨晩が安全であったことを物語っている。
手には地図が握られており、見張り中ずっと見ていたのか両端にはシワができている。
ネロは私の前に来ると、しゃがんで地図を広げてきた。
地図の上からは彼女のジト目が伺える。
「あなた、現在地がわかる魔法って使えるかしら?」
その問いと地図からして、ネロがなぜ道に迷ったのかは想像がついた。
そして問われた私も「現在地」と一言言えば場所は分かる。
しかしその前に一つ、ツッコミを入れずにはいられない問題を見つけてしまった。
「なんでそんな抽象的な地図見てるの…?」
そう。
彼女が見せてきた地図は、分かりやすく言えば日本全体が写っているような、とても現在地など把握できそうもないものだったのである。
実際に写っているのは、どこかイタリアに似た形の土地だったのだが。
問われたネロは目を大きくしたあと、キョロキョロとさせて明らかに動揺している仕草を見せた。
可愛い。
「し、仕方ないでしょ。これしか無かったんだから…。」
いや、にしても、という言葉は口にせず、その可愛さに免じて許すことにした。
ネロに待ってと言って、自分のバッグからマップを取り出した。
初めてこの世界に来たときにお世話になったマップだ。
あのときは気にしていなかったが、このマップは端までびっしり描かれているわけではなく、紙に浮かび上がっているような物だった。
それを思いだし、もしかしたらと思って取り出したのだ。
「やっぱり。」
マップに描かれている地形は、初めて見たときと変わっていた。
マップの中央には大きく森が描かれている。
その横にはダンジョンらしき穴もある。
つまり…
「現在地」
森の中に、赤い点が浮き上がってきた。
あまりにも予想があたり、少しにやけてしまう。
そのままネロにマップを見せると、数秒確認した後に彼女は肩を震わせ、真っ赤な顔をあげた。
「なんで先に言わないのよ!」
自らの行為を恥じているのか、あっさり解決されて怒っているのか、分からないがとりあえず可愛いということだけは伝えておこう。
その後、太陽が昇り、迷った森からはすぐに脱け出せました。
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