虫のこえ

マウンテン斎藤

第3話 -不安-



夜が明け、月明かりが太陽に飲み込まれると蘇者たちの魂は地中に沈み、小さな生き物たちは己の生態のままに行動する。蟻は餌を運び、甲虫は蜜を吸い、蝉は命の限り鳴く。そして小さな生き物たちは不意にその命を落とす。ある者は踏まれ、ある者は闘いに敗れ、食べられ、ある者は寿命が尽きる。そういった危機は不意に起こる。



夜になるとハイユーとトザンカはいつものように、山型のアスレチックの頂上を目指していた。

「あれ?ハイユー。君、額に大きな傷がついてるよ?」

トザンカがハイユーの目の上あたりを指差すと、ハイユーは顔をしかめて、

「ああ、これは多分、宿主が他のオスと日中に闘った跡だろうな。俺が目を覚ました時にはもうついてた。頭がズキズキして超いてぇ。」

「うはぁ〜。それは災難だねぇ〜。」

トザンカが自分まで痛そうな顔をしてハイユーの傷を眺める。

「おまけにいつもの縄張りから全然違う所から目覚めやがった。俺はそいつに負けちまったんだろうな。情けねえ。」

まぁ仕方ないねぇ。とトザンカがなだめていると、山の頂上が見えてきた。宴の為に樹液を何本も担いでいるハイユーは、遅くなったからまたシキシャに怒られるな。と苦笑いを浮かべた。しかし、頂上の窪地に着いても、いつも大きな声で手を振る彼の姿は無かった。


「あれ?今日はアイツまだ来てないのか?」

ハイユーが辺りを見回し、トザンカも同じように首を回した。

「どうしたんだろぉね?何かあったのかなぁ?探しに行くかい?」

トザンカが心配そうにハイユーを見つめる。

「…そうだな。シキシャの縄張りの木に行ってみるか。」


ハイユーは担いで来たボトルを置いて、トザンカをツノに乗せた。そして、ガッチリと地面を踏みしめ、羽を背中から出し、バタバタと音を立てる。風が地面を叩き、砂埃が宙を舞う。

「しっかり掴まってろよ!」

ラジャー!と粋のいい声と同時に二匹は飛び立った。

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